半年かけて作った新機能が、ほとんど使われない。市場調査も競合分析もしたのに、なぜか刺さらない。SaaSを作る人なら一度はぶつかる壁だ。
オランダ発のSaaS「Upvoty」は、そのズレを埋めるために「お客の声」を仕組みに変えた。要望を集め、投票で優先順位を見える化し、開発につなげる。
その結果、顧客は700社超。毎月の継続売上は約450万円($30,000)規模まで伸びた。小さなチームが、どうやってここまで積み上げたのか。
お客の声を聞くと、商品は強くなる
半年かけて新機能を作ったのに、お客はほとんど興味を示さない。そんなことは、商品づくりではよく起こる。市場調査も競合分析もやった。それでも「本当に困っていること」と「作り手が想像したこと」はズレる。
そのズレを正す力になるのが、フィードバックの循環だ。お客の声を集め、整理し、改善につなげる流れ。声を聞けば、作り手の思い込みが正しいかどうか確かめられる。次に作るべき機能のヒントも得られる。ユーザーが何を達成したいのかを知ることは、良い商品だけでなく、良いビジネスを作るうえでも欠かせない。
オランダ発のSaaS「Upvoty」は、その考え方をプロダクトにしたサービスだ。ユーザーの要望を集め、投票で優先順位を見える化し、開発に反映できる仕組みを提供する。次に何を作るべきかが、霧の中からはっきりと見えてくる。
Upvotyはこのやり方で成長してきた。顧客は700社を超え、毎月の継続売上は約450万円($30,000)規模。本社はオランダのアイントホーフェン。チームはリモート中心で世界に散らばり、人数は9人。小さく、強い。
19歳で大学をやめ、最初の商売を始めた
創業者のマイクは、19歳で大学をやめた。講義よりも、自分で作って試すほうが面白かったからだ。
最初に始めたのはオンラインの印刷ショップ。サイトを作り、検索で見つけてもらう工夫をして客を集める。すべてひとりで学びながら進めた。この経験が、起業家としての土台になった。
次に、集客や販売の知識を活かして他社の売上づくりを支援する代理店も立ち上げた。だが、しばらくすると気持ちが落ち着かなくなる。「自分の商品を作りたい」という感覚が戻ってきた。
そこで立ち上げたのが、住宅リフォームの見込み客を集めるサイト「Vindy」だ。Vindyは成長し、年間の継続売上が約1.5億円($1,000,000)規模まで伸びた。
困りごとが、次の事業の種になった
Vindyが大きくなるほど、別の問題が出てきた。ユーザーの意見が増えすぎて、うまく集められない。管理もできない。
既存のソフトも探した。しかし、安くて使いやすいものが見つからない。メール中心の運用が多く、SaaSの商品改善にぴったり合うツールは少なかった。
「ないなら作るしかない」
こうして、シンプルに意見を集められるSaaSとして、Upvotyのアイデアが生まれた。
Vindyがうまくいっていても、心のどこかで満たされない時期があったとマイクは言う。売上やチームの規模だけでは足りない。お客の問題に本気で向き合う熱が必要だと気づいた。最終的にVindyを手放し、Upvotyに集中する道を選んだ。
Upvotyでは、意見を一か所に集められる。だから、役立つ改善案へ変えやすい。さらに「これから何を作るか」という計画も可視化され、ユーザーは進み具合を追える。声を集めるだけで終わらせず、前に進むための仕組みになっている。
立ち上げは小さく始め、早く聞く
Upvotyの立ち上げもフィードバック重視だった。最初から大きく公開しない。まずは限られた人だけが使える非公開のテスト版からスタートし、早い段階で意見を集め、「見込み客が何に困っているか」を学んだ。
最初にやったのは、説明動画つきの案内ページを作ること。興味を持った人が登録できるようにし、ページはノーコードのツールも活用しながら自分で用意した。
登録が200件を超えたところで、開発者を雇い、最初の製品版を作り始めた。
初期ユーザーは、コミュニティやSNS、ベータ版の新サービスを紹介する場、起業家が集まるフォーラムなどから増えていった。非公開テストでは早期ユーザーに一定期間無料で使ってもらったところ、すぐに有料プランへ切り替える人が現れた。正式公開前の時点で、毎月の継続売上は約3.8万円($250)に達した。
マイクにとって忘れられない瞬間がある。最初の有料顧客が生まれたときだ。誰かが「これは価値がある」と判断し、自分のお金を払う。その事実は、どんな言葉より強い証明になる。
Upvotyは2019年2月に正式公開。半年で毎月の継続売上は約15万円($1,000)に届き、そこから3年で約450万円($30,000)規模まで伸びた。
資金調達をせずに育てるなら、手元資金が尽きる不安は常につきまとう。だからこそ、できるだけ早く出して早く聞き、必要とされるものを早く作る。求められるものが早く形になれば、支払いも早く生まれ、事業が続きやすくなる。
広告より、口コミと信頼を積み上げた
正式公開後の成長は、派手な広告ではなく口コミが中心だった。知らない相手への強引な売り込みもしない。その代わりに、やることを絞った。
ユーザーの声を聞き続けること。役立つ情報を出し続けること。
チームはブランド作りとコンテンツにも力を入れた。SaaSの創業者やプロダクト担当者に役立つ記事を継続して発信し、それが集客につながった。さらに、ツールの中にUpvotyの存在が伝わる導線を設け、ユーザーのユーザーにも見つけてもらえる流れを作った。
技術がなくても、SaaSは始められる
技術系の事業では「共同創業者が大事」とよく言われる。足りない能力を補い合える相手がいれば強い、という考え方だ。
ただ、マイクは「共同創業者が必須」とは考えなかった。自分の得意と苦手を把握したうえで、Upvotyに必要な体制を選んだ。技術系の共同創業者を探す代わりに、開発者を雇って製品を作った。
理由は二つある。
一つ目は、共同創業者と長期間ひとつのプロジェクトを進めるスタイルが自分に合わないと分かっていたこと。相性の見極めは難しく、うまくいかないリスクはできるだけ避けたかった。
二つ目は、開発者を雇えるだけの資金があったこと。もし資金がなく、プログラムも書けないなら、技術担当の共同創業者を探すか、株式などと引き換えに協力者を迎えるのが現実的だとも考えている。
最初のバージョンを契約で作った開発者は、その後も正社員としてチームに残った。
さらにマイクは、日々の技術判断をスムーズにするために技術アドバイザーも迎えた。エンジニアの言葉を他のメンバーに分かる形に訳し、逆方向も橋渡しする役割だ。コードを細部まで理解しなくても、必要なところは押さえられる。
技術が得意でないひとり創業者なら、同じように技術アドバイザーを探す方法がある。知り合いをたどっていくと、事業を売却した経験のある技術系創業者など、次の挑戦先を探している人に出会えることもある。
資金調達が合わない起業家もいる
すべてのスタートアップが投資家から資金を集める必要はない。性格や目指す形によって、外部資金が合わないこともある。
マイクには資金調達の機会が何度もあった。それでも、自分には向かないと感じてきた。大学をやめた理由と同じで、自由が減る感覚が強いからだ。資金を入れて株式を手放すより、会社を売却する選択のほうが自分に合う、と考えている。
自己資金中心で進めれば、成長スピードは遅くなりやすい。だが、無駄を減らして小さく強く運営できる。間違えても学び直しやすく、失敗から得た教訓を次に生かしやすい。
いくつ事業を経験しても、起業のいちばんの魅力は変わらない。人を喜ばせるものを作れること。マイクは新しいアイデアを形にし続け、学んだことも発信し続ける。その中心にはいつも、お客の声がある。
