コードは企業の命綱。でも、クラウドに預けているからといって「もしもの時」まで守られているとは限りません。
契約エンジニアとして現場を見てきたコートニー・ファーカーソンも、Azure DevOpsを使う大企業の中で、バックアップの「穴」に気づきながら、すぐには動けないもどかしさを抱えていました。消えたら終わる。それでも、対策は意外なほど手薄でした。
その停滞感を打ち破るために自分で作ったのが、バックアップサービス「Backrightup」。地味な課題に向き合った結果、年間約4,000万円規模($270,000)の継続売上へとつながっていきます。
地味だが必要な「バックアップ」が、大きな売上を連れてきた
会社がソフトを作るとき、コードは命綱になる。
マイクロソフトのAzure DevOpsは、そのコードを置き、チームで開発を進めるためのサービスだ。多くの企業が、ここに大切なコードを預けている。
しかし、長年その現場を見てきた契約エンジニアのコートニー・ファーカーソンは、ある「穴」に気づいた。
Azure DevOpsには、万が一の際にコードを取り戻すための、きちんとしたバックアップ専用サービスがほとんどない。
人為的なミスやハッキングが起きれば、何十万ドル(数千万円規模)もかけて作ったコードが消える。会社にとっては単なる事故どころか、事業が止まりかねない危機だ。
「ないなら、自分で作るしかない」
そうして生まれたのが、Azure DevOps向けのバックアップサービス「Backrightup」だった。
昼は契約社員、夜は起業家
コートニーは2005年、南アフリカの大学を卒業した。最初に入ったのはマイクロソフト関連のコンサル会社で、.NETを使った開発に携わりながら、南アフリカやオーストラリアの大企業を回り、システム構築や運用の相談に乗っていた。
その後オーストラリアへ移り、マイクロソフトのインフラ担当コンサルタントとして働く。5年ほどの間に、Azure DevOpsを大企業で運用する現場を何度も経験した。
ただ、コートニーは「会社員だけ」で終わるタイプではなかった。
仕事の合間に小さな事業を作っては売るということも続けていた。メールアドレスを収集するツールを作ったり、犬のエサを扱うネット通販を運営したりして、合計で約1億5,000万円規模(100万ドル台)の売却につなげた。
昼は契約社員、夜は起業家。そんな生活が続いていた。
DevOpsとクラウドが広がり、コードが集まる場所ができた
DevOpsは、ソフトを作る作業と動かし続ける作業をうまくつなげ、リリースまでの時間を短縮する考え方だ。自動化のツールも含まれる。
自動化には強力なサーバーが必要になることが多い。そこでクラウドが役立つ。自社で大規模なサーバーを持たなくても、必要な分だけ借りて使えるからだ。
開発に必要なものをまとめて扱えるサービスとしては、Bitbucket、GitLab、GitHubなどがある。マイクロソフトは2018年にGitHubを買収し、Azure DevOpsの存在感も増した。
Azure DevOpsは特に大企業で使われやすく、歴史のある大きな会社ほど、こうした仕組みにコードを集めていく傾向がある。
コードが集まる場所ができれば、次に重要になるのは「守り方」だ。
「バックアップがない」ことに気づいた瞬間、チャンスが見えた
オーストラリアの大手食品会社で仕事をしていたとき、コートニーはAzure DevOpsに「失ったコードを復元するためのアプリがほとんどない」ことに気づいた。
現場の担当者に「このコード、バックアップできないか」と聞かれ、調べてみても、良い答えが見つからない。
契約社員の立場では、大きな予算を動かしたり仕組みを変えたりしにくい。その場は黙ってやり過ごした。
でも、頭の中ではずっと引っかかっていた。
企業はアプリやシステム開発に毎年何十万ドル(数千万円規模)も投じることがある。コードが消えれば、その投資は一瞬で無駄になる。クラウドならバックアップも当然あると思いがちだが、Azure DevOpsには十分な仕組みが整っていない部分があった。
コートニーはこう考えた。
この問題は、解決策を作りやすい。しかも価値が大きい。「大切なコードが急に消えない」と分かるだけで、会社は安心できる。
契約の仕事が落ち着いたタイミングで、まずは基本的なバックアップの仕組みを作り、Azure DevOps利用者が集まる掲示板に投稿した。
そこには「こんな機能がほしい」という要望がずらりと並んでいた。しかも「Azure DevOpsのバックアップがほしい」という声は上位に入っていた。
困っているのは、自分だけではなかった。
数日後、いきなり大企業から連絡が来た
投稿から数日で、オーストラリア最大級の通信会社が興味を示した。固定電話やインターネットなど、社会インフラを支える巨大企業だ。
ただ、その時点のBackrightupは、そんな大企業に出せる完成度ではなかった。
コートニーは正直に伝えた。
「解決策はある。ただ、企業向けに整える時間が必要だ」
そこから急いで作り直した。安全性、運用、使いやすさ——大企業が求める水準に合わせて形を整えていった。
そして月末、その通信会社が最初の顧客になった。
いちばん難しかったのは「値段」だった
次の壁は値付けだった。
月約1万5,000円($100)程度の軽いツールとして売るのではなく、大企業の深刻なリスクを取り除くサービスとして、年約380万〜約460万円($25,000〜$30,000)の価値があると伝えなければならない。
同じ機能でも、見せ方と説明が変われば相手の受け取り方も変わる。大企業が本当に困っている問題であれば、価格もそれに見合ったものにすべきだ。
ここでコートニーは、販売の考え方を学んだ。
大企業の年間契約を取ったあとは、申し込みから利用開始までを自動化する仕組みも構築した。利用者が自分で申し込み、支払いまで完了すれば、そのまま使い始められる形だ。
売上は「一回きり」ではなく、継続して積み上がるようになった。
検索で見つけてもらい、静かに伸びた
コートニーには、犬のエサのネット通販を運営した経験があった。そこで学んだのが、検索で見つけてもらう工夫だ。
Azure DevOpsのバックアップを探す人は毎月一定数いる。検索結果の上位に表示されれば、毎日少しずつ問い合わせが来る。
派手な宣伝ではない。それでも、必要な人に届けば十分だった。
結果としてBackrightupは、1年足らずで本業の収入を上回った。2022年初めには契約スタッフを2人雇い、カナダの政府関連組織との契約も狙って動いていた。
記事の時点でBackrightupは、大企業4社と中小企業の利用者から、年間約4,000万円規模($270,000)の継続売上を得ている。
コードを守る話は地味だが、利益につながりやすい分野だった。
なぜDevOpsのバックアップが必要なのか
クラウドにコードを置く会社が増えるほど、データ消失のリスクも高まる。
原因として意外に多いのが、単純な人為的ミスだ。
大きな組織では外部の契約者と一緒に仕事をすることが多く、そこが弱点になりやすい。実際に、契約者が誤ってコードの保管場所を削除してしまった例もあった。
契約者は「会社が持っている」と思い、会社は「契約者が持っている」と思い込んでいた。責任の境界があいまいなときほど、事故は起きやすい。
ほかにも、別の場所へ移行する作業中にデータを失った例や、トラブルで怒った契約者が削除してしまった例もある。
社内でもミスは起きる。GitLabで社員の操作ミスにより大量のデータが消えた事故は、よく知られている。
コードはウェブサイトやサービスを動かす土台だ。失えばサイトが壊れ、利用者の情報も守れなくなる。しかも「いつか直せばいい」では済まない。
多くの現場では「数分で復旧したい」というニーズがある。Backrightupは、そのスピードを重視して作られた。
次は、バックアップをもっと広い世界へ
現在はAzure DevOpsのバックアップが中心だが、将来は仕事で使うさまざまなデータのバックアップをまとめて提供したい考えがある。
複数のサービスを選ぶと、まとめた料金でバックアップできるような形を想定している。
さらに近接する分野として、セキュリティ市場への展開も視野に入れている。社内では複数の鍵を使う暗号化などの仕組みを整え、SaaS企業向けのSOC 2という認証も取得した。
退屈に見える問題ほど、金になることがある
コートニーがこれまで手がけてきた事業には共通点がある。
小さくても確実に必要とされる困りごとを見つけ、ツールとして解決する。
犬のエサの事業では、重い大袋を毎月買いに行く手間を省き、定期的に自宅へ届ける仕組みを作った。別の技術系の事業では、表計算ソフトや文書からメールアドレスを抽出する作業を効率化した。
どれも派手ではない。だが役に立つ。
こうした「地味だが必要なもの」は、安定した売上につながりやすい。少人数でも運営でき、余計なコストをかけずに続けられる。
投資家に合わせて無理に成長を急がなくてもいい。家族との時間を守れる形の事業も作れる。
バックアップは目立たない。だが、誰かが本当に困ったとき、いちばん頼られる存在になる。
