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月約1万5000円の申し込みが5件。広告が効かず毎日20時間働いた男が売上約1億5000万円を達成するまで

9 min read2026年6月3日
月約1万5000円の申し込みが5件。広告が効かず毎日20時間働いた男が売上約1億5000万円を達成するまで

ビジネス概要

事業タイプ

SaaS

フェーズ

拡大期

規模感

売上は約1億5000万円

概要

ネットショップ企業がインフルエンサー施策の連絡・投稿管理・成果記録・支払いなどの裏側業務を一つにまとめて回せる管理ツールを提供する。

ターゲット

ネットショップ運営企業のインフルエンサーマーケティング担当者

主な打ち手

開発前にネットショップの担当者へ約2000通の連絡を送り、月約1万5000円で5件の有料申込を取って需要を確認してから作り始めた。

月99ドルの申し込みが5件。それだけで、「このサービスは作る価値がある」と確信した。

インド・ムンバイで育ち、家計がぎりぎりの空気を知っていたヤシュは、早い段階で「いい暮らしにはお金が要る」と理解していた。だからこそ、大学の教室よりも"売る現場"を選び、電話をかけ続ける日々で腕を磨いていく。

広告が効かなくなり、毎日20時間働いても伸びない。そんな行き止まりから、彼はどうやってSARALを形にし、売上約1億円($1,000,000)超まで積み上げたのか。

いい暮らしは、誰かにもらうものじゃない

ヤシュ・チャバンが子どものころ、教室は小さな市場みたいだった。あめやえんぴつをまとめて買って、少しだけ上乗せして友だちに売る。手に入るのは小さなお金。それでもヤシュはうれしかった。自分の工夫で、昨日より少しだけ前に進めた気がしたからだ。

ヤシュはインドのムンバイで育った。家計はいつもぎりぎりで、月の終わりが近づくほど空気が重くなる。だから早くから気づいていた。いい暮らしには、きれいごとじゃなく、お金が要る。

ヤシュの頭に強く残っている「成功した大人」の姿がある。父の上司だった。きれいな服、金色の腕時計、そして車。街の景色まで違って見えた。一方でヤシュの家は、電車で移動し、入ってくるお金の範囲で静かに暮らすしかなかった。

ある日ヤシュは父に聞いた。「どうしてあの人だけ、あんなに持ってるの?」

父は短く答えた。「自分の商売をしてるからだ」

その言葉が、ヤシュの中に釘みたいに打ち込まれた。いつか自分も商売をする。そう決めた。

大学の教室より、売る現場に行きたくなった

けれど現実は簡単じゃない。ヤシュは大学で工学を学ぶ道を選んだ。周りと同じレールに乗ったほうが安全に見えたからだ。

ただ、机に向かって技術者として働く未来を想像すると、胸が重くなった。「このままじゃ、自分の商売には近づけない」そう思った。

ヤシュは起業家の話を動画で見まくった。成功談だけじゃなく、売れない日々や失敗の話も。そこで強く感じたのが、商売で一番大事なのは「売る力」だということだった。

家族や友人は止めた。それでもヤシュは大学をやめ、売る仕事に飛び込んだ。怖さはあった。でも、ここで引き返したら一生後悔する気がした。

電話をかけ続けた日々が、武器になった

2010年代のインドは、売る仕事のチャンスが多かった。国全体が勢いよく成長していて、新しい商売が次々に生まれていたからだ。

ヤシュはインドには「少ないもので工夫して何とかする」空気があると言う。お金が足りないなら、知恵で埋める。人が足りないなら、動きで埋める。そういう粘りが町に染みついている。

最初の仕事はムンバイで、サッカー場の人工芝コートを時間貸しする枠を売る仕事だった。問題は、空き時間が多すぎること。そこでチームは考えた。サッカー以外の使い方を増やせばいい。ジムに声をかけて、屋外ヨガやピラティスの教室として使ってもらう提案を始めた。

ヤシュは電話をかけ続けた。断られても、またかけた。売るとは何か、人はなぜ買うのか、断り文句の裏に何があるのか。体で覚えていった。

その後もいくつかの仕事を渡り歩いた。アメリカ向けのネット販売を試したり、動画を出す会社でネット集客を担当したり。どれも「売る」という一本の線でつながっていた。

2020年にはKodo Cardという新しい会社に入った。人数が少ない時期から参加し、最初のカード営業として新規客を取りにいった。毎日、何百件も電話をかけ、メールを送り、手順を整える。売るだけじゃなく、仕組みを作る感覚もここで身についた。

やがて在宅勤務の波に乗り、アメリカのシリコンバレーの会社でも働くようになった。金融の仕組みを使ったサービスを売る中で、技術系の会社の動き方や、大企業相手の売り方も学んだ。

ヤシュは、インドのスタートアップとアメリカのスタートアップには違いがあると考えた。インドは人手を厚くして前に進むことが多い。アメリカは出すものを絞り、品質に強くこだわることが多い。どちらにも強みがある。

立ち上げ期の会社が好きだった。仕組みがない場所に仕組みを作り、数字が上がり始める瞬間が楽しい。落ち着いてくると、また次を探したくなる性格でもあった。

ただ、生活費のための仕事とは別に、ヤシュが本気で育てていたものがある。Import Growthという個人の相談業だった。

広告だけに頼ったら、足元が崩れた

Import Growthは、会社の広告運用を手伝う仕事だった。当時はフェイスブック広告が強く、広告費の一部を手数料として受け取るやり方が広く使われていた。

ヤシュは、技術が得意な創業者ほど「良い物を作れても売るのが苦手」になりやすいと考えていた。だから自分が外部の販売・宣伝担当として入り、伸ばす。そこに勝ち筋があると思った。

最初は一人で始めた。それがうまく回り始め、4人のチームになった。数か月で、毎月入ってくる売上は大きくなった。

でも、その好調は長く続かなかった。1年ほどたったころ、フェイスブック側の変更で広告の当たり外れが激しくなった。今まで効いていたやり方が、急に効かなくなる。利益は落ちた。

広告に頼り切る怖さを、ヤシュはここで思い知った。

発信者の力は、拡声器みたいだった

2021年の終わりごろ、ヤシュは追い込まれていた。個人情報を守る流れが強まり、フェイスブック広告の「狙った相手に当てる精度」が下がった。多くの広告が以前のように成果を出せなくなっていた。

生き残るには、別の道がいる。ヤシュの目に入ったのが、動画サイトや短い動画アプリで広がっていたインフルエンサーを使った宣伝だった。インフルエンサーが商品を紹介すると、一気に人が集まることがある。広告よりも速く、強く広がる場面もあった。

ヤシュは、インフルエンサーを使った宣伝を「規模の大きい口コミ」だと考えた。ふつうの口コミは、1人が話せる相手がせいぜい100人。インフルエンサーなら、1人で何万人にも届く。

ヤシュはネットショップ向けに、フォロワー数が少なめのインフルエンサーを束ねる方法を試みた。多くのインフルエンサーに連絡し、紹介した分だけ報酬が入る形で協力してもらう。

ある健康食品の会社では、75人のインフルエンサーを集めることに成功した。売上が急に伸び、在庫が足りなくなるほどだった。

成果は出た。けれど代わりに、ヤシュの時間が消えていった。毎日20時間働くような状態になった。それでも、毎月の安定収入は思うように伸びない。人手が必要な仕事には限界がある。

もっと大きくするなら、同じ人数でも多くの会社を支えられる形に変えなければならない。ヤシュは決めた。サービスとして形にする。

インフルエンサー管理は、裏側がいちばん面倒だった

ヤシュのチームは、いくつもの別々のサービスや表計算ソフトをつなぎ合わせて、インフルエンサーとのやりとりを管理していた。

支払い。成果の記録。投稿の予定。投稿内容の保存と再利用。関係を続けるための連絡。表に見えない作業が山ほどある。ここが詰まると、どんなに良いインフルエンサーがいても回らない。

だからヤシュには自然に見えた。ここをまとめて管理できるツールが必要だ。インフルエンサーと会社のやりとりを一つに集めるサービス。それがSARALの出発点になる。

ヤシュは、いきなり全部を作りこまなかった。まず「こういうサービスがあったら買うか」を確かめた。ネットショップでインフルエンサー担当をしている人たちに、約2000通のメールやメッセージを送った。

数週間で45人と話し、そのうち5人が月約1万5000円($99)で申し込んだ。事業計画の文章を整える前に、先にお金が動いた。ヤシュは確信した。これは作る価値がある。

外注したら、動かないボタンが返ってきた

次の壁は、作る人だった。ヤシュは時間を節約するため、外部の開発会社に頼んだ。

ところが届いた試作品はひどかった。見た目も文章も雑で、ボタンが動かない箇所まである。これでは人に見せられない。ヤシュが目指す品質に届いていなかった。

その後、社内で開発者を探し、ようやく形になってきた。けれど、しばらくしてその開発者にも信頼面の問題が出て、チームに残れなくなった。

ヤシュは痛感した。良いサービスは、ほどほどの人材では作れない。実力だけじゃない。信頼できることが、同じくらい大事だ。知り合いのつながりから紹介された人のほうが、うまくいくことが多い。そう学んだ。

SARALは2022年12月に公開された。そこから伸び方が変わった。2023年末までに売上は約1億5000万円($1,000,000)を超え、顧客は200社を超えた。2024年のはじめごろには、月約7万5000円($499)からの高めの料金でも利用者が増えていた。

子どものころに見上げた、いい車やきれいな服は、もう遠い夢ではなくなっていた。

商売は派手に見える。でも中身は泥くさい

ヤシュは今でも、工学の大学をやめて売る仕事に進んだ判断は正しかったと考えている。商売をしたいなら、長年かけて技術を学ぶより、売り方や広め方を学ぶほうが近道になりやすい。

売る仕事や広める仕事では、細かい機能より「人の気持ち」を読む力がものを言う。相手は何を怖がっているのか。何を信じていないのか。何があれば前に進めるのか。そこを外すと、どんなに良い物でも動かない。

ただし、商売は甘くない。外から見ると、起業はかっこよく見えることがある。でも実際はきつい。資料さえ作れば資金が集まり、あとは楽に進む。そんな話を信じたくなる瞬間もある。けれど現実は、苦しい場面の連続だ。

ヤシュは自分にルールを作った。最悪を想定して動く。大変さは想像の10倍、いやさらにその10倍くらいだと思って見積もっておく。そのくらい構えておけば、心が折れにくい。

そしてヤシュには、もう一つの狙いがある。インドのスタートアップの見られ方を変えたいのだ。インドは長い間、海外企業から仕事を受けて開発する国として知られてきた。これからは、世界に通用する自社製品を作る国として知られたい。その流れをSARALが引っ張りたい。

売る仕事に人生をかけるのは無茶に見えるかもしれない。でも、新しい会社を作ること自体が同じくらい大きな賭けだ。ヤシュにとって、売る現場で鍛えた日々は、創業者としての苦しさに耐える準備だった。

振り返ったときにだけ、正しかったように見える賭けがある。ヤシュはそれを、最初から信じて走った。


3層インサイト

ヤシュは子どものころ、あめやえんぴつをまとめて買って上乗せして友だちに売った。
ヤシュは大学で工学を学び始めたが、家族や友人に止められつつも大学をやめて売る仕事に飛び込んだ。
ムンバイで人工芝サッカーコートの時間貸し枠を売る仕事で、空き時間対策として屋外ヨガやピラティス用途をジムに提案した。
2020年にKodo Cardに入り、最初のカード営業として新規客獲得のため毎日何百件も電話とメールを行い、手順整備も進めた。
個人相談業Import Growthで広告運用支援を行い、最初は1人で始めて4人チームになったが、開始から約1年後にフェイスブック側の変更で広告の当たり外れが激しくなり利益が落ちた。

需要検証は、完成品より先に「支払い」を伴う形で行うことで、意思決定が速くなる。

根拠

-SARAL構想の検証としてネットショップの担当者に約2000通のメールやメッセージを送り、数週間で45人と話し、5人が月99ドルで申し込んだ。

-ヤシュは事業計画の文章を整える前に先にお金が動いたことで、作る価値があると確信した。

単発の成果が出る施策でも、運用が人手依存だとスケールや収益の安定性が限界に達する。

根拠

-健康食品の会社で75人のインフルエンサーを集め、売上が急に伸びて在庫不足になるほどの成果が出た。

-インフルエンサー施策の運用は人手がかかり、ヤシュは毎日20時間働く状態になったが、毎月の安定収入は思うように伸びなかった。

-もっと大きくするには同じ人数でも多くの会社を支えられる形に変える必要があると判断し、サービス化を決めた。

外部環境に依存する集客・販売チャネルは、仕様変更で急に成果が崩れるため、依存度を下げる設計が必要だ。

根拠

-個人相談業Import Growthで広告運用支援を行い、開始から約1年後にフェイスブック側の変更で広告の当たり外れが激しくなり利益が落ちた。

-2021年末ごろ、フェイスブック広告のターゲティング精度低下を背景に、インフルエンサーを使った宣伝に活路を見出した。

現場の運用で発生する「見えにくい管理業務」をまとめて整理すると、サービスの中心に据えるべき課題が明確になる。

根拠

-インフルエンサー管理では支払い、成果記録、投稿予定、投稿内容の保存と再利用、継続連絡など表に見えない作業が多かった。

-ヤシュのチームは複数の別々のサービスや表計算ソフトをつなぎ合わせてインフルエンサーとのやりとりを管理していた。

-これらを一つに集めるサービスが必要だと考え、SARALの出発点になった。

プロダクト開発の初期品質と実行速度は、開発者の能力だけでなく信頼性にも強く左右される。

根拠

-開発を外部会社に外注したところボタンが動かない試作品が届いた。

-社内で開発者を探して形にしたが、信頼面の問題でその開発者はチームに残れなくなった。

-ヤシュは実力だけでなく信頼できることが同じくらい大事だと痛感した。

新規サービスのアイデアがあるが、作る前に需要があるか確信できない。

1誰に売るかを明確にしたリストを作り、「こういう課題があるのでは」「こう解決できる」と短く伝える個別連絡を大量に送る。
2返信があった相手とは短時間の話し合いを設定し、今どう動いているか・どこで困っているか・今は何で代替しているかを確認する。
3完成前でも提供できる範囲のプランを提示し、前払いまたは定額申込で支払い意欲を検証する。
4申込数・商談数・連絡数を記録し、一定期間で判断できる基準(例:申込件数)を先に決めて継続可否を決める。

施策の成果は出ているが、運用が人手依存で長時間労働になり、収益が安定しない。

1日々の作業を細かく書き出し、支払い・成果記録・予定管理・素材管理・継続連絡などに分けて整理する。
2複数の管理手段に散らばっている情報を一つの管理フローに統合し、入力項目と更新頻度を標準化する。
3繰り返し発生する作業はテンプレート化し、担当者が変わっても同じ手順で回るよう手順書に落とす。
4同じ人数で対応社数を増やせる形(パッケージ化・サービス化)に再設計し、提供単位と料金体系を見直す。

特定の集客チャネルに依存しており、プラットフォーム変更で成果が落ちるリスクがある。

1主要チャネルごとの依存度を数値化し、売上・獲得の何割が単一チャネル由来かを把握する。
2チャネル変更時に代替できる獲得手段を複数用意し、小さくテストして再現性のある手順として残す。
3チャネル固有の最適化よりも、顧客理解・訴求・オファー設計など移植可能な要素を優先して改善する。

開発を外注・採用で進めたいが、品質不足や信頼問題でプロジェクトが止まるリスクがある。

1最初に品質基準(動作要件、UIの最低ライン、納品物の定義)を文書化し、受入条件を明確にする。
2小さな機能単位で短い期間の試験発注・試用期間を設け、実力とコミュニケーションの信頼性を確認する。
3進捗確認の頻度と成果物レビューの手順を固定し、問題が出た時点で早期に切り替え判断できる体制にする。