ネット通販ブランドは増え続けているのに、発送の仕組みは大きな会社向けのまま。注文数が少ない小さなブランドほど、倉庫サービスの選択肢は一気に狭まる。
そんな「小さすぎて断られる」側に向けて、学生2人が倉庫と発送代行をゼロから立ち上げた。倉庫がなければ顧客は取れない。顧客がいなければ倉庫も借りられない。その詰みかけた状況を、どうやってひっくり返したのか。
最初の顧客獲得から現場づくり、採用の失敗、そして「2日配送」への次の一手まで。小さな倉庫ビジネスが成長していく、リアルなプロセスを追う。
小さなネット通販ブランドを支える倉庫ビジネスの始まり
大学生活が終わりに近づいたころ、ニック・マリノウスキーとパーカー・バーンズは、ある違和感を抱えていた。
ネット通販のブランドは毎日のように増えている。なのに、発送の仕組みは大きな会社向けにできている。注文が少ない小さなブランドほど、まともな倉庫サービスを使えない。
2人は高校や大学のころ、物流倉庫で箱詰めや出荷の仕事をしたことがあった。現場を知っていたからこそ、「ここに穴がある」と気づけた。多くの発送代行会社には「月に最低◯◯件」という条件がある。小さな会社は最初から門前払いになりやすい。だったら、その小さな会社のための倉庫を作ればいい。そう考えた。
こうして2人は、授業や試験、フルタイムの仕事の合間に、倉庫と発送代行のビジネスをゼロから立ち上げた。
倉庫がないと客が取れない。客がないと倉庫が借りられない
最初の壁は単純で、きつかった。
客を取るには倉庫が必要。でも倉庫を借りるにはお金がいる。しかも倉庫はたいてい長期契約を求めてくる。学生の立場で、いきなり大きな倉庫を1年契約するのは現実的じゃない。
2人は順番を逆にした。まず客を探すことにした。
クラウドファンディングのページ、SNS、掲示板。ネット通販の会社がいそうな場所を片っ端から当たり、地道に声をかけた。特に掲示板への投稿は、時間が経ってから効いてくることがあった。その場で契約しなくても、発送に困ったタイミングで思い出して連絡してくる。
そうやって、倉庫がない状態でも数社の話が進み、2021年11月、最初の顧客が決まった。
実績ができた。そこから倉庫探しが現実になった。
ユタ州ソルトレイクシティで、約1,500平方フィートのスペースを見つけた。棚がすでにあり、フォークリフトまで付いていた。初期費用を抑えてスタートできる条件がそろっていた。
ただ、別の出費が待っていた。送料をいったん立て替えてあとで顧客に請求する仕組みにしていたため、最初にまとまった現金が必要だった。物流管理ソフトの利用料も重なり、合計で約150万円(約1万ドル)の支払いが発生した。
2人は家族から短期で借りて乗り切り、数日で返した。
設備投資を抑えられたこともあり、事業はすぐ黒字に近づいた。パーカーはフォークリフトの資格も取り、現場を回す準備を整えた。授業は遠隔で続けながら、倉庫を動かした。
一角から始まり、倉庫を丸ごと借りるまで
最初は「倉庫の一角」だった。
それが数か月後には倉庫を丸ごと借りるようになり、さらにもう1つの倉庫も借りるところまで進んだ。顧客は40社ほどに増え、初年度の売上も大きな規模に達した。
2人の強みは派手な広告ではなく、現場を止めない力だった。注文が来たら、正確に、速く、ミスなく出す。小さなブランドほど1件のミスが痛い。だからこそ、倉庫側の精度が価値になる。
倉庫を強くするのは、人と手順
物流の仕事は、単に荷物を運ぶ話じゃない。毎日同じ品質で回す仕組みの話だ。
2人が大きな課題だと感じたのは、信頼できるスタッフを集めることと、作業の流れを整えることだった。
注文処理の精度とスピードは、顧客満足度にもコストにも直結する。試行錯誤を繰り返しながら作業のやり方を少しずつ改善した結果、運営は安定し、倉庫の管理者と細かく話し合わなくても回る状態に近づいた。
ただし、採用では痛い経験もした。倉庫の管理者として雇った人物が問題を起こし、逮捕されてしまった。パーカーは期末試験の時期に、管理者の仕事まで背負うことになった。
この出来事で、採用は「人手が足りないから誰でもいい」では済まないと学んだ。
その後、若い管理者のジェフを迎えた。言いにくいことも言える関係を築き、現場の力を上げていった。今ではフルタイムのスタッフが複数名いて、営業と運営、倉庫の監督、管理、梱包作業などを分担している。
ネット通販には繁閑の波がある。忙しい時期だけ人手が必要になることも多い。2人は単発で働ける人を集める仕組みも活用し、固定費を増やしすぎないようにした。
ツール選びも同じ発想だった。高機能で高額なアプリを最初から入れるのではなく、無料版などを使い、手元の資金を守った。
狙ったのは「小さすぎて断られる会社」
2人が助けたかったのは、成長途中のネット通販会社だった。発送件数が少ないせいで、良い倉庫サービスにたどり着けない会社。
発送代行会社は大きく2種類に分けられる。
- 家族経営のように小さく、対応は丁寧だが拡大しにくい会社
- 投資の力で急拡大し、運用や拡張は得意だがサポートが手薄になりやすい会社
2人が目指したのは、その間だった。丁寧さを保ちながら、規模も広げられる形。
顧客から見て「自社の倉庫チーム」のように感じられる距離感を大切にし、倉庫の担当者と直接話せる体制も整えた。
顧客の規模は月100件ほどから1万件ほどまで幅がある。料金は発送量で変わり、量が多いほど単価は下がる。一方、量が少ないと在庫管理が複雑になりやすく、割高になりやすい。
同業の倉庫会社とも情報交換をし、助け合う場面もあった。狙う分野が少しずつ異なり、顧客も十分に多いため、協力関係が成り立ちやすかった。
次の夢は「どこへでも2日で届ける」
2人には次の目標がある。アメリカのどこへでも、速く、手ごろな価格で届けられる体制を作ることだ。キーワードは「2日配送」。
そのために必要なのは拠点だ。西側だけでなく東側にも倉庫を作れば、2拠点でアメリカの大部分を2日以内でカバーできる可能性が高まる。複数拠点を求める大手ブランドへの対応もしやすくなるし、東海岸近くに倉庫を探す会社の相談にも応えられる。
ただ、物流の世界は一筋縄ではいかない。感染症の流行で需要が急増したり人手が不足したりして、業界は大きく揺れた。もともと抱えていた問題も一気に顕在化した。
特に重いのは人件費だ。倉庫のロボット化は進んでいるが、棚から商品を取り出す作業はまだ難しい。壊れやすいものや柔らかいものが混在するからだ。技術は進歩しており、将来的には倉庫のあり方が大きく変わる可能性もある。
そもそも倉庫スペースが不足している地域も多い。空きが少ないと、高い改装費を払って現在の場所を使い続けるか、まだ建っていない新しい倉庫に高額で予約を入れるか、難しい選択を迫られる。
小回りの利く発送代行会社が増えると、大手が買収してネットワークを広げようとする動きも出てくる。2日配送をめぐる競争は、これからさらに激しくなる。
働き方は「9時から5時」じゃ終わらない
共同創業者がいるのは心強い。片方が営業や運営の全体を見て、もう片方が倉庫の現場を回す。役割分担ができるし、意見が食い違うことで冷静になれる瞬間もある。
ただし、起業すれば楽になるわけじゃない。むしろ働く時間は増えやすい。「9時から5時」ではなく「朝7時から夜7時」になりがちだ。
それでも、最初に仕組みを作れば、あとから手間は減らせる。
顧客もさまざまだ。付き合いやすい会社もあれば、何かあるたびに返金を求める会社もある。大切なのは、状況に応じて落ち着いて対応し、礼儀を忘れないことだ。
失敗は成功より記憶に残る。だから、どの顧客にも同じレベルの体験を届ける必要がある。長く付き合うつもりで支え、自社の責任ではない配送トラブルでも返金した方が、顧客を失うより得なこともある。発送代行の乗り換えは手間が大きい。良いサービスを続ければ、顧客は残りやすい。
2人は物流の専門学位を取り、大企業で経験を積む道も選べた。それでも自分たちで始めたことで、短期間に多くを学び、現場で鍛えられた。
倉庫の一角から始まった挑戦は、まだ途中だ。次は、アメリカ全体を速く安く動かす仕組みへ。2人はその未来を、本気で取りにいっている。
