社内だけでマーケを回そうとすると、なぜかいつも手が足りない。判断や企画を進めたいのに、動画編集や文章の下書き、メール更新といった作業に時間を吸い取られていく。そんな実感を持つ人は多いはずだ。
2021年2月、マーケティングの世界を走ってきたジェシーは、その「遅さ」を解決する構想を形にするため、中学時代からの親友に一本の電話をかけた。サービスはまだ完成していない。けれど、その電話をきっかけに、世界中の人材でマーケを加速させる仕組みが動き出す。
経験も肩書きも十分とは言えない状態から、どうやって信頼される体制を作り、申し込みが殺到するサービスへと育てていったのか。その道筋には、採用と時間の使い方に関する、意外なほど実務的なヒントが詰まっている。
中学の親友への一本の電話から始まった
2021年2月。起業家としてマーケティングの世界を走ってきたジェシーは、一本の電話をかけた。相手は中学時代からの親友、アドリアンだ。
ジェシーの頭には、何年も前から温めてきた構想があった。海外の優秀な人材を集めて、成長したい会社のマーケティングを速く回す——そんな新しい形のサービスだ。
ただし、アイデアだけでは会社は立たない。採用と育成に強く、信頼できる相棒が必要だった。ジェシーが思い浮かべたのが、アドリアンだった。
アドリアンは投資会社で、人を集めて育てる仕事を長くやっていた。子どもが生まれたばかりで、生活のリズムも変わる時期だった。保育の仕事に転じることも考えたが、条件が合わず踏み切れなかった。何か別の道がある気がしていた。
そこにジェシーの電話が来た。アドリアンは10日ほど悩み、共同創業者として飛び込むことを決めた。
マーケの経験も経営の経験もほとんどない。それでもアドリアンは代表として前に立つ役を引き受け、ジェシーは助言役に回って裏から支えた。
社内だけで行うほど、マーケティングは遅くなる
ジェシーは大学卒業後、金融やコンサルの会社で働いた。その後、マーケティング支援の会社を仲間と共同で立ち上げ、成長させた経験がある。
得意としていたのは、広告費を大量に使わずに伸ばすマーケだ。検索で見つけてもらう工夫をしたり、SNSや紹介でじわじわ信頼を積み上げたりして、時間をかけて売上や問い合わせを増やしていく。
やがてジェシーは、家族との時間を増やすために前線の役割を変えた。投資もするようになり、さまざまな会社の話を聞く機会が増えた。
そのとき、同じ光景を何度も見た。多くの会社が、マーケの仕事を「社内の人だけ」で全部回そうとしていたのだ。
ジェシーには、それが非常に遅く見えた。社内チームが3か月かけて行う作業を、以前の自分のチームなら1か月以内で進められることが多かった。
理由はシンプルだ。本来は判断や企画に時間を使うべき人が、動画編集や文章の下書き、メール更新のような手作業まで抱え込んでしまう。結果、全体が詰まる。
ジェシーの以前の会社では、手間はかかるが難しすぎない作業をフィリピンなど海外の業務委託メンバーに任せていた。ところが多くの会社は、その作業も社内で抱えていた。
そこでジェシーは考えた。海外人材を集めて育て、会社に合う形でチームとしてすぐ動けるようにする。月ごとの契約で使えるサービスにする。ただ、採用の専門性が足りない。だからアドリアンが必要だった。
サービスが完成する前に、まず顧客を獲得しに行った
アドリアンが参加を決めると、2人はすぐに動いた。
まずジェシーがつながっている会社を一覧にして、片っ端から電話をかけた。まだサービスは形になっていない。ほぼアイデアだけ。それでも1日で5社が「使いたい」と言った。
最初の契約が決まった瞬間、アドリアンは採用を始めた。海外での採用ルートづくりにはジェシーのつながりも活用しながら、「教えて育てる仕組み」を組み立てていった。
その仕組みは自分たちの会社にもそのまま使った。最初の社員も同じ方法で採用し、今もそのやり方が土台になっている。
採用は、必要になってからやると遅い
アドリアンの考えははっきりしていた。採用は「人が足りない」と気づいてから慌ててやるものではなく、普段から少しずつ続けるものだ。
募集していない時期でも人とつながっておけば、いざ必要になったときに早く良い人にたどり着ける。
一方で、最初の採用は時間をかけすぎたとも振り返る。最初は必須条件を盛り込みすぎて、候補者が見つからなかった。
仕事を理解していくうちに、「絶対に必要な条件」と「あると助かる条件」を分けられるようになった。
たとえば、メールやSNSに載せる簡単な画像づくり。今は使いやすいツールがあり、少し練習すれば多くの人が対応できる。最初から「デザインの専門職レベルもできる人」を必須にすると、候補者は一気に減る。そこに気づいてから、紹介のスピードが上がった。
国をまたいで働くのが当たり前になり、追い風が吹いた
サービスを使った会社の反応は良かった。ジェシーが以前の会社で似た形を長く運用していたため、やり方に再現性があった。
さらに世の中の流れも味方した。在宅勤務が広がり、国をまたいで仕事を進めるのが普通になっていった。海外の人材を活用したい会社が増えた。
2人の強みも噛み合っていた。ジェシーには経験と人脈がある。アドリアンには採用と育成の力がある。そして、何でも屋にはならなかった。「全部の職種をそろえる」とは言わず、マーケティングに絞り、その分だけ質を上げた。
有名な発信者のチーム作りを手伝い、一気に広がった
あるとき、有名な発信者であり経営者でもある人物のチーム作りを手伝う機会が来た。それがきっかけでニュースレターなどで紹介され、名前が一気に広まった。
ジェシーの投稿も拡散し、申し込みが急増した。気づけば、利用開始まで半年待ちの状態になっていた。
立ち上げから約100日後には、少人数の体制でも大きな売上を作れたと発信し、有名企業も使っていることが知られるようになっていった。
「上位の人材だけ」を本気でやると、選び方が変わる
海外の人材に仕事を頼むこと自体は珍しくない。だがこの会社は、「上位の人材だけを紹介する」を前面に出した。
応募は毎週たくさん集まる。仕事探しサイト、SNS、紹介、広告と入り口は多い。
採用されるには、大学卒であることに加え、短い試験と面接を通る必要がある。しかも一回で終わらない。複数回の試験と面接で、仕事の力だけでなく、一緒に働く上での相性も見る。
全体の流れは約2週間で終わるように整えた。速さと厳しさを両立させるための工夫だ。
任せるのが不安なときほど、先に時間を確保する
アドリアンは初めて代表になったタイプとしては珍しく、時間の使い方を強く意識していた。家族との時間を守るためにも、仕事を抱え込みすぎない。
人が仕事を手放せないのは、能力の問題というより不安の問題であることが多い。不安に駆られて動くと、会社の運営はうまくいかなくなる。
だからアドリアンは、必要になる前に補助役を雇い、先に自分の時間を空けるべきだと考えた。時間は一番大切な資源だからだ。
会社の形も、社内の少人数だけで回す形にしなかった。アメリカ側の正社員は少人数にして、世界中の業務委託メンバーが大きく支える。アメリカ側の正社員を初めて雇う前から、すでに大きな売上を作っていた。
国境を越える働き方が普通になれば、助けが必要な仕事は増える
2人は確信している。これからの仕事は、国境を越えて進むのが当たり前になる。
どの会社のどの部署にも、時間がかかる手作業や後回しになりがちな作業がある。そこを支える人材がいれば、社内の人はもっと大事な仕事に集中できる。
ジェシーの構想とアドリアンの実行力は、そこに向かってまっすぐ進んでいる。中学の親友への一本の電話が、そのスタートだった。
