記事一覧に戻る

情熱を失ったデザイナーが週末に作った「迷わせない履歴書」。2年で月1万5千件ダウンロード、年350万円の収益に成長

8 min read2026年7月8日
情熱を失ったデザイナーが週末に作った「迷わせない履歴書」。2年で月1万5千件ダウンロード、年350万円の収益に成長

ビジネス概要

事業タイプ

App

フェーズ

成長期

どんな事業?

パソコンに不慣れな求職者でも迷わず履歴書を完成できる無料+有料の履歴書作成サービス。機能を絞り「次に何をすればいいか」で立ち止まらない画面設計を軸に、有料版では企業の選考システムで読み取りやすい形式や高画質ダウンロードなどの便利さだけを追加している。

💰 いくら儲かった?

毎月約1万5千件の履歴書がダウンロードされ、年間約350万円($24,000)の売上。2021年7月時点で月間利用者は約10万人、月の売上は平均約30万円($2,000)に達し、2022年にはダウンロード累計100万件を超えた。

💡 成功の気づき × 打ち手
1
気づき

2018年に妹の就活で既存の無料履歴書ツールを試したところ、途中から編集できなくなったり機能が多すぎて迷ったりと、無料を謳うサービスほど不親切だった。履歴書を作る人の多くはパソコンに詳しくないため、機能の多さではなく「迷いの少なさ」が価値になると気づいた。

打ち手

機能を足す代わりに削ることを徹底し、ヨーロッパ旅行中にホステルのバックパッカーに試作品を見せて「ここで迷う」「この機能はいらない」というフィードバックで画面を整理。2018年8月に紹介サイトで公開し、2019年までに2万件以上ダウンロードされた。

2
気づき

2020年のコロナ禍でデザインの仕事が減り収益化を考えたが、いきなり有料化すると反発が出る恐れがあった。トップページに寄付ボタンを置いたところ、1件あたり最大約3,000円($20)の寄付が週2〜3回入り、月間6万人の利用者のうち約2%が寄付した。「迷わない体験を提供できれば、少数でも払う意思のある人が現れる」と確信した。

打ち手

2021年に有料版を追加。無料版の機能を大きく削るのではなく、ATS対応形式や高画質ダウンロードなど有料だけの便利さを上乗せした。無料版にはサービス名の透かしとSNS共有の仕組みを入れ、アクセスの約1割を獲得する集客チャネルにした。

3
気づき

メディアに「こういうサービスです」と機能を説明するだけでは興味を持たれなかった。履歴書ツールは世の中に多く、機能の羅列では違いが伝わらない。

打ち手

なぜ作ったか・何に困って何を削ったかという個人の体験を物語として書き、ニュースレターも開始した。結果、南米の大手ニュースサイトに取材記事が掲載され、他サイトにも引用されてリンクが集まった。

履歴書作りでいちばん疲れるのは、文章力よりも「次に何をすればいいか分からない」時間かもしれない。

毎月およそ1万5千件がダウンロードされ、年間約350万円(約24,000ドル)の売り上げにつながる履歴書作成サービスも、出発点は週末の小さな試作だった。

機能を増やして差別化するのではなく、「迷わせない」ことだけを徹底する。寄付で反応を確かめ、伝え方を変え、必要なものだけを残す。その2年の積み上げが、信頼と収益を形にしていった。

「迷わせない」だけで、履歴書作りは一気に楽になる

新しいことを始めた直後は、誰でも気分が上がる。やることが山ほど見えても、それが冒険みたいに思える。

でも時間がたつと、景色が変わる。進みが遅く感じたり、やることが増えたりして、急にマラソンみたいに長く見えてくる。そこで多くの人が迷う。「やめるか」「やり方を変えるか」。

フェルナンド・ペサーニョも、その分かれ道に立っていた。長くデザインの仕事をしてきたが、いつの間にか情熱が薄れていた。気持ちを取り戻すために、週末の趣味として小さなサービスを作り始める。

テーマは履歴書。世界中の誰でも、迷わず、無料でもちゃんと使える履歴書作成サービスを目指した。余計な機能を足さず、必要なところだけを整える。たったそれだけの方針が、のちに大きな力になる。

今、そのサービスでは毎月およそ1万5千件の履歴書がダウンロードされ、年間約350万円($24,000)の売り上げにつながっている。ただ、ここに来るまで2年かかった。いきなり課金せず、寄付で反応を確かめ、伝え方も変えながら、少しずつ「信頼」と「収益」を積み上げていった。

13歳のころの「作る楽しさ」が、仕事で消えていった

フェルナンドがインターネットにのめり込んだのは13歳のころだった。友だちとゲームをする代わりに、小さなサイトを作っていた。当時好きだった「ドラゴンボール」のファンページも作った。かっこいいと思ったものを形にできるのが楽しくて、何時間でも続けられた。

しかも、作ったものが世界のどこかの誰かに届く。その感覚が、ほとんど魔法みたいだった。

大人になってからも、アルゼンチンでWebや画面のデザインの仕事を続けた。けれど中小企業の案件を10年ほどこなすうちに、心がすり減っていった。仕事は回る。でも「作る楽しさ」が戻ってこない。

だから必要だったのは、子どものころみたいに気楽に作れて、しかも人の役に立つ個人プロジェクトだった。

妹の履歴書を手伝って気づいた。「無料」はだいたい不親切だ

2018年、妹が就職活動を始めた。履歴書のデザインを手伝ってほしいと頼まれ、テンプレートを探したが、使いにくいものが多かった。

無料と書いてあるのに、途中から編集できなくなったり、逆に機能が多すぎて迷ったりする。履歴書を作りたいだけなのに、画面の前で立ち止まってしまう。

フェルナンドはここで方針を決めた。

「自分が使いたい履歴書作成サービスを作る。迷わせない。余計なものを増やさない。無料でもちゃんと役に立つ」

履歴書を作る人の多くは、パソコンが得意とは限らない。だからこそ、シンプルさが価値になる。フェルナンドは機能で勝とうとせず、「迷い」を消すことで勝とうとした。

週末に少しずつ作り、旅先で「迷う場所」を潰した

開発は週末の趣味として始めた。燃え尽きないよう、締め切りはきつくしない。機能も軽く保つ。

ただ、締め切りがないと人は欲張る。あれもこれも足したくなる。フェルナンドが戦ったのは技術よりも、この「足したくなる気持ち」だった。迷わせないサービスにするには、作り手がまず迷わない設計を選ぶ必要がある。

2018年前半、ヨーロッパ旅行をただの観光で終わらせず、試作品を試してもらう場に変えた。泊まったホステルでバックパッカーたちに画面を見せ、意見を聞いた。仕事の合間に履歴書を作る人もいて、状況がリアルだった。

声を聞くほど、やるべきことは増えるのではなく減っていった。「この機能はいらない」「ここで迷う」。そうやって削り、整え、使い方をすっきりさせた。

7月にブエノスアイレスへ戻るころには、まず試してもらえる最小限の形になっていた。8月に紹介サイトで公開すると、翌朝には登録やダウンロードの通知が大量に届いた。2019年までに、2万件以上の履歴書がダウンロードされた。

アクセスの約7割はいまも検索から来る。検索で見つけてもらえるということは、困っている人が自分で探してたどり着くということだ。迷っている人が自分で探し当てられる場所に、迷わないツールがある。

サービス説明では広がらない。体験の話が、人を動かした

一方、開発者の小さなコミュニティの外へ広げるのは簡単ではなかった。広告にお金をかけずに、より多くの人へ届ける方法を探した。

記者向けの資料を作ってメディアに連絡もした。だが「こういうサービスです」という説明だけでは興味を持たれにくい。履歴書作成ツールは世の中にたくさんある。機能を並べるだけでは違いが伝わらない。

そこでフェルナンドは、個人の体験として物語を書くようにした。ニュースレターも始めた。なぜ作ったのか、何に困って、何を削ったのか。「迷いを消すまでの道のり」を言葉にした。

すると反応が変わった。南米の大きなニュースサイトで取材記事が出て、別のサイトもそれを紹介し、リンクが集まった。フェルナンドは「個人的な物語を語ると注目されやすい」と感じた。

ここでも軸は同じだ。履歴書作成の画面で迷わせないだけでなく、サービスの外でも迷わせない。「何のためのツールか」「誰のどんな困りごとを減らすのか」を、物語でまっすぐ伝えた。

検索順位が落ちた日、やめる代わりに「整える」を選んだ

検索で上位に居続けるのは、また別の苦労がある。2020年12月、検索の仕組みが大きく変わり、順位が急落した。やめたくなるほど落ち込んだ。

でもそれは、「サイトをもっと良くする余地がある」という合図でもあった。会社の仕事を2週間休み、最初の1週間は休養にあて、次の1週間で集中して改善を進めた。

結果、順位は以前より良くなった。やったのは奇抜な裏技ではない。迷いを生む部分を直し、必要な情報を見つけやすく整えた。最初の方針に戻っただけだった。

寄付ボタンは「払いたい人がいるか」を確かめる実験だった

2020年、新型コロナの影響で収入の不安が増えた。デザインの仕事が減り、履歴書サービスも収益につながる形にしたくなる。当時は基本無料で、少しだけ紹介リンクの収入がある程度だった。

ただ、いきなり有料にすると反発が出るかもしれない。そこでトップページに寄付ボタンを置いて様子を見た。

するとすぐに、履歴書1つにつき最大で約3,000円($20)ほど寄付する人まで現れた。8月にはダウンロードが50万件に達し、月の利用者は6万人ほど。そのうち約2%が寄付をした。

「ネットで寄付する人なんていない」と思っていたのに、週に2〜3回寄付が入る。フェルナンドはここで確信した。迷わせない体験を作れたなら、少数でも「払っていい」と思う人が出てくる。

無料は残し、有料は「便利さ」だけを足した

寄付の反応に背中を押され、2021年に有料版を追加した。

やり方はシンプルだった。無料の機能を大きく削って脅すのではなく、有料の人だけが得する「便利さ」を足す。たとえば、企業の選考で読み取りやすい形式の履歴書や、より高画質でのダウンロードなど。

無料版は「知ってもらう入り口」にもした。無料でダウンロードした履歴書にはサービス名が入るようにし、ダウンロード前にSNSで共有してもらう仕組みも入れた。どちらもいまのアクセスの約1割を運んでいる。

有料版を足してもアクセスはほとんど落ちなかった。2021年7月の時点で月の利用者は10万人ほどになり、月の売り上げは平均で約30万円($2,000)に達した。2022年にはダウンロードが100万件を超え、複数の言語にも対応した。

ただし、多言語化は慎重に進めるべきだとも言う。少しずつ伸びても、ページ数が増えるほど管理が重くなるからだ。ここでも「増やしすぎると迷いが増える」という感覚が生きている。

最近は、希望する職種に合わせて文章案を出す補助機能も追加した。ただ、提案文をそのまま出すのではなく、本人が選び直して整える形にしている。機械が生成した文章は、文章に慣れていない人ほど良し悪しを判断しにくい。だからこそ、本人が選び直しやすい形で提示する。

考えすぎる前に作り始め、途中で何度も「削って整えた」

このプロジェクトは、フェルナンドのデザインへの気持ちを取り戻した。結果にも満足している。ただ、最初から大変さを全部知っていたら、始めていなかったかもしれないとも言う。

だからすすめたいのは、悩み切ってから動くのではなく、無理をしない範囲でまず作ることだ。週末に少しずつ進め、燃え尽きないように続けた。その積み重ねが、新たな仕事のきっかけになり、ヨーロッパへ移り住むことにもつながった。

結局、この履歴書サービスの成長を支えたのは、大きな資金でも派手なアイデアでもない。「迷わせない」を徹底して、足し算より引き算を選び続けたことだった。

画面の迷いを減らし、伝え方の迷いも減らし、収益化の迷いも減らす。その一本の軸が、趣味の小さな活動を、世界中で使われるツールへ変えていった。


3層インサイト

フェルナンド・ペサーニョは週末の趣味として小さな履歴書作成サービスの試作を始めた。
2018年に妹の就職活動を手伝う中で、無料の履歴書テンプレートが使いにくい(編集が途中からできない、機能が多すぎて迷う)と気づいた。
フェルナンドは「迷わせない」「余計な機能を増やさない」「無料でもちゃんと役に立つ」を方針として決めた。
2018年前半のヨーロッパ旅行中、ホステルでバックパッカーに試作品の画面を見せて意見を聞き、不要な機能を削って使い方を整理した。
2018年8月に紹介サイトで公開すると翌朝に登録やダウンロードの通知が大量に届き、2019年までに2万件以上がダウンロードされた。

差別化は機能を増やすことではなく、使う人が迷う場面を減らす設計でも実現できる。

根拠

-フェルナンドは「迷わせない」「余計な機能を増やさない」「無料でもちゃんと役に立つ」を方針として決めた。

-2018年前半のヨーロッパ旅行中、ホステルでバックパッカーに試作品の画面を見せて意見を聞き、不要な機能を削って使い方を整理した。

-2020年12月に検索の仕組み変更で順位が急落し、迷いを生む部分を直し情報を見つけやすく整えた結果、順位は以前より良くなった。

初期の収益化は、いきなり課金するよりも「払いたい人がいるか」を小さく検証する実験から始めると反発リスクを下げられる。

根拠

-2020年にトップページへ寄付ボタンを置いたところ、月の利用者約6万人のうち約2%が寄付し、最大で約3,000円($20)寄付する人もいた。

-寄付の反応を受けて2021年に有料版を追加した。

無料を入口として残しつつ、有料は無料を不便にするのではなく追加の利便性で価値を分けると、利用の減少を抑えながら収益化できる。

根拠

-2021年に有料版を追加し、無料機能を大きく削って脅すのではなく有料向けの便利さ(読み取りやすい形式、高画質ダウンロード等)を追加した。

-有料版追加後もアクセスはほとんど落ちず、2021年7月時点で月の売り上げ平均約30万円($2,000)に達した。

機能説明よりも、作った背景・削った理由などの体験を物語として伝えるほうが、外部の関心と紹介を得やすい。

根拠

-記者向け資料でメディア連絡をしたが、機能説明だけでは興味を持たれにくかったため、個人の体験として物語を書くようにしニュースレターも始めた。

-物語ベースの発信により、南米の大きなニュースサイトで取材記事が出て別サイトにも紹介され、リンクが集まった。

検索流入に依存するプロダクトは、順位下落時に短期で集中的に改善し、ユーザーの迷いを減らす基本に戻ることで回復できる場合がある。

根拠

-アクセスの約7割は検索から来ている。

-2020年12月に検索の仕組み変更で順位が急落し、2週間の時間を確保して改善した結果、順位は以前より良くなった。

プロダクトが「機能過多で使いにくい」「ユーザーが途中で止まる」状態になっている

1ユーザーに実際の操作をしてもらい、「ここで迷う」「この機能はいらない」を具体的に記録する。
2記録した迷いポイントを優先度順に並べ、不要機能の削除・導線の簡略化・表示情報の整理を実施する。
3機能追加の提案が出た場合は、迷いを増やす可能性を評価し、追加より削除・統合の選択肢を先に検討する。

無料提供から収益化したいが、いきなり有料化すると反発や利用減が怖い

1まずは任意支払い・寄付などの小さな実験で「払いたい人がいるか」を検証し、支払い率や金額レンジを観察する。
2有料化する場合は、無料の中核価値は維持し、有料には追加の利便性(品質向上、形式追加、作業短縮など)を設計する。
3無料利用者が自然に拡散できる導線(成果物への最小限のクレジット表示、共有のきっかけ)を用意し、入口としての無料を強化する。

露出を増やしたいが、機能説明だけではメディアや外部コミュニティに刺さらない

1「なぜ作ったか」「誰のどんな困りごとを減らすか」「何を削って整えたか」を時系列で1本のストーリーにまとめる。
2ストーリーを継続発信できる形(連載記事、ニュースレター、更新ログなど)にし、改善の過程も公開する。
3外部に送る紹介文は、機能列挙ではなく体験の要約(課題→方針→削った点→得られた変化)を中心に構成する。

検索流入が大きいサービスで、順位下落や流入減が起きた

1短期間の改善スプリントを確保し、まずユーザーが迷う箇所(情報の見つけにくさ、導線の複雑さ)を優先的に直す。
2改善内容は「奇抜な施策」ではなく、目的の情報へ到達しやすい構造・説明・ナビゲーションの整備に寄せる。
3改善後に主要ページの流入と行動(登録、ダウンロード等)の変化を確認し、迷いポイントの追加修正を繰り返す。