年に約1億円(約7000万円)を稼ぐ22歳がいる。顔出しはせず、毎日の作業は「見守り」が中心で、だいたい2時間だという。
鍵になったのは、じっくり見せる動画ではなく「流しておく」ための長尺コンテンツ。台本も声も映像もAIに任せ、量産できる形に整えた。その仕組みはどこまで再現できて、どこに落とし穴があるのか。
顔を出さずに稼ぐ。22歳が作った動画工場
アダビア・デービスは22歳。大学を中退したあと、動画投稿サイトで複数のチャンネルを運営し、年に約1億円規模($700,000)を稼いでいるという。本人いわく、毎日の作業は「見守り」が中心で、だいたい2時間。
デービスが狙ったのは、いわゆる「じっくり見る動画」ではない。むしろ、途中で眠ってしまうことすら前提にした動画もある。ネットにはAIで大量生産された中身の薄い動画があふれていて、英語圏ではそれを「AI slop」と呼ぶことがある。ここでは「AIで大量に作られた中身の薄い動画」として話を進める。
いろんなジャンルを試し、当たりを残した
デービスは最初から一発で成功したわけではない。いろいろ作って、伸びたものを残し、ダメなら捨てる。チャンネルを作っては運用し、売ったこともある。
手がけたジャンルは幅広い。
- 子ども向けのゲーム動画(マインクラフトなど)
- 動物の面白い場面を集めたまとめ
- いたずら系
- アニメの切り抜きのような編集動画
- インド映画の場面集
- 有名人のうわさ話
その中でいちばん稼げたのは、意外なジャンルだった。長時間の歴史動画だ。6時間ほどの「寝るための歴史動画」で、落ち着いた声が淡々と語り続ける。見るというより、流しておくためのコンテンツだ。
台本も声も映像も、AIに作らせた
デービスの仕組みはシンプルだ。顔を出さない。型をそろえる。増やしやすくする。
動画の素材はすべてAIでそろえる。台本を作り、映像素材を用意し、読み上げ音声もAIで生成する。それらをつなげて長尺に仕上げる流れは、自分たちのソフトで自動化しているという。
うまく回ると、1本あたりの制作費が約9,000円($60)まで下がることもある。しかも完成品は6時間級。人の手でやれば重労働になる部分を、機械に任せた。
月に約600万〜900万円(約4000万〜6000万円)が入り、固定費は約100万円(約650万円)
デービスの説明では、広告などの収入は月に約600万〜約900万円($40,000〜$60,000)。運営費は月に約100万円($6,500)で、主に小さなチームの人件費だという。
取材側は収入の記録や画面の写しも確認したとしている。中には、1つのチャンネルだけで月に数百万〜数千万円(何万〜何十万ドル)の入金がある例もあったという。全体を平均すると、年に約1億円規模($700,000)ほどになる計算だ。
10歳で編集にのめり込み、空気の変化を嗅いだ
デービスは子どものころから動画投稿サイトを見て育った。10歳ごろにはゲーム実況を自分で考え、編集に1日6時間を使っていたという。
当時は「好きで作る」雰囲気が強かった。しかし2022年ごろ、文章を生成するAIが一気に広まり、ネットの空気が変わったと感じた。顔や名前で勝負する個人より、同じ型で大量に出す側が強くなる。そう読んだ。
チャンネルを売って現金を手にし、大学をやめた
大学生のころ、デービスは最初のチャンネルを企業に売ったことがあるという。企業はそのチャンネルを自社商品の宣伝に活用した。
その資金で車を買ったため、学費に回す余裕がなくなったとも語っている。さらに、授業と動画制作を両立しようとするとどちらも中途半端になる。そう判断して大学をやめた。
遠回りに見えるが、デービスにとっては「今の波に乗る」ほうが大事だった。
ネットは会話の場ではなく、注意を売買する市場になったとデービスは考えている。
デービスは今のネットを次のように見ている。「考えを交換する場所」ではなく、「注意を集めてお金に換える仕組み」だと。広告を出す会社がいるから動画サイトが成り立つ。だから動画は、広告に都合のいい形へ引き寄せられていく。
その中でデービスが最重要とするのは視聴時間だ。どれだけ長く見られたか。そこが強いほど、広告面で有利になりやすい。
最初の数秒で、離脱するか決まる
視聴者はすぐ離れる。だから最初を作り込む。色のコントラストを強くしたり、冒頭の声のトーンを工夫したりして、目と耳をつかむ。
わざと見直させて、時間を伸ばす
まとめ動画では、一瞬だけクモの映像を挟むことがあるという。「今、見えた気がする」と思わせて巻き戻しを誘う。
短い動画では、画面のテキストをわざと誤字にすることもある。コメントで指摘させるためだ。止めて読ませ、反応させ、結果として視聴時間を伸ばす。
AIの薄い動画が増えすぎて、景色が変わった
別の調査では、新規ユーザーに表示される動画の2割以上が「AIで大量に作られた中身の薄い動画」だという結果もある。そうした動画だけを出すチャンネルが、合計でとてつもない再生数と登録者数を集め、広告で大金を生んでいるともされる。
デービスは超大手というほどではないが、作ったり売ったりしたチャンネルには登録者が数十万人から100万人を超えるものもあるという。今は全体で1日に約200万回再生されていると話す。
自分のやり方を見せてしまい、同じ動画が増えた
デービスは大きな失敗も語っている。自分たちのソフトを宣伝する動画で、AIを使った制作方法を公開したことだ。
真似はあっという間に広がった。同じ型の動画が増え、せっかくの穴場が、あっという間に競合だらけになった。ネットでは、うまくいく型ほど早くコピーされる。デービスはそれを身をもって知った。
本当に怖い相手は、個人ではなく大企業
デービスが警戒するのは、個人の模倣より資金力のある企業だ。儲かる型が見つかれば、企業は人も金も投入して大量生産できる。
だからデービスは、個人がAIで長尺動画を作って大きく稼げる時期は、2027年ごろまでではないかと予想している。早く動いた人が有利な時期は、永遠には続かないという見立てだ。
流行を作るより、勝っている型の隙間を探す
デービスは新しい流行をゼロから作るタイプではない。すでにうまくいっている形を観察し、その中で小さな工夫を見つけるほうが得意だという。
最近試しているのは、掲示板の投稿を読み上げる動画とゲーム映像を流し続ける動画の組み合わせ。よくある体験談ではなく、怖い話に寄せる。「怖い話を聞きながら寝たい人」を狙う。
大きく外さない型に、少しだけズラしを入れる。それがデービスのやり方だ。
AIが増えるほど、「本物っぽさ」が逆に価値になる
デービスは、AI動画が増えすぎると、人々が「本当にその人が作った」と感じられるものを求めるようになると考えている。
編集を盛りすぎない。視聴者を引っかけるような小技をやりすぎない。そういう作り手に支持が集まる可能性がある。
しばらくは状況が荒れるかもしれない。それでも最後に残るのは、顔が見える人や信頼される発信者だとデービスは考えている。
