起業は、始めるより続けるほうが難しい。うまくいかない日が積み重なるほど、迷いも不安も増えていく。
チャールズ・ストレッチとジェームズ・ピアースも、最初はガレージに置いた小さな机2つからのスタートだった。派手な資金も、確かな勝ち筋もない。それでも、目の前の一歩をやめなかった。
やがてSMSPortalは、約12,000社が使い、年間売上は約120億円規模(約8,000万ドル)へ。どうやって20年近く、集中を切らさず積み上げてきたのか。
情熱を一つにしぼれば、ガレージから年商80億円規模まで届く
起業は、気楽な遊びじゃない。毎日、思い通りにならないことが起きる。環境も変わる。そこで試されるのは、才能よりも「やめない力」だ。
続ける力を支えるのが情熱だ。情熱が強いほど、むずかしい日でも踏ん張れる。チャールズ・ストレッチとジェームズ・ピアースは、その情熱を約20年、同じ場所に注ぎ続けた。
2人が作ったSMSPortalは、最初はガレージの小さな机2つから始まった。それが今では、アフリカ最大級のクラウド通信プラットフォームになった。約12,000社が使い、年間売上は約120億円規模(約8,000万ドル)。数字は派手だが、本当にすごいのは、長い時間ずっと集中を切らさなかったことだ。
大学で出会い、ガレージで始めた
2人が出会ったのは南アフリカのネルソン・マンデラ大学。チャールズは商学、ジェームズは情報技術を学んでいた。チャールズの姉の紹介で知り合い、話が合った。
2003年、チャールズ19歳、ジェームズ20歳。起業の場所は、ジェームズの父のガレージだった。テーブルを2つ置き、パソコンを並べる。そこが会社のすべてだった。
写真サイトが、思わぬ武器になった
当時は、スマホもSNSも今ほど当たり前じゃない。デジタルカメラが出てきたばかりの時代だ。
2人は地元のパブやナイトクラブへ行き、客の写真を撮った。次の日、その写真をBlue Worldという自分たちのサイトに載せた。写真を見るには登録してログインする必要がある。つまり、登録者のメールアドレスや携帯番号が集まっていった。
半年ほどすると、店やイベントの主催者から連絡が来た。「その登録者たちに、イベントの宣伝をしたい」
2人は考えた。連絡手段は何がいい? そこで目をつけたのがSMSだった。携帯電話が広がり始めていて、これからもっと伸びると感じたからだ。
ジェームズは、集めた電話番号にメッセージを送れる仕組みを作った。シンプルだが、動く。使える。ここがSMSPortalの始まりだった。
サイトは売って、SMSだけは手放さなかった
2004年、2人はBlue Worldのサイトとデータベースを南アフリカのメディア企業に売った。でも、SMSの事業は売らなかった。むしろ、ここからが本番だった。
クラブ向けの宣伝から離れ、いろいろな業界の会社に向けた法人サービスへ広げていった。小売店、銀行、証券取引所。相手は一気に固くなった。
2人には大きな経営経験があったわけじゃない。だからこそ、派手な賭けはしない。できることを一歩ずつ積み上げた。
まず1社を取る。小さく売上を作る。実績を持って次の1社へ行く。その繰り返しだった。若い2人が信用を得るには、口より結果が必要だった。
「顧客にとって一番いい」を軸にした
2人が中心に置いた考えはシンプルだった。
顧客にとって、一番いいサービスと価値を出す。
最初の顧客は不動産の担当者で、約1,000人に一斉にSMSを送りたがっていた。次は学校で、保護者への連絡に使われた。顧客が増えるほど、必要な機能も見えてくる。
たとえば送信スピード。初期の仕組みはSMS1通に8秒かかった。今は1秒に11,000通送れる。
ただ速くするだけじゃない。止まらないこと、不具合を出さないこと、申し込み後に困らせないこと。使い心地をなめらかにすること。そういう地味な部分を徹底した。それが「長く使い続けてもらえる理由」になり、競合との差になった。
2人だけで回し、必要なときに人を増やした
最初の3年間、会社は2人だけで回した。チャールズが営業、宣伝、問い合わせ対応まで全部やる。ジェームズが開発を全部やる。体力勝負だった。
後から振り返ると、もっと早く人を雇うべきだったとも思う。ただ、外から資金を入れない方針だったから、人件費を簡単に増やせなかった。
それでも最初の営業担当を雇ったとき、効果はすぐ出た。電話営業や見込み客へのフォローが進み、2人だけでは届かなかった売上が作れた。成長に合わせて、チーム作りも必要だと腹に落ちた。
2人は自分たちを慎重なタイプだと言う。もっと早く採用を増やしたり、広告やブランドにお金をかけたり、外部の専門家を頼ったりしていれば、さらに世界で大きくなれたかもしれない。でも2人は、背伸びよりも確実さを選んだ。
その結果、SMSPortalは約20年、毎年成長を続けた。今は24人のチームで、年間に何十億通ものメッセージ送信を支え、世界190か国へ届けている。
目標を見失わないことが、集中を守った
2人を動かしたのは、お金そのものより「最高の製品」と「最高のサービス」だった。勝ちたい気持ちも強かった。目標ははっきりしていた。「アフリカで最大の提供者になる」
長く続けていると、別の事業の話も来る。もっと派手で、早く儲かりそうな話もある。でも2人は、関わらないと決めていた。注意がそれた瞬間に、SMSPortalの成長が止まるのが怖かったからだ。
会社の中でも同じだった。得意なSMSのマーケティングに集中し、むやみに製品を増やして力を分散させない。
投資家を入れなかった理由
投資家を入れれば、お金は増える。でも手続きや会議も増える。決定も遅くなる。2人なら短い電話で決められることが、関係者が増えるほど「確認」が必要になる。
しかもSMSPortalは、利益で成長できていた。資金に困っていなかった。投資の提案はいくつもあったが断った。結果的に、その判断は正しかったと2人は振り返っている。
アフリカから、世界の上位へ
SMSPortalはアフリカ最大級になった。だが2人の視線は、もう外に向いている。近年はアメリカとイギリスへの進出準備を進めてきた。
アメリカでは感染症の流行以降、SMSの利用が強く広がった。注文状況の連絡、買い物かごに商品が残っている通知、割引コードの配布。SMSは「すぐ届く連絡手段」として日常に入り込んだ。
2人は、SMSでできることも広げようとしている。メッセージからリンク先へ移り、支払い情報がまとまった画面で、少ない操作で購入を終えられるようにする。小さな不便を消すことが、利用を広げる鍵だと見ている。
チャールズは、これまで他の会社に雇われた経験がない。SMSPortalが最初の情熱で、今も同じ熱量で走っている。次の目標は「世界で上位5社に入るメッセージ提供者になる」こと。ガレージから始まった挑戦は、世界の舞台へ進もうとしている。
