新しい役割に挑戦したとき、能力が足りないわけじゃないのに、なぜか自信だけが削れていくことがある。何をどう直せばいいのかが分からず、手応えがないまま不安だけが増えていく。
そんな停滞の正体は、「背中を押す一言」をくれる相手が近くにいないことかもしれない。フォティ・パナギオタコプロスが立ち上げた「Growth Mentor」も、始まりはまさにそこだった。
破産寸前まで追い込まれながらも立て直し、サービス開始から4年後の2022年には、年間の継続売上が約1億円規模(約72万ドル)に到達。メンタリングは累計2万5000回、メンターは470人まで増えた。ここに至るまでに何が起きていたのか。
仕事ができないわけじゃない。背中を押す誰かがいないだけ
新しい仕事に就いたとき、「自分には無理かも」と感じる瞬間がある。知識もやる気もあるのに、なぜか不安だけが増えていく。
でも原因は、能力不足とは限らない。いまのやり方が合っているのか、どこを直せばいいのか。そこを一言で示してくれる人が近くにいないだけ、ということが多い。
フォティ・パナギオタコプロスが作った「Growth Mentor」は、起業家やマーケター、プロダクト担当が、必要なメンターと出会えるサービスだ。始まりは、フォティ自身が「助けられた側」だった経験にある。
サービス開始から4年後の2022年、Growth Mentorは年間の継続売上が約1億円規模(約72万ドル)になった。メンタリングは累計2万5000回、メンターは470人まで増えた。
ただ、ここに来るまでの道はきれいじゃない。収益が作れず、開発チームが崩れかけ、破産寸前まで追い込まれた。それでも立て直し、コミュニティを武器にして、プロダクトを速く正確に直す方法まで身につけた。
外部の一言が、自信を生んだ
フォティはアメリカで生まれ、フロリダで育ち、15歳でギリシャへ移った。その後はイギリスでも学んだ。国や環境が変わるたびに、やり方を変えて生きる必要があった。その経験が、のちの起業にも効いた。
ギリシャは当時、スタートアップの熱が強い場所ではなかった。だからこそ余計な流れに飲まれず、目の前のことに集中しやすかったとも言える。
2007年、学士課程を終えたフォティは、ウェブホスティング企業で「成長担当」の責任者になった。聞こえは立派だが、本人はほぼ未経験。マーケティングは独学で覚えるしかなかった。
当然ミスもする。そのたびに自信が削られ、「自分は偽物なんじゃないか」という不安が頭に居座った。
広告運用も同じだった。自分でやるのが怖くて外部のフリーランスに任せたこともある。でも結果に満足できない。質の高い仕事を望むほど、値段も上がる。結局、自分で学んで運用するしかなかった。
それでも「これで合ってるのか」が分からない。落ち着かない日が続いた。
そんなとき、ある外部のフリーランスとの会話で言われた。
「そのやり方、かなりうまいよ」
たった一言だった。でも視界が変わった。努力が間違っていないと分かった瞬間、人は前に進める。フォティはそこから別の専門家にも相談し、力を伸ばしていった。
気づいたのは、最大の問題はスキル不足じゃなく、自信不足だったことだ。ネットで学ぶのもいい。でも人と話すと、自分の位置が分かる。修正点も、次の一歩も見える。
語学サービスの仕組みが、ひらめきになった
2016年ごろ、フォティは考え始めた。
経験の浅い人が、先輩に相談できる場所を作れないか。
そのころ妻は、オンライン語学レッスンのサービスで働いていた。学習者がお金を払い、先生とつながって会話し、上達していく。仕組みは単純だが、ちゃんと回っていた。
妻は1日8時間も会話し、それで報酬を得ていた。
フォティは思った。これを「仕事の相談」に置き換えればいい。先生の代わりにメンター。学習者の代わりに、起業家やマーケター。話すことで成長する仕組みだ。
別の業界で回っている仕組みを、自分の課題に合わせて作り直す。起業の強さは、こういう発想の移し替えにある。
時間との戦い。破産を避けるために作った
フォティは18か月かけて資金を貯め、まず最小限の試作品を作った。ページは紹介文と、メール登録フォームだけ。立派なサービスに見せるより、まず反応を見ることを優先した。
広告運用には慣れていたので、少額の検索広告で「相談したい人」を集めた。
メンター集めはもっと地道だった。尊敬する人に直接メッセージを送り、公開前なのに仮のプロフィールまで用意した。登録が増えると、できるだけ多くの利用者に電話し、困りごとを聞いた。何が必要かを生で確かめた。
その後、開発会社に頼んで本格的なプラットフォームを作った。車を買うための貯金まで、サービスに突っ込んだ。
2018年9月、Growth Mentorを正式公開。事前登録や声かけで約1000人が集まった。
ただし現実は厳しかった。有料セッションを予約する人は全体の約5%。人は集まるのに、お金が回らない。
無料で伸びた。でも収益はゼロのまま
フォティは3か月間、いろいろ試した。登録フォームを増やして本気度を確かめたり、参加したいメンター全員と面談したりした。少しは改善したが、決定打にはならない。
流れが変わったのは、メンターが無料で相談できるようにしたときだ。
メンター側は「人を助けたい」という気持ちが強い人が多かった。料金を低く設定する人も多い。なら、無料を禁止する理由がない。フォティはそう判断した。
すると予約のハードルが一気に下がり、利用は急増。冬には月500回ほどの通話が予約されるようになった。
でも、成長しているのに赤字が続いた。2019年2月ごろ、ほとんど破産状態。開発者への支払いも難しく、生活費さえ足りない。売上は約4万5,000円程度(約300ドル)しかなく、予約の大半が無料。手数料型のモデルでは、どうやっても増えない。
無料の15%を取っても、15%のゼロはゼロだった。
最後の手段。サブスク課金で生き残った
このままではサービスが終わる。
フォティは覚悟を決めた。月額課金の壁を作り、払わないと先に進めない形に変えた。
支払いが遅れて怒っていた開発リーダーにも、これだけは追加で実装してほしいと頼み込んだ。
結果は出た。最初の1か月で約22万円(1500ドル)、次の月には約30万円(2000ドル)。小さな数字に見えるかもしれないが、倒れかけた体に入った酸素みたいなものだった。そこから立て直しが始まった。
最大の武器は、コミュニティだった
2019年の危機を越えてから、Growth Mentorは安定して伸びた。チームは社員5人規模になり、長期で協力するフリーランスも増えた。
必要なときだけ専門家の力を借りる。フルタイムで雇わなくても、短時間の契約で大きな成果が出ることがある。その考え方が、サービスの中身とも噛み合った。
メンターの質を担保するため、新しく参加したメンターは最初に無料で何回か相談を担当する仕組みにした。相談を受けた人からレビューが3件集まると、料金を設定できる。
面白いのは、レビューが集まっても無料のまま続けるメンターが多かったことだ。学びがあり、コミュニティで信頼が積み上がり、それが外でも信用になる。お金以外の価値が回り始めていた。
利用者向けのチャットコミュニティも強かった。参加者はそこでメンターや他の利用者から、すぐに助言をもらえる。互いに助け合う空気そのものが価値になり、サービス全体を強くした。
しかもコミュニティは、開発スピードまで上げた。以前は、大きな新機能を作っても使われないことがよくあった。そこでフォティは、熱心な利用者を集めた小さな相談グループを作り、アイデアが出るたびに意見をもらうようにした。
その結果、無駄な開発が減り、本当に必要な改善を素早く進められるようになった。
速く失敗し、図で考える
いまフォティは、会社向けにこのメンタリングを福利厚生として提供する方向にも力を入れている。動画講座のような一方通行より、同じ職種の人と直接話し、具体的な手順を聞けるほうが現場では役に立つ。
特にAIが広がり、仕事の形が変わっていくほど、人同士で知識や経験を交換する価値は上がる。フォティはそう見ている。
フォティが起業家に伝えたいことは主に3つ。
- 失敗を早めに経験し、学びに変える
- うまくいかない広告に時間を使いすぎない
- アイデアを図にする練習をする
デザインが得意じゃなくてもいい。紙に簡単な配置図を描くだけで、伝わり方は大きく変わる。言葉だけより、見える形のほうが誤解が減る。相手にも本気度が伝わる。
ナプキンの裏に描いたようなラフな図でもいい。形にする努力があるだけで、話は前に進む。フォティはそれを、何度も体験してきた。
