「いいアイデアさえあれば、いつか勝てる」。そう信じて準備を重ねたのに、誰にも買われない。起業やプロダクト作りで、そんな壁にぶつかった人は少なくないだろう。
マーク・ルーヴィオンも同じだった。大学で学び、試作品も名刺もロゴも用意した。それでも一年たっても反応はゼロ。そこで彼は気づく。事業の「正解」を決めるのは先生や専門家ではなく、実際に買う人だと気づいた。
失敗を重ねた末にマークが選んだのは、「小さく作って早く出し、反応で判断する」やり方だった。その積み重ねが、いま毎月安定して売れる「アプリを早く出すためのひな形セット」につながっている。
6年かけてわかったのは、正解を決めるのは先生ではないということだ。
マーク・ルーヴィオンは、短期間で小さな事業をいくつも立ち上げてきた起業家だ。いま動いているサービスは、アプリを素早く公開するための「ひな形セット」で、毎月安定した売り上げが立っている。
ただ、最初からうまくいったわけではない。大学で学んでいた頃は、すごいアイデアさえあれば勝てると信じていた。現実はもっとシンプルだった。誰も買わないなら、どれだけ立派に見えるアイデアでも事業にはならない。
失敗を重ねた末にたどり着いた答えはこうだ。先生や「専門家っぽい人」ではなく、買う人に判断してもらう。事業の世界で丸をつけるのは採点者ではなく、財布を開く人だった。
小さな町で、作っては壊すことを繰り返す子どもだった
マークはパリ近郊の小さな町で育った。森で小屋を作ったり、部屋でレゴの精巧な模型を作ったり。思いついたものを形にする時間が好きだった。
作って、壊して、また作る。その繰り返しで手が少しずつ器用になり、うまくいかなくても「じゃあ次はこうしよう」と考える癖が自然と身についていった。
一方で、学校は好きになれなかった。何のためにやるのかが見えないまま、言われた通りに進める授業が多かったからだ。退学にならない程度にこなして、成績はふつう。学校の外のほうが、ずっと生き生きしていた。
そんなマークの記憶に残った先生が一人いる。理科の授業で、リンゴと紙を同時に落として「どっちが先に着く?」と考えさせた先生だ。答えを暗記するのではなく、目の前のことを試して確かめる。マークはそこで初めて、学ぶことの面白さを感じた。
ゲームの中で「作る」と「売る」がつながった
教室より夢中になれる場所があった。オンラインゲームの世界だ。10代のマークは、ゲーム内で材料を集めて靴や武器のアイテムを作り、売っていた。
足が速くなる靴、特別な力を持つ武器。欲しい人がいて取引が生まれ、小さくても利益が出た。
このときマークは実感した。デジタルの世界でも「作ること」と「売ること」はつながる。画面の中でも、ものづくりは本物だ。そう思い、ソフトウェアを学ぶために大学へ進んだ。
卒業して最初に作ったアプリは、誰にも買われなかった
大学で数年学べば、作りたいアプリが作れるようになる。マークはそう考えていた。ただ大学生活も理想通りではなく、授業にはあまり出ないまま、周囲の助けもあってなんとか卒業した。
卒業後に狙ったのは「スポーツ好きの出会いアプリ」のようなものだった。近所でテニスやサッカーを一緒にする相手を探せる。アイデアとしては良さそうに見えた。
マークは本気で取り組んだ。試作品を作り、名刺を刷り、ロゴも用意した。準備を重ねれば自然と広がると信じていた。
しかし一年たっても、買う人は現れなかった。あるとき「どうやって稼ぐの?」と聞かれ、言葉に詰まった。作ることに夢中で、売り方も値段も考えていなかったのだ。
その瞬間、何かが変わった。マークはその案を一週間ほどでやめ、気持ちを切り替えるために拠点ごと別の国へ移した。
紙の上では完璧に見えても、実際に出すと欠点が見える
マークが強く思うのはこれだ。アイデアは紙の上だといくらでも良く見える。誰にも見せず、誰の反応も確かめないまま進むと、弱点に気づけない。
当時のマークは、アイデアを秘密にして守ろうとしていた。でも今は逆だ。早い段階で人に見せ、反応をもらいながら形を変えていくほうがいい。自分のための商品ではなく、買う人のための商品に近づいていくからだ。
学校の仕組みも、ここで別の顔を見せる。学校では先生が「正しい・間違い」を決める。でも事業では、買う人が決める。どれだけ褒められても、買われなければ続かない。
世の中には「これが成功の答えだ」と言い切る人も多い。テレビでもSNSでも、強い言葉は目立つ。ただ、言葉と実際の行動が一致していない人もいる。マークは今、言葉よりも「その人が普段なにをしているか」を見るようにしている。
作りながら見せることで、孤独を感じなくなった
最初の失敗のあと、マークは落ち込んだ。次はどうするか。そこで選んだのが、作っている途中の様子を公開しながら進めるやり方だった。
早い段階で見せれば、良い点も悪い点も反応として返ってくる。直すべき場所が早くわかるし、何より机の前で一人で悩み続けなくていい。
公開しながら作り始めると、同じように事業を作っている人たちとつながった。食事をしながら長時間話し、試すべきことを教えてもらうこともあった。「作る仕事」に、仲間が生まれた。
当たりが出るまで、小さく作って何度も試した
その後マークは、小さなサービスを次々に作って試した。うまくいかないものも多い。それでも作って出し、反応を見て、必要なら手放して次へ進む。その積み重ねで、少しずつ当たりが出る確率が上がっていった。
マークのやり方は「一発の大成功を狙い続ける」よりも、「小さく作って早く出し、反応で判断する」に近い。人をたくさん雇って大きくするより、少人数で動ける範囲で作り続けたいとも考えている。
アプリ公開の手間を省くための「ひな形セット」を作った
そうした流れの中で生まれたのが、アプリを早く公開するためのセット商品だった。
ログインの仕組み、支払いの準備、メール文面のひな形、データの保存先など、アプリを作るたびに毎回作り直しがちな部分を、最初からまとめて用意した。
ゼロから何週間もかけるのではなく、数日で出せるようにする。それが狙いだった。利用者が増えるにつれ機能を追加したり、関連する小さなツールを作ったりもした。経験を発信しながら、少しずつ育てていった。
大事なのは「正解を探す」ことではなく、「作って確かめる」こと
起業の成功法には、誰もが意見を持っている。でもマークが大事にしているのは、権威ある誰かに合格をもらうことではなく、買う人の反応で確かめることだ。
最初の数年間は、お金の面でも気持ちの面でもかなり苦しかった。失敗を避けようとしすぎたこと、誰かに認められたい気持ちが強すぎたこと——それが遠回りにつながった。
失敗を織り込んで、買う人の声で方向を決めていれば、もっと早く楽になれたかもしれない。マークはそう振り返る。
これからは動画でも経験を伝える計画がある。教室で学ぶのが合う人もいれば、外で試しながら学ぶほうが合う人もいる。大切なのは、周りの雑音に振り回されず、買う人の反応を道しるべにすることだ。
- アイデアは隠さず、早めに見せて反応をもらう
- 紙の上の評価より、実際に買われるかで判断する
- 強い言葉より、その人の行動を見る
- 小さく作って早く出し、失敗から学ぶ
