起業は、頭の中で完璧な計画を組み立ててから始めるもの。そう信じて動けなくなる瞬間がある。
でも現実は、正解が見えないまま走り出し、試して、外して、また直す。その連続だった。Nerdwiseも同じように迷いながら進み、やがて顧客500社超、年間で何百万ドル(数億円規模)の継続売上が生まれるところまでたどり着く。
何が転機だったのか。最初の失敗や方向転換、そして「価格」をめぐる大きな決断が、その後の成長を形作っていく。
100万ドル企業を作るとき、毎日が実験になる
起業は、最初に完璧な計画を作ってから始めるもの。そう思われがちだ。
だが現実は逆だ。始める前に、正解を全部知るのはほぼ不可能。動いて、試して、失敗して、学んで、直す。そのくり返しでしか前に進めない。
Nerdwiseを作ったパトリック・ベインズとマイケル・クープも同じだった。最初から「これが正解だ」と分かっていたわけではない。どんな客に、何を、いくらで売るか。市場にどう入るか。やりながら見つけていった。
それでも会社は伸びた。いまNerdwiseは、企業の営業とマーケティングのやり方を整え、売上が伸びる仕組みを作る手伝いをしている。顧客は500社を超え、年間で何百万ドル(数億円規模)の継続売上が生まれるところまで来た。
失敗が、次の地図になる
パトリックは大学を出て、まだ若い会社だったLinkedInに入った。そこでソフトウェアとスタートアップの世界を、現場で覚えた。
その後、同僚とPeopleLinxを共同創業する。PeopleLinxは、企業の社員がLinkedInをうまく使えるようにするサービスだった。社員プロフィールを整え、つながりを増やし、投稿を続ける。そういう活動を会社として運用しやすくする仕組みを提供していた。
だが、成長の途中で大きな壁にぶつかる。LinkedInが方針を変え、APIの利用が止まった。サービスの土台が崩れ、事業は大打撃を受けた。
このときパトリックは痛感する。他社の仕組みに強く頼りすぎると、相手の都合ひとつで会社が傾く。
PeopleLinxは最終的に2015年に買収された。理想の形での復活はできなかったが、次の挑戦に必要な学びは残った。
ノートパソコンがなくても、起業は始まる
パトリックは大学時代の親友マイケルに連絡した。マイケルは当時、テックの経験が多いわけではなかった。それでも新しい挑戦を探していた。
パトリックの頭の中には、SNS投稿のコンテンツ作成を自動化する道具のアイデアがあった。相棒としてマイケルを誘う。
マイケルは当時、ノートパソコンすら持っていなかったという。派手なスタートではない。生活費を抑え、手元の資源で粘り強く進む。だからこそ、試しながら方向を探る時間を作れた。
2015年、2人はNerdwiseを共同創業する。投資家の資金には頼らず、自分たちの売上で育てる道を選んだ。
資金調達をすれば早く大きくできるかもしれない。その代わり、数字の報告や監視が増え、会社が「投資商品」に近づくこともある。次は自由度の高い形で続けたかった。
客が欲しいのは「機能」ではなかった
Nerdwiseの最初の商品は、SNSマーケティングを自動化するツールだった。
ただ、2人にはひとつ強みがあった。「見込み客を集め、顧客に変える」やり方を知っていたことだ。前の経験で、売る力は身についていた。
営業チームを作り、売る流れを整える。すると短期間で顧客が増えた。
そこで、初期の顧客からこんな相談が来る。
「どうしてそんなに早く顧客を増やせた? うちも同じように見込み客を増やしたい。手伝えないか」
パトリックは気づく。価値が高いのは、SNS自動化ツールそのものではない。見込み客を生み出す力、そのものかもしれない。しかもそれは得意分野だった。
もう一つ理由があった。反応は悪くないのに、お金になるまでが遅い。原因は、機能に目が向きすぎていたことだった。
企業が本当に欲しいのは「SNS自動化」という機能ではない。欲しいのは事業の成長だ。
成長という大きな目的に対して、SNS自動化が最善の手段とは限らない。そう判断し、商品へのこだわりを手放した。そして、リード獲得支援へ軸を移した。
バラバラな作業を、一つの仕組みにまとめる
リード獲得は、うまくいけば顧客が増えるスピードが上がる。だが正しくやるのは難しい。パトリック自身、身につけるまでに長い時間がかかった。
当時のリード獲得は、必要な作業がバラバラだった。複数のツール契約が必要で、社内にも専門知識が要る。導入のハードルが高い。
Nerdwiseは、それらをまとめて、導入しやすい一体型にしようとした。
さらに、多くのサービスは、マーケ責任者や営業責任者のような上の立場の人が買い、現場が振り回されがちだった。Nerdwiseは逆を狙った。現場の営業担当が使いやすい形に寄せた。
会社全体のリード獲得の仕組みを立ち上げ、狙う相手を見つけ、見込み客を絞り、成約につなげる。単発のキャンペーン代行ではなく、「売り方そのもの」を変える支援へ広がっていった。
散弾で撃って、当たりを探す
すでに顧客とチームはいた。だから2人は、運用とマーケティングを作り直しながら進めた。
顧客の成長に役立つ営業とリード獲得の手順を言語化し、誰でも再現できる形にまとめていく。
ただし、その時点では「理想の顧客」がまだ分からない。そこで業界を絞らず、いろいろな会社に連絡した。成果をできるだけ分かりやすく伝え、自分たちの手法を自分たちの営業で実践した。
約6か月。データがたまり、少しずつ見えてきた。
- どんな会社が成果を出しやすいか
- どんな提供内容が合うか
- 価格はどのあたりが適切か
途中でサービス内容も調整しながら、狙う相手を絞り込んでいった。
特に大きかった発見はこれだ。価値提案がはっきりしている会社ほど成果が出やすい。
たとえば銀行や投資会社は、「資金を提供して成長を助ける」という説明が明確だ。何を売っているかが分かりやすい。だからNerdwiseの仕組みとも相性が良かった。
価格は、成長の燃料になる
創業当初のNerdwiseには無料版があった。有料版は月約1.5万円($99)か月約3万円($199)。利用企業は約600社いたが、支払う顧客は50社ほどしかいなかった。
見込み客集めが下手だったわけではない。無料から有料に切り替えるだけの強い理由を作れていなかった。
方向転換と同時に、価格も変えた。無料プランは一度やめた。いまは月約45万円($3,000)前後から始まる。
この価格なら、少数の顧客でも利益が出やすい。その結果、500社を超える顧客から、年間で何百万ドル(数億円規模)の継続売上が生まれるようになった。
価格について、パトリックはこんな感覚を持っている。コストを計算して「妥当そうな金額」を出したら、さらに4倍して考えるくらいでちょうどいい。
創業者は自分たちの価値を低く見積もりがちだ。そしてその安さが、会社の成長の上限になる。
さらに重要なのは、できるだけ早く課金することだ。無料で広げればいつかもうかる。そう考えても、創業者が給料を取れるようになるまで時間がかかる。
ただし会社が大きくなり、利益が出るようになったあとなら、無料プロダクトを再導入する余力も生まれる。Nerdwiseも後に無料機能を出した。営業の電話とマーケの仕組みをつなぎ、見込み客の反応が高まった瞬間にすぐ連絡できるようにする機能だ。余力があるときなら、こうした挑戦もできる。
パトリックは振り返る。もっと早く、現金が回る形で始めれば成長も速かった。黒字までの道筋と、意味のあるキャッシュフローは極めて重要だ。
もしやり直せるなら、最初から企業向けに、自分たちが得意な解決策を高い価格で売る。その利益を再投資して、解決策を広げる。そこに気づくまで3年かかった。
だが試行錯誤を重ねたからこそ、いまのNerdwiseにたどり着いた。
この話の要点
- 起業は最初から正解を決めるものではなく、試して学び、修正していく連続になる
- 他社の仕組みに依存しすぎると、相手の方針変更で事業が崩れる危険がある
- 機能ではなく、顧客が本当に解決したい問題に焦点を当てると方向性が定まる
- 理想の顧客は、広く試してデータを集めることで見つかる
- 価格は価値に合わせて設計し、早い段階で課金してキャッシュフローを作ることが成長を支える
