ユーザーがどこでつまずいたのか分からない。気づいたときには、もう離脱している。カスタマーサポートの現場には、そんなもどかしさが残り続けていた。
SlackやDiscordに通知を飛ばせば、とりあえずは見える。けれど、それは「応急処置」に近い。前後の流れが分からないままでは、本当の原因に届かない不安が消えない。
その穴を埋めるために作られたのがLogSnagだ。公開直後から反応は集まり、2日で320人が無料登録。さらに2022年4月の本格公開時には無料ユーザーが約1,200人まで増えていく。ただし、次の壁ははっきりしていた。無料に慣れた人たちに、どうやって「払う理由」を作るのか。
無料の応急処置で稼げないなら、ちゃんとした道具を作る
絆創膏は傷を隠せても、原因そのものは直せない。カスタマーサポートの現場でも、同じことが起きていた。
サービスの中でユーザーが何をしたかを知りたい。トラブルが起きた瞬間に気づきたい。なのに、よくあるやり方は「SlackやDiscordに通知を飛ばす」だけ。便利に見えて、肝心なところが見えない。
この穴を埋めようとして、シャヤン・タスリムはLogSnagを作った。ユーザーの行動を安全に、分かりやすく、流れで追えるサービスだ。
開発は順調だった。反応も良かった。最初から売上も出た。けれど本当の勝負は別にあった。無料に慣れた人たちに、どうやってお金を払ってもらうか。そのために、誰に売るか、値段をどうするかを何度も作り直すことになる。
「パスワードが分からない」で消えていく人たち
シャヤンは2020年にコンピュータサイエンスを学んで卒業し、その後は政府系の仕事で開発をしていた。2021年9月に退職し、自分のプロダクトで勝負する道を選ぶ。
最初に作ったのは航空分野のマーケットプレイス「Checkride」。アメリカで飛行訓練を受けたい人と、教官や試験官をつなぐサービスで、2021年12月に公開した。
航空の訓練や資格には大きなお金が動く。だから、ユーザーが途中で離脱するのは致命的だった。
ところが現実は厳しい。利用者の多くはITに慣れていない。「パスワードの再設定が分からない」だけで、数分で帰ってしまう人がいた。
もし、どこでつまずいたかをすぐに見つけられたらどうなるか。電話をする、案内を送る、手助けできる。シャヤンはユーザー行動をリアルタイムで追う方法を探し始めた。
Slack通知は便利だが、ただの応急処置だった
最初に試したのは、Discord、Slack、Telegramといったメッセージアプリへの通知だった。APIでイベントを送るだけ。導入も簡単で、しかもほぼ無料。
でも、これは応急処置にすぎなかった。
たとえば「ログインに失敗した」という1回の出来事は分かる。でも、その前に何をしていたのか、どれくらい迷っていたのか、その後どうなったのか。流れが見えない。
さらに、メッセージアプリに情報を置く以上、第三者に見られるリスクもある。サポートのために集めたデータで、プライバシーを壊すわけにはいかない。
シャヤンが欲しかったのは、特定の1人のユーザーについて、サービス内の行動を時系列でまとめて追える道具だった。しかも安全で、細かいところまで分かるもの。
分析ツールは世の中にたくさんあるが、注文やDBの更新のような「細かいイベント」をリアルタイムで追うのは苦手なものが多い。ならば、自分で作るしかない。そうしてLogSnagの方向が決まった。
まず試作品を作り、反応で確信する
2022年1月、シャヤンは必要な条件を満たす最低限の仕組みを作った。友人や知り合いに見せると、手応えは強かった。「これ、欲しい」という反応が返ってきた。
紹介ページを作って掲示板などに投稿すると、2日で320人が無料登録した。
シャヤンは2022年1月末、Checkrideの運営を最小限にしてLogSnagに集中する。航空コミュニティとの関わりは深かったが、情熱が続かないと判断した。続けられない事業は、いつか止まる。早めに見切りをつけた。
こうして、公開しながら作り続け、数か月で利用者と売上を伸ばしていく。
変わったSEOで、必要な人に見つけてもらう
掲示板やSNSで「作っている途中」を見せる方法も試した。だが、そこに集まるのは開発者や起業家が中心で、規模も小さい。狙っている顧客層と少しズレていた。
そこで効いたのが検索だった。
シャヤンはCheckrideのときから「仕組みで記事を大量に作る」方法を使っていた。地域ごとの飛行学校リストのようなページを作り、月700件ほどの登録につなげた経験がある。
LogSnagでも同じ考え方で攻めた。たとえば「PHPでメモリ使用量をどう追うか」のように、具体的で検索されやすい疑問に答える記事を増やした。しかも、コピーして使えるコード例つき。
さらに、同じ内容を別のプログラミング言語向けに作り変え、1本の記事から20本以上のページを作る形にした。
加えて、質問サイトのような別サービスも用意し、コードの質問にAIが自動で答える仕組みも作った。短期間でページが増え、検索で見つかる入り口が一気に広がった。
結果、2022年4月に本格公開するころには、無料ユーザーが約1,200人まで増えていた。
次の壁ははっきりしていた。無料の人たちに、どう支払ってもらうか。
無料に慣れた人たちに、払う理由を作る
LogSnagの競争相手は、別の会社の高機能ツールだけではない。もっと強い敵がいた。「無料で、導入が簡単」なメッセージアプリ連携だ。
無料が当たり前の世界で、わざわざお金を払うには理由がいる。最低でも、Slack通知でできること以上を提供しないといけない。
試行錯誤の末に効いたのは、使った分に応じて上のプランへ移る仕組みだった。
多くの人は、いきなり高いプランを選ばない。まず無料で試す。だから無料プランには月200イベントという上限を置いた。もっと使いたい人は、段階的に上のプランへ進む。
上限に当たると必要性がはっきりする。結果として、利用開始から約2か月で有料に移る人が出やすくなった。上限に達した人のうち、上位プランへ移った割合は28%だった。
無料の応急処置ではなく、ちゃんとした道具にお金が払われる形が、ここで見えた。
LogSnagの中心にある「1人の行動を流れで追う」発想
LogSnagの核は「ジャーニートラッキング」という考え方だ。
特定の1人のユーザーが、サービスの中で何をしたか。最初から最後まで、時系列で追えるようにする。問題が起きた場所だけでなく、その前後の流れが見える。だから原因を探しやすいし、サポートもしやすい。
今後は、メールの自動化や、見やすい分析画面の強化も足していく計画だった。
作りすぎのリスクと、「早く出す」ことの重さ
シャヤンは成果に手応えを感じつつも、最初のプロジェクトは大きすぎたとも振り返っている。
Android、iOS、デスクトップ、Mac、Windows、いろいろなブラウザ。対応するだけでも大変で、作って、動かして、試す必要がある。1人でやるには重い。
市場に出すまで4か月かかった点も、理想とは違った。本当は1〜2週間で出して、反応を見て直したかった。
学びはシンプルだ。早く作って、早く試して、早く失敗から学ぶ。同じ要望が何度も出るなら、それは足すべき機能の合図になる。
短い周期でユーザーの声を集めること。それが、サービスを強くする一番の近道になる。
