月の売上が約4,000万円($26,000)から約6,100万円($400,000)へ。たった1年で約16倍――Boot.devは、学習サービスとしてはかなり急な成長を遂げた。
しかしその始まりは、派手な起業アイデアではない。夜勤もある仕事を続けながらソフトウェアエンジニアへの転職を考えていた家族の「学び方が見つからない」という、ごく身近な悩みだった。
教材は世の中に山ほどあるのに、なぜ合うものがないのか。Boot.devはその違和感を起点に、「どう学ぶか」を徹底して作り直していく。
家の中の悩みからBoot.devが生まれた
レーン・ワグナーが最初から「新しいプログラミング学習サイトを作ろう」と決めていたわけではない。始まりは、家の中の切実な問題だった。
妻のブレアナは夜勤もあるレントゲン技師として働いていたが、心のどこかでソフトウェアエンジニアへの転職を望んでいた。
問題は学び方だった。世の中には教材が山ほどあるのに、2人の状況に合うものが見つからない。
- 4年制のコンピュータサイエンス学位は、時間もお金もかかりすぎる
- 動画中心の教材は見ているだけになりやすく、間違えても気づきにくい
- 初心者向けのフロントエンド教材は多いのに、バックエンドや基礎理論、DevOpsをきちんと学べる場が少ない
- 学習サービスの「会社っぽく整いすぎた雰囲気」が肌に合わない
だったら、欲しいものを自分で作るしかない。
ワグナーはそう考え、ブレアナのための小さな個人プロジェクトとしてBoot.devを作り始めた。実際にコードを書きながらゲームのように進められる、受け身ではなく手を動かして前に進む学びの場だった。
その小さな仕組みが、やがて教育ビジネスへと育っていく。
Boot.devが大事にした「学び方」
Boot.devが前面に出したのは、教材の量ではない。「どう学ぶか」だった。
基礎を大事にして、近道を疑う
Boot.devは資格よりも基礎を重視する。ただし「大学は無意味」と言いたいわけではない。コンピュータサイエンスは重要だが、学位がなければ絶対にダメという考え方は取らない。
同じ理由で、「3か月でエンジニアになれる」といった宣伝とも距離を置く。初めての仕事にたどり着くまでには、人によるが少なくとも12か月程度の努力が必要だというスタンスだ。
小さく学んで、最後は本物を作る
学び方はシンプルだ。短いレッスンを積み重ね、最後にしっかりしたプロジェクトを作る。
次々と新しい技術に乗り換えるより、「もう一段深く」理解することを優先する。
しかも練習で終わらない。作ったものを動かし、公開し、運用まで意識する。現場に近いところまで連れていく設計になっている。
AIとの付き合い方まで考える
AIツールは便利だが、初心者が頼りすぎると、いちばん大切な「苦しんで考える時間」が失われる。すると理解が定着しにくい。
Boot.devには「Boots」というチャットボットがいる。ただ答えを渡すのではなく、質問を通じて考えさせるタイプだ。ゲームの仕組みとしても、ボットに頼りすぎると不利になるよう設計されている。
2020年、ゲーム感覚のバックエンド学習として動き出す
Boot.devは2020年3月に正式にスタートした。PythonとGoのバックエンド開発を、RPG風のコーディングゲームとして学べるサイトだ。
学習は「読む」より「書く」が中心で、実際にコードを書きながら進める。20以上のコースやプロジェクトも用意された。
料金はジムの会員費に近いイメージを目安にした。高額な一括払いではなく、個人が自分のペースで進めるセルフサービス型にした。
2022年初め、あえて狭くする大転換
ワグナーが「大きな転機」と呼ぶのが、2022年初めの方針転換だ。
それまでは「楽しくコードを学ぶ場所」という広い打ち出し方をしていたが、そこからPythonとGoによるバックエンド開発に完全に絞り込む形へ切り替えた。
興味深いのは、方向性に合わないコースを増やさなかったことだ。むしろ削った。
学習サービスは通常、コースを増やして「品ぞろえ」を充実させようとする。しかしBoot.devは逆をやった。絞り込むことで、深さと道筋のわかりやすさを優先した。その決断が成長を強く後押しした。
数字が示した成長
インタビュー記事の表示の都合で、月の売上が異なる数字に見える場面もある。ただ、本人の発言として時期がはっきりしている比較がある。
- 2023年6月ごろ:直前の月の売上は約4,000万円($26,000)
- その1年前の同時期:月約45万円($3,000)
そして翌年、さらにわかりやすい比較が出た。
2023年から2024年で一気に広がった
2024年7月の更新で、ワグナーは1年間の変化をこう比べた。
- 2023年6月:売上合計約3,800万円($25,000)、体制は本人+従業員1人
- 2024年6月:売上約6,100万円($400,000)、フルタイム8人のチーム
1年で約16倍。小さな家のプロジェクトが、明確に事業として成立した。
2024年時点のチーム構成はこうだ。
- ワグナー:1人
- 開発者:5人(アプリ開発とレッスン作成)
- 動画制作・編集:1人
- 事務・マーケティング:1人
- QA・カスタマーサポート:1人
人数は多くない。それでも中心は開発と教材作りに置かれており、その軸はブレていない。
Boot.devが売っているもの
Boot.devを一言でまとめるなら、セルフサービス型のバックエンド学習コースだ。
- バックエンド開発を中心に学ぶ(特にPythonとGo)
- ゲーム要素で継続しやすくしつつ、実際にコードを書く
- コースとプロジェクトで、理論と実践の両方を扱う
- 作って終わりではなく、動かして公開・運用まで意識する
大学の学位や高額なブートキャンプと真っ向から競うより、手の届く価格で深い内容を自分のペースで学べる道を作った。
ニッチに絞ったから、伝わって伸びた
Boot.devの歩みは、狙いを絞り、作るものを整理し続けた物語でもある。
出発点は、身近な1人の学習者の困りごとだった。時間もお金も限られている。だからこそ、受け身ではなく手を動かして深く学べる場所が必要だった。
そして2022年初め、バックエンドに集中し、合わないコースを削った。広さより深さと、わかりやすい道筋を選んだ。その結果、Boot.devが何者なのかが伝わりやすくなり、成長が加速した。
家族のために作った仕組みが、今ではチームを支える規模の教育ビジネスになった。基礎を大事にすること、実践を大事にすること、近道をうたわないこと――その姿勢は最初から一貫して変わっていない。
