月500ドルの倉庫から始めた小さな実験が、やがてロサンゼルスのコミュニティを支える店になった。
サイズがない、選べない、試せない。そんな「服選びの常識」に傷ついてきた人は少なくない。ジェンとマーシーは、その不自由さを"服の循環"という方法でほどいていく。
そして世界が止まったとき、店が空でも売上約150万円($10,000)をつくる手段を見つけた。何が彼女たちをそこまで強くしたのか。
2人の友人が、服選びの「当たり前」を疑った
服の世界には昔から、女性に厳しい理想を押しつける風潮がある。細い体が正しい、というような風潮だ。
体が大きい女性は、そもそもサイズが店にない。あっても選べる種類が少ない。店で嫌な顔をされることもある。そうやって「おしゃれは自分には無理だ」と思わされる人が出てくる。
その空気を変えたくて動いたのが、ジェン・ワイルダーとマーシー・ゲバラ=プレテ。2人が作った店がThe Plus Busだ。ネットでも実店舗でも、サイズに関係なく服を楽しめる場所を目指した。
似合う服が見つからないだけで、自信は削られる
アメリカでは平均的な女性のサイズは大きめだと言われる。それなのに、雑誌や広告に出てくる服は細身の人向けが多い。
「これ着たい」と思って店に行っても、サイズがない。店員の反応が冷たい。そんな体験が重なると、「自分はダメなんだ」と思い込みやすい。服がないだけの話が、いつの間にか「自分はダメな人間だ」という話にすり替わってしまう。
ジェンとマーシーも、その痛みを長い間知っていた。
テレビの現場で、服が人の表情を変えるのを見た
マーシーはロサンゼルスで育ち、テレビの仕事に憧れていた。やがて番組でスタイリングの仕事をするようになり、体型が大きい女性のファッションにも深く関わっていった。
マーシーが大切にしていたのは、試着室の中だけでなく、日常生活でも自信を持てることだ。体型を理由に、ハロウィーンの集まりや正装が必要な場をあきらめてほしくなかった。どんなサイズでも、見た目も気持ちも明るくできる。そう信じていた。
一方ジェンは、ロサンゼルスで体が大きい人向けの服を作るデザイナーだった。2人は考え方が近く、話が合った。ただ、マーシーはこの時点では、店を持つつもりはまったくなかった。
SNSでつながり、クローゼットの悩みが同じだと気づいた
2人が出会ったのはSNSだった。忙しく働くマーシーと、服も買い物も大好きなジェンはすぐに意気投合した。
あるとき2人は、自分たちのクローゼットに「着ない服」が大量にあることに気づく。捨てるのはもったいない。でも、体が大きい人向けの服はただでさえ手に入りにくい。
それなら、みんなで服を持ち寄って交換しよう。そうして始めたのが服の交換会だった。体が大きい人たちが安心して集まり、服の話ができる場にしたかった。
交換会は片づけではなく、「居場所」になっていった
交換会は最初、片づけの延長のつもりだった。ところがふたを開けると、同じ悩みや体験を持つ人が集まり、話し、笑い合う時間になっていた。
マーシーは以前、オーディションの場で「体が大きい女性4人の仲良しグループを連れてきて」と言われたことがある。でも当時、周りには同じ体型の友人がほとんどいなかった。
交換会で初めて、「同じ立場の人がこんなにいる」と実感した。
ただ、問題も起きた。服が余りすぎた。倉庫がいっぱいになるほど残り、運ぶために家族にトラックを出してもらうほどだった。
余った服を見て、店の名前が決まった
余った服をどうするか考えていたとき、ジェンが言った。「いつか車で旅をしながら服を売って回りたい」
そこから話がつながる。「それって、Plus Busみたいだな」
こうして店の名前が決まった。
もちろん、本当に大きな車で全国を回るのは現実的ではない。維持費も駐車場所も難しい。だから2人は、短い期間の小さな販売イベントを繰り返す形に切り替えた。
新品を増やすより、まだ着られる服を再利用したかった
The Plus Busが大切にしたのは、中古の服を預かって売るやり方だった。まだ着られる服を捨てずに生かせる。
マーシーは、服を大量に作って大量に捨てる流れが環境に負担をかけていると感じていた。安い服がすぐ買える裏側で、捨てられる服も増えている。中古の服を循環させる仕組みは、その無駄を減らすことにつながる。
家賃約7万円($500)の小さな倉庫で、店を試してみた
イベントは少しずつ大きくなった。ジェンは自分のデザインした服も並べ始め、それが人気を集めた。
当時2人には別の仕事があり、店を持つのは大きな挑戦だった。それでも交換会から1年もたたないうちに、カリフォルニア州グラッセルパークで小さな倉庫スペースを借りた。家賃は月約7万円($500)ほど。あくまで実験のつもりだった。
「誰も来なかったら、家賃分だけの損で済む」
そう考えて始めたが、結果は逆だった。店は利益を出し始めた。
やがて同じ建物の別の借り手が出ていき、スペースを広げることができた。口コミとコミュニティのつながりで売れていたが、もっと多くの人に知ってもらうには、人通りの多い場所が必要になった。
やっと見つけた理想の場所で、世界が止まった
2人はロサンゼルスのハイランドパーク周辺を車で走り、店に合う場所を探した。条件ははっきりしていた。人通りが多いこと。店の考えを広げられること。古着店やカフェが並ぶ大通りにあること。
そして理想の場所が見つかった。
ただ、ちょうどその頃、世界的な感染症が広がり始めていた。人が外出しづらくなり、店に来てもらう計画は崩れた。またしても、やり方を変えなければならなかった。
店が空でも、ライブ配信なら服を届けられた
店を応援したい人は多かった。でも買い物の形は変わった。マーシーとジェンは、商品が倉庫にたまっていく不安を抱えながら、ライブ配信で服を紹介してその場で販売する方法を試した。
結果は大成功だった。短い時間で在庫が一気に減り、売上は1回で約150万円($10,000)に達した。その後もライブ配信を続け、同じくらいの売上が出ることが多かった。
さらにネットショップも整え、ロサンゼルス以外からも買えるようにした。販売の中心は、ライブ配信や短い動画投稿へと移っていった。
テレビのつながりが、店に新しい服を運んできた
マーシーにはテレビの仕事で築いた人脈があった。そのつながりが店にも生きた。体が大きい有名人が着なくなった服を店に預けて販売してもらうこともある。スタッフが袋に入れて持ち込むこともあった。
SNSで発信する人たちも、服をたくさん受け取る。写真を撮った後はクローゼットに眠りがちだが、自分で売る時間はない。そこで店が預かって販売する。
手放す側も買う側も助かり、店も成り立つ。無理のない循環が生まれていった。
試着できるだけで、救われる人がいる
体が大きい女性向けの服は、ネットだけで売られていることが多い。試せないからサイズ違いを何着も注文して、合わない分を返品する。時間も手間もかかる。
The Plus Busのように、店で試着しながら相談して選べる場所は貴重だ。ネットで気になっていたブランドを実物で試せる。そこで新しい出会いも生まれる。
ゆっくり積み上げたから、強い店になった
最初の数年間は、利益がほとんど出ない時期もあった。それでも続けるうちに流れをつかみ、2015年ごろから売上が大きく伸びていった。
売れれば売れるほど、次に売る服が必要になる。商品はコミュニティから集まるものが多く、ブランドとの協力も増えていった。地元の作り手のアクセサリーやTシャツを扱い始めるなど、店の幅も広がった。
高級ブランドの在庫品や撮影で使ったサンプル品、返品された品などを手ごろな価格で販売する取り組みも始まった。値段を理由に諦めていた人にも、選択肢が広がった。
どんな体型でも自信を持てる雰囲気を、もっと広げたい
ジェンとマーシーにはまだ大きな目標がある。体型に関係なく、おしゃれを楽しめる文化をもっと広げたい。
The Plus Busは、服を売る店で終わらない。「どんな体でも堂々としていい」。その空気を作るために、今日も服を集め、並べ、届けている。
