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元大学アメフト選手2人が「全員同じメニュー」を疑って作り直したら年6億円。コーチ業務DXの勝ち方

6 min read2026年3月26日
元大学アメフト選手2人が「全員同じメニュー」を疑って作り直したら年6億円。コーチ業務DXの勝ち方

ビジネス概要

事業タイプ

SaaS

フェーズ

拡大期

規模感

売上年約6億円規模(年400万ドル規模)

概要

ストレングスコーチが選手ごとにトレーニングメニューを調整・共有・記録できる管理ツールを提供する事業

ターゲット

高校・大学・プロチーム等のストレングスコーチ

主な打ち手

特定競技ではなく「コーチの仕事」全体に向けて、指導を代替せず業務を回しやすくする設計で作り続けた

30秒で分かる

1元大学選手2人が、コーチ支援アプリで年約6億円。

トレーニング管理アプリTeamBuildr

利用組織3,000以上、社員23人

2違和感は「全員同じメニュー」。

体格も経験も違うのに一律だった。

原因は古い管理方法にあった。

3狙いは「表計算の置き換え」。

選手ごとにメニューを調整

コーチの判断を支える道具

作る役と売る役で動いた。

4転機は2013年の初契約。

電話1本で年間約7万円が決まった。

以後は電話と紹介で増えた。

2013年末に10組

2014年に数十組

2015年に数百組

2021年に3,000組

5伸びた理由は「コーチに売った」こと。

選手向けではなくプロのコーチ向け。

「伝える・記録・整理」を助けた。

競技でなく「仕事」に合わせた。

6この話の核心は「現場の型」を更新したこと。

派手な未来より、日々の管理を直した。

コーチを置き換えず、仕事を回した。


ストーリーの流れ

Problem

体格や役割が違うのに選手全員が同じ筋トレメニューを課される現場に違和感があった。

  • 管理の都合で一律に揃えられ、コーチが変えたくても忙しさで新しいやり方が浸透しにくかった。
  • 多くのコーチは表計算ソフトで手作業管理しており、古いプログラムも最大挙上重量から重さを計算する程度だった。
Insight

昔ながらの「表」をアップデートして選手ごとにメニューを調整できる仕組みを作ると決めた。

  • 専門性の高いスポーツほど個別最適の必要性が際立つと捉えた。
  • ジェームズが作る側、ヒューイットが売る側という役割分担のイメージが当時からあった。
Action

ジェームズが開発を進め、ヒューイットが大学の運動部関係者に電話で売り込みを始めた。

  • 試作品ができてもすぐには売れず、卒業後も別の会社でフルタイムの仕事を続けながら夜と週末に開発と営業を積み重ねた。
  • 「いつまでに成功する」という期限は設けず、焦らない方針を取った。
Problem

指導現場は新しい技術に慎重で「新しいやり方」そのものを受け入れてもらう必要があった。

  • 無料で試してほしいと頼んでも断られることが多く、既存商品との競争だけが相手ではなかった。
  • 一方でクラウド型サービスの普及が進み、スポーツ界にも新しい道具を使う空気が浸透していった。
Monetize

2013年に年間約7万円(年間500ドル)の契約が決まり初めてお金を払って使う顧客が現れた。

年間約7万円(年間500ドル)初回年間契約額
2013年初の有料契約年
  • ヒューイットがある大学のストレングスコーチに電話をかけたその場で契約が決まった。
  • この瞬間から流れが変わった。
Growth

電話での新規開拓と紹介で顧客が増え、2021年には有料顧客が3,000組に達した。

有料顧客が3,000組到達顧客数
2021年3,000組到達年
  • 2013年末に10組、2014年に数十組、2015年には数百組へと段階的に広がった。
  • 収入が安定したところでヒューイットが本業を辞めて専念し、続いてジェームズも合流した。
Insight

TeamBuildrはコーチに取って代わるのではなくコーチの仕事をやりやすくする道具になることを狙った。

  • チーム全体の方針を立てながら選手ごとの調整を手軽に回せる仕組みを目指した。
  • 最終的な判断はコーチが下し、アプリはその判断を支える中心ツールとして機能する設計思想を置いた。
Action

選手に直接売らずプロのストレングスコーチをターゲットにしたB2Bサービスとして設計した。

  • 指導を代替するのではなく指導の流れを整える役割を担う前提に立った。
  • 「伝える」「記録する」「整理する」を助ける機能を中心に拡充し、フォーム説明動画の提示やデータ追跡、投稿フィード的な共有も備えた。
Monetize

料金は4つのプランで月払いと年払いを用意し価格は主に選手数に応じて決まる。

  • 運用現場の導入形態に合わせて支払い方法を選べるようにした。
Scale

特定競技に絞らず「コーチという仕事」に向けて作ったことで利用対象が軍や警察まで広がった。

  • ユーザーはフットボールのコーチにとどまらず空軍の部隊やニュージーランドの軍組織、自治体の警察まで幅広い。
  • 競技ではなく現場業務を見たことが対象拡大と現実的な価格設定につながった。
Growth

積み上げの結果として売上年約6億円規模(年400万ドル規模)に成長し利用組織も3,000以上に広がった。

売上年約6億円規模(年400万ドル規模)年間売上規模
利用組織3,000以上利用組織数
  • 地道な開発と営業でコーチの仕事を支えるアプリとして定着していった。
  • 2010年に誕生したコーチ向けアプリとして指導テクノロジーの流れを代表する存在になった。
Team

社員23人の体制に成長した。

社員23人社員数
  • 資金繰りに余裕が生まれたことで成長への投資もしやすくなった。
Action

売上の大きな部分を新機能の開発に充ててプロダクト投資を続けた。

  • 次に強化したい機能の一つとしてウェアラブル機器との連携を挙げ、スマートウォッチなどのデータ活用を構想した。
  • 投資家資金で拡大する競合がいる中でも現場の仕事を深く理解して作り続けてきたことを強みだと考えた。
Insight

創業初期にフルタイムの仕事を続けながら開発したことが市場に合う形を見つける上で良い判断だった。

  • 短い期限で成果を求めていたら市場に合う形を見つける前に諦めていたかもしれないと振り返った。
  • 一方で節約しすぎると成長スピードが落ち、初期はもっと早く人を採用するなど積極投資もできたはずだと反省した。

「全員が同じメニュー」。最終学年のトレーニングで感じたその違和感が、2人の頭から離れなかった。

体格も経験も役割も違うのに、管理の都合で一律に揃えられてしまう現場。変えたい気持ちはあっても、コーチの仕事は忙しく、新しいやり方はなかなか浸透しない。

それでも少しずつ積み上げた結果、コーチの仕事を支えるアプリは売上年約6億円規模(年400万ドル規模)に成長。利用組織も3,000以上に広がった。

元大学アメフト選手2人が作った、コーチのためのトレーニング管理アプリ

2022年6月、アメリカの工科大学が「複合現実」のヘッドセットを公開した。選手の動きにデータを重ねて表示する装置で、スポーツ指導の未来が一気に注目を集めた。

ただ、現場の指導テクノロジーは突然生まれたわけではない。もっと以前から、地道に積み上げられてきた流れがある。その代表例が、2010年に誕生したコーチ向けアプリTeamBuildrだ。

開発したのは、大学でアメリカンフットボールをプレーしていたヒューイット・トムリンとジェームズ・ピーターズ。現在は売上年約6億円規模(年400万ドル規模)、社員23人、利用組織3,000以上にまで成長した。ユーザーはフットボールのコーチにとどまらず、空軍の部隊、ニュージーランドの軍組織、自治体の警察まで幅広い。

TeamBuildrの狙いははっきりしている。コーチに取って代わるのではなく、コーチの仕事をやりやすくする「道具」になることだ。

全員が同じメニューという違和感

2人は2008年から2012年まで、ジョンズ・ホプキンス大学で学生アスリートとして過ごした。入学直後、コーチの判断でルームメイトになったことをきっかけに、競技の内外で距離が縮まっていく。ヒューイットはクォーターバック、ジェームズはレシーバーだった。

当時から2人の頭には「いつか一緒にビジネスをやる」という思いがあった。役割も自然と決まっていた。ジェームズが作る側、ヒューイットが売る側だ。

最終学年のころ、2人はある違和感にぶつかった。筋トレのメニューが、ほぼ全員同じだったことだ。

体の大きさも、経験も、チームでの役割も違う。ケガの有無も異なる。それなのに同じメニューを渡されて、同じように進める。専門性の高いスポーツほど、この矛盾は際立って見えた。

原因は単純だった。現場の管理が古い仕組みのままだったからだ。多くのコーチは表計算ソフトで手作業管理していた。別の古いトレーニング用プログラムも、できることは「最大挙上重量から重さを計算する」程度。結局、回数も強度も種目も似たり寄ったりになってしまう。

ならば、昔ながらの「表」をアップデートしよう。選手ごとにメニューを調整できる仕組みを作ろう。そう決めた。

コンピュータサイエンスの知識を持つジェームズが開発を進め、ヒューイットは大学の運動部関係者に電話をかけて売り込みを始めた。

最初の顧客が現れるまでの長い時間

試作品ができても、すぐには売れなかった。卒業後も生活がある。別の会社でフルタイムの仕事を続けながら、夜と週末に開発と営業を積み重ねた。

「いつまでに成功する」という期限は設けなかった。焦らない方針だった。

当時、指導現場は新しい技術に慎重だった。無料で試してほしいと頼んでも断られることが多く、しかも既存商品との競争だけが相手ではない。「新しいやり方」そのものを受け入れてもらう必要があった。広がりにくいのは当然だった。

それでも時代は少しずつ動いていた。クラウド型サービスがさまざまな業界に広がり始め、スポーツ界にも「新しい道具を使う」空気が浸透していく。

転機は2013年。ヒューイットがある大学のストレングスコーチに電話をかけると、その場で年間約7万円(年間500ドル)の契約が決まった。

初めて「お金を払って使う人」が現れた瞬間だった。ここから流れが変わる。

そこからは地道だが着実だった。電話で新規開拓し、コーチ同士の紹介で輪が広がった。2013年末に10組、2014年に数十組、2015年には数百組へ。収入が安定したところで、まずヒューイットが本業を辞めて専念し、続いてジェームズも合流した。2021年には有料顧客が3,000組に達した。

コーチ向けのB2Bサービスという立ち位置

TeamBuildrが目指したのは、「チーム全体の方針」を立てながら、「選手ごとの調整」を手軽にできる仕組みだ。種目の入れ替え、回数の変更、強度の調整といった作業をスムーズに回せるようにする。

選手には得意不得意がある。回復の速さも、過去のケガも人それぞれだ。最終的な判断はコーチが下す。アプリはその判断を支える中心ツールとして機能する。そういう設計思想だ。

TeamBuildrは選手に直接売るサービスではない。ターゲットはプロのストレングスコーチだ。良いプログラムはコーチが選手に合わせて作るものという前提に立ち、アプリが指導を代替するのではなく、指導の流れを整える役割を担う。

機能もその方向で拡充されてきた。「伝える」「記録する」「整理する」を助ける機能が中心だ。スマホ上でフォーム説明の動画を選んで見せられる。走るタイムなどのデータも追跡できる。選手は結果や感想を送信でき、チーム内で共有しやすい投稿フィード的な仕組みも備わっている。

料金は4つのプラン。月払いと年払いがあり、価格は主に選手数に応じて決まる。

競技ではなく「コーチの仕事」を見た

スポーツの現場は年々複雑になっている。大学では以前より多くのストレングスコーチを雇うようになり、若い世代ほど技術導入にも積極的だ。

TeamBuildrは売上の大きな部分を新機能の開発に充てている。資金繰りに余裕が生まれたことで、成長への投資もしやすくなった。

次に強化したい機能の一つが、ウェアラブル機器との連携だ。スマートウォッチなどのデータを活用できれば、選手の状態をよりリアルタイムに把握し、メニュー作りに反映できる。

同じ分野には、投資家の資金で一気に拡大する競合もいる。それでもTeamBuildrは、現場の仕事を深く理解した上で作り続けてきたことが強みだと考えている。

特に大きいのは、「特定の競技に絞りすぎない」方針だ。高校・大学・プロチームだけでなく、軍や地域のトレーナーにも使われている。競技ではなく「コーチという仕事」に向けて作ったからこそ、対象が広がり、価格も現実的に設定できた。

リスクと生活を両立させた創業

創業初期にフルタイムの仕事を続けながら開発したのは、結果的に良い判断だった。短い期限で成果を求めていたら、市場に合う形を見つける前に諦めていたかもしれない。

一方で反省もある。節約しすぎると成長スピードが落ちる。初期は競合が少なかった分、もっと早く人を採用するなど、積極的な投資もできたはずだ。今は競争が激しく、新規顧客を獲得するには他社からの乗り換えを促す場面も増えている。

ヒューイットは競技を離れた今も、週4回のトレーニングを続けている。体づくりの業界にいる以上、見た目も信頼につながると考えているからだ。