勝てる確率の高い場面だけを選び、勝ち目のない日は賭けない。そんな冷静な判断でオンラインギャンブルの世界を渡り歩き、生活できるほど稼いでいた男がいた。
しかし、稼げば稼ぐほど見えてくるものがある。自分の勝ち方が、誰かの不幸の上に成り立っているかもしれないという不安。業界の「儲かる仕組み」に潜む、見えにくいゆがみ。
彼は別の勝ち方を選ぶ。運営のムダを削るツールを作り、月次の継続売上を約300万円規模(約$20,000)まで伸ばしながら、依存に苦しむ人を支援する活動にも力を注ぎ始めた。
オンラインギャンブル業界を中から変える方法:数字で勝ち、仕組みで正す
インターネット上でカジノやスポーツ賭けを楽しむ世界は、iGamingと呼ばれる。その世界に早くから飛び込み、勝ち続けて生計を立てていた男がいる。カナダ出身の起業家、ジョン・ライトだ。
ジョンはギャンブルで稼げることを知っていた。しかし同時に、その稼ぎ方が誰かの不幸に寄りかかってしまう危うさも感じていた。だから彼は、別の勝ち方を選ぶ。アフィリエイト運営のムダを削るツールを作り、さらに依存に苦しむ人の支援にも力を注ぎ始めた。
勝てる場面だけを選ぶ。勝てない日は賭けない
ジョンがiGamingに入ったのは、大学で工学を学んでいたころだ。彼の武器は強運でも派手な才能でもない。確率と期待値を見極め、勝てる見込みが高い場面だけを狙う冷静さだった。
勝ち目がなければ、そもそも賭けない。ここが何より大切だった。多くの人は感情で動き、あとから理屈をつけて自分を正当化する。ジョンはそれを危険だと考えた。チャンスのない日は何もしない。だからこそ長く続けられた。
結果として、卒業したてのエンジニアの給料を上回る収入を得る月もあった。
「紹介」で儲かる世界に入って見えた、ゆがみ
2010年ごろ、ジョンはギャンブルそのものだけでなく、オンラインカジノへ客を送り込むアフィリエイトにも関わり始める。
アフィリエイトとは、紹介サイトやリンクを通じてサービスへ人を誘導し、成果に応じて報酬を受け取る仕組みだ。ギャンブル系が特に稼ぎやすいのは、紹介した利用者が負けた金額の一部が報酬になるケースがあるからだ。
たとえば、紹介した人が毎月約15万円($1,000)負けた場合、そのうち最大40%が紹介側の収入になることもある。つまり、負ける人が多いほどお金を生む構造になりやすい。
ここに見えにくい問題がある。短時間で大金を失う人は、業界にとって「利益を生む客」になってしまう。意図せずとも、「問題を抱えたギャンブラー」を引き寄せやすい空気が生まれるのだ。
気づいたのは、悪意より先に「ムダ」だった
ジョンがもう一つ気づいたのは、アフィリエイト運営そのものが驚くほど非効率だということだった。ギャンブル業界に限らず、多くの運営者が数字を見ずに動いていた。
- 広告を出しても、どれが成果につながったか追えていない
- クリックあたりの収益といった重要な指標より、「手数料率が高い」だけで案件を選んでしまう
- トップページに置く案件を、収益性ではなく見た目の条件で決めてしまう
- キャンペーン情報が古いまま放置され、機会を逃す
- 競争が激しすぎてデータを共有できず、改善のノウハウが蓄積されない
このムダをなくせば、運営はもっと健全に、もっと賢くなる。ジョンはそう考えた。
ツールを作る。Statsdroneという「運営の頭脳」
ジョンはアフィリエイト運営をデータで改善するアプリを作った。名前はStatsdrone。広告や案件の管理を整理し、どのプログラムが本当に収益につながっているかを数字で確かめられるようにするツールだ。
狙いははっきりしていた。運営者が記事作りや情報発信といった「中身」に集中できるようにすること。更新や検証といった手間のかかる部分は、仕組みで回す。
戦い方の選択もあった。個人向けより企業向けのほうが、巨大企業と正面からぶつかりにくい。勝てる場所で勝つ——ギャンブルで培った姿勢が、起業にも生きていた。
共同創業者はエンジニアではなく、企業のマーケター
サービスを伸ばすには、一人では限界がある。ジョンは共同創業者を探し、10年来の知人ダレル・ヘリヤーに声をかけた。ダレルはテック畑の人間ではなく、企業でマーケティングを担ってきた人物だ。
スタートアップは技術者同士で組みがちだが、会社を回す力は別途必要になる。採用、チーム運営、仕組み作り。企業で鍛えた経験がここで活きる。デジタルの世界から見ると企業は動きが遅く映ることもあるが、組織の課題はどこでも変わらない。ジョンはそこを信じた。
最初の失敗。開発が進まず、お金だけが消えた
Statsdroneの最初のバージョンが出たのは2018年。アフィリエイト収益の追跡を中心としたシンプルなものだった。
ただ、開発は順風満帆ではなかった。外部に依頼した開発者が締め切りを守らず、結果的に大きな損失を招いた。技術の知識があっても、外注管理ができなければ失敗する。ジョンはその痛みを身をもって知った。
作っても売れない。知り合いほど動かない
製品ができても、次の壁が立ちはだかる。営業だ。
業界の知り合いに声をかけても、返事は遅い。興味があるようで、なかなか決断しない。断り方もさまざまだ。ジョンは考えた。相手が疑問を口にする前に、答えを見せる方法はないか。
決め手は、短い動画デモだった
試行錯誤の末、効果があったのは短い動画デモだった。
見込み客のサイトを例に取り、Statsdroneを使うと何がどう変わるかを具体的に見せる。文章で説明するより伝わりが早い。相手がどれだけ動画を視聴したかも把握できるため、営業の改善にもつながった。
このやり方で販売の流れが整い、利用者が増えていった。記事執筆時点で月次の継続売上は約300万円規模(約$20,000)に達し、ギャンブル以外のアフィリエイト分野への展開準備も進んでいた。
ギャンブルで得た利益を、依存対策へ回す
ジョンはiGamingでキャリアを築いた一方で、この業界が「倫理的に問題がある」と見られやすいことも十分に理解していた。だからこそ、利益を得るなら社会に還元する道が必要だと考えた。
ジョンが支援した一人が、ダンカン・ガービーだ。ダンカンは不正なカジノへの苦情申し立てを支援するサービスを運営しており、利用者が取り戻した金額は長年にわたって大きな規模に上るという。
さらに、ギャンブルサイトをブロックできる無料ツールを提供する団体への協力や寄付も行った。依存の問題を抱える人はお金に余裕がないことが多く、有料アプリでは支援が届きにくい。登録不要・支払い不要で複数端末に導入できる形のほうが現実的だ。ジョンはそこに価値を見出した。
最後に:業界を変えるのは、数字と仕組みと姿勢
ジョンは、勝つためにギャンブルを研究した。次に、稼ぐためのアフィリエイトの仕組みを知った。そして、その仕組みのムダとゆがみを見つけた。
だから彼は、数字で改善できるツールを作った。運営を透明にし、判断を感情からデータへ移す。さらに、依存という影の部分にも目をそらさず、得た利益を社会へ還元する行動を選んだ。
オンラインギャンブルの周辺には大きな金が動く。だからこそ、ゆがんだ動機も生まれやすい。そこにデータと改善の文化を持ち込み、少しでも健全な方向へ押し戻す——その挑戦がStatsdroneの背景にある。
