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「登録者50万人でも、ほとんど儲からない」無料のまま限界→自動化で1か月以内に黒字

8 min read2026年2月25日
「登録者50万人でも、ほとんど儲からない」無料のまま限界→自動化で1か月以内に黒字

ビジネス概要

事業タイプ

SaaS

フェーズ

拡大期

規模感

登録者50万人超

概要

チームの振り返りや会議をオンラインで共同実施できるホワイトボード型ツールを提供するSaaS。

ターゲット

ソフトウェア開発チームを持つ中小企業のプロジェクトマネージャー

主な打ち手

プロダクト内で申込から支払いまでをユーザーだけで完結できるよう自動化し、手作業の請求・アカウント設定をなくした。

ストーリーの流れ

Problem

無料で広がる一方、収入がないためユーザー増がそのままコスト増になって苦しくなる構造にぶつかった。

  • 無料ツールは使う人が増えるほど手応えが集まり、広がりやすい性質があった。
  • しかしサーバー代や運用の時間が増えても収益が入らず、続けるほど足元が苦しくなった。
Insight

スプリントの振り返りがホワイトボードと付せん中心で手間が大きく、オンライン化の余地があった。

  • 付せん記入から読み上げ、別場所へのまとめ直しまでで約30分かかっていた。
  • 紙が捨てられがちで後から見返せず、遠隔メンバーを混ぜるのも難しかった。
  • スティーブンは振り返りをオンラインのホワイトボードでできないかと考えた。
Action

2016年のハッカソンで振り返り用のシンプルなツールを24時間で作り切り、Metro Retroの原型ができた。

  • リアルタイム更新、自分だけが見える付せん、内容の書き出しといった要素を備えた。
  • この試作はハッカソンで優勝したが、その後は仕事の忙しさで放置された。
Insight

未完成でバグが多くても友人たちが勝手に使っており、欲しい人がいることが明確になった。

  • 約1年後にスティーブンは、友人たちが会社でそのツールを使っているのを見て驚いた。
  • そこから夜と週末を使い、最低限ちゃんと動く形を目指して作り続けた。
Growth

2019年の正式公開後、コミュニティで話題になり最初の1年で登録者が増えた。

最初の1年で1万人が登録正式公開後の初期拡大
  • 公開を手伝ったのがリサで、感想が集まって改善の材料も増えた。
Growth

2020年3月の在宅勤務拡大で需要が高まり、短期間で登録が一段伸びた。

わずか3週間で、さらに1万人が登録コロナ期の急増
  • オンライン会議に移したチームが「同じ部屋で話している感じ」の欠落に困り、Metro Retroが刺さった。
  • 文字だけの会議より楽しく、チームの空気を少し戻せた。
Team

売ることと伸ばすことが必要になり、ジェイミーを共同創業者として迎えた。

  • 日々の運営は主にスティーブンとジェイミーが回し、リサは別の仕事も続けていた。
Problem

登録者が50万人を超えても全て無料だったため、ほとんど儲からず創業者に給料も払えなかった。

登録者は50万人を超えた無料のままの大規模化
  • 3人は貯金を削りながら運営しており、ユーザーが増えるほどサーバー代もかかった。
  • 将来もっと大きくするなら作り直しが必要だと考え、当面は無料で続けた。
Action

2020年9月に第2版の大きな作り直しに着手し、振り返り専用から会議全般に使える共同作業ツールを狙った。

  • 作り直しは避けろと言われがちでも、目的に合う土台を最初から作る必要があった。
  • 同時にお金の計算を現実的にやり直し、利益が出る形に変える必要性を確認した。
Monetize

2021年に席数課金の価格を設定し、第2版を希望者から順に公開して有料化を進めた。

毎月の売上が約75万円($5,000)売上ライン到達
6か月売上ライン到達までの期間
  • 無料で満足する人が多い中でも、有料版でできることを見せると切り替える人が出た。
  • ジェイミーは公開後の数か月で100回以上デモを行い、小さな契約から40人、100人と大きな契約につなげた。
Problem

請求書作成やアカウント設定が手作業で、売れるほど苦しくなる導入プロセスが成長を止めていた。

  • ジェイミーが一社ずつ対応する形では、規模が上がるほど運用が詰まる状態だった。
Scale

2022年4月に無料お試しから支払いまでをプロダクト内で完結させ、導入と課金を自動化した。

2022年4月課金導線の自動化実施
  • ユーザーが自分で申し込み、支払いまで終えられる仕組みを入れた。
Monetize

自動化の後に1か月以内に黒字化し、創業者が自分たちに給料を払えるようになった。

1か月以内に黒字自動化後の黒字化
  • その後は部署単位での導入や複数年契約が増え、既存顧客が上位プランへ切り替える動きも出た。
Insight

最大の教訓は料金を取るのを待ちすぎず、払いたい人に払える道を用意することだった。

  • 売上が立ち上がるまでの時間を短く見積もり、「あと3か月で大きく伸びるはず」と考え続けてしまった。
  • 無料ユーザーの数パーセントが有料になればという計算はあっても、その数パーセントを作るのが最も難しかった。
  • 最初の版のユーザーから「払いたいんだけど、どうすればいい?」と聞かれることがよくあった。
Growth

広告費をほとんど使わずに口コミで広がり、会議で複数人が使う性質がユーザーがユーザーを連れてくる形を作った。

  • アジャイルコーチやスクラムマスター、コンサルタントのような中心人物が会議のたびに別の人へ見せた。
  • 派手なSNS発信はせず、主に更新情報のメール程度だった。
Growth

紙吹雪機能のような感情を動かす体験が共有されやすく、口コミの強さを後押しした。

  • ホワイトボード上でお祝いの紙吹雪を飛ばせることで会議が少し楽しくなった。
Growth

会議用テンプレートを用意して検索流入から無料登録へつなげ、プロダクトに入る導線を整えた。

  • 例えば「スプリントの振り返りをやりたい」と検索した人がテンプレートにたどり着き、すぐ始められる形にした。
Team

次の目標は新しい集客方法に投資し、エンジニアとマーケ担当を雇える状態にしてチームを広げることだ。

  • 現状は主にスティーブンが開発、ジェイミーが営業とサポートを担い、その他も2人で回している。
  • 役割を増やして創業者が成長に集中できるようにし、長く続くSaaSにする方針である。

無料ツールは、広がりやすい。使う人が増えれば手応えも集まって、「これ、いけるかも」と思える瞬間も増えていく。

でも、ずっと無料のままでは続かない。ユーザーが増えるほどコストも増えるのに、収入がない。気づけば、前に進んでいるはずが足元だけが苦しくなっていく。

Metro Retroも同じ壁にぶつかった。登録者が50万人を超えても、ほとんど儲からない。それでも手を止めず、仕組みを変えた結果、ある施策のあと「1か月以内に黒字」へ。無料ツールが「続くビジネス」になるまでの道のりを追う。

無料ツールを「続くビジネス」に変えた話

無料で出したプロダクトは広がりやすい。使う人が増えれば、感想も集まる。直すべきところも見える。名前も知られるようになる。

でも、ずっと無料のままだと会社は続かない。サーバー代も時間もかかるのに、収入がないからだ。どこかで「お金を払ってもらう仕組み」を作らないと、物語は終わる。

Metro Retroは、まさにその壁にぶつかった。そして、無料ツールから売れるSaaSへ変わっていった。

10年一緒に働いた3人

スティーブン、リサ、ジェイミーは、約10年同じ職場で働いていた。

スティーブンはプログラマー。リサはプロジェクト管理。ジェイミーはプロダクト管理。チームでアプリを作り、アジャイルというやり方で仕事を進めていた。短い期間を「スプリント」と呼び、計画して作って振り返る、を繰り返す。

ただ、スプリントの最後に行う「振り返り」だけが面倒だった。

ホワイトボードと付せんの苦しさ

振り返りでは、うまくいったこと、うまくいかなかったことを出し合う。昔ながらのやり方はこうだ。

付せんに意見を書く。ホワイトボードに貼る。順番に読み上げる。最後に誰かが別の場所にまとめ直す。

これで30分くらい飛ぶ。しかも紙は捨てられがちで、後で見返せない。遠くにいるメンバーを混ぜるのも難しい。

スティーブンは思った。「これ、オンラインのホワイトボードでできないか」

そこで作り始めたが、途中で止まった。忙しくなると、個人プロジェクトは止まる。よくある話だ。

ハッカソンで一気に形になった

2016年、会社でハッカソンが開かれた。短時間で何かを作り、成果を競うイベントだ。

スティーブンは、止まっていた試作品を引っ張り出した。仲間と一緒に24時間で作り切った。

できたのは、振り返り用のシンプルなツールだった。

  • 画面がリアルタイムで更新される
  • 自分だけが見える付せんを書ける
  • 内容を書き出せる

これがMetro Retroの原型になる。しかもハッカソンで優勝した。

ただ、その後また放置された。仕事が忙しくなると、やっぱり止まる。

未完成なのに、勝手に使われていた

約1年後、スティーブンは驚く。友人たちが会社でそのツールを使っていた。

バグも多い。未完成。それでも使われていた。

ここでスティーブンは気づく。「これは欲しい人がいる」

そこから夜と週末を使い、最低限ちゃんと動く形を目指して作り続けた。

約1年半後の2019年、ようやく正式公開まで持っていった。公開を手伝ったのがリサだ。コミュニティで話題になり、最初の1年で1万人が登録した。感想が集まり、改善の材料も増えた。

コロナで一気に広がった

2020年3月、在宅勤務が一気に増えた。

会議をオンラインに移したチームは、「同じ部屋で話している感じ」が消えて困った。そこでMetro Retroが刺さった。

わずか3週間で、さらに1万人が登録した。

Metro Retroは、オンラインでも一緒に考え、動きのある会話を作ることを狙っていた。文字だけの会議より楽しく、チームの空気を少し戻せた。

この頃、スティーブンとリサはジェイミーを共同創業者として迎えた。売ること、伸ばすことが必要になったからだ。リサは別の仕事も続けていたので、日々の運営は主にスティーブンとジェイミーが回した。

登録50万人でも、ほとんど儲からない

Metro Retroは増えた。登録者は50万人を超えた。

なのに、ほとんどお金が入らない。理由は単純だった。全部無料だったからだ。

3人はまだ自分たちに給料を払えず、貯金を削っていた。ユーザーが増えるほどサーバー代もかかる。無料はやさしいが、現実はきびしい。

最初から有料プランを入れる道もあった。でも3人は考えた。「将来もっと大きくするなら、作り直しが必要だ」。だから当面は無料で続けた。

作り直しを選んだ理由

2020年9月、スティーブンは2つ目の版の開発を始めた。中身を一から組み替える、大きな作り直しだ。

スタートアップでは「作り直しは避けろ」とよく言われる。時間がかかり、失敗しやすいからだ。

それでも作り直した。理由ははっきりしていた。

振り返り専用ツールでは終わりたくなかった。いろいろな会議に使える共同作業ツールにしたかった。目的に合う土台を、最初から作りたかった。

同時に、3人はお金の計算を現実的にやり直した。貯金が減っていた。無料のままでは続かない。Metro Retroを「利益が出る形」に変える必要があった。

料金をつけたら、初めて話が動いた

2021年、ジェイミーとスティーブンは価格を作った。考え方は「席数課金」だ。使う人数が増えるほど料金が上がる。

2つ目の版は、いきなり全員に公開しなかった。希望者から順に使えるようにした。

無料で満足している人は多い。それでも、有料版でできることを見せると切り替える人が出た。2人は思った。「もっと早くやればよかった」

毎月の売上が約75万円($5,000)のラインに届くまで、6か月かかった。ジェイミーは公開後の数か月で100回以上デモをした。

小さな契約から始まり、40人、100人と大きな契約につながっていった。

ただ、それでも成長は遅かった。原因は別にあった。

成長を止めていたのは「手作業」

導入の流れが手作業だった。

請求書を作って送る。顧客アカウントを設定する。ジェイミーが一社ずつ対応する。

これでは、売れるほど苦しくなる。

そこで次の一手を打った。ユーザーが自分で申し込み、支払いまで終えられる仕組みをプロダクト内に入れる。

自動化したら、1か月で黒字になった

2022年4月、無料お試しから支払いまで、ユーザーだけで完結できるようにした。

すると1か月以内に黒字になった。ようやく創業者が自分たちに給料を払えるようになった。

その後は、部署単位での導入や複数年契約も増えた。既存顧客が上位プランへ切り替える動きも出てきた。

最大の教訓は「待ちすぎない」

3人が強く感じた教訓がある。

料金を取るのを遅らせすぎないこと。

売上が立ち上がるまでの時間を短く見積もっていた。「あと3か月で大きく伸びるはず」と考え続けてしまう。貯金でしのげると思ってしまう。でも、現実はそんなに早く進まない。

無料ユーザーのうち数パーセントが有料になれば、という計算を何度もした。数字の上では希望が見える。でも実際には、その「数パーセント」を作るのが一番難しい。

しかも皮肉なことに、最初の版のユーザーから「払いたいんだけど、どうすればいい?」と聞かれることがよくあった。

払いたい人がいるなら、払える道を用意すべきだった。結論はシンプルだ。

広告なしでも広がった理由

Metro Retroは、ほぼ口コミだけで広がった。広告費はほとんど使っていない。

3人はマーケターではない。SNSで派手に発信もしない。やっていたのは主に更新情報のメールくらいだ。

それでも広がった理由は、このツールが「一人で完結しない」からだ。

会議で複数人が一緒に使う。アジャイルコーチやスクラムマスターがチームに持ち込む。コンサルタントが顧客との会議で使う。そういう中心人物が、会議のたびに別の人へ見せる。

結果として、ユーザーがユーザーを連れてくる形になった。

紙吹雪が運んできた新規ユーザー

意外な人気機能もあった。

ホワイトボード上で、お祝いの紙吹雪を飛ばせる機能だ。会議が少し楽しくなる。こういう分かりやすい楽しさは共有されやすい。口コミの強さは、機能の便利さだけじゃなく、感情の動きにも支えられていた。

テンプレートが入口になった

ウェブサイトでは、使い方の説明だけでなく会議用テンプレートも用意した。

たとえば「スプリントの振り返りをやりたい」と検索した人がテンプレートにたどり着く。そこから無料登録して、すぐ始められる。プロダクトに入るための道を、ちゃんと作った。

次は「人を増やす」ための成長

今の体制は小さい。主にスティーブンが開発、ジェイミーが営業とサポート。その他も2人で回している。

新しい集客方法に投資し、チームを広げるのが次の目標だ。経験のない分野は学ぶか、経験者を雇うしかない。

そのための次の売上目標は、ソフトウェアエンジニアとマーケティング担当を雇える状態になること。

役割を増やし、創業者が成長に集中できるようにする。Metro Retroを一時のブームで終わらせず、長く続くSaaSにするための次のステップだ。