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「コードは書ける。でも、デザインができない」有料移行率1%未満でも伸びた“実装だけに集中できる課題”の設計

7 min read2026年2月20日
「コードは書ける。でも、デザインができない」有料移行率1%未満でも伸びた“実装だけに集中できる課題”の設計

ビジネス概要

事業タイプ

SaaS

フェーズ

拡大期

規模感

有料へ移る人は全体の1%未満

概要

完成したデザイン素材付きのフロントエンド課題を提供し、デザインが苦手な学習者が就職に使える制作物を作れるようにするサービス。

ターゲット

フロントエンドを学ぶ初学者・受講生(ポートフォリオを作って就職活動に使いたい人)

主な打ち手

完成作品をSNSで共有しやすくし、共有者には本人がコードレビューする仕組みを先に作って投稿と認知を増やした。

ストーリーの流れ

Problem

初学者はコードが書けてもデザインができず、ポートフォリオに自信が持てず就職活動でつまずいていた。

  • 実務経験がないと何ができるかを示す材料が少なく、作ったものがないと採用側が判断できない状況だった。
  • 受講生は「コードは書ける。でもデザインができない」と繰り返し訴えていた。
Insight

受講生が本当に必要としているのはデザインを考えることではなく、完成したデザインを正確に実装する練習機会だとマットは気づいた。

  • 現場のように完成したデザインを受け取り、それを画面に落とし込む力が求められていると捉えた。
  • 最初から見た目が整う課題なら就職に使える作品も増やせると考えた。
Problem

パーソナルトレーナーとしては予約が埋まっても収入が伸びず、時間の切り売りの限界に直面した。

  • 働ける時間に上限があり、値上げも簡単ではない構造が足かせになった。
  • 紹介手数料やジム開業も検討したが、顧客が戻らない不確実性や固定費・借金リスクが重かった。
  • オンラインで広く価値を届けたい一方で、当時はプログラミングができないことが障壁だった。
Action

外注の高コストと失敗リスクを避けるため、マットは自分で作れるようになる決断をした。

  • General AssemblyのWeb開発コースに入り、3か月の集中講座に飛び込んだ。
  • 学び始めると強い手応えがあり、その後は開発者としてフルタイムで働き始めた。
  • 2015年からは同じ学校で教える側にも回り、仕事と講師を両立した。
Action

教室で繰り返し出た悩みを起点に、デザイン素材を配布して実装に集中できる小さな課題サイトを作った。

  • 週2回の講座で「次に何を作れば就職で戦えるか」が何度も問われた。
  • 参考サイトを見せるだけでは解決せず、最初から使えるデザイン一式が必要だと判断した。
  • 課題を1つだけ置いたシンプルな場所を作り、まず受講生に試してもらった。
Growth

受講生の反応を受けて課題形式の価値を確信し、Frontend Mentorの種が固まった。

  • 受講生からは「これ、もっと課題がほしい」と即座に要望が返ってきた。
  • チュートリアル型よりも課題型のほうが主体的に考えて手を動かすため伸びると捉えた。
Growth

SNS共有とコードレビューを組み合わせ、「広めたくなる仕組み」を先に作って自然拡散を促した。

  • 完成物をSNSで共有しやすくし、共有者にはマット自身がコードレビューする設計にした。
  • 投稿が増えるほど名前が広がる循環を意図して作った。
  • 発信力のある講師や動画制作者との協力も生まれ、課題がコンテンツ化しやすくなった。
Team

開始から8か月ほどでマイク・ヘイデンがCTOとして正式に加わり、体制が強化された。

開始から8か月ほどCTO参画までの期間
  • 同じ学校で教えていたマイクが「手伝いたい」と申し出たことがきっかけだった。
  • 2人はうまく噛み合い、協業が前提の開発運営に移った。
Monetize

2020年にサブスク型の有料プランを追加し、無料の練習場をビジネスへ転換した。

2020年有料プラン追加
全体の1%未満有料移行率
  • 無料でも基本課題は使える一方、有料ではより細かいデザインデータや質の高い課題にアクセスできるようにした。
  • 有料課題はポートフォリオとして見せやすい本格的な作品になりやすい設計だった。
  • 登録者が増え、売上も伸びたが、有料移行は全体の1%未満にとどまった。
Action

収益化後の課題として、登録者を最初の課題着手まで導く導線を作り直した。

  • 登録直後の案内を改善し、ウェルカムメールで「まずはこれが簡単」というおすすめ課題を示した。
  • 小さな課題で短時間に完成体験へ到達させ、「現場に近い制作は力がつく」という実感を早めに掴ませる狙いだった。
Monetize

有料化は継続価値を増やす方針で、学習ルート整備やコミュニティのフィードバック導線を強化した。

  • 使い続ける理由を増やすことを中心に据えた。
  • 無料で広く使ってもらい、一部が課金するモデルとして設計を積み上げた。
Growth

ポイント制度とランキング、コミュニティ交流で学習の継続と相互支援が回る仕組みを作った。

  • 課題の難しさに応じてポイントが入り、他の利用者を助けたりフィードバックしたりしても増える設計にした。
  • 週間・月間・年間のランキングで上位が見え、チャットで相談や作品への意見が得られる場になった。
  • 自分の課題解決だけでなく、他人の解き方も学べる環境を用意した。
Scale

将来的にはポイントを採用側にも役立つ形にし、企業を呼び込む動きを検討している。

  • 採用担当が条件で検索し、その条件に強い人が上位に出てくる構想を描いている。
  • ポイントが高い人ほど制作物も多く、採用側が実物を見て判断しやすくなる想定である。
  • 採用向け機能はまだ準備段階だとしている。
Insight

小さく作って早く見せ、反応を受けて改善を繰り返すことがFrontend Mentorの成長原理になった。

  • 最初のサイトは見た目が良いものではなかったが、作って見せて直すサイクルを回した。
  • 課題を増やし、広がる仕組みを足し、仲間が加わり、無料から有料へと形を変えて積み上げた。
  • 教室で聞いた「自分は開発者であって、デザイナーじゃない」という一言が出発点だった。

「コードは書ける。でも、デザインができない」。そんな理由でポートフォリオに自信が持てず、就職活動で足踏みしてしまう。学んだはずなのに、形にできないもどかしさは、多くの初学者が抱える不安だ。

ロンドンの教室でその声を何度も聞いたマットは、「なら最初から、完成したデザインを渡して実装だけに集中できる場を作ればいい」と考える。小さく作って見せ、反応をもらいながら直し続けた先に、Frontend Mentorが生まれた。

やがて無料の“練習場”は、サブスク型のビジネスへ変わっていく。有料へ移る人は全体の1%未満。それでもサービスは伸び続けた。何が転機になり、どう広がっていったのか。

デザインが苦手でも、フロントエンドで勝負できる

大学を出たあと、人生は教科書どおりに進まない。特に実務経験がないと、「自分は何ができるのか」を見せる材料が少ない。履歴書に書ける資格があっても、それだけで採用されるわけではない。作ったものがないと、相手は判断できない。

マット・スタダートは、その現実を教室で何度も見た。ロンドンのGeneral AssemblyでWeb開発を教えていたとき、受講生たちは技術を学んだのに、就職活動でつまずいていた。理由は単純だった。見せられるポートフォリオが弱い。

そして、受講生たちは決まって同じことを言った。

「コードは書ける。でもデザインができない。だから作品がダサく見える」

マットはそこで気づく。彼らがやりたいのは、デザインを考えることではない。現場みたいに、完成したデザインをもらって、それを正確に画面にすることだ。

ならば最初から、そういう練習場所を作ればいい。

デザインデータ一式を渡して、「このとおりに実装してみろ」という課題を置く。開発者はコードに集中できる。見た目も最初から整っている。就職に使える作品も増える。

この発想が、のちにFrontend Mentorというサービスになる。

パーソナルトレーナーの限界が、転機になった

マットはもともと開発者ではない。2009年にパーソナルトレーナーとして働き始めた。

仕事は順調だった。でも2014年ごろ、壁にぶつかる。予約は埋まっているのに、収入が増えない。時間を切り売りする仕事だから、働ける時間が上限になる。値上げも簡単ではない。

他のトレーナーに客を紹介して手数料をもらう方法も試した。しかし紹介した客が戻ってこないこともあった。ジムを開く案も頭をよぎったが、借金や固定費のリスクが重くのしかかる。

もっと広い形で価値を届けたい。オンラインならできそうだ。そう思ったが、問題がひとつあった。プログラミングができない。

外注すれば作れる。でも高い。失敗したら痛すぎる。

そこでマットは決める。

「自分で作れるようになろう」

General AssemblyのWeb開発コースに入り、3か月の集中講座に飛び込んだ。学び始めると、想像以上にのめり込んだ。初めて「これだ」と感じる手応えがあった。

講座を終えたあと、マットは開発者としてフルタイムで働き始め、2015年からは同じ学校で教える側にも回った。仕事と講師を両立する日々が続く。

教室がそのまま、最初のユーザーになった

2018年、マットは週2回のフロントエンド講座を担当していた。その教室で、あの質問が何度も出る。

「次に何を作れば、就職で戦えるポートフォリオになる?」

よくある答えは「自分のための何かを作ろう」「友達や家族のために作ろう」だ。だが多くの受講生は続けてこう言う。

「自分は開発者で、デザイナーじゃない。作っても見た目が良くならない」

マットは、デザイナーの作品集サイトを見せて参考にさせていた。でもそれは根本的な解決にならない。受講生が欲しいのは、参考ではなく、最初から使えるデザイン一式だった。

そこでマットは、小さなサイトを作る。フロントエンド課題がひとつだけ置いてあるシンプルな場所。デザイン素材をダウンロードできて、あとは自分で実装するだけ。

まずは受講生に試してもらった。

反応はすぐ返ってきた。

「これ、もっと課題がほしい」

チュートリアルをなぞるだけの学習は、どうしても受け身になりやすい。でも課題形式は違う。完成までの道筋を自分で考え、手を動かす。だから伸びる。

マットは確信する。これは役に立つ。

「広めたくなる仕組み」を先に作った

マットは課題を増やしながら、自然に広がる道も作った。

完成した作品をSNSで共有しやすくする。そして共有してくれた人には、マット自身がコードレビューをする。すると「見てもらえるなら投稿しよう」となる。投稿が増えれば、サービスの名前も広がる。

さらに、発信力のある講師や動画制作者とも協力する流れが生まれた。たとえばフロントエンド講師として知られるケビン・パウエルは、Frontend Mentorの課題を使った解説動画を作った。

発信者にとっては、デザインを用意しなくていいから動画が作りやすい。視聴者にとっては、プロの考え方で課題を解く過程が学べる。両方に得がある。

使う人は学生だけではなかった。現役の開発者も、足りない部分を見つけたときに課題へ戻って補える。マットはこの学び方を「必要なときに必要な分だけ学ぶ」ものとして捉えた。

開始から8か月ほどで、同じ学校で教えていたマイク・ヘイデンが「手伝いたい」と言ってきた。2人はうまく噛み合い、マイクはCTOとして正式に加わる。

無料の遊び場が、ビジネスに変わった

しばらくの間、マットとマイクは本業を続けながらFrontend Mentorを育てた。利用者は増えていくが、サイトは無料のままだった。

転機は2020年。収益化の形が見えた。

サブスク型の有料プランを追加する。無料でも基本の課題は使える。ただ、有料だとより細かいデザインデータや、質の高い課題にアクセスできる。

有料課題は、ポートフォリオとして見せやすい本格的な作品になりやすい。採用担当に見せるなら、完成度の高いほうが強い。

登録者が増え、売上も伸びた。ただし、有料に移る人は全体の1%未満だった。それでも珍しい話ではない。無料で広く使ってもらい、その一部が課金するモデルはよくある。

マットたちが悩んだ課題は大きく2つだった。

  • 登録した人を、最初の課題着手まで連れていくこと
  • そこから有料へ移ってもらうこと

まず1つ目。登録直後の案内を作り直した。ウェルカムメールで「まずはこれが簡単」とおすすめ課題を示し、取りかかりやすい導線を用意する。小さな課題なら短時間で完成まで行ける。そこで「現場に近い制作は、力がつく」という実感を早めに掴める。

2つ目の有料化は、継続して価値を感じられる仕組みを増やす方針にした。学習ルートを整えたり、コミュニティからフィードバックを得やすくしたりする。使い続ける理由を増やす、という考えだ。

ポイントが、就職とつながる未来

Frontend Mentorが伸びた理由のひとつに、ポイント制度がある。課題の難しさに応じてポイントが入る。さらに他の利用者を助けたり、フィードバックしたりしてもポイントが増える。

ランキングもある。週間、月間、年間で上位が見える。コミュニティのチャットでは相談が飛び交い、作品への意見ももらえる。自分の問題が解けるだけでなく、他人の解き方も学べる。

多くの利用者が求めているのは、就職に通用するポートフォリオだ。マットはそこを理解している。だから将来的には、ポイントを採用側にも役立つ形にしたいと考えている。

採用担当が条件で検索し、その条件に強い人が上に出てくる。ポイントが高い人ほど制作物も多く、採用側は実物を見て判断しやすい。

この採用向け機能はまだ準備段階だが、企業を呼び込む動きも検討している。

小さく作って、早く見せて、直し続ける

マットが繰り返し強調するのは、「できるだけ小さく作り、早く人に見せ、改善を繰り返す」ことだ。

最初のFrontend Mentorは、見た目が良いサイトではなかった。マットは色の区別が苦手で、デザインが得意でもなかった。

それでも作った。受講生に見せた。反応を受けて直した。課題を増やした。広がる仕組みを足した。仲間も加わった。無料から有料へと形を変えた。

そうやって少しずつ積み上げた結果、学びと仕事のあいだにある溝を埋めるサービスができあがった。デザインが苦手な開発者でも、胸を張って作品を見せられる場所が。

そしてその出発点は、教室で聞いた一言だった。

「自分は開発者であって、デザイナーじゃない」