起業は自由に見えて、実際は時間も体力も削られる。収入が安定せず、家族の将来が頭から離れない。そんな停滞や不安の中で、「このまま続けていいのか」と迷う瞬間は誰にでもある。
Ashoreを作ったコディも、最初から順風満帆ではなかった。発売直後、つぎはぎで作った試作品が限界を迎え、作り直すか、あきらめるかの岐路に立つ。それでも逃げずに、別の事業も回しながら1年かけてソフトを作り直した。
いまAshoreは約1万5,000のアカウントに使われている。家族の時間を取り戻しながら、毎月くり返し入る売上を伸ばしていく——その裏側には、「お金」より強い燃料があった。
お金よりも強い燃料、「使命」を見つけた
起業は、時間も体力も吸い取っていく。だから「お金」だけをゴールにすると、どこかで息切れする。
Ashoreを作ったコディにとって、お金は目的ではなく道具だった。自分が楽をするためではない。息子に、子どものころの自分よりいい人生を渡すための道具だった。
事業が崩れかけたときも、コディは逃げなかった。住宅ローンと、息子の将来の学費が頭にあった。別の事業も回しながら、1年かけてソフトを作り直した。
ある年のクリスマス、コディは妻に「家族の事業計画」を渡した。甘い話ではない。でも、家族が同じ方向を向くための作戦だった。目標は、マイルズ家の未来を変えること。世代をこえて残る資産を作り、家に残る心の傷を減らしていくことだった。
その計画の中心に置いたのがAshoreだ。Ashoreは月額で使うクラウドのソフトで、制作会社が仕事の流れを整理し、チームや顧客とのやり取りをスムーズにする。
きっかけは単純だった。コディが先に始めた制作会社Brandcaveで、いつも困っていたからだ。Brandcaveは今も動いている。
Ashoreは今、約1万5,000のアカウントに使われている。Brandcaveでも使い続けている。コディは2つの会社を見ながら、毎月くり返し入る売上を伸ばし、家族の長い安心につなげようとしている。
ただし、最初から順風満帆だったわけではない。発売直後、つぎはぎで作った試作品が限界を迎えた。作り直すか、あきらめるか。どちらも家族の人生を変える決断だった。
転びながら前に進むタイプ
コディの動き方を知るなら、妻の性格を見ると分かりやすい。
妻は計画型だ。細かい予定表を作り、決断の結果を調べ尽くす。最初は不安でも、計画が回り始めると落ち着く。
コディは逆だ。計画がなくても走り出す。心配は後から追いかけてくる。世に出すのは早いが、避けられたはずの問題も呼び込みやすい。
実際、コディはクリエイティブや広報の仕事を数年やったあと、勢いで会社を辞めて起業した。職場で上司の事業の話を聞くうちに、「雇われるより、自分の技術で稼げるかもしれない」と考えた。
当時のコディは、今と同じくらい稼ぎながら、少し楽に、しかも楽しく働けると思っていた。だが現実は逆だった。自己資金で始める起業は、しばらく仕事量が倍になり、収入が半分になることもある。
2015年2月、Brandcaveを始めた。手元にあったのは数か月分の貯金。ところが「どう売るか」は走りながら考えた。料金も、月ごとの契約にするか、定額にするか、作業時間で決めるか。試しては直し、また試した。
それでも、頭の中には使命があった。お金は必要だ。でもそれ以上に、家族のために、子どものころの自分が手にできなかったものを用意したかった。
コディは子どものころ、父に年1回しか会えなかった。父は起業に挑戦しては失敗し、空調修理、建設、宿泊など、いろいろ試しては崩れた。うまくいったように見えても、また崩れた。
コディは同じ道をたどりたくなかった。だからBrandcaveでは「仕組み」を重視した。
納品のルールを作り、料金体系を2段階に整えた。すると顧客が離れにくくなり、新しい顧客も増えていった。
その中で2016年ごろ、別の問題に気づいた。顧客からのフィードバックが集まらない。メールのあちこちに散らばる曖昧な意見を追いかけるのは、時間も気力も削られる。確認や修正のやり取りを、もっと自動化できないか。ここからAshoreが始まった。
つぎはぎの試作品が壊れ、ゼロから作り直した
Brandcave開始から1年後、コディはAshoreの初期試作品を他の制作会社に見せた。反応は良かった。「これは必要だ」と手応えがあった。
そこから2年かけて、最低限の機能を持つ製品を設計し、2019年に約1,500万円($100,000)を投じて開発した。開発者1人が半年で形にし、最初の1年で約4,000の顧客が登録した。
仕組みは、基本は無料。もっと多く使いたい会社が上のプランに上がる。
ところが発売直後から、不具合が続いた。ある機能を直すと別の場所が壊れる。そんな変な問題が次々起きた。コディは火消しに追われた。
あとから振り返ると、最初から開発体制にもっと投資すべきだった。初期版は「ガムとテープでつないだような作り」だった。
それでも、アイデアが求められていることは分かった。フィードバックは集まり、収益の可能性も見えた。だからコディは2019年、CTOと組み、ソフトをゼロから作り直した。
CTOが裏側の仕組みを作り、コディは使いやすさの設計と画面側の開発を進めた。
今のAshoreは、当時やりたかったことをようやく形にしたものだ。より多くの種類や容量のファイルに対応し、顧客との確認や修正依頼をスムーズに進められる。
上位プランを選んでもらう「一番の理由」を作った
Ashoreは料金プランを段階に分け、上位プランに強い機能を置いた。代表がホワイトラベル機能だ。
制作会社はAshoreを、自社システムのように見せられる。顧客から見ても違和感が少ない。
コディが大事にしたのは、導入のハードルを下げることだった。確認する側の人が技術に詳しくなくても使えるようにする。メールの見え方も含めて会社の見た目に合わせられる。確認する人はアカウント作成もログインも不要。画面の色やロゴも変えられる。
コメントを書いたり、動画で説明したり、画面に線を引いたり。そういう操作も難しくしないように設計した。
2020年1月、AshoreをSaaSとして本格的に動かし始めたとき、このホワイトラベル機能が早い売上につながった。半年後には別のプロジェクト管理ソフト会社がホワイトラベルを使い、そこから大きな契約にもつながっていった。
社長であり、父でもある
Ashoreが伸び始めた2020年3月、感染症の流行が起きた。外出が減り、消費が落ちた。Ashoreを使っていた一部の業種では利用が止まった。印刷店のように、顧客と一緒に制作物を確認する必要がある会社は、注文が減れば利用も減る。
一方でBrandcaveは逆だった。企業向けの顧客が「使いやすさを改善したい」と求め、仕事が増えた。コディは社員を雇い、サービス提供、営業、マーケティングを任せられるようにした。
その結果、2つの事業が回る土台を作る時間が生まれた。
そして、生まれたばかりの息子と過ごす時間も増えた。以前のように、週6〜7日、1日12時間働き続ける生活ではなくなった。
子どもができると、事業の見え方が変わる。大切なのは時間だ。子どもは「忙しかった理由」を理解してくれるとは限らない。だから時間の使い方を賢くしなければならない。
今では週末を丸ごと家族の時間にできるようになった。それでもAshoreの売上は伸ばしている。息子のために安定した家庭を作りたい。だが、息子に何かを残すために、父であることを犠牲にしない。それがコディの決めたルールだった。
支え合いと、起業家に必要な3つの力
コディが2社を育てながら家庭も守れた理由の一つは、妻の支えだった。自己資金で会社を育てる時期は、要求されることが多い。結婚生活が苦しくなる例もある。長い間、週6〜7日働く生活を続ける中で、状況を理解し支える相手がいなければ、途中で折れていたかもしれない。
コディは、事業を作る人に3つの力が必要だと言う。
- やり抜く力
- 立ち直る力
- 物事を広く見る力
壁にぶつかる日が多い。だからこそ、「今ぶつかっている」と気づける視点が要る。痛くても進み続ける強さも要る。
BrandcaveとAshoreの道のりにも、壁はいくつもあった。そのたびに、コディは思い出した。何のために始めたのか。
子どものころに夢見た「家族の未来」を、現実にするために。コディは今日も、事業を続けている。
