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コロナで売上ゼロになった無名夫婦が 「無料で無制限」に振り切って 月450万円。 広告費ゼロで伸びた全手口

ビジネス概要

事業タイプ

SaaS

フェーズ

拡大期

規模感

月の継続売上は約450万円($30,000)

概要

無料で広く使えるシンプルなフォーム作成ツールを提供する事業。

ターゲット

スタートアップや小規模チームのプロダクトマネージャーやマーケティング担当者

主な打ち手

フォーム数・回答数を基本無制限で無料にし、フォーム下のTally表示でプロダクト自体が広告になる導線を作った。

ストーリーの流れ

Problem

コロナで旅行市場が止まり、伸びかけていた事業の売上がほとんど消えた。

  • フルタイムで挑戦してもお金が入らない状況に追い込まれた。
  • Hotspotは顧客を失い、収入もほとんど生まれなくなっていた。
Insight

夫婦は失敗すれば暮らしまで揺らぐ不安の中で「次に作るべきもの」をゼロから考え直した。

  • 生活も仕事も同じチームで進める強さと脆さを同時に抱えていた。
  • 2人は“いつも使っているのに好きになれない道具”に目を向けた。
Team

マリーがマーケティング、フィリップが開発と役割が分かれていたことが武器になった。

  • マリーは売り方や広げ方を考えるのが得意だった。
  • フィリップはプロダクトを作る中心になった。
Action

2人はノーコードで使えるシンプルなフォーム作成ツールとしてTallyを作り始めた。

  • フォームは問い合わせや申し込み、アンケート、決済などで何度も必要になると捉えた。
  • 当時のツールは使っていて楽しいものが少なく、若いスタートアップには価格が重いものも多いと感じていた。
Action

Tallyは無料で使える範囲を思い切って広くし、競合だらけの市場で目立つ設計にした。

  • フォーム数も回答数も基本は無制限で無料にした。
  • 画面がすっきりしていて白い紙に文章を書くように作れる体験が評価された。
Growth

広告費なしの地道なアウトリーチを数か月続け、最初の利用者基盤を作った。

最初の500人の利用者初期利用者到達
  • 友人や家族に試してもらい感想を集めた。
  • マリーは何百人ものリストを作り、ひとりずつメッセージを送って試用と感想を得た。
Growth

Tallyは事業の裏側もできるだけ公開し、応援者とコミュニティを育てた。

  • 学んだことや新機能の計画、作り方、売上の状況まで隠さず共有した。
  • 初期ユーザーの中から強い応援者が生まれていった。
Growth

2021年3月に新サービス紹介の場に登場し、利用者が一気に伸びる転機になった。

2021年3月成長の転機
1日で利用者が2倍短期成長
  • 1日で利用者が2倍になった。
  • そこから成長は毎月のように続いた。
Scale

フォーム共有の性質と無料設計を活かし、プロダクト自体が広告になる仕組みを作った。

  • 無料なのでフォームの下にTallyの名前が見える表示を入れた。
  • 回答する人もTallyに触れることで新しい利用者がまた増える流れができた。
Monetize

無料ユーザーが多い前提で、チームや会社向け追加機能を月額で提供するTally Proを設計した。

月約4,500円($29)有料プラン価格
  • 回答数が増えたら課金が増えるような形にはしなかった。
  • 共同作業やカスタマイズ、ブランド表示削除、決済フォーム手数料なし設定などを有料機能にした。
Monetize

有料転換が進み、月の継続売上が約450万円($30,000)まで積み上がった。

月の継続売上は約450万円($30,000)継続売上
約3%有料移行率
  • 利用者全体のうち約3%が有料に移行した。
  • 約5万人の利用者のうち約1,200人が支払っている。
Team

夫婦で運営する負荷を下げるため、責任範囲の「持ち主」をきっぱり分けた。

  • フィリップがプロダクトの決定を持ち、マリーはそれを信頼した。
  • マリーがマーケティングや営業、広報を持ち、フィリップはそれを信頼した。
Team

現在のチームは基本的に2人だけで開発から顧客対応まで回している。

2人現体制
  • 夫婦で同じ会社を運営すると仕事と私生活の境界が溶けやすい課題があった。
  • 子どもが生まれたことで家族の時間と事業運営の両立が必要になった。
Scale

顧客増で2人だけでは手が足りなくなり、年内に最初の社員を採用する計画を立てた。

  • 目の前の作業に追われ、長期の戦略を考える時間が削られていく課題が出た。
  • 顧客対応やプロダクト開発を助けてもらう方針にした。
Action

2人は資金調達をせずに進める方針を選び、意思決定の自由度を優先した。

  • マリーには約10年働いて貯めた貯金があり、フィリップには前の事業を売却した経験があった。
  • 一般公開後に投資家の関心が集まっても、生活スタイルが変わる可能性を理由に資金調達を選ばなかった。
Scale

巨大化ではなく家族に合う形で無理なく長く続く事業を目標に据えた。

  • 投資家がいなければ、いつどこで働くかも自分たちで決められると考えた。
  • 顧客にとって良いと思う方向へ自由に舵を切れる状態を重視した。

旅行市場が止まり、伸びかけていた事業の売上がほとんど消えた。フルタイムで挑戦してもお金が入らない。そんな状況の中で、夫婦はもう一度「次に作るべきもの」をゼロから考え直した。

生活も仕事も同じチームで進めるのは強い反面、失敗すれば暮らしまで揺らぐ。不安や迷いを抱えながらも、2人は“いつも使っているのに好きになれない道具”に目を向けた。

そして生まれたのが、無料で使えるシンプルなフォーム作成ツール「Tally」だ。広告費をかけずに利用者を増やし、月の継続売上は約450万円($30,000)へ。夫婦で会社を回しながら、次の段階も見え始めている。

人生のパートナーが、いちばん近い共同創業者だった

スタートアップでは「誰と組むか」で未来が決まることがある。仲が悪くなって会社が止まる話も珍しくない。だからこそ、多くの人は共同創業者探しに時間をかける。

でも、答えが最初からすぐそばにあることもある。

マリー・マルテンスとフィリップ・ミネフは、生活でも仕事でもパートナーとして動く夫婦だ。2人は無料で使えるシンプルなフォーム作成ツール「Tally」を立ち上げ、世界中に利用者を増やしていった。

ただ、同じ家で暮らしながら同じ会社を動かすのは、きれいごとだけでは済まない。うまくいけば強い。けれど、失敗すれば生活まで崩れる。2人も最初から順調だったわけではない。

コロナで、最初の事業を手放した

Tallyを始めたのは2020年の終わりごろ。マリーはベルギーを拠点に、BtoBマーケティングの経験を積んできた。メディアやテック企業で働き、売り方や広げ方を考えるのが得意だった。

フィリップは技術側の人間で、プロダクトを作る中心になる。役割がはっきり分かれていたのは、2人にとって大きな武器だった。

ただ、Tallyは2人にとって最初の挑戦ではない。フィリップは以前、暗号資産のポートフォリオ管理アプリ「Delta」を作り、それが買収された経験があった。アプリを手放したあと、2人は「次は一緒に事業を作ろう」と決めた。

2020年2月、2人は「Hotspot」を始めた。ホテルと旅行インフルエンサーをつなぐマーケットプレイスだ。月の継続売上は約15万円($1,000)まで伸び、反応も悪くなかった。手応えが出てきたので、マリーは仕事を辞めてHotspotに集中した。

ところが、そこに新型コロナが来た。旅行が止まり、ホテルが止まり、市場そのものが消えた。最初は「数か月で戻る」と思って待ったが、状況は変わらない。流行が始まって半年ほどで、2人は次に進む決断をした。Hotspotは顧客を失い、収入もほとんど生まれなくなっていた。

フルタイムで挑戦してもお金が入らない。精神的にもきつい。そこで2人は、もう一度ゼロから「今、自分たちが作るべきもの」を考え直した。

いつも使っていたのに、好きになれない道具があった

たどり着いたのが、ノーコードで使えるフォーム作成ツールだった。

フォームは、仕事でも事業でも何度も必要になる。問い合わせ、申し込み、アンケート、決済。だが当時のツールは、使っていて楽しいものが少なかった。しかも、若いスタートアップには価格が重いものも多い。

「気持ちよく使えて、手が届くフォームを作れないか」

2人はそこにチャンスがあると気づき、Tallyを作り始めた。

無料で広がる仕組みで、競争の激しい市場を突破した

フォーム作成ツールの世界は競合だらけだ。だがそれは、必要としている人が多い市場でもある。

Tallyが目立てた理由のひとつは、無料で使える範囲を思い切って広くしたことだった。フォーム数も回答数も、基本は無制限で無料。ここまで無料にする競合は多くない。

公開直後、この無料モデルが広告費なしで利用者を集める力になった。さらに使った人は、もうひとつの違いにも気づく。画面がすっきりしていて、白い紙に文章を書くようにフォームを作れる。ドラッグ&ドロップ中心のツールとは感覚が違い、そのシンプルさが評価された。

一般公開の前、2人は友人や家族に試してもらい、感想を集めた。その後マリーは、似た商品を出している人や、フォームが必要になりそうなスタートアップ創業者を探し、何百人ものリストを作った。連絡先を見つけては、ひとりずつメッセージを送り、試して感想をもらった。

この地道な動きを数か月続け、最初の500人の利用者に到達した。

初期はとにかく改善の連続だった。感想を集め、直し、また出す。その過程で小さなコミュニティも育ち、初期ユーザーの中から強い応援者も生まれていった。

さらにTallyは、事業の裏側もできるだけ公開した。学んだこと、新機能の計画、作り方、売上の状況。隠さず共有する姿勢は、スタートアップや個人クリエイター、小さな会社と相性が良かった。

2021年3月、Tallyは新サービス紹介の場に登場し、1日で利用者が2倍になった。そこから成長は毎月のように続く。

フォームは作ったあと誰かに共有するものだ。つまり、もともと広がりやすい。しかも無料なので、フォームの下にTallyの名前が見える表示を入れた。回答する人もTallyに触れる。プロダクト自体が広告になり、新しい利用者がまた増える流れができた。

無料が多いのに、どうやってお金を生むのか

Tallyの利用者の多くは無料で使う。そこで2人は、回答数が増えたら課金が増えるような形にはしなかった。代わりに、チームや会社向けの追加機能を月額で提供した。

有料プラン「Tally Pro」では、たとえば次のような機能が使える。

  • チームでの共同作業
  • フォームの見た目のカスタマイズ
  • Tallyのブランド表示を消す
  • 決済フォームで手数料を取らない設定

多くの人にとっては無料で十分だが、全部必要な人は月約4,500円($29)で申し込める。利用者全体のうち約3%が有料に移行し、約5万人の利用者のうち約1,200人が支払っている。これにより、月の継続売上は約450万円($30,000)になり、事業として安定して回り始めた。

一緒に暮らし、一緒に働くと、境目が消える

2人はHotspotやTallyの前から、いつか一緒に会社を作りたいと思っていた。世界を旅しながら働く生活にもあこがれていた。得意分野が分かれているのも強みだった。マリーはマーケティング、フィリップは開発。役割がぶつかりにくい。

挑戦を決めたとき、2人はこう考えた。「まずは1年だけ本気でやる。うまくいかなければ仕事を探せばいい」。期限を決めることで、不安を小さくできた。

現在のチームは基本的に2人だけで、開発から顧客対応まで全部を回している。だが夫婦で同じ会社を運営すると、仕事と私生活の境界が溶けやすい。気づけばいつでもTallyの話になり、頭の切り替えが難しくなる。

そこで2人が特に大事だと学んだのは、責任範囲をきっぱり分けることだった。

フィリップがプロダクトの決定を持ち、マリーはそれを信頼する。マリーがマーケティングや営業、広報を持ち、フィリップはそれを信頼する。担当の「持ち主」をはっきりさせると、同じ問題に2人で入り続けて消耗することが減る。

さらにコロナ禍の間に子どもも生まれた。以前のように長時間働くのは難しくなり、家族の時間と事業運営を両立する必要が出た。結果として働き方は日中中心になり、朝と夕方は家族の時間にしやすくなった。

Tallyは2周年を迎え、次の段階も見えてきた。顧客が増えるほど、2人だけでは手が足りなくなる。目の前の作業に追われ、長期の戦略を考える時間が削られていく。そこで年内の目標として、最初の社員を採用し、顧客対応やプロダクト開発を助けてもらう計画を立てた。

資金調達しないという選択

2人は最初から、投資家のお金に頼らず進める会社を思い描いていた。マリーには約10年働いて貯めた貯金があり、フィリップには前の事業を売却した経験がある。この余裕があったから、生活費を払いながら1年ほど新しい挑戦を試せた。

しかもTallyは早い段階から利益が出た。大きな自己資金を追加で入れなくても回る。これは意思決定を強くした。無料で使える範囲を広くする判断も、余裕がなければ難しかったかもしれない。すぐにお金が入る形に寄せざるを得ず、別のサービスになっていた可能性もある。

起業を考えるなら、数か月から1年ほど利益が出なくても耐えられる予備資金を持つことは、大きな助けになる。

一般公開後、投資家からの関心も集まった。資金調達をしないと「野心がない」と見られるのでは、と悩んだこともある。だが最終的に2人は、今の生活スタイルが気に入っていて、資金調達をするとそれが変わる可能性が高いと考えた。

投資家がいなければ、いつどこで働くかも自分たちで決められる。顧客にとって良いと思う方向へ、自由に舵を切れる。売上も毎月伸びている。外部の助けがなくても拡大できるという自信もあった。

目標は、巨大な組織を作ることでも、超大企業になることでもない。家族に合う形で、無理なく長く続く事業を作ること。Tallyはその形を、2人の手で少しずつ固めていった。