記事一覧に戻る

AWS退職した無名の男が 「5日で試作品を公開」 月150万円。 広告ゼロ拡散の全手口

7 min read2026年2月28日
AWS退職した無名の男が 「5日で試作品を公開」 月150万円。 広告ゼロ拡散の全手口

ビジネス概要

事業タイプ

SaaS

フェーズ

拡大期

規模感

2022年7月に月の売上は約150万円($10,000)に到達

概要

Notionの中でフォームを作り、回答をNotionのデータとして集められる拡張機能を提供する。

ターゲット

中小企業や個人事業主の業務効率化を図る管理部門の責任者

主な打ち手

広告を使わず、コミュニティ投稿・検索流入・無料フォーム下の表示(バイラル)で利用者を増やしつつ、段階的な有料化と既存利用者向け割引で課金へ移行した。

ストーリーの流れ

Problem

安定した仕事があっても停滞と迷いがあり、何から始めればいいか分からない状態だった。

  • ジュリアンはまずは小さく作って試す道を選んだ。
Insight

起業アイデアは身近な不便から生まれると捉え、Notionの中でフォームが作れる需要に着目した。

  • Notionが外部サービスとつなげやすくなったことが追い風になった。
  • Airtableの「質問に答える → データが表に入る」体験をNotionでも実現しようとした。
Action

完成度よりスピードを優先し、試作品を短期間で作ってすぐ公開した。

  • 早く出せば早く使われ、早くダメ出しが集まると考えた。
  • 机上で考えるより現場の声を重視した。
Growth

コミュニティの口コミと検索流入を軸に、広告に頼らず利用者を増やした。

  • Notionの話題が集まる掲示板への投稿が時間差で検索に効いた。
  • 利用者が作った説明動画の拡散で登録が一気に増えた。
Growth

SNSグループ投稿と影響力のある発信者へのアプローチで認知を積み上げた。

  • Notion関連のグループに定期的に投稿して少しずつ広げた。
  • コミュニティの中心にいる人に無料で試してもらうよう連絡した。
Growth

検索で見つかる情報ページとプロダクト内の露出で、使われるほど宣伝になる導線を作った。

  • 「Notion関連の発信者まとめ」のような役立つページを用意した。
  • 無料プランのフォーム下に「NotionForms」の名前が表示されるようにした。
Growth

フォーム作成に使う利用者が1,000人を超え、有料化に進む準備が整った。

1,000人を超え利用者規模
  • 利用者が増えたことでNotionFormsが仕事の中心になっているケースも見えてきた。
Monetize

無料から有料への切り替えは離脱リスクが高く、最も心が折れそうになる局面だった。

  • 急に壁を作れば離れる人も出ると感じていた。
Monetize

段階的な有料化と既存利用者への生涯割引で、切り替えの摩擦を下げた。

  • 新機能の近くに「この日から無料ではなくなる」と案内を出した。
  • 有料化初日にフランスの写真家が年額プランを購入し、丁寧な対応へのお礼として支払った。
Monetize

利用者が多くても支払いはすぐには伸びず、初期の有料転換は厳しかった。

  • 割引コードを使って支払った人は最初の数週間で15件ほどだった。
  • 支払いは機能だけで決まらず、信頼やサポートも価値になると分かった。
Monetize

価格を定額に落ち着かせ、値上げと企業向け上位プラン追加で収益を伸ばした。

  • 利用量で値段が変わる方式はフォームが広まった会社ほど負担が増えるため合わないと判断した。
  • 2022年には月約2,800円($19)に値上げし、企業向けの上位プランも追加した。
Monetize

2022年7月に月の売上が約150万円($10,000)に到達し、企業向けが約2割を占めた。

月の売上は約150万円($10,000)月次売上到達
そのうち約2割は企業向けプラン企業向け売上比率
  • 粘り強く続けた結果、支払う利用者が少しずつ増えた。
Action

機能追加は「全部やる」ではなく「困らない」を守る方針で優先順位を付けた。

  • フォーム作成ツールには利用者の期待値があり、外すと不満になると捉えた。
  • 要望が多いものを優先しつつ、方向性と合わないものは断った。
Team

2022年5月に開発スピードを上げるためエンジニアを1人雇った。

エンジニアを1人採用人数
  • Notion本体が同様の機能を出すリスクを不安要因として意識していた。
Scale

もしものときに備えて別プロジェクトも進めつつ、自動化で大きなチームを作らずに回す方針にした。

  • 早く公開し、早く意見を集め、早く直すスピードを一貫して重視した。
  • 作っている様子を公開しながら進めることが信頼や応援につながると考えた。
Scale

現在は1日1時間未満の作業で回し、無理なく続けられる運用形態を確立した。

  • 燃え尽きないための仕組みになると捉えている。

安定した仕事があっても、「このままでいいのか」と感じる瞬間はある。やりたいことはあるのに、何から始めればいいか分からない。そんな停滞や迷いの中で、まずは小さく作って試す道を選んだのがジュリアンだった。

身近な不便を手がかりに、Notionの中でフォームを作れる拡張機能を形にする。広告に頼らず、ユーザーの熱量が宣伝に変わっていく流れをつかみ、やがて利用者は1,000人を超える。

ただ、次の壁は「無料から有料へ」。心が折れそうになる切り替えをどう乗り越え、月約150万円($10,000)の売上にたどり着いたのか。その過程には、個人開発を続けるための現実的な工夫が詰まっている。

コミュニティが熱くなると、宣伝はほぼ無料になる

ある道具に本気でワクワクしている人たちが集まると、宣伝は「会社が頑張るもの」から「みんなが勝手に広げるもの」に変わる。

広告を買わなくても、口コミで名前が回り、検索でも見つかるようになる。そんな流れをうまくつかんだのが、Notion向けの拡張機能「NotionForms」を作ったジュリアンの話だ。

見落としやすい起業アイデアは、身近な不便から生まれる

2020年、ジュリアンはロンドンでAWSに勤めていた。仕事は安定していたが、「自分の力で、小さく始めて事業を作る人たち」の世界を知り、ひとりで会社を作ることに強くひかれていった。

その年、生活が一気に動く。恋人がパリで仕事を見つけたこと、そして会社の都合で自分の担当プロジェクトが別チームへ移ることが決まったこと。この2つが重なり、ジュリアンは退職を選ぶ。パリに戻り、個人開発に集中する日々が始まった。

いくつもの小さなプロジェクトを同時に試す中で、中心にいたのがNotionだった。文章も表も扱え、チームでも個人でも使える。計画、顧客管理、メモ、発信の整理。何でも入る「箱」みたいな道具だ。

やがてNotionが開発者向けに仕組みを公開し、外部のサービスとつなげやすくなった。ジュリアンは考えた。

「Notionの中で、フォームが作れたら便利じゃないか」

ヒントはAirtableにあった。「質問に答える → データが表に入る」というフォーム機能だ。これをNotionでもできるようにする。それがNotionFormsの出発点になった。

ジュリアンはまず、完成度よりスピードを優先した。試作品を5日で作り、すぐ公開する。早く出せば、早く使われ、早くダメ出しが集まる。机の上で考え続けるより、現場の声のほうが正しいと分かっていたからだ。

コミュニティがマーケティングになる

公開から数か月で、NotionFormsは「無料で使える便利ツール」として広がっていった。最初の利用者の多くは、口コミと検索からやって来た。

小さな投稿が、あとから検索で効いてくる

最初にやったのは、Notionの話題が集まる掲示板に投稿することだった。

反応は小さい。最初の週に増えた無料利用者は20人ほど。それでも、その投稿は消えない。時間がたつほど価値が出た。

「Notionでフォームを作りたい」と検索した人が、その投稿にたどり着く。検索の入口が増え、じわじわ流入が積み上がっていった。

いちばん効いた宣伝は、開発者ではなく利用者が作った

驚くことに、最も効果が大きかったのはジュリアン本人の発信ではなかった。別の利用者が作った説明動画が拡散し、一気に登録が増えた。

作り手は機能を全部知っている。でも、使い手は「どこが嬉しいか」を自分の言葉で話せる。だから伝わる。NotionFormsは、ここで大きく跳ねた。

SNSのグループに地道に投げる

次にジュリアンは、SNSのグループ機能を使った。以前の事業で「グループ投稿は効く」と知っていたからだ。

Notion関連のグループに向けて定期的に投稿し、少しずつ認知を広げる。ある投稿が大きく反応し、初期利用者がさらに増えた。お金をかけない宣伝としては十分すぎる成果だった。

熱量の高い場所に入り、影響力のある人にも届ける

Notionが好きな人たちが集まるSNSでは、発信が強い人もいる。Notionの情報だけを扱い、フォロワーが多い人たちだ。

ジュリアンはそうした人たちにも連絡し、無料で試してもらうよう動いた。コミュニティの中心にいる人に届くと、話題が一気に広がることがある。

検索で見つかる仕組みを、最初から作る

検索からの流入を増やすため、役立つ情報ページも用意した。たとえば「Notion関連の発信者まとめ」みたいなリストだ。探している人にとって価値があり、自然に検索でも見つかる。

さらに、無料プランで作られたフォームの下に「NotionForms」の名前が表示されるようにした。フォームがシェアされるたびに名前も広がる。使われるほど宣伝になる設計だ。

こうしてフォーム作成に使う利用者は1,000人を超え、有料化に進む準備が整った。

無料から有料に変えるとき、いちばん心が折れそうになる

利用者が増えると、NotionFormsが「遊び」ではなく「仕事の中心」になっている人も見えてきた。

たとえばマレーシアの農家は、作業管理にNotionFormsを使い、従業員にスマホを持たせて入力させていた。ほかにも業界はバラバラで、いろいろな現場に入り込んでいた。

だからこそ、有料化は怖い。急に壁を作れば、離れる人も出る。

ジュリアンは段階的に切り替える方法を選んだ。新機能の近くに「この日から無料ではなくなる」と案内を出し、切り替え時には既存利用者向けに生涯割引も用意した。

有料化初日、フランスの写真家が年額プランを買った。高機能が必要だったからではない。丁寧な対応へのお礼として支払ったという。

ここで分かるのは、支払いは機能だけで決まらないことだ。信頼やサポートも価値になる。

ただ現実は甘くない。1,000人以上の利用者がいても、割引コードを使って支払った人は最初の数週間で15件ほどだった。

その後、価格は月約2,200円($15)に落ち着いた。利用量で値段が変わる方式だと、フォームが広まった会社ほど負担が増える。定額のほうが合うと判断した。

粘り強く続けた結果、支払う利用者は少しずつ増えた。2022年には月約2,800円($19)に値上げし、企業向けの上位プランも追加。2022年7月、月の売上は約150万円($10,000)に到達し、そのうち約2割は企業向けプランになった。

機能追加は「全部やる」より「困らない」を守る

NotionFormsの改善は、派手に増やすより、利用者が困らない範囲で着実に進める方針だった。

フォーム作成ツールは世の中にたくさんある。だから利用者は「これくらいはできるはず」という基準を持っている。そこを外すと不満になる。

新機能を入れるかどうかは、市場の調査と作り手の感覚を組み合わせて決めた。要望が多いものを優先しつつ、方向性と合わないものは断る。

全部の要望に応えるのではなく、多くの人の使い方の大部分をカバーする。そこに集中した。

1日1時間で回すために、スピードと備えを両立する

急成長の一方で、不安もある。Notion本体が同じようなフォーム機能を出したら、NotionFormsは大きな影響を受けるかもしれない。

そこで2022年5月、開発スピードを上げるためにエンジニアを1人雇った。同時に、もしものときに備えて別のプロジェクトも進め始めた。

ジュリアンが一貫して大切にしているのはスピードだ。早く公開し、早く意見を集め、早く直す。迷っている時間が長いほど、スタートが遅れる。でも一度出せば、次のアイデアも出やすくなる。

作っている様子を公開しながら進めるのも、信頼や応援につながると考えている。

当面は大きなチームを作らず、できるだけ自動化して成長させる方針だ。今は1日1時間未満の作業で回っている。無理なく続けられる形こそ、燃え尽きないための仕組みになる。