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無名の元NASCAR営業が 「社員の住所を集めるだけ」で 法人契約を爆増。 社内物流を支配する禁断の全手口

7 min read2026年3月1日
無名の元NASCAR営業が 「社員の住所を集めるだけ」で 法人契約を爆増。 社内物流を支配する禁断の全手口

ビジネス概要

事業タイプ

Other

フェーズ

拡大期

規模感

大企業との契約を取り、短期間で法人アカウントを増やした

概要

企業が社員向けの備品・機器・ギフトをオンラインで選定し、セット組みして自宅へ配送し、退職時の回収まで含めて社内物流を一括で回す仕組み

ターゲット

社員に備品・機器・ギフトを発送・回収する必要がある大企業の人事部門・IT部門

主な打ち手

住所収集の小さなアプリを入口に導入し、倉庫運営まで自社で持って「探す、買う、セットにする、送る」を一体化した

ストーリーの流れ

Problem

高級法人ギフト事業は成果が出ても創業者の手間に依存し、成長の限界が見えた。

  • ギフトの設計や細かな調整、相手に合わせた判断がケイレブ自身に集中していた。
  • 任せたくても教える時間が足りず、成長が「創業者の体力」に引っ張られる形になっていた。
Insight

ギフトそのものより「相手の心を動かすギフトを作る仕組み」に価値があると気づいた。

  • 役員向けのセンスのいいギフト情報が見つからず、自分たちで作り込む必要があった。
  • この気づきをきっかけにチームを離れ、高級法人ギフトの事業を始めた。
Monetize

細部まで作り込んだ高級ギフトは高単価で利益が出る一方、スケールしにくかった。

1つ十数万円から数十万円ギフト単価
  • 名言を刻んだ箱や写真、家族にまつわる言葉を入れたノートまで用意することもあった。
Action

2019年から2020年にかけてガレージで出荷を続けながら、チームとCraftomを立ち上げた。

  • 作業機材を自宅のガレージに移し、荷物は郵便が玄関先で回収する形で出荷を続けた。
  • 狙いは手作り中心の高級ギフトではなく、大企業でも使える「仕組みとしてのギフト」だった。
Action

2020年3月に社員の住所を集める最初期アプリを作り、リモート下の配送ニーズに刺した。

2020年3月最初期アプリ開発
  • メールでフォームを送り、社員の住所を集めるシンプルな機能だった。
  • 社員が住所を入力すれば、会社は個別にギフトを送れるようになった。
Growth

住所収集ツールを武器に大企業との契約を取り、短期間で法人アカウントを増やした。

  • 歓迎ギフトだけでなく、パソコンやスマートフォン、在宅勤務の備品なども大量に送る必要があった。
  • 少人数のチームでも営業を工夫し、売上は伸びていった。
Problem

競合が増えて住所を集めるだけでは差がつきにくくなり、次の柱が必要になった。

  • 同じような機能を持つ競合が増えてきたことが壁になった。
Insight

顧客の本当の困りごとはギフトではなく、資産の送付と回収を含む「社内物流」だと分かった。

  • 社員に会社の資産を送って退職したら回収する流れがうまく回っていないという話があった。
  • 古い物流会社は倉庫システムが古く、注文の自動化ができず電話対応が必要になる場面もあった。
  • 部署ごとに業者が分かれて歓迎キットが予定通り届かず、「歓迎されている感じ」が伝わりにくくなることもあった。
Action

Craftomを「探す、買う、セットにする、送る」までを一つでやる仕組みに変えると決めた。

  • 社内の物の流れを整えることを事業の軸に据え直した。
Scale

キャッシュフローとクレジットを活用してシャーロットに倉庫を用意し、第2段階へ移行した。

  • 会社がオンラインで必要な物を選び、ボタン操作で社員の自宅へ送れる状態を目指した。
  • 社員向けグッズだけでなく、椅子やパソコンのような高額な機器も扱える形にした。
  • IT部門も人事部門も同じ仕組みで使えるようにした。
Scale

あえて倉庫運営まで自社で抱え、ソフトと物流の両立の難しさを参入障壁と顧客体験の強みに変えた。

  • ソフトと物流の両方を高い水準でやるのは難しく、できる会社が少なくなると考えた。
  • 配送の最後の部分を自社でコントロールできないと納期やトラブル改善に限界が出ると捉えた。
  • 倉庫で加工や梱包を行い、できるだけ短い時間で発送できる体制を作った。
Insight

ハイブリッド時代は出社が増えても物流課題は消えず、むしろ管理が複雑になると見立てた。

  • 誰がどの機器を持っているのか、どこに送ればいいのかの把握が難しくなる。
  • 新入社員が増えればパソコンの手配と配送も増えるため、物流は簡単にならない可能性がある。
Team

早い段階でリーダー層を作れなかったことを反省点として挙げた。

  • 人手を増やすだけでは仕事は回っても成長の速度は上がりにくいという認識がある。
  • 創業者が1人で進めると持ち分は守りやすいが、負担も積み上がると述べている。

手間をかければ喜ばれる。けれど、その手間が増えるほど、自分の時間だけが削られていく──そんな行き詰まりを感じたことはないだろうか。

ノースカロライナ州の起業家ケイレブ・マッサーも、高級法人ギフトの仕事で成果を出しながら、成長の限界にぶつかった。ギフトを作るほど忙しくなり、任せたくても任せられない。停滞と迷いが、じわじわと現実味を帯びていった。

そこから彼は、「贈り物」の発想を起点にしながらも、事業の軸を別の場所へ移していく。小さなソフトから始まり、やがて会社の“物の流れ”そのものを動かす仕組みへ。何度も壁に当たりながら形を変えてきた、その道筋を追う。

伸びが止まったら、道を変える

リモートワークやハイブリッド勤務が当たり前になり、会社は社員と会えない時間が増えた。だからこそ「ちゃんと気にかけている」と伝えるために、ギフトや仕事道具を送る会社が増えていった。アメリカでは法人向けギフトの市場が伸び、予算を減らすどころか増やす会社も多い。

ノースカロライナ州の起業家ケイレブ・マッサーは、その流れの中でCraftomを立ち上げた。社員にギフトを送るだけの会社ではない。会社が必要な物をネットで選び、セットにして、社員の家へ届ける。さらに、退職者から会社の機器を回収するところまで面倒を見る。「贈り物」から始まった挑戦は、いつの間にか「社内物流」を動かす仕組みに変わっていった。

ただ、ここに来るまでの道は一直線ではない。むしろ、何度も壁にぶつかり、そのたびに形を変えてきた。

高級ギフトの仕事で、限界が見えた

最初のきっかけは2014年。ケイレブはNASCARのチームで営業の責任者をしていた。強いチームではなかったから、大企業の偉い人たちに「一度来てみよう」と思ってもらう工夫が必要だった。

そこで使ったのが、目立つ贈り物だった。相手の心をつかむために、特別なギフトを用意する。だが、役員向けのセンスのいいギフトを探しても、いい情報がなかなか見つからない。結局、チームの記念品を使い、包装も含めて自分たちで作ることが多かった。

2015年の終わりごろ、ケイレブは気づく。「ギフトそのものより、相手の心を動かすギフトを作る仕組みに価値がある」。そう考えてチームを離れ、Musser & Companyという高級法人ギフトの事業を始めた。

スポーツチームを中心に仕事は増えた。たとえば、ある有名なオーナーに向けて、名言を刻んだ箱を作り、関係する写真を入れ、家族にまつわる言葉を入れたノートまで用意する。細部まで作り込んだギフトは高く、1つ十数万円から数十万円になることもあった。

利益は出る。だが、ある問題が見えてきた。

この仕事は、ケイレブ自身の手が必要だった。ギフトの設計、細かな調整、相手に合わせた判断。やればやるほど仕事は増え、本人の負担も増える。人に任せようにも、教える時間が足りない。会社の成長が「創業者の体力」に引っ張られる形になっていた。

ガレージで始まったCraftom

2019年から2020年にかけて、世界は一気に変わった。外出制限が強まり、仕事のやり方も変わった。ケイレブは作業機材を自宅のガレージに移し、荷物は郵便が玄関先で回収する形で出荷を続けた。

そのガレージでの作業の中で、チームと一緒にCraftomを立ち上げる。狙いは、手作り中心の高級ギフトではない。大企業でも使える「仕組みとしてのギフト」だった。

最初の武器は、住所を集める小さなソフト

2020年3月。感染症の拡大が本格化したころ、Craftomは最初期のアプリを作った。機能はシンプルだ。メールでフォームを送り、社員の住所を集める。

社員が住所を入力すれば、会社は個別にギフトを送れる。ロックダウンで社員に会えない会社にとって、これは急に必要になった仕組みだった。

Craftomはこのツールで大企業との契約を取り、短期間で法人アカウントを増やした。当時の会社は、歓迎ギフトだけを送っていたわけではない。パソコン、スマートフォン、在宅勤務の備品。大量に送る必要があった。少人数のチームでも営業を工夫し、売上は伸びていった。

だが、ここで次の壁が来る。同じような機能を持つ競合が増えてきた。住所を集めるだけでは、差がつきにくい。次の柱が必要だった。

本当の困りごとは「社内物流」だった

ケイレブが顧客から聞いた悩みは、別のところにあった。社員に会社の資産を送る。退職したら回収する。こうした「社内物流」がうまく回っていない、という話だ。

古いタイプの物流会社は、倉庫のシステムが古く、ソフトウェアとつなぎにくいことが多い。注文を自動化できず、倉庫に電話して対応してもらう場面も出る。社員が増えるほど配送量も増え、現場が追いつかない。

さらに、買い物自体も面倒だった。大企業では部署ごとに別々の業者から物を買うことが多い。イベント用品、社員グッズ、印刷物。業者が何十社にも分かれ、まとめて買ってまとめて送るのが難しい。結果として、歓迎キットが予定通り届かず、新入社員に「歓迎されている感じ」が伝わりにくくなる。

ケイレブは決めた。Craftomを「探す、買う、セットにする、送る」までを一つでやる仕組みに変える。

倉庫を持ち、通販のように送れる形へ

ケイレブはキャッシュフローとクレジットを活用し、ノースカロライナ州シャーロットに倉庫を用意した。ここからCraftomの第2段階が始まる。

会社がオンラインで必要な物を選び、ボタン操作で社員の自宅へ送れる。通販みたいに使える状態を目指した。社員向けグッズだけでなく、椅子やパソコンのような高額な機器も扱える形にする。

IT部門はパソコンの送付や回収の管理に使う。人事部門は歓迎キットや備品、ギフトの発送に使う。部署の目的が違っても、同じ仕組みで「物の流れ」を整えられるようにした。

ソフトと物流の両方をやる難しさが、強みになる

普通は、ソフトウェアに集中し、倉庫や配送は外部に任せたほうが効率的だと言われる。だがケイレブは、あえて倉庫運営まで自分たちで抱えた。

理由は2つある。

1つ目は、ソフトと物流の両方を高い水準でやるのは難しいからだ。難しいことは、できる会社が少なくなる。つまり、参入しにくい。

2つ目は、顧客体験を守るためだ。配送の最後の部分を自社でコントロールできないと、納期が伸びたり、トラブルが起きたときに改善できなかったりする。

Craftomは倉庫で加工や梱包を行い、できるだけ短い時間で発送できる体制を作った。社員に届くまでが速いほど、会社側も安心して任せられる。

ハイブリッド時代ほど、物流は複雑になる

Craftomは少人数のチームと倉庫スタッフで運営され、これからも成長を狙っている。リモート勤務が減って出社が増えたとしても、問題が消えるとは考えていない。

むしろ、リモートと出社が混ざるほど管理は難しくなる。誰がどの機器を持っているのか。どこに送ればいいのか。新入社員が増えれば、パソコンの手配と配送も増える。ハイブリッドは物流を簡単にするのではなく、複雑にする可能性がある。

反省点は、早い段階でリーダーを作れなかったこと

ケイレブが後悔しているのは、最初からリーダー層を育てることに力を入れなかった点だという。人手を増やすだけでは、仕事は回っても成長の速度は上がりにくい。創業者が1人で進めると持ち分は守りやすいが、負担も積み上がる。

伸びにくい形のビジネスに気づいたら、方向を変える。小さなソフトから始めて、もっと大きな課題である社内物流へ広げる。Craftomの変化は、成長の壁を越えるための現実的な考え方を示している。