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投資銀行を捨てた無名の男が「インドネシア移住でデザイナーを育てる」で5か国255人。新興国デザイナーを世界に直結させる仕掛け

10 min read2026年3月26日
投資銀行を捨てた無名の男が「インドネシア移住でデザイナーを育てる」で5か国255人。新興国デザイナーを世界に直結させる仕掛け

ビジネス概要

事業タイプ

Agency

フェーズ

拡大期

規模感

5か国に255人の社員

概要

企業向けにプレゼン資料のデザイン制作を代行し、社内の資料作成の時間とコストを減らすサービス。

ターゲット

継続的にデザイン制作が必要な大企業の複数部署の意思決定者

主な打ち手

新興国デザイナーの教育・ツール・進め方を整備し、顧客の経営層と制作側が仲介なしで直接やり取りする体制を作った。

30秒で分かる

1デンマーク出身の起業家が、2021年売上41%増で5か国255人に。

プレゼン資料のデザイン制作会社「24Slides」

外部資金に大きく頼らず成長

1万5,000社以上を支援

2出発点は「安い外注」の限界だった。

テンプレートは約4,500円(30ドル)で売れた。

でも「作ってほしい」が増えた。

デンマーク制作は1件約6万円(400ドル)。

価格差が大きすぎた。

3勝負は新興国の才能を活かす設計だった。

オンラインのデザインコンテストで実力を確認。

インドネシアのデザイナーと出会った。

2012年にインドネシアへ移住し創業した。

4品質は「文化の差を埋める」ことで作った。

ツール、教育、進め方まで整備

プロジェクト担当が米欧の顧客と直接やり取り

仲介を挟まず、意思疎通を速くした。

5伸びたのは売り方の切り替えだった。

最初は広告と紹介で顧客を増やした。

ただ広告は競争でコストが上がった。

そこで単発中心から継続契約中心へ移行。

大企業と定額で複数部署を支える形にした。

6本質は「何を作るか」より「どう作るか」。

新興国の人材が力を出せる型を作った。

その型が、価格と品質の両立を可能にした。


ストーリーの流れ

Problem

プレゼン資料のデザインは社内対応だと工数を奪い、外注だとコストと品質のジレンマが生じた。

  • 安さを優先すれば品質が不安で、高品質を求めれば高額になりがちだった。
  • もっと安く、でも質は落とさずに作れないかという問いが出発点になった。
Insight

価格競争ではなく新興国のデザイナーが世界で正当に評価される仕組みづくりが解決策だと定めた。

  • 24Slidesは新興国で働くデザイナーの生活と将来を豊かにする目的で始まった。
  • 企業向けに見やすく伝わるスライドを作り、クライアントの時間とコストの削減につなげる事業にした。
Action

低価格テンプレート販売から始めたがオーダーメイド需要と採算の壁に直面した。

  • 購入者が自分で編集できるテンプレートを販売していた。
  • 利用者から自分で編集するのは大変なのでオーダーメイドで作ってほしいという要望が出た。
  • デンマークのデザイナーに依頼すると高コストでテンプレート価格帯と大きなギャップがあった。
Insight

デンマーク外の人材に目を向け、品質を保ったままコストを抑える可能性を見出した。

  • オンラインでデザインコンテストを開催して実力を確かめる方針を取った。
  • インドネシアのデザイナーが優勝し、技術は高いのにコストは抑えられることが分かった。
  • 欧米市場で同じ価値を発揮するには文化の違いを埋める役割が必要だと気づいた。
Action

2012年にインドネシアへ移住し、24Slidesを創業して教育と仕事の進め方まで整備する道を選んだ。

2012年インドネシア移住と創業
  • 以前の会社を売却して得た資金を元手に少人数のインドネシア人デザイナーと創業した。
  • デザイン技術だけでなく世界で通用する仕事の進め方も教え、同様の人材を増やす狙いを置いた。
  • 利益だけでなく社会課題にも向き合うスタート地点にした。
Action

文化差を品質の一部と捉え、ツール・教育・進行体制を整えて制作会社として機能する形を作った。

  • 新興国にも欧米と同水準の才能はあるが文化理解の差が成果を左右すると定義した。
  • 顧客とのやり取りはプロジェクトマネージャーがアメリカやヨーロッパの経営層と直接行う形にした。
  • 仲介業者を挟まず意思疎通を速め、信頼関係を築きやすくした。
Growth

大きな外部資金に頼らず成長し、初年度から黒字を維持する運営を実現した。

  • 創業から約10年にわたり成長を続けた。
  • 成果の背景には何を作るかよりどう作るかへの徹底したこだわりがあった。
Growth

2021年に売上が41%増加し、組織規模と提供能力が大きく拡大した。

2021年には売上が41%増加売上成長
5か国に255人の社員社員規模
  • 5か国に社員を抱える体制になった。
  • これまでに1万5,000社以上を支援し、毎月数千枚のスライドを制作している。
Team

拠点を分散してチームを配置し、グローバルに短納期・リーズナブルな提供体制を築いた。

  • デンマークだけでなくインドネシア、ウクライナ、ペルーにもチームを置いた。
  • 現在はインドネシアに約200人、ウクライナに10人、ペルーに25人の拠点がある。
Team

福利厚生を設計し、社員が危機で働けなくなるリスクを制度で止める方針を取った。

  • 新興国では当たり前ではないが人生を左右するものとして健康保険に行き着いた。
  • 独自の健康保険制度を設け、毎月専用基金に積み立てる仕組みにした。
  • 社員は無料で利用でき、会社側のコストは抑えられる設計にした。
Team

緊急時の無利子ローンを用意し、災害や家族の不幸などの突発支出に備えられるようにした。

  • 社員は匿名で申請でき、承認されれば無理のない返済計画で給与から天引きされる。
  • 利息はゼロで、生活の崩壊を防ぐ仕組みとして機能させた。
Monetize

広告とアフィリエイトで初期成長を作ったが、競争激化による獲得コスト上昇で限界が見えた。

  • 検索広告で「プレゼン作成」「デザイン」「テンプレート」などのキーワードから顧客にアプローチした。
  • テンプレート販売サイトと提携し、オーダーメイド需要を紹介してもらい売上の一部を還元した。
  • 広告は競争が激しくなるほどコストが上がり、アフィリエイトも条件が厳しくなる課題があった。
Monetize

単発中心から大企業向けサブスクリプション中心へ移行し、継続契約を売上の主軸に据えた。

  • 以前はスライド1枚ごとの固定料金で個人や小規模案件を中心に受けていた。
  • 現在は複数部署と契約し、定額で常にデザインを提供するモデルが主軸になった。
  • 単発依頼で品質を体験し、その後に継続契約へ移行するケースが多い。
Team

採用は知識の空白を埋める上級者を優先し、限られた資金でも損失を避ける方針を確立した。

  • 2013年ごろまでトビアスはグラフィックデザイン以外のほぼすべてを一人でこなしていた。
  • デンマークへ戻り戦略部門を整備し、売上と利益の重要性を再確認した。
  • 経験の浅い人材で埋めるとミスが大きな損失につながるため経験者を待つ判断も必要だとした。
Team

デンマーク拠点で運営・営業・マーケティングの基盤を固め、人事責任者やCSR担当責任者も採用した。

15人の正社員デンマーク拠点体制
  • ヨーロッパ拠点には15人の正社員がいる。
  • 基盤が固まり、トビアスは再び人に関わる領域へ注力できるようになった。
Scale

成長に伴う家賃リスクに対し、長期固定のオフィス計画で組織の安定を図った。

  • 社員数増加でオフィスを何度も移転する中、契約更新時に家賃を大幅に引き上げられることがあった。
  • インドネシアで2,000平方メートルの土地を長期で借り、全社員が入居できるオフィスを建設する計画を進めた。
  • 20年間の賃料を固定して将来不安を取り除く狙いを置いた。

プレゼン資料のデザインは、必要だとわかっていても手間がかかる。社内で対応しようとすれば、本来の業務時間が削られていく。

一方、外注にはコストの壁がある。安さを優先すれば品質が不安で、高品質を求めれば高額になりがちだ。そんなジレンマの中で、「もっと安く、でも質は落とさずに作れないか」と考えた起業家がいた。

その答えは、単なる価格競争ではなかった。新興国のデザイナーが世界で正当に評価される仕組みを作り、外部資金に大きく頼らずに成長する——。創業から約10年で、2021年には売上が41%増加し、5か国に255人の社員を抱えるまでになった。その背景には、「どう作るか」への徹底したこだわりがある。

新興国のデザイナーの才能を、世界の仕事につなぐ

会社を作る理由は人それぞれだ。お金のためという人もいれば、世の中を少し変えたいという人もいる。

デンマーク出身のトビアス・シェレが作った24Slidesは、後者の会社だ。新興国で働くデザイナーが世界の舞台で正当に評価され、生活も将来も豊かになる。そのための仕組みを作ろうとして始まった。

事業の中心は、企業向けのプレゼン資料のデザイン制作だ。見やすく伝わるスライドを作ることで、クライアント企業は資料作りにかかる時間とコストを削減できる。

拠点はデンマークだけでなく、インドネシア、ウクライナ、ペルーにもチームを置き、短納期・リーズナブルな価格で世界中の企業にサービスを提供している。

ただ、24Slidesの真の特徴は「何を作るか」より「どう作るか」にある。新興国のデザイナーが世界市場で通用するよう、ツール・教育・仕事の進め方まで整備し、才能が正しく伝わる形を追求してきた。

創業から約10年、大きな外部資金に頼らず成長を続け、初年度から黒字を維持してきた。2021年には売上が41%増加し、5か国に255人の社員を擁する。これまでに1万5,000社以上を支援し、毎月数千枚のスライドを制作している。

投資銀行の道より、起業の道が気になった

トビアスはコペンハーゲン・ビジネススクールで経済学の学士号と金融の修士号を取得した。学生時代は好成績を収め、投資銀行のような世界でキャリアを積む未来を思い描いていた。

しかし学士課程の終わりごろから、気持ちが変わっていく。「このままの道でいいのか」と考えるようになった。

修士課程に進んでからは、学位は取りつつも成績を追いかけることをやめた。授業を欠席して課題だけ提出し、空いた時間でいくつもの起業プロジェクトに取り組んだ。

テンプレートの商売が、次の壁を見せた

2009年、大学卒業後すぐに共同創業した会社で、トビアスは低価格のプレゼンテンプレートを販売し始めた。購入者が自分で編集できる仕様で、価格は約4,500円(30ドル)ほど。手軽でわかりやすい商品だった。

ところが、利用者からすぐに別の声が上がる。「自分で編集するのは大変だから、オーダーメイドで作ってほしい」

問題はコストだった。デンマークのデザイナーに依頼すると人件費が高く、採算を取るには1件約6万円(400ドル)ほど請求する必要がある。テンプレートが約4,500円(30ドル)の世界で、約6万円(400ドル)は高すぎる。大きなギャップがあった。

「もっと安く、でも質は落とさずに作る方法はないか」——トビアスはそう考え始めた。

インドネシアの才能と出会う

トビアスはデンマークの外に目を向けた。オンラインでデザインコンテストを開催し、優勝者に賞金を出して実力を確かめることにした。

課題は既存のプレゼンをもとにテンプレートを作ること。そこで優勝したのが、インドネシアのデザイナーだった。技術は高いのに、コストはデンマークより抑えられる。

実際に一緒に仕事をして、トビアスは可能性を感じた。

その後、バリ島で本人と直接会う。才能があるのに控えめで、誠実な人柄だった。ただ同時に、別のことにも気づく。欧米市場で同じ価値を発揮するには、文化の違いが壁になる。仕事の進め方、伝え方、求められるスピード——その差を埋める役割が必要だと感じた。

2012年、インドネシアへ移住して24Slidesを作る

トビアスは決断した。デザインの技術だけでなく、世界で通用する仕事の進め方も教え、同じような人材を増やしていきたい。

2012年、インドネシアへ移住。以前の会社を売却して得た資金を元手に、少人数のインドネシア人デザイナーとともに24Slidesを創業した。

狙いは利益だけではない。ビジネスの力で社会課題にも向き合う——それがスタート地点だった。

文化の差を埋めることが、品質になる

24Slidesは、よくある外注会社とは少し違う。「安く作る」だけでなく、制作会社として機能することを目指している。サービス自体は特別珍しいものではないが、進め方が異なる。

10年前は「海外への外注は単純作業だけ」という見方が主流だった。スケジュール調整やメール送信のような業務ならともかく、クリエイティブな仕事は無理だ、と。

トビアスはそれが間違いだと証明したかった。新興国にも欧米と同水準の才能はある。ただ、文化への理解に差がある。その差を埋めれば、世界のどこでも価値を生み出せる。

現在、インドネシアに約200人、ウクライナに10人、ペルーに25人の拠点がある。

顧客との関わり方にもこだわった。24Slidesでは、プロジェクトマネージャーがアメリカやヨーロッパの経営層と直接やり取りする。間に仲介業者を挟まないことで、意思疎通が速くなり、信頼関係も築きやすい。

トビアスは、これは顧客側の学びにもなると考えている。異なる文化の人と直接対話する経験は、相手を理解しようとする姿勢を育てる。実際、10年前と比べて顧客が社員に対して思いやりのある伝え方をするようになった、と感じているという。

福利厚生で、人生の転落を止める

24Slidesは「働く環境」の改善にも取り組んだ。新興国では当たり前ではないが、人生を大きく左右するものは何か。行き着いた答えが、健康保険だった。

インドネシアでは公的健康保険の整備が遅く、あっても十分でないことが多い。民間保険は安心だが高額で、病気や事故をきっかけに生活が一気に崩れるケースもある。

そこで24Slidesは独自の健康保険制度を設けた。毎月専用基金に積み立てる仕組みで、内容は民間保険と同等。それでも会社側のコストは抑えられ、社員は無料で利用できる。インドネシアでは珍しい制度で、社員の処遇水準を引き上げたいという意図もあった。

さらに、緊急時の無利子ローン制度も用意した。洪水などの災害や家族の不幸で急な出費が必要になったとき、社員は匿名で申請できる。承認されれば、無理のない返済計画で給与から天引きされ、利息はゼロだ。

制度が本当の意味を持つのは、危機が訪れたときだ。制度開始後、社員の一人ががんになり、治療・手術の費用が必要になった。会社は治療費を負担し、1年以上働けない期間も給与を全額支払い続けた。回復後、その社員は「命を救われた」と感じ、会社を離れないと伝えたという。

広告頼みから、継続契約のモデルへ

24Slides創業当初、トビアスの手元資金は半年ほどで底をつく見込みだった。時間的な余裕はなかった。

それでも期限前に損益分岐点に到達し、事業は軌道に乗る。初期の成長を支えたのは広告とアフィリエイトだった。検索広告で「プレゼン作成」「デザイン」「テンプレート」などのキーワードを検索するユーザーにアプローチした。

テンプレート販売サイトとも提携した。テンプレートだけでは物足りず、オーダーメイドを求めるユーザーを24Slidesへ紹介してもらい、紹介元には売上の一部を還元する仕組みだ。こうして顧客が増え、リピートも生まれた。

ただ、このやり方には限界があった。広告は競争が激しくなるほどコストが上がり、利益が出にくくなる。アフィリエイトも、提携先が増えるほど条件が厳しくなる。長期的な成長には向かない。

そこで24Slidesは、顧客獲得の方法も売り方も刷新した。

以前は単発でデザインが必要な個人や小規模案件が中心で、スライド1枚ごとの固定料金で受けていた。今も単発は受け付けているが、対象を徐々に広げてきた。

現在の主軸は、大企業向けのサブスクリプション型だ。継続的にデザインが必要な企業の複数部署と契約し、定額で常にデザインを提供する。売上の大部分はこの継続契約が占め、残りが単発のプロジェクト型となっている。

単発依頼にも意味がある。まず一度依頼して品質を体験し、その後に継続契約へ移行するケースが多い。専門外の作業を外部に任せることで、社員がより価値の高い仕事に集中できる——そうした企業の流れとも合致していた。

採用は「穴を埋める上級者」から始める

2013年ごろまで、トビアスはグラフィックデザイン以外のほぼすべてを一人でこなしていた。顧客対応、プロジェクト管理、マーケティング、運営——とにかく何でもやった。

その後、デンマークへ戻り戦略部門を整備する。社会に良い影響を与える会社であっても、外部資金に頼らない以上、売上と利益は不可欠だ。理想だけでは続かない。

ここで重要な教訓を得た。資金が限られた会社ほど、知識の空白を作ってはいけない。社内に経験者がいない分野があるなら、その分野に強い上級者を採用する必要がある。

予算が足りないからと経験の浅い人材で埋めると、ミスが大きな損失につながる。結果的に高くつく。それなら経験者を雇えるまで待つほうが賢明なことが多い。

まず重要な能力を社内に確保し、その後に伸びしろのある人材を採用・育成する。これがトビアスの考え方だ。

現在、デンマークのヨーロッパ拠点には15人の正社員がいる。運営・営業・マーケティングの基盤が固まり、トビアスは再び「人」に関わる領域に注力できるようになった。人事責任者やCSR担当責任者も採用し、社員への影響をさらに広げようとしている。

成長すると、次の問題が出てくる

チームの近くで働くため、トビアスはインドネシアへ戻った。しかし組織が大きくなると、新たな問題が生じる。

社員数が増えてオフィスを何度も移転する中で、次の契約更新時に家賃を大幅に引き上げられることがあった。借り手を守る制度が十分でないためだ。放置すれば、会社とチームが少しずつ蝕まれていく。

そこで24Slidesは、インドネシアで2,000平方メートルの土地を長期で借り、全社員が入居できるオフィスを建設する計画を進めた。20年間の賃料を固定することで将来の不安を取り除き、国内でも珍しい働きやすい環境を実現しようとしている。

まとめ

  • 24Slidesはプレゼン資料のデザイン制作を通じて、新興国のデザイナーが世界で評価される仕組みを作ってきた
  • 文化の差を埋めることを品質の一部と捉え、顧客と制作チームが直接つながる体制を整えた
  • 健康保険や緊急時の無利子ローンで社員の生活を守り、働き続けられる環境を整備している
  • 単発中心からサブスクリプション中心へ移行し、成長に合わせてビジネスモデルを進化させてきた