記事一覧に戻る

会社のロゴグッズ係だった女が 「連絡が来たら、必ず電話に出る」だけで 93人チーム。 法人ギフト業界をひっくり返した全手口

8 min read2026年3月2日
会社のロゴグッズ係だった女が 「連絡が来たら、必ず電話に出る」だけで 93人チーム。 法人ギフト業界をひっくり返した全手口

ビジネス概要

事業タイプ

Other

フェーズ

拡大期

規模感

2022年時点で93人のチーム

概要

法人が社員・採用候補者・見込み客に「気持ちが伝わるギフト体験」を届けるためのギフト手配と配布の仕組みを提供する事業。

ターゲット

社員数200〜5,000人規模の法人向けソフトウェア企業の人事・マーケ担当者(法人ギフトの購買担当)

主な打ち手

外部倉庫に頼らず自社倉庫を開いて梱包・配送まで握り、開封体験の品質を担保した。

ストーリーの流れ

Problem

会社ロゴ入りグッズの購買体験が現代の買い物感覚とズレていることが不満だった。

  • 担当者は人事やマーケティングの20代〜30代の女性が多いのに購買体験は昔のままだった。
  • スーツ姿の営業が見本を持参し試着も持ち帰りもできず手続きも紙っぽかった。
  • ネット通販のように見やすく比べやすくすぐ買える当たり前が法人ギフトだけ止まっていた。
Insight

法人ギフトの停滞はモノではなく体験設計の欠落にあると見抜いた。

  • 気持ちが伝わらないギフトは印象に残らず行動も動かしにくいと捉えた。
  • ギフトは採用や営業など関係を動かすスイッチになり得ると考えた。
  • 好意を受けると返したくなる心理が次の行動につながると整理した。
Action

法人向けギフトのスタートアップBrilliantを立ち上げ世界で一番よいギフト体験を目標に据えた。

  • 送る側にも受け取る側にもよい体験を届けることを軸にした。
Insight

資金調達での苦い経験から外部資金への過度な依存がリスクを増やすと実感した。

  • 通販型のスタイリング事業は月の売上が大きくても株主構成が複雑だと疑われ評価されなかった。
  • 条件の悪い提案や創業者は入れ替えられるという圧力も受けた。
  • 契約直後に支援者が撤退する出来事も経験した。
  • 投資家とスタートアップをつなぐ仕事で外部資金に頼ると結果が両極端になりやすいと見た。
Action

2015年に仕事を辞めて外部資金を入れず利益が出る形を狙ってBrilliantを始めた。

2015年Brilliant創業
  • サービス型の事業は売上が立ちやすい点も計算に入れていた。
  • デザインや営業や開発や会計や提案資料づくりまで一人で担った。
  • サイトを自分で作り仕入れ先を探しメールで営業を始めた。
Action

最初の主要顧客として社員数200人〜5,000人ほどの法人向けソフトウェア企業に手応えを得た。

  • 取引が長く続きやすくギフト費用が採用や定着や営業の成果として返ってきやすいと見立てた。
Growth

地味な即応を徹底し電話に出るだけで大手企業の責任者を顧客化するきっかけを作った。

  • メール署名に電話番号を入れ連絡が来たら必ず電話に出た。
  • 決め手は内容よりも電話に出たことだった事例があった。
Growth

担当者の転職後も取引が連鎖し既存顧客からの売上が伸びる状態を維持した。

  • 新しい職場でまた取引が始まり元の会社との取引も続いた。
  • 既存顧客からの売上が伸びる指標でも高い水準を保ったとされる。
Team

事業開始から9か月ほどで連絡が増え初めて採用に踏み切った。

  • 取引先や仕入れ先や配送会社からの連絡が増えひとりでは回らなくなった。
  • ギフト選定とデザインと進行管理をまとめて担える相棒をユニコーンと呼んで探した。
  • 合わない場合は早めに契約を終える判断もした。
Scale

ガレージ梱包の限界と品質基準から利益を使って自社倉庫を開く決断をした。

  • 近所から軽い工場みたいだと苦情が出て自宅ガレージでの運用が続けられなくなった。
  • 外部倉庫を探したが基準を満たす場所が見つからなかった。
  • 箱を開けた瞬間の印象が感情と次の行動につながるため無機質な袋では狙いが外れると考えた。
  • 競合が倉庫を避ける中でサービスと物流の両方を握る道を選んだ。
Action

企業が自分たちで配布を進められるソフトウェアも用意してギフト運用を仕組み化した。

  • 企業向けオンラインストアや社内通貨のような仕組みやギフトカードやプロモーションコードに対応した。
  • 住所が分からない相手にもメールで住所入力を依頼でき反応も管理画面で見られるようにした。
  • 営業管理システムや人事系システムと連携し用途別に送りやすくした。
Scale

2022年の投資環境変化を受け特定業界依存を避けて金融や法律事務所や宿泊業へ顧客を広げた。

2022年投資環境変化
  • 一定規模の社員数がいてやる気や定着を大事にする経営陣がいる会社と相性がよかった。
Monetize

自己資金と利益で育てるブートストラップを続け交渉で強い立場を持てるようになった。

  • 外部資金を受け入れるなら失うものと得るものを理解すべきだという姿勢を貫いた。
  • 将来資金調達を選ぶとしても自分たちに合う条件を選びやすくなると整理した。
Team

ガレージから始まったBrilliantは2022年時点で93人のチームになった。

93人チーム規模
2022年時点到達時点
  • 大手スタートアップのギフト企画も数多く手がけるようになった。

会社で働きながら、「この買い方で本当にいいのだろうか」と感じ続けていた。社員に配る会社ロゴ入りグッズの購買体験が、いまの感覚とあまりにズレていたからだ。

ネット通販のように、見やすくて比べやすくて、すぐ買える。そんな当たり前が、なぜか法人ギフトだけ止まっている。停滞した仕組みの中で生まれるモヤモヤは、仕事の不安にもつながっていく。

その違和感を起点に、彼女はひとりでスタートアップを立ち上げた。外部資金に頼らず、ガレージから始めて、やがて2022年時点で93人のチームへ。法人ギフトの「体験」を変える挑戦が動き出す。

気持ちのこもったギフトは、仕事の景色を変える

会社で働いていたミリー・タデワルドは、ずっとモヤモヤしていた。

社員に配るための「会社ロゴ入りグッズ」を買う仕事が、今の買い物の感覚とあまりにズレていたからだ。

担当になるのは、人事やマーケティングの20代〜30代の女性が多い。なのに購買体験は、昔のままだった。スーツ姿の営業がスーツケースを抱えてやって来て、パーカーの見本を机に広げる。試着はできない。持ち帰りもできない。発注は紙っぽい手続きが多い。営業が親切でも、仕組みが遅れていた。

ネット通販なら、見やすくて、比べやすくて、すぐ買える。なのに「法人ギフト」だけ、時間が止まっている。ミリーはそこに、仕事のチャンスがあると感じた。

こうしてミリーは、法人向けギフトのスタートアップ「Brilliant」を立ち上げる。目標はシンプルだ。送る側にも、受け取る側にも、「世界で一番よいギフト体験」を届けること。

遠回りが、武器になった

ミリーは少し変わった経歴を持っている。

大学ではデザインを学び、卒業後はウェブ制作の会社を立ち上げた。サイトを作り、データベースを使い、仕組みで仕事を回す。けれど同じようなサイトを何度も作るうちに、だんだん飽きていった。

そこで今度は法律の世界に飛び込む。名門の大学院を出て、試験にも合格した。だが、法律の仕事では、大事な意思決定に関われない場面が多いと感じた。自分で舵を切れない仕事は選ばなかった。

その後はコンサルティング会社に入り、2010年にはシカゴの会社で新規事業部門の責任者になる。限られた予算で結果を出すやり方、いわゆるブートストラップの考え方をここで体に入れた。

プログラミングも独学で身につけていた。ミリーは「タイプ2の楽しさ」が自分の強みだと言う。やっている最中はしんどい。でも終わったあと、あれは楽しかったと思える。しかもミリーは、ときどきその“しんどい最中”すら面白がれた。だからコードを書く作業にもハマった。

資金調達で味わった苦さ

起業の世界を近くで見ていると、キラキラした話ばかりではない。

ミリー自身も、資金調達で厳しい経験をした。育てていた通販型のスタイリング事業は、月の売上が大きくても評価されなかった。理由は「株主構成が複雑」だという、やや理不尽な疑いだった。

条件の悪い提案を出されたり、「創業者は入れ替えられる」と言われたりもした。やっと支援者が決まっても、契約直後に撤退される。そんなことも起きた。

その後、ミリーは投資家とスタートアップをつなぐ仕事に移る。多くの起業家と話すうちに、外部資金に強く頼ると、結果が両極端になりやすいと実感していく。うまくいけば一気に伸びる。だが、失うものも大きい。

だからこそ、次は自分で「納得できる形」で事業を作ろうと決めた。

法人ギフトの問題は、モノではなく体験だった

ミリーが見ていた問題は、単に発注が古いことだけではない。

もっと根っこにあるのは、「ギフトの考え方」が抜け落ちていることだった。

気持ちが伝わらないプレゼントは、印象に残らない。たとえば「約7,500円($50)のギフトカードを送った」という味気ないメールだけでは、人の心は動きにくい。

ギフトは、社員向けのマグカップやパーカーだけではない。採用したい相手に送ることもできる。営業で契約を取りたいときにも使える。連絡したい見込み客がいるなら、電話をかける前にギフトを送る手もある。

人は好意を受けると返したくなる。相手がギフトを気に入れば、提案を聞く気持ちになったり、少なくとも話す時間を作ったりしやすくなる。ギフトは「ただの物」ではなく、関係を動かすスイッチになり得る。

2015年、ひとりで始めた

2015年、ミリーは仕事を辞めてBrilliantを始める。

外部資金は入れない。まずは利益が出る形を狙う。サービス型の事業は売上が立ちやすい。そこも計算に入っていた。

ミリーは一人で何でもやった。デザイン、営業、開発、会計、提案資料づくり。サイトも自分で作り、仕入れ先を探し、メールで営業を始めた。

最初は幅広い業界に連絡した。だが手応えがあったのは、社員数200人〜5,000人ほどの法人向けソフトウェア企業だった。こうした会社は取引が長く続きやすい。ギフトに使ったお金が、採用や定着、営業の成果として返ってきやすいからだ。

そして、成長の最初の火種になったのは、意外なほど地味な行動だった。

「連絡が来たら、必ず電話に出る」

メール署名に電話番号を入れていたら、大手企業の責任者が本当に電話をかけてきた。その場で顧客になった例もある。決め手は、内容よりも「電話に出たこと」だった。

こうしたつながりは、その後も効いた。担当者が転職しても、新しい職場でまた取引が始まる。元の会社との取引も続く。Brilliantは既存顧客からの売上が伸びる指標でも、高い水準を保った。

ガレージから始まり、倉庫を持つ覚悟へ

事業を始めて9か月ほどで、取引先、仕入れ先、配送会社からの連絡が増えた。ひとりでは回らない。そこで初めて採用する。

最初に欲しかったのは、ギフトの選定、デザイン、進行管理をまとめて担える相棒だった。画像編集ソフトが使えて、表計算もできて、販売の感覚もあって、簡易システムも触れる。そんな人材はめったにいない。ミリーはその役割を「ユニコーン」と呼んだ。

採用は簡単ではなかった。デザイナーを採ったからといって、提案力や販売力があるとは限らない。トレンドに合わせて変化できるかも重要だった。合わない場合は、早めに契約を終えることもあった。

あるときは、とても創造的な人が初日に退職を申し出た。やりたかったのはデザイン中心で、進行管理の比重が大きい仕事は合わなかったらしい。ただその1日で、社内チャット用のスタンプを作っていった。それは後に、チームで長く使われることになる。

しばらくは少人数のリモート体制で、梱包作業は自宅のガレージで回した。だが近所から「軽い工場みたいだ」と苦情が出て、続けられなくなる。

外部倉庫も探した。けれどミリーの基準を満たす場所が見つからなかった。

ギフトは、箱を開けた瞬間が勝負になる。受け取った瞬間の印象が、感情を動かし、次の行動につながる。無機質な袋にバーコードを貼っただけでは、狙いが外れる。

だからミリーは、利益を使って自社倉庫を開く決断をする。

本当は、設備を持たない軽い運営を目指していた。だが現実は、倉庫と機材を持つ重い構造になった。それでも、競合が「ソフトウェア企業っぽさ」を優先してモノや倉庫を避ける中で、Brilliantはサービスと物流の両方を握り、堅実に積み上げる道を選んだ。

配る仕組みも、テクノロジーで作った

Brilliantは「ギフトを選んで送る」だけの会社ではない。企業が自分たちで配布を進められるソフトウェアも用意した。

企業向けのオンラインストアを作れる。社内通貨のような仕組み、ギフトカード、プロモーションコードなど、法人特有の機能にも対応する。

住所が分からない相手にも送れる。メールで住所入力を依頼し、管理画面で開封率やクリック率などの反応も見られる。

営業管理システムとつなげれば、営業担当が見込み客の状況に合わせてギフトを送れる。人事系システムとも連携でき、新入社員向けセットや社内ギフトを簡単に送れる。

外部資金より先に、手元の武器を増やす

Brilliantは法人向けソフトウェア企業を主要顧客として安定していた。だが2022年、投資環境が変わる。特定業界だけに寄りかかるのは危うくなった。

そこで金融、法律事務所、宿泊業などにも広げた。一定規模の社員数がいて、やる気や定着を大事にする経営陣がいる会社と相性がよかった。

ミリーは、投資家の資金に目を奪われず、事業の理想を売り渡さなかったことを誇りにしている。外部資金が悪だとは思わない。だが受け入れるなら、何を失い、何を得るのかを理解しなければならない。

資金調達で会社の一部を手放し、新しい上司が増えることを、当たり前のように祝う文化にも疑問を持っている。

大きな目標に向かって一気に伸ばすなら、投資が合う場面もある。だが全員にとって正解ではない。これから5年、10年をどう過ごしたいのか。そこまで考えて決めるべきだ。

自己資金と利益で育てるブートストラップを続けたことで、Brilliantは交渉で強い立場を持てるようになった。将来もし資金調達を選ぶとしても、自分たちに合う条件を選びやすい。

外部資金に頼らない道もある。その選択肢は、もっと知られていい。ミリーはそう考えている。

そして今、ガレージから始まったBrilliantは、2022年時点で93人のチームになった。大手スタートアップのギフト企画も数多く手がける。

きっかけは、たったひとつの違和感だった。

「なぜ、法人ギフトだけ、こんなに不便なんだろう」

その疑問を、ミリーは事業に変えた。気持ちが伝わる体験を、仕組みとして届けるために。