「宣伝になるから無料で」。そんな言葉に、クリエイターが立ち止まってしまう瞬間がある。
名前は広がるかもしれない。でも、宣伝だけでは家賃も食費も払えない。頑張っても収入に結びつきにくい不公平が、当たり前のように残っていた。
その現実を変えたい。努力がそのまま収入につながる道を増やしたい。そうして生まれたTipSnapsは、5年で登録者50万人規模に成長し、クリエイターに合計約3億7,000万円($2.5 million)を支払ってきた。
「宣伝になるから無料で」と言われる現実
クリエイターが企業からこう言われることがある。「お金は出せない。でも宣伝になる」。
たしかに名前は広がるかもしれない。でも宣伝だけでは家賃も食費も払えない。生活を支えるには、きちんとお金が必要だ。
しかも、立場が弱い人ほどこうした状況に巻き込まれやすい。たとえば黒人インフルエンサーは、同じ仕事でも低く見積もられやすいと言われてきた。頑張っても収入に結びつきにくい。そんな不公平が当たり前のように残っていた。
この現実を変えたい。努力がそのまま収入につながる道を増やしたい。そう考えて生まれたのがTipSnapsだった。
リオネルの原点は、家族の働き方にあった
TipSnapsを作ったのはリオネル・ドゥジェだ。
両親はハイチからアメリカに移住してきた。勉強もしていた。それでも条件のいい仕事にはなかなか届かなかった。父は整備士として働き、母は小売店で立ち仕事を続けた。
リオネルは思った。「家族のために、もっと稼げる道を見つけたい」。
工学の学位を取り、大企業で経験を積む。ソニー、バイアコム、ESPN、ジョンソン・エンド・ジョンソン。昼間はプロダクト管理の仕事をこなしながら、名だたる企業でキャリアを重ねた。
それでも心のどこかに、消えない思いがあった。自分と同じように、最初から不利な立場に置かれやすい人たちがいる。努力しても報われにくい人たちがいる。その現実を変えたい、という思いだった。
流行を読めても、会社では止められる
リオネルは早い段階から「次に何が来るか」を読む嗅覚を持っていた。
Spotifyが登場した頃、ソニーに提案したことがある。「対抗できるサービスを作るべきだ」。
しかし返ってきたのは冷たい言葉だった。「余計なことをするな」。
それからも、アイデアを出すたびに止められることが続いた。リオネルの中で何かが固まっていく。
だったら、自分で作るしかない。
夜と週末を使って、少しずつ形にしていった。
2016年の夜、「有料のInstagram」を思いつく
2016年のある夜、リオネルはInstagramを眺めていた。
人気のあるクリエイターはたくさんいる。でも、きちんと稼げているのは一部だけ。特に少数派のクリエイターは見つけてもらいにくく、企業案件を取れるのもやり方を知っている一握りに偏りがちだった。
そこでリオネルは発想を転換した。企業ではなく、ファンが支える形にできないか。
ファンのほんの一部が月に数ドルでも払えば、クリエイターは生活を支えられるかもしれない。
発想はシンプルだった。無料で見られる世界に「ここから先は有料」という壁を設ける。限定コンテンツを見たい人だけが払う。いわば「有料のInstagram」だ。
アプリではなく、まずウェブで始めた
TipSnapsは最初、スマホで使いやすいウェブサイトとして作られた。
理由は現実的なものだった。アプリにすると決済手数料が重くなりやすく、取引のたびに大きな割合を取られる可能性がある。少額をたくさん回すモデルでは、それが致命傷になりかねない。
立ち上げ方も地道なものだった。リオネルはフォロワーの多いクリエイターに直接メッセージを送り、「無料で始められる」「収入につながる」と一人ひとりに説明して回った。
最初に動いたのは、フォロワー100万人以上のフィットネストレーナーだった。
そこから口コミで広がり始める。ファンの中にもクリエイターがいて、「それ何?」「本当に稼げるの?」と話が伝わっていった。最初の1年で登録者は10万人に達した。
決済は、想像以上に高い壁だった
サービスを広げるうえで、決済の仕組み作りは大きな壁になった。
多くの決済会社は新しいモデルに慎重で、申し込みの手続きも長い。
理由もある。クリエイター向けのサブスクや投げ銭は、ネット通販より不正利用が起きやすいとされる。物が届く買い物と違い、デジタルの支払いは盗まれたカードで使われやすい面があるからだ。
リオネルは導入しやすい決済サービスを選びながら、リスクを分散するために複数の決済会社を組み合わせる形で対応していった。
手数料10%でも、積み上がると強い
TipSnapsは、クリエイターの売上から10%を手数料として受け取る。
ただし、そのうち半分ほどは決済会社に渡るため、TipSnaps側に残るのは約5%だ。
数字だけ見ると小さい。でも市場は大きい。フォロワー100万人のクリエイターなら、数万人が登録して支える可能性がある。人数が増えれば、わずかな割合でも大きな金額になる。
OnlyFansやPatreonとは、狙う場所が違う
似たサービスが増え、競争が気になる時期もあった。OnlyFansも勢いを増していく。
ただ、リオネルは方向性を決めていた。TipSnapsは大人向けではなく、一般向けでいく。
Patreonも老舗だが、ネットに慣れた一部の層向けという印象が強い。もっと「普通の人」が迷わず使えて、収益化できる場所を作りたい。それがTipSnapsの狙いだった。
インターネット上のクリエイターは何億人規模とも言われ、子どもの夢が「医者」や「弁護士」ではなく「YouTuber」や「インフルエンサー」になる時代になってきた。
資金集めは冷たく、小さな一歩から始まった
2019年、登録者が30万人規模になった頃、プラットフォームを改善するための資金が必要になった。
友人や家族だけでは足りない。リオネルは資金調達を学び、投資家に会いに行くようになった。
しかし多くの投資家は相手にしなかった。それでも動き続け、最終的に3人のエンジェル投資家から小さな資金を得ることができた。
「評価されない」経験が、確信に変わる
投資家とのやり取りは、リオネルに苦い感覚を残した。
同じ分野の会社が大きな資金を集める一方で、実績があっても真剣に見てもらえない。そこには、少数派が見落とされやすい構造があるのではないか。そう感じた。
そして思いはより強くなる。トレンドを作っているのに正当に扱われないクリエイターがいる。称賛されるだけでは生活は変わらない。必要なのは賞賛ではなく、直接お金が届く仕組みだ。
伸びるのは、「見過ごされてきた分野」
TipSnapsが成長の余地を見込むのは、これまで収益化が弱かった分野だ。
黒人の髪や美容、コメディ、料理、子どものインフルエンサー。こうした領域は視聴者が多いのに、お金が回りにくいことがある。
たとえば黒人の髪や美容の動画チャンネルはたくさんある。でも登録者が50万人いても、企業案件がなければ収入が少ないケースがある。
そこでTipSnapsの設計はこうなる。短い動画は無料で公開し、長い解説や特別版は有料にする。ファンの1%が月に約1,500円($10)払うだけでも、収入は大きく変わる可能性がある。
新機能TipPoolsは、ファンが先にお金を集める
リオネルは次の展開としてTipPoolsも開発した。
ファンが先にお金を出し合い、目標金額が達成されたら特別なコンテンツを見られる仕組みだ。ユニークなのは、企画するのがクリエイターではなくファン側という点で、支払った人だけがコンテンツにアクセスできる。
「今すぐ直接」お金が届く世界へ
TipSnapsは5年で登録者50万人規模に成長し、クリエイターに合計約3億7,000万円($2.5 million)を支払ってきた。取引ごとに10%の手数料を取りながら運営している。
大手SNSは広告で大きく稼ぐ。しかしそのお金が、コンテンツを作る人に十分還元されないことも多い。
だからこそ、クリエイターがすぐに、直接収益化できる道を用意したい。TipSnapsが目指すのは、才能と努力がきちんとお金に変わる、公平な土俵を作ることだ。
