暗号資産を持っていても、そのままではコンビニでパンは買えない。価値を「使えるお金」に変えるには、法定通貨の世界とつながる出口が必要だ。
その出口として最もわかりやすいのがカードだ。しかし銀行、カード会社、法律のルールが複雑に絡み合い、技術だけでは前に進めない。
その難所に真正面から挑み、暗号資産で支払えるデビットカードを実現したのがUnbankedだ。ただ、出発点は「カード事業」ではなかった。カードはもともと、おまけのつもりだった。
おまけの機能が本業になった、暗号資産の「銀行」
暗号資産を持っていても、それだけでは現実の店で買い物はできない。使うには、どこかで法定通貨に換えて決済する仕組みが必要になる。その役割を最もわかりやすく果たすのがカードだ。
ただ、そこには銀行・カード会社・法律のルールが幾重にも重なっている。技術だけでは進めない世界だ。
その難所に真正面から挑み、暗号資産で支払えるデビットカードを実現した会社がUnbankedだ。売上は大きく伸びた。しかし出発点は「カード事業」ではなく、カードはもともとおまけのつもりだった。
始まりは、広告のムダを減らす計画だった
創業者のイアン・ケインは、長年デジタル広告の仕事に携わってきた。
ネット広告の世界では、広告主が払ったお金が掲載サイトにそのまま届くとは限らない。間に入る業者が多く、手数料が積み重なる。サイト側に届くころには価値が目減りし、取り分が減れば良い掲載場所も育ちにくくなる。
イアンはここに、ブロックチェーンで風穴を開けられると考えた。仲介を減らし、広告の価値を直接届ける仕組みだ。
さらに一歩進めて、サイトが受け取った価値を暗号資産として保有し、現金のように使えるようにする。そこで浮上したのが「暗号資産と連動したカード」だった。広告の仕組みを完成させるための部品として、カードが必要だったのだ。
生活をかけた挑戦と、最初のつまずき
イアンは高収入の仕事を辞め、家も売った。貯金を取り崩しながら給料なしで働き、時間も体力もすべて事業につぎ込んだ。
最初のチームは小さかった。共同創業者と開発者2人の少人数でプロダクトを作り、企業への営業を続けた。
大手広告会社とも話し、反応は悪くなかった。しかし9か月たっても本格的な売上にはつながらない。広告業界で新しい仕組みを導入してもらうのは容易ではなく、相手企業には変えられない手順や既存の契約が山積みだった。
理屈が正しくても、動かない。空気が重くなった。
想定外の問い合わせが、方向転換の合図になった
そんなとき、別の種類の連絡が増え始めた。
広告とは無関係な人や会社から「そのカードだけ欲しい」という問い合わせが届いた。理由はシンプルだった。暗号資産は持っている。でも使い道が少ない。買い物に使えない。価値はあっても、生活の中で動かないのだ。
イアンは気づく。本当に求められているのは広告の新しい仕組みではなく、暗号資産を現実の支払いに変える「出口」だと。
ここでUnbankedは舵を切った。事業の軸を広告からカードへ移し、暗号資産を入れて使えるVisaデビットカード「Block card」を中心に組み直した。カード利用に応じた還元も用意し、口座に近いサービスへと広げていく。
暗号資産企業がVisaと組むのは、口で言うほど簡単ではない
当時、「Visaと提携している」と称する暗号資産企業は多かった。だが実態は、複数の業者を挟んでカードを発行しているケースも少なくなく、責任の所在が曖昧になりがちだった。
Visaはこれを問題視して取り締まりを強化した。すると今度は「Visaは暗号資産を嫌っている」という誤解が広がる。
Unbankedは近道を探さず、法律と規制に沿った形で銀行と組み、正式な手順でカード発行まで進む道を選んだ。
時間はかかる。書類も増える。審査も厳しい。しかしここを飛ばすと、あとですべてが止まる。
大手銀行が動かないなら、小さな銀行から始める
イアンが動き始めたころ、暗号資産に前向きな銀行はほとんどなかった。特に大手は慎重で、新技術の失敗リスクを恐れて動けない。
そこで狙いを変え、地域の小さな銀行や信用組合に声をかけた。
小さな銀行にとって、新しい顧客を獲得できる仕組みは魅力的だ。意思決定のスピードも大手より速いことが多い。こうして協力先が少しずつ増え、暗号資産を扱える口座の仕組みと、合法的にVisaデビットカードを発行できるネットワークが組み上がっていった。
Litecoinのカードが、信用を一気に引き上げた
Unbankedは自社ブランドだけでなく、他社向けのホワイトラベル提供も始めた。
早い段階で大きな転機となったのが、Litecoinコミュニティ向けのカードだ。
暗号資産イベントで試作品を披露すると、Litecoin側が強い関心を示した。ただ、過去に別の会社が似た話で失敗した経緯があったため、最初に問われたのは派手な約束ではなく「本当に出せるのか」という実績だった。
Unbankedは約6か月で形にし、実際に使えるカードとして提供した。
この実績が広まると、今度はVisa側から「他の暗号資産企業向けにも同じことをより大きな規模でできないか」と相談が来るようになる。単なる利用許可を超え、より深い協力関係へと発展していった。
暗号資産を「使えるお金」に変える仕組み
Unbankedが目指したのは、カード単体ではなく、生活の中でちゃんと機能する金融の仕組みだ。
米ドルの口座を用意してそこから暗号資産を購入できるようにし、すでに暗号資産を持っている人はカードと連動したウォレットに送るだけ。あとは店で支払えば、Visaが使える場所ならどこでも暗号資産の価値を決済に充てられる。
支払いに応じた還元も用意し、一般的なクレジットカードより高い還元率を実現する設計で、独自トークンを保有することでさらに条件が良くなる仕組みも組み込んだ。
銀行口座を持ちにくい人を、世界の経済につなぐ
世界には、本人確認の条件を満たせず銀行口座を作れない人が多い。しかしスマートフォンがあれば、暗号資産のウォレットは作れる。経済活動に参加できる可能性は十分ある。
問題は、暗号資産と現実の支払いの間にある溝だ。ここがつながらない限り、生活は変わらない。
Unbankedは、その橋を架けることを自分たちの役割と考えた。
たとえば米国で働く人が家族のいる国へ送金する場面。家族側のウォレットがカードと連動していれば、受け取った価値をガソリンや食料品の支払いにそのまま使える。従来の海外送金は手数料が高いことも多く、24時間動くブロックチェーンは送金の形を変える可能性を持っている。
規制から逃げず、規制の中で進む
暗号資産の世界では、規制を避けるために海外に会社を設立する例もある。しかしUnbankedは逆の道を選んだ。規制は避けられない前提として、当局に理解してもらう方向で進んだ。
ブロックチェーン上の取引は記録が残りやすく、不正があれば追跡しやすい面もある。そう説明しながら、時間をかけて信頼を積み上げた。
遠回りな道だ。しかし長い目で見れば、「正しい手順で作った」という事実そのものが強みになる。
NFTにも広がった取り組み
UnbankedはNFTにも手を広げ、保有者に特典がつくシリーズを展開した。
NFTは絵としての価値だけで終わらない。現実のサービスで得られるメリットこそが重要だという考え方だ。会員権に近く、持っているあいだは特典があり、手放すときは次の買い手を探す。
さらに、NFTを貸し出して別の人が運用し、得た利益の一部を受け取る仕組みも検討した。コミュニティの提案から生まれたアイデアだ。
成功の理由は、聞く力と切り替える勇気
Unbankedの成長を支えたものは二つある。
一つは、規制の厳しい金融の世界でルールから逃げずに進んだこと。もう一つは、顧客の声に耳を傾け、最初の計画に固執せず方向転換できたことだ。
広告改革のための仕組みとして始まった事業は、思うように売れなかった。しかし「カードだけ欲しい」という声が集まり、そこに本当の需要があった。
おまけのつもりだった機能が会社の中心になった。Unbankedは暗号資産を現実の支払いにつなぐサービスとして、そこから一気に成長していった。
