「コードは書けるのに、完成品がかっこよくならない」という壁に、学び始めたばかりの開発者はぶつかりやすい。履歴書に書けることは増えても、面接で見せられる作品がないまま時間が過ぎていく。
教える側にいたマットも、受講生から同じ悩みを何度も聞いた。参考画像を見せても解決しない。受講生が欲しいのは、現場のように素材が渡され、手を動かして形にする練習の場だった。
小さなお題を1つ載せただけのサイトから始まった試みは、利用者の声で少しずつ姿を変えていく。無料で育て、のちに課金へ。だが数字が伸びるほど、新しい課題も見えてきた。
デザインに自信がない開発者でも、見せられる作品を作ることができる
大学を出ても、すぐに仕事が決まるとは限らない。特に経験が少ないと、「何ができるのか」を示す材料が足りない。履歴書に書けることはあっても、面接で出せる作品がない。これが一番つらいところだ。
プログラミングスクールで教えていたマットは、その壁にぶつかる受講生を何度も見てきた。修了証はある。でもポートフォリオが弱い。しかも多くの受講生は、画面の見た目を自分で考えるのが苦手だった。
「コードは書けるのに、完成品がかっこよくならない」
その一言が、マットの中に残った。
パーソナルトレーナーとしての限界が、新しい道を開いた
マットは2009年からパーソナルトレーナーとして働いていた。人に教えるのが得意で、仕事にも手応えを感じていた。
しかし2014年ごろ、はっきりした問題が見えてきた。予約が埋まると、それ以上は稼げない。1日は24時間しかないし、料金も簡単には上げられない。ジムを持つ道も考えたが、失敗したときのリスクが大きすぎる。
そのころマットには、やりたい事業のアイデアもあった。ただ、実現するにはネットの仕組みが必要で、自分にはプログラミングができない。誰かに頼めばお金がかかるし、思い通りに仕上がる保証もない。
ならば、自分で作れるようになったほうがいい。そう決めて、マットはプログラミングの勉強を始めた。
学んで、働いて、教えているうちに「同じ悩み」が見えた
マットはロンドンで3か月の集中講座を受け、開発者として働き始めた。翌年からは教える側にも回り、仕事と講師を両立しながら、受講生の悩みを一番近くで見続けた。
講座が終わるころ、受講生はよく同じ質問をした。
「次に何を作ればいい?」
「自信を持って見せられる作品って、どう作る?」
講師としては、「自分用のアプリを作ろう」「友達や家族のために作ろう」と言いたくなる。けれど、返ってくる答えはだいたい同じだった。
「何を作ればいいか分からない。作っても見た目が弱くて、作品に見えない」
マットは、デザイナーが作品を投稿するサイトを紹介したこともある。だが受講生が本当に欲しいのは、参考画像ではなかった。
「そのまま使える素材が欲しい」
実際の現場では、デザイン担当から素材が渡され、開発者はそれを画面にする。ならば、その流れを練習できる場所を作ればいい。マットはそう考えた。
最初は「お題が1つだけの小さなサイト」だった
マットには、試せる相手がいた。週に2回授業に来る、やる気のある受講生たちだ。
まず作ったのは、お題が1つだけ載った小さなサイト。画像や文章などの素材を渡し、「これを元に画面を作ってみよう」という形にした。受講生はデザインを一から考えなくていい。コードを書くことに集中できる。
反応はすぐ返ってきた。
「これ、いい。もっとお題が欲しい」
マットが作りたかったのは、手順を読んで終わる教材ではない。お題を渡して、手を動かして、作品を仕上げる場所だ。見るだけより、作りながらのほうが身につく。受講生の様子が、それを証明していた。
SNSで作品を広げ、マットが直接レビューした
広め方も、ただの宣伝ではなかった。完成した作品をSNSで共有しやすくし、投稿した人にはマットが直接レビューする約束をした。
誰かに見てもらえると、最後まで作り切りやすい。直すポイントも分かる。投稿は増え、口コミも広がった。
さらにマットは、動画で教える人や別の学習サービスとも協力した。お題が最初からあると、動画を作る側も助かる。見た目を考える時間が減り、作る過程の説明に集中できるからだ。見る側も、現場の開発者がどう考えて進めるのかを追体験できる。
こうして利用者の層は、初心者だけでなく、すでに仕事をしている開発者にも広がっていった。実務経験があっても「ここが弱い」と気づいた部分を、お題で集中的に練習できる。
8か月後、仲間が増えてチームになった
サービスを始めて8か月ほどたったころ、同じ学校で教えていたマイクが手伝いを申し出た。2人で進めるうちに相性の良さが分かり、マイクは技術面の責任者として正式に参加した。
マットが現場の悩みを拾い、マイクが技術で支える。役割が自然に分かれ、サービスは前に進みやすくなった。
無料のまま育てて、あとから課金に切り替えた
しばらくの間、2人は本業と並行してサービスを育てた。利用者は増えたが、最初は無料のままだった。2020年になって、ようやく収益化の形を整えた。
基本のお題は無料で残しつつ、月額課金の人にはより本格的なお題や追加の素材を用意した。就職・転職で見せやすい作品を作れるようにする狙いもあった。
登録者は合計で2,500人を超え、売上も伸びた。ただ、有料に移る人は全体の1%未満だった。無料プランを設けているサービスでは、よくあることだ。
「最初の1作品」を作り切れない問題が見えてきた
数字が増えると、弱点もはっきりしてくる。課題は2つあった。
1つ目は、登録した人が最初の1作品を作り切るところまで進めないこと。
2つ目は、無料の人が有料に移る理由が弱いこと。
1つ目への対策として、2人は登録直後の案内を作り直した。いきなり難しいお題を渡さない。一番小さくて簡単なお題をすすめ、早く「作れた」という実感を得られるようにした。
小さくても、現実に近い題材で作品を仕上げると、自分の成長が分かりやすい。だから続く。
2つ目については、有料の人が「毎月使い続ける理由」を増やす方針を立てた。目的別の学習ルートを用意し、利用者同士で感想や助言をやりとりしやすくする。サービスを「お題の置き場」から「続けて通える場所」に変えていく考えだ。
努力の見える化が、就職につながる未来を作る
利用者のやる気を上げるために、サービス内にはポイントの仕組みも入れた。お題を解いたり、他の人に助言したりするとポイントがたまる。週・月・年ごとに上位者も表示される。
チャットのコミュニティもあり、質問や相談、感想を交わせる。他の人の解き方を見ると、「そんな進め方があるのか」と新たな学びにもなる。
マットとマイクは、多くの利用者が「就職や転職のために作品が欲しい」と考えていることも把握している。だから将来的には、ポイントや作品の積み重ねが採用側にも伝わる形にしたいと考えている。
企業がスキルや経験などの条件で人材を検索できる仕組みを作り、条件に合う人を見つけやすくする。ポイントが高い人ほど上位に表示されれば、企業は多くの作品をまとめて確認できる。利用者にとっても、努力が数字と作品で伝わる仕組みになる。
完璧を目指さず、小さく出して直し続けた
このサービスはまだ発展途中だが、マットが大事にしている考えはぶれない。
最初から完璧を狙わない。まず小さく作る。人に使ってもらう。意見を集める。直す。それを繰り返す。
実際、最初のバージョンは見た目が良いとは言えなかった。マットは色の識別が苦手で、デザインにも自信がなかった。それでも利用者の声を頼りに改善を重ね、少しずつ「作品を増やせる場所」に育てていった。
画面の見た目を全部自分で考えられなくても、良い作品は作れる。必要なのは、作る練習を積み重ね、見せられる形に整え、少しずつ良くしていく姿勢だ。
