手間をかければ喜ばれる。けれど、その手間が増えるほど、自分の時間だけが削られていく──そんな行き詰まりを感じたことはないだろうか。
ノースカロライナ州の起業家ケイレブ・マッサーも、高級法人ギフトの仕事で成果を出しながら、成長の限界にぶつかった。ギフトを作るほど忙しくなり、任せたくても任せられない。停滞と迷いが、じわじわと現実味を帯びていった。
そこから彼は、「贈り物」の発想を起点にしながらも、事業の軸を別の場所へ移していく。小さなソフトから始まり、やがて会社の“物の流れ”そのものを動かす仕組みへ。何度も壁に当たりながら形を変えてきた、その道筋を追う。
伸びが止まったら、道を変える
リモートワークやハイブリッド勤務が当たり前になり、会社は社員と会えない時間が増えた。だからこそ「ちゃんと気にかけている」と伝えるために、ギフトや仕事道具を送る会社が増えていった。アメリカでは法人向けギフトの市場が伸び、予算を減らすどころか増やす会社も多い。
ノースカロライナ州の起業家ケイレブ・マッサーは、その流れの中でCraftomを立ち上げた。社員にギフトを送るだけの会社ではない。会社が必要な物をネットで選び、セットにして、社員の家へ届ける。さらに、退職者から会社の機器を回収するところまで面倒を見る。「贈り物」から始まった挑戦は、いつの間にか「社内物流」を動かす仕組みに変わっていった。
ただ、ここに来るまでの道は一直線ではない。むしろ、何度も壁にぶつかり、そのたびに形を変えてきた。
高級ギフトの仕事で、限界が見えた
最初のきっかけは2014年。ケイレブはNASCARのチームで営業の責任者をしていた。強いチームではなかったから、大企業の偉い人たちに「一度来てみよう」と思ってもらう工夫が必要だった。
そこで使ったのが、目立つ贈り物だった。相手の心をつかむために、特別なギフトを用意する。だが、役員向けのセンスのいいギフトを探しても、いい情報がなかなか見つからない。結局、チームの記念品を使い、包装も含めて自分たちで作ることが多かった。
2015年の終わりごろ、ケイレブは気づく。「ギフトそのものより、相手の心を動かすギフトを作る仕組みに価値がある」。そう考えてチームを離れ、Musser & Companyという高級法人ギフトの事業を始めた。
スポーツチームを中心に仕事は増えた。たとえば、ある有名なオーナーに向けて、名言を刻んだ箱を作り、関係する写真を入れ、家族にまつわる言葉を入れたノートまで用意する。細部まで作り込んだギフトは高く、1つ十数万円から数十万円になることもあった。
利益は出る。だが、ある問題が見えてきた。
この仕事は、ケイレブ自身の手が必要だった。ギフトの設計、細かな調整、相手に合わせた判断。やればやるほど仕事は増え、本人の負担も増える。人に任せようにも、教える時間が足りない。会社の成長が「創業者の体力」に引っ張られる形になっていた。
ガレージで始まったCraftom
2019年から2020年にかけて、世界は一気に変わった。外出制限が強まり、仕事のやり方も変わった。ケイレブは作業機材を自宅のガレージに移し、荷物は郵便が玄関先で回収する形で出荷を続けた。
そのガレージでの作業の中で、チームと一緒にCraftomを立ち上げる。狙いは、手作り中心の高級ギフトではない。大企業でも使える「仕組みとしてのギフト」だった。
最初の武器は、住所を集める小さなソフト
2020年3月。感染症の拡大が本格化したころ、Craftomは最初期のアプリを作った。機能はシンプルだ。メールでフォームを送り、社員の住所を集める。
社員が住所を入力すれば、会社は個別にギフトを送れる。ロックダウンで社員に会えない会社にとって、これは急に必要になった仕組みだった。
Craftomはこのツールで大企業との契約を取り、短期間で法人アカウントを増やした。当時の会社は、歓迎ギフトだけを送っていたわけではない。パソコン、スマートフォン、在宅勤務の備品。大量に送る必要があった。少人数のチームでも営業を工夫し、売上は伸びていった。
だが、ここで次の壁が来る。同じような機能を持つ競合が増えてきた。住所を集めるだけでは、差がつきにくい。次の柱が必要だった。
本当の困りごとは「社内物流」だった
ケイレブが顧客から聞いた悩みは、別のところにあった。社員に会社の資産を送る。退職したら回収する。こうした「社内物流」がうまく回っていない、という話だ。
古いタイプの物流会社は、倉庫のシステムが古く、ソフトウェアとつなぎにくいことが多い。注文を自動化できず、倉庫に電話して対応してもらう場面も出る。社員が増えるほど配送量も増え、現場が追いつかない。
さらに、買い物自体も面倒だった。大企業では部署ごとに別々の業者から物を買うことが多い。イベント用品、社員グッズ、印刷物。業者が何十社にも分かれ、まとめて買ってまとめて送るのが難しい。結果として、歓迎キットが予定通り届かず、新入社員に「歓迎されている感じ」が伝わりにくくなる。
ケイレブは決めた。Craftomを「探す、買う、セットにする、送る」までを一つでやる仕組みに変える。
倉庫を持ち、通販のように送れる形へ
ケイレブはキャッシュフローとクレジットを活用し、ノースカロライナ州シャーロットに倉庫を用意した。ここからCraftomの第2段階が始まる。
会社がオンラインで必要な物を選び、ボタン操作で社員の自宅へ送れる。通販みたいに使える状態を目指した。社員向けグッズだけでなく、椅子やパソコンのような高額な機器も扱える形にする。
IT部門はパソコンの送付や回収の管理に使う。人事部門は歓迎キットや備品、ギフトの発送に使う。部署の目的が違っても、同じ仕組みで「物の流れ」を整えられるようにした。
ソフトと物流の両方をやる難しさが、強みになる
普通は、ソフトウェアに集中し、倉庫や配送は外部に任せたほうが効率的だと言われる。だがケイレブは、あえて倉庫運営まで自分たちで抱えた。
理由は2つある。
1つ目は、ソフトと物流の両方を高い水準でやるのは難しいからだ。難しいことは、できる会社が少なくなる。つまり、参入しにくい。
2つ目は、顧客体験を守るためだ。配送の最後の部分を自社でコントロールできないと、納期が伸びたり、トラブルが起きたときに改善できなかったりする。
Craftomは倉庫で加工や梱包を行い、できるだけ短い時間で発送できる体制を作った。社員に届くまでが速いほど、会社側も安心して任せられる。
ハイブリッド時代ほど、物流は複雑になる
Craftomは少人数のチームと倉庫スタッフで運営され、これからも成長を狙っている。リモート勤務が減って出社が増えたとしても、問題が消えるとは考えていない。
むしろ、リモートと出社が混ざるほど管理は難しくなる。誰がどの機器を持っているのか。どこに送ればいいのか。新入社員が増えれば、パソコンの手配と配送も増える。ハイブリッドは物流を簡単にするのではなく、複雑にする可能性がある。
反省点は、早い段階でリーダーを作れなかったこと
ケイレブが後悔しているのは、最初からリーダー層を育てることに力を入れなかった点だという。人手を増やすだけでは、仕事は回っても成長の速度は上がりにくい。創業者が1人で進めると持ち分は守りやすいが、負担も積み上がる。
伸びにくい形のビジネスに気づいたら、方向を変える。小さなソフトから始めて、もっと大きな課題である社内物流へ広げる。Craftomの変化は、成長の壁を越えるための現実的な考え方を示している。
