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無名の薬局夫婦が「明日の穴をアプリで埋めるだけ」で事前登録1,000薬局。紹介会社を潰す薬局シフト革命の全戦略

8 min read2026年3月29日
無名の薬局夫婦が「明日の穴をアプリで埋めるだけ」で事前登録1,000薬局。紹介会社を潰す薬局シフト革命の全戦略

ビジネス概要

事業タイプ

Marketplace

フェーズ

拡大期

規模感

正式リリース前に1,000以上の薬局が事前登録

概要

薬局の急な人手不足に対して、臨時薬剤師(ローカム)の手配から勤務記録・請求・支払い確認までをアプリで完結させる求人プラットフォーム。

ターゲット

地域薬局の経営者・運営責任者

主な打ち手

薬局を1店ずつ増やす方針から、薬局グループ本部・役員層への提案で「200店・300店まとめて導入」を狙う展開に切り替えた。

30秒で分かる

1薬局経営の夫婦が、事前登録1,000店超。

舞台はオーストラリアの薬局

急な欠員を埋める求人アプリを作った

2明日のシフトが埋まらない。

病欠や休暇で人手が足りない

紹介会社は遅いし手数料が高い

最終コストが見えにくい

3「段取り」をアプリ化した。

薬局がシフトを投稿し、臨時薬剤師に通知。

さらに勤務記録、請求、支払い確認まで入れた。

4コロナで弱点が一気に出た。

2020年3月に混乱が拡大。

遅い手配と多い手続きが回らなくなった。

条件と支払いまで完結する設計を進めた。

5広げ方を「上から」に変えた。

2021年5月に4画面の試作品が完成。

薬局カンファレンスで反応を確認した。

「200店」「300店で使いたい」が出て方針転換。

6本質は「人」より「取引の不安」を消すこと。

紹介会社を使わず、1日約2万3,000円の節約案を示した

契約を仕組みに入れ、支払い遅れに備えた

業界団体と提携し、無名アプリの信頼を作った


ストーリーの流れ

Problem

薬局では病欠や休暇の重なりで明日のシフトに穴が空き、閉められない不安が常態化していた。

  • 人材紹介会社への電話手配は時間がかかり、手数料も高く総額が見えにくかった。
  • 手続きが複雑で、現場の負担が積み上がっていた。
Insight

サージは問題を「段取り」の課題と捉え、流れを整理すればソフトウェアで解けると見立てた。

  • 国内にも海外にも、ちょうどいい解決策が見当たらなかった。
  • 医療でもデータと技術で一気に便利になる余地があると考えた。
Action

夫婦は薬局と臨時薬剤師ローカムをつなぐ求人アプリ「Locumate」を立ち上げた。

  • 舞台はオーストラリアの薬局である。
  • 薬局が必要なときに必要な人を見つけられるネットワーク構築を狙った。
Action

Locumateはマッチングだけでなく勤務記録から請求書作成、支払い確認までを一連の流れとして組み込んだ。

  • 薬局はアプリでシフトを投稿し、ローカムは通知から引き受けて仕事が決まる。
  • 本当に面倒な事務作業まで減らす設計にした。
Insight

2020年3月のコロナ拡大で古い仕組みの限界が露わになり、設計方針が明確になった。

2020年3月コロナ拡大局面
  • 人が足りないのに手配は遅く、手続きが多すぎて回らない状況が起きた。
  • 必要な人を早く見つけ、条件を明確にし、支払いまで完結させる方針を固めた。
Action

フルタイムの仕事を抱えていたため制作会社に試作品開発を依頼し、MVPを作った。

  • 設計が固まった段階で外部に開発を委ねた。
  • 試作品は4画面が動くMVPとして完成した。
Action

2021年5月に完成したMVPを持ってオーストラリア最大級の薬局カンファレンスで現場検証を行った。

2021年5月MVP完成
  • 狙いは本当に必要とされているかを現場に確かめることだった。
  • 「薬局業界を変えるかもしれない」という声が上がるほど反応が大きかった。
Growth

カンファレンスで本部・役員クラスと接点ができ、1店ずつではなく上から一気に展開する戦略へ転換した。

  • 当初は約6,000ある地域薬局を地道に増やす計画だった。
  • 「200店まとめて導入したい」「300店で使いたい」というスケールの要望が出た。
  • 急いで公開するより業務が最後まで完結する形に整える必要が生じ、完全版の開発を制作会社に依頼した。
Monetize

紹介会社依存を減らし、費用の見通しと報酬の納得感を両立する設計で価値提案を固めた。

  • 薬局は条件に合う人を探しやすく、費用も見通しやすくなる形に整理した。
  • ローカムは事前に条件を把握した上で働けるようにした。
  • アプリ利用で薬局は1日あたり約2万3,000円(約150ドル)のコストを節約できるとされ、約7,700円(50ドル)を薬局利益、約1万5,000円(100ドル)をローカム時給アップに回す考え方を示した。
Action

契約書を仕組みに組み込み、支払い遅れに備えてLocumateが確認や催促を担う形でローカムを守った。

  • 働いたのに数か月も支払われないケースがあった。
  • 収入が止まるリスクを減らすために契約と運用をプロダクト側に取り込んだ。
Action

相互評価機能で薬局とローカムの現場品質を改善につなげる仕組みを入れた。

  • 薬局はローカムの働きぶりを評価し、ローカムは薬局の職場環境を評価する。
  • 必要に応じて当事者と話し合い、より良い現場につなげる設計である。
Scale

信頼が中心の業界で受け入れられるためにPharmaceutical Society of Australiaと提携した。

  • 無名のアプリはすぐに信用されない前提を踏まえた。
  • 薬剤師会員が多い団体との連携でローカム側の安心材料を提供した。
Growth

ローカムのコミュニティ化を狙い「National Locum of The Year」賞の計画を進め、口コミで登録増につなげた。

  • ローカムはギグワーカーとして働くことが多く仲間意識を持ちにくい課題があった。
  • 仕事探しだけでなく支払いやキャリアまで支えることで「コミュニティの一員」になれる感覚を作ろうとした。
  • 賞の発表後に口コミで登録が増えたという。
Team

技術と現場の知見を持つ夫婦の組み合わせが機能要件と信頼獲得を同時に前進させた。

  • サージはアメリカ企業で約10年システムエンジニアやITアーキテクトとして働いた経験を持つ。
  • カビタは薬局経営者として現場の細かな事情を熟知していた。
  • 薬局グループとの打ち合わせでも共同創業者が業界を知っていることで話が進みやすくなった。
Growth

正式開始前に1,000以上の薬局が事前登録し、立ち上げ前から需要の強さを示した。

1,000以上の薬局が事前登録事前登録薬局数
2022年1月正式開始
  • 市場全体が約6,000の地域薬局だとすれば約6分の1が早い段階で関心を示したことになる。
  • 正式開始は2022年1月である。
Growth

直近約1か月半で薬局側が1,400のシフトを追加し、利用が立ち上がった。

約1か月半で1,400のシフトを追加シフト投稿量
  • 薬局がアプリにシフトを投稿する運用が実際に回り始めた。
Monetize

初年度の売上は6桁規模に届く見込みとされた。

初年度の売上は6桁規模に届く見込み初年度売上見込み
  • 正式開始前からの事前登録とシフト投稿の増加が売上見込みの背景にある。
Scale

薬剤師以外の職種にも広げる新サービス「Jobs in Pharmacy」と海外展開を視野に入れた。

  • 薬局の人手不足は他職種でも同じ課題だという現場の声があった。
  • イギリスやアメリカへの展開も視野に入れるが最優先は国内で顧客課題を確実に解くことである。
Team

自己資金中心で進め、サージは2021年10月から専念し最初の顧客獲得に集中した。

2021年10月サージ専念開始
  • サージはしばらく仕事を掛け持ちし、試作品づくりの費用に貯金を充てた。
  • 収入を取らない期間も6か月あった。
  • カビタは薬局の仕事とLocumateを半々で回した。

薬局の現場では、明日のシフトが突然埋まらないことがある。病欠や休暇が重なるだけで、人手が足りなくなる。

人材紹介会社に電話しても、手配には時間がかかる。手数料も高く、最終的にいくらかかるのかも見えにくい。そんな「止まりそうで止められない」不安が、日常の中に潜んでいた。

それでも、やり方は変えられるのか。ある夫婦が作ったアプリは、正式リリース前から1,000以上の薬局が事前登録するまでに成長した。古い仕組みの隙間を、どう埋めていったのか。

薬局の「急な人手不足」をアプリで解決する夫婦の挑戦

医療の世界には、昔ながらのやり方が今も多く残っている。手続きは複雑で、時間もお金もかかる。配車や宿泊のように、データと技術で一気に便利になった業界があるなら、医療でも同じことが起きていいはずだ。そんな問いから、ある夫婦の挑戦が始まった。

舞台はオーストラリアの薬局。サージ・シンとカビタ・ナダンは、薬局が突然人手不足に陥る問題をアプリで解決しようとした。2人が作ったのが「Locumate」だ。薬局と、短期間だけ働く薬剤師をつなぐ求人アプリで、オーストラリアではこうした臨時の薬剤師を「ローカム」と呼ぶ。

薬局の現場で起きていた「明日の穴」

カビタは薬局を経営していた。だから問題は毎日のように目の前で起きていた。

薬剤師が病気になる。休暇が重なる。急に忙しくなる。すると、明日のシフトに穴が空く。薬局は地域の人の健康を支える場所だ。閉めるわけにはいかない。

これまでは人材紹介会社に電話してローカムを探してもらうのが一般的だったが、手配に時間がかかり、手数料も高い。しかも最終的にいくらになるか、終わるまで分からない。

その話を聞いたサージは、違う角度から捉えた。これは「段取り」の問題だ、と。流れさえ整理できれば、ソフトウェアでスムーズに解決できる。2人で調べたが、国内にも海外にも、ちょうどいい解決策は見当たらなかった。

Locumateがやったのは「つなぐ」だけじゃない

Locumateは、ローカムのネットワークを構築し、薬局が必要なときに必要な人を見つけられる仕組みを作った。

薬局はアプリでシフトを投稿する。投稿が出ると、働けるローカムに通知が届き、引き受ければ仕事が決まる。

だが本当に面倒なのは、その後だった。勤務記録(タイムシート)や請求書の作成、支払いの確認。Locumateはそこまで一連の流れとしてアプリに組み込んだ。現場の「困る」を最後まで減らす設計にした。

  • 薬局:必要な日に必要な人数を集めやすい
  • ローカム:条件に合うシフトを選びやすい
  • 事務作業:勤務記録や請求の手間が減る

コロナで見えた「古い仕組みの限界」

2020年3月、新型コロナが拡大した。薬局の現場は混乱し、古い仕組みの弱さが一気に露わになった。人が足りないのに手配は遅く、手続きが多すぎて回らない。

サージはこの状況を工学の課題として捉えた。必要な人を早く見つけ、条件を明確にし、支払いまできちんと完結させる。薬局の経営にも役立つ形にする。そう決めて設計を進めた。

まずは試作品、次に「現場の声」

設計が固まると、2人は制作会社に試作品の開発を依頼した。サージは技術者だが、当時はフルタイムの仕事を抱えており、ゼロから作る時間がなかったためだ。

2021年5月、4画面が動くMVP(最小限の試作品)が完成した。2人はそれを持って、オーストラリア最大級の薬局カンファレンスに参加した。狙いはひとつ。これが本当に必要とされているか、現場に確かめることだった。

反応は大きかった。「薬局業界を変えるかもしれない」という声まで上がった。

広げ方を「下から上」から「上から一気に」へ

当初、2人は薬局を1店ずつ増やしていくつもりだった。オーストラリアには地域薬局が約6,000ある。地道に回る計画だった。

ところがカンファレンスでは、薬局グループの本部や運営責任者、役員クラスと直接話す機会が生まれた。そこで出てきたのは、まったく別のスケール感だった。

「200店まとめて導入したい」「300店で使いたい」

この瞬間、戦略が変わった。少しずつ広げるより、上からまとめて展開する道が見えてきた。だからこそ、急いで公開するより、業務が最後まで完結する形に整える必要が生じた。試作品が受け入れられた後、2人は完全版の開発を制作会社に依頼した。

「高い手数料」と「支払い不安」を消す

地域薬局の多くは、大人数を常時雇えるほど余裕がない。薬剤師2人で回している店もある。そこに病欠や休暇が重なれば、穴を埋めるしかない。

紹介会社を使えば、薬局は高い手数料を払うことになる。ローカムも、自分に合う条件の仕事を探しにくく、契約や請求などの手続きも負担になる。

Locumateはここを整理した。薬局は条件に合う人を探しやすく、費用も見通しやすい。ローカムは、事前に条件を把握した上で働ける。

紹介会社を使わない節約

アプリを使うことで、薬局は1日あたり約2万3,000円(約150ドル)のコストを節約できるとされる。2人が示した考え方はこうだ。節約分のうち約7,700円(50ドル)は薬局の利益として残し、残り約1万5,000円(100ドル)はローカムの時給アップに回す。薬局は長期的に費用を抑えられ、ローカムはより納得できる報酬を得られる。双方にとって続けやすい仕組みだ。

契約を仕組みに入れて、支払い遅れに備える

ローカムが働いたのに、数か月も支払われない。そんなケースもあった。収入が止まれば生活が崩れる。

Locumateは契約書を仕組みに組み込み、ローカムを守る形にした。薬局が支払いを行わない場合は、Locumateが確認や催促を担う。

評価で現場の質を上げる

Locumateには相互評価の機能もある。薬局はローカムの働きぶりを、ローカムは薬局の職場環境を評価する。目的は批判ではなく改善だ。必要に応じて当事者と話し合い、より良い現場につなげる。地域医療を担う薬局にとって、サービスの質は落とせない。

信頼がすべての世界で、信頼を作る方法

医療、とくに薬局は信頼が中心にある。無名のアプリが突然現れても、すぐには信用されない。2人はそこを理解していた。

だからLocumateは、業界団体と組む道を選んだ。薬剤師の会員が多いPharmaceutical Society of Australiaと提携し、ローカムとして働く薬剤師に安心材料を提供した。

ローカムはギグワーカーとして働くことが多く、仲間意識を持ちにくい。Locumateは、仕事探しだけでなく、支払いやキャリアまで支えることで「コミュニティの一員」になれる感覚を生み出そうとした。

その象徴として、国内初とされる「National Locum of The Year」賞を立ち上げる計画も進めた。これまで注目されにくかったローカムの仕事を、きちんと評価するためだ。賞の発表後、口コミで登録が増えたという。

夫婦の強みが、ぴたりとかみ合った

サージは技術と人材領域の経験を持つ。アメリカ企業で約10年、システムエンジニアやITアーキテクトとして働いてきた。

カビタは薬局の経営者だ。現場の細かな事情を熟知しており、何が本当に困るのか、何が使われないのかを肌で理解している。

この組み合わせが大きかった。技術だけでは現場に刺さらない。現場の知識だけでは仕組みにできない。2人だからこそ、必要な機能を外さず、最初から信用も得やすかった。薬局グループとの打ち合わせでも、業界を知る共同創業者がいることで話が進みやすくなった。

正式開始前から、業界が動いた

Locumateの正式開始は2022年1月。だがその前に、1,000以上の薬局が事前登録した。市場全体が約6,000の地域薬局だとすれば、約6分の1が早い段階で関心を示したことになる。

直近の約1か月半だけでも、薬局側が1,400のシフトをアプリに追加した。初年度の売上は6桁規模に届く見込みとされた。

次は薬剤師だけじゃない。世界にも広げる

2人は次の一手も考えている。薬局向けの新サービス「Jobs in Pharmacy」を近く始める予定だ。薬局の人手不足は薬剤師だけの問題ではなく、他の職種でも同じ課題がある。現場からは「別の仕事でも同じ仕組みがほしい」という声が上がっている。

さらに、イギリスやアメリカへの展開も視野に入れる。ただし最優先はまず国内で顧客の課題を確実に解くことだ。その上で、オーストラリアで機能した仕組みは、同じ悩みを抱える国でも役立つと2人は見ている。

貯金と覚悟で走った時間

事業は自己資金中心で進んだ。サージはしばらく仕事を掛け持ちし、試作品づくりの費用に貯金を充てた。2021年10月からLocumateに専念し、最初の顧客獲得に集中した。収入を取らない期間も6か月あった。

カビタは薬局の仕事とLocumateを半々で回した。現場を守りながら新しい仕組みも作る。決して楽な道ではない。

それでも2人は、薬局の「明日の穴」を埋める方法を、電話や紙ではなくアプリで作り直そうとしている。現場の困りごとから始まり、業界の信頼を積み上げ、仕組みそのものを変えにいく挑戦だ。