「最高のアイデアさえあれば、いつか成功できる」——そう信じて動いたのに、作っても客は増えない。投資も集まらない。どこが間違っているのかも分からない。そんな停滞の中で、マークは何度も転んだ。
教室には「正解」がある。でもビジネスでは、正解を決めるのは先生でも試験でもなく、買うかどうかを選ぶ客だ。その当たり前に気づくまでに、彼は長い回り道をした。
いまマークは、作っている途中の過程も隠さず公開しながら、プロダクトを生み出し続けている。最新サービス「ShipFast」は月に約740万円($50,000)を売り上げるまでになった。そこに至るまで、彼は何を捨て、何を掴んだのか。
教室の「正解」より、客の反応が答えになる
マーク・ルヴィオンは、短い期間で16個ものスタートアップを作ってきた。最新のサービスは「ShipFast」。月に約740万円($50,000)を売り上げている。
それでもマークの中では、まだ「思い描いた場所」に届いていない感覚が残っている。
6年前、マークは強く信じていた。コンピューターサイエンスの学位があって、「最高のアイデア」があれば、成功できるはずだ、と。
ところが現実は違った。1年かけて作っても客は増えない。投資も集まらない。何が悪いのか分からない。アイデアなのか、進め方なのか。
学校では「良いアイデアは評価される」と教わる。でもビジネスの世界では、評価するのは先生でも試験でもない。買うかどうかを決めるのは客だ。そこに気づくまで、マークはたくさん転んだ。
いまマークは、作っている途中の様子を隠さず見せながら活動している。フォロワーは約5万人。挑戦したい人の背中を押す立場になった。
ShipFastは、その考え方をそのまま形にしたプロダクトだ。アプリを素早く立ち上げるための「道具箱」を売っている。大事なのは、最初から完璧な正解を当てることではない。たくさん作って、どれが当たりかは客に決めてもらう。そういうやり方だ。
マークは昔から、とにかく作り続けてきた。今になって思うのは、体調や生活をもっと大事にすべきだったこと。そして「自称の専門家」の声を聞きすぎない方がよかったことだ。
森の小屋とレゴから始まった「作る」人生
マークはパリ近郊のノジャン=シュル=マルヌで育った。
子どもの頃の遊び場は、家の近くの森だった。木と枝で小屋を作り、そこで過ごした。家では床に座ってレゴを組み立て、細かい模型を作った。
何かを思いついて、それを手で形にする。その時間がたまらなく好きだった。
マークはこう振り返る。作る過程がずっと好きだった。何時間もかけて形にして、完成したら壊して次へ進む。繰り返すうちに、少しずつうまくなっていった。
ただ、学校はいつもその「作りたい気持ち」を伸ばしてくれる場所ではなかった。授業には型があり、答えも決まっていることが多い。先生の多くは、目の前の子どもが何に強いのかまで気づけない。
そして何より、マークは「なぜそれをやるのか」が説明されないのが苦手だった。
先生は「これをやれ」と言う。でも理由を言わない。納得できない。だからマークは、退学にならない程度にしか頑張らなかった。成績は平均。けれど学校の外では、別の形で力が出た。
そんなマークにも、強く影響を与えた先生が一人だけいた。理科の先生だった。実験して、試して、確かめる。その姿勢が、後のマークのやり方につながっていく。
ある日その先生は、左手にリンゴ、右手に紙を持って質問した。
「同時に手を離したら、どちらが先に床につくか」
マークにとって、それは初めての「本物の問題」だった。暗記ではなく、自分の頭と手で確かめる問題だった。
ゲームの中で学んだ小さな商売
教室の中では目立たなくても、教室の外でマークは別の世界を見つけた。オンラインゲーム「World of Warcraft」だ。
10代のマークは、ゲーム内で素材を集めた。鉱石を掘り、材料をそろえ、移動が速くなるブーツや特別な力を持つ武器を作った。そしてマーケットで売った。小さな利益が出た。
ゲームの中でマークは、エンジニアのように動いていた。集めて、組み立てて、価値を作り、売る。現実と同じように「作ること」が面白く、ちゃんと価値になると知った。
ここで思った。デジタルの世界なら、もっと広いものが作れるかもしれない。ゲームの改造、アプリ、サービス。そういうものだ。
だから大学ではコンピューターサイエンスを学び、ソフトウェアを作る言葉を身につけようとした。
「良いアイデア」だけでは何も起きない
3年学べば、だいたいどんなアプリでも作れそうに見える。けれどマークにとって、大学の仕組みも期待通りではなかった。
授業にはあまり出ず、卒業できたのは友人がノートや課題を共有してくれたからだったという。
それでも学位は手に入った。プログラミングの基礎も身についた。気持ちは起業へ向かい、「10億ドル規模の事業」を作るつもりで動き出した。
最初のアイデアは「スポーツ好きのためのTinder」だった。テニスやサッカーをしたい人が、近くの相手を探せる。マークはこれを「ユニコーン級のアイデア」だと信じた。
試作品を作り、名刺を作り、ロゴのデザインにも時間を使った。
でも一番大事なことを避けていた。客に見せることだ。
マークは当時、アイデアを誰にも話さなかった。客になりそうな人にすら見せない。ひたすら準備だけを続けた。結果、頭の中だけで形が固まり、前に進めなくなった。
1年ほどたった頃、ある人に聞かれた。
「どうやってお金を稼ぐの?」
マークは答えられなかった。1年間、稼ぎ方を一度も考えていなかったからだ。
その質問で目が覚めた。マークは1週間ほどでそのアイデアを捨て、別の国へ移った。自分にがっかりしていた。
ここで学んだのは、紙の上で完璧に見えるアイデアでも、試さず共有しなければ欠点が見えないということだった。
大学生活についても反省が残った。健康が乱れたこともある。起業家として必要な準備ができていなかったことも大きい。
マークは、タイプによっては大学が時間の損失に感じることもあると言う。大学では先生が正誤を決める。けれど現実の世界では違う。誰かが合否を判定してくれるわけではない。作ったものに対して、買うかどうかで結果が決まる。上司の「合格」ではない。
ただ、教育そのものを否定したいわけではない。教師から学べることはある。でも画一的なカリキュラムは、手を動かして学ぶタイプには合いにくい場合がある。起業の成功の形も一つではない。それに気づくまで、マークには6年かかった。
そして、意見を押しつけてくるのは教室だけではない。SNSには「成功の鍵を知っている」と名乗る人が大量にいる。けれど本当に正しいなら、全員が同じことを言うはずだ。現実はそうならない。
マークはSNS、テレビ、教室、会議室を「うるさい場所」だと言う。情報は多いが、意味のあるものは少ない。大事なのは、その人が何を言うかより、自由時間に何をしているか。行動を見れば、誰の話を聞くべきかが分かる。
起業家として学び直した「公開して作る」やり方
最初の失敗の直後、マークは落ち込んだ。自信満々だったアイデアが崩れた。何を変えればいいのか分からない。
失敗の理由の一つは、アイデアを守りすぎたことだと気づいた。そこで出した答えが「公開して作る」だった。
アイデアを秘密にする起業家もいる。でもマークが学んだのは逆だ。アイデアそのものより、実行が重要。早く共有するほどいい。そうすれば「自分が作りたいもの」から「客が欲しいもの」へ変えていける。
作ることは孤独になりやすい。マークも、未検証のアイデアを守るためにコミュニティから距離を置いていた。でも公開すれば、すでに成長させた経験者から学べる。そう考えた。
公開の場で動き始めると、同じように作る人たちとつながった。実際に会って話し、長時間の会話の中で「次に試すべきこと」を提案してもらった。助けられた経験が積み上がっていった。
その後マークは、小さなプロジェクトを次々に公開で作り、アイデアを試した。いくつかは売却もした。
巨大な一発逆転の会社を追いかけるより、作って試して、合うものを選ぶ。マークはその生き方に満足している。社員を雇って管理したり、大きな戦略を背負ったりするのは避けたいとも考えている。
マークが勧めるのは、素早く作って売上を出し、場合によっては売却して次へ進む方法だ。市場をよく知る人に引き継いでもらい、得た資金で自由を買う。その自由でまた作って試し、自分に合うプロダクトを探す。
この方針で挑戦を続けた結果、ShipFastが特に利益の出るプロダクトになった。
ShipFastは、起業家がアプリを立ち上げるときに必要なものをまとめた「道具箱」だ。認証、決済、メールのひな形、データベース設定。何度も作り直してきた部品を、最初からそろえて渡す。
マークはコードだけでなく、検索で見つけてもらう工夫やメール文、決済設定まで含めて共有した。数週間かかる作業を数日に縮める。それが狙いだった。利用者は開発者が多い。
経験を公開し続け、新機能や関連ツールを足しながら育ててきた。ロゴ作成ツールを作った月もある。紹介で収益が出る仕組みも使った。
成功の決め手は「権威の合格」ではなく「客の選択」
成功する起業家に必要なものは何か。誰もが意見を持っている。
でも答えは、誰かの言葉や大学のカリキュラムの中にあるとは限らない。起業家が実際に何をしているかを観察する方が、よほど役に立つ。
マークは、起業して最初の4年は金銭的にも精神的にもかなり厳しかったと言う。失敗は起業の一部だと早く受け入れていれば、もっと楽になれたとも振り返る。
専門家の承認を求めるのではなく、客の反応で判断するべきだった。そこが一番の反省点だ。
同じように苦しんでいる人に、別の道を見せたい。そう考えて、マークは動画での発信も計画している。教育は大切だ。でも人によっては、教室の外で学ぶ方が合うこともある。
周りから「無理だ」と言われたり、「権威の承認が必要だ」と言われたりしてきた人へ、マークが示す姿勢はシンプルだ。
雑音を無視する。客の反応を道しるべにする。
それが、自分の手で作り続ける人にとって、いちばん現実的な答えになる。
