Robloxの中で広告を回す。言葉にすれば簡単だが、外部の事業者が参入して稼ぐのは実はかなり難しい。
そんな場所で、大学時代からの友人2人が作ったのが「ゲーム内に置ける3D広告看板」というシンプルなツールだった。地道なヒアリングと試行錯誤の末、そのプロダクトは約25億円($17.5 million)での買収につながっていく。
なぜ彼らは、Robloxの強い管理構造の中でも成立する収益化の仕組みを作れたのか。そして、まだ伸びしろがある段階で「売る」判断ができたのはなぜか。
20代の2人がRoblox初の広告ツールを作り、約25億円($17.5 million)で売った話
Robloxは、上場した2021年まで「知る人ぞ知る」存在だった。見た目がMinecraftに似ているせいで後発と思われがちだが、実はRobloxのほうがずっと早く始まっている。
プレイヤーが大勢集まり、ゲームの中にいくつもの小さな世界が生まれる。そんなプラットフォームだけに、パンデミック期にはFortniteを上回る人気を見せることもあった。
ただ、外から参入して稼ぐのは簡単ではない。Robloxはゲーム内のお金の流れを厳しく管理しており、「利用者が多い=外部ビジネスが儲かる」とはならなかった。
そこに目をつけたのが、大学時代からの友人であるベン・カクシュールとサム・ドロズドフだ。2人は20代。仮想世界、いわゆるメタバースの中でお金がきちんと回る仕組みを作れないかと考え始めた。
森の中の散歩が、事業のスイッチを入れた
2人の出会いは、大学の起業支援プログラムだった。ベンが教育系スタートアップの案を持ち込み、当時そのプログラムを運営していたのがサム。そこから一気に距離が縮まり、卒業後も連絡を取り合う仲になった。
卒業後、ベンはニューヨークでプロダクトセキュリティの仕事に就き、サムはサンフランシスコでFacebookのプロダクトデザイナーになった。住む場所は離れても、話題はいつも「仮想世界で何ができるか」だった。
サムはメタバースを、初期のインターネットに重ねて見ていた。最初はみんながサイトを作り、そのあとで「どうやって儲けるか」を考えた。仮想世界も同じで、世界が増えた次に必要なのは収益化の仕組みだ、と。
FortniteやMinecraftが盛り上がる中、2人が特に注目したのがRobloxだった。Robloxはプレイヤーがゲームの中でさらに別のゲームを作れる、世界が増殖する構造を最初から持っていた。
しかし、作り手の収益は小さかった。開発者は多いのに、全体で得られるお金は限られており、1人あたりにすると驚くほど少ない年もあった。ならば別の収入源が必要だ。利用者が多い場所なら広告の余地がある。2人はそう考えた。
そして2021年、コロナの影響が強まる時期に、2人はそれぞれ仕事を辞めた。賭けに出たのだ。
決定的な前進が起きたのは、数日間のハイキング旅行の途中だった。休憩日にノートPCを開き、必要最低限の試作品を一気に作り上げた。Robloxの中に広告を出すためのツール。その核がここで形になった。
こうして生まれたのがBloxbiz。Robloxを土台にした、初期の広告技術プロダクトとされる。
まずは開発者に聞け。Twitterで100通ずつ送った
2人は、いきなり大企業に売り込みに行かなかった。最初にやったのは「Robloxの開発者が何に困っているか」を知ることだった。
手段はTwitter。開発者だと名乗っている人を探し、1日に100件ほどメッセージを送る日もあった。返信が来たら会話し、困りごとを聞き、Robloxの文化や仕組みを学んでいった。Luaという言語も、触りながら理解していった。
この地道なヒアリングが、後で大きく効いてくる。
最初の製品は「3D広告看板」だった
Bloxbizの中心機能はシンプルだった。ゲーム制作者が自分のゲーム内に置ける、3Dの広告看板だ。
広告は「出した」だけでは意味がない。どれくらい見られたかが重要になる。そこで2人は、看板が画面のどれくらいの面積を占めたか、どれくらいの時間表示されたかといったデータを取れる仕組みも作った。
開発者に使ってもらうのは比較的スムーズだった。収益が増えるかもしれないし、当時は競合もほとんどいなかった。コミュニティも「新しい流れが始まるかもしれない」と好意的に反応した。
問題は、その次だった。
本当に難しいのは「広告主を連れてくること」
広告の世界では、他の広告システムとつないで自動配信するのが一般的だ。しかしRobloxでは、それが簡単にできなかった。つまり、広告主を集める仕組みをゼロから作らなければならない。
ここで2人は壁にぶつかる。Robloxの中で長く活動してきたわけでもなく、大企業に広告枠を売った経験もない。
そこで試みたのが、LinkedInでの聞き込みだった。つながっているマーケターに片っ端から連絡し、200人規模のリストを作って質問した。
- Roblox広告をどう見ているか
- 買う可能性はあるか
- 次は誰に話すべきか
この作業で業界の言葉や考え方は学べた。しかし、契約は増えなかった。
商談は時間がかかる。初回の打ち合わせ、提案、社内検討、追加の会議。1社が動くまで数か月かかることもある。経験が浅い2人は流れを作れず、半年ほど断られ続けた。
「面白いね」と言われても、最終的な契約に至らない。実績がないから投資対効果を強くアピールできない。大手企業の正式な提案プロセス(RFP)も、途中で調べながら対応する状態だった。
ここで2人は、方針を変える。
営業を自分でやめたら、売上が動き出した
2人は営業を外部に委ねた。成果報酬で広告を売ってくれる再販パートナーを活用する形だ。
そのパートナーの1つがSuper Leagueだった。別の会社は英国での販売を進め、海外展開のきっかけも生まれた。
営業パートナーを得た途端、状況は一気に変わった。短期間で20人以上の営業担当が動く体制になり、売上が立ち始めた。金額は公開されていないが、買収されるだけの規模に育った。
「売るべきタイミング」を見極めた
実はBloxbizには、かなり早い段階から買収の話が来ていた。しかし2人はすぐには売らなかった。安く買いたたかれる不安があったからだ。競合になりそうな会社にも声をかけ、状況を見た上でその時は見送った。
2021年、Robloxが上場しメタバースが急に注目を集め始めると、2人は焦りも感じていた。この波に乗れなければ置いていかれる。資金調達か、売却か。
ただ当時、広告技術への投資熱はそれほど高くなく、資金調達は簡単ではなかった。
一方、営業パートナーだったSuper LeagueはBloxbizの価値をよく理解していた。ゲーム分野で活動し、仮想世界のイベントも手がけており、方向性が合っていた。
こうしてSuper Leagueは、約25億円($17.5 million)でBloxbizを買収する提案を出した。
買収後、2人は「中の人」として動き始めた
買収後、サムはメタバース製品担当の副社長、ベンはメタバース製品の技術担当副社長に就任した。中心となる製品は、買収されたBloxbizだ。
大きな組織に入ったことで、エンジニアなどのリソースが手に入り、2人は製品開発に集中しやすくなった。ゲームやエンタメの大手企業とも仕事を進める立場になっている。
2人が残した学び
サムが強調したのは、重要なことに集中しながらも人脈づくりを軽く見ないことだ。開発者へのヒアリングも、マーケターへの連絡も、一見地味な作業に見える。しかしそれが、検証と販売の両面で確実に効いた。
ベンが重視したのは、思い込みではなくデータで判断することだった。
- まず最小限の試作品を作る
- 開発者に見せて反応を確かめる
- 運用が回らなくなってから自動化に投資する
需要があるか分からない段階では、手作業も厭わなかった。たとえば初期には、広告を手動で登録してでも先に需要を確かめることを優先した。
早い段階で外に出し、反応を集め、経験者の助言を取り入れる。そうやって失敗の確率を下げていった。プロダクト開発において、この動き方が結果を大きく左右することがある。
