スタート資金は約17万円($1,200)。それが9年後、チーム14人、在庫約1万3000種類、1日の注文約1000件、売上は約10億円規模($6.8 million)まで伸びた。
ただ、舞台は「ネットで買い物するのが当たり前」になる前のベルギー。オンライン注文に慣れていない人が多く、便利さより先に不安が立つ市場だった。
そんな環境で、子ども服と小物のオンラインショップはどうやって信頼を積み上げ、成長のスピードを上げていったのか。転機になった判断と、地道な仕組みづくりを追う。
ベルギーでネット通販がほとんどなかった時代に、売上を大きく伸ばした創業者の話
今はネットで買い物するのが当たり前だ。でも少し前のベルギーでは、オンラインで注文したことがない人がたくさんいた。ネット通販は「便利」より先に「怖い」が来る世界だった。
そんな場所で、ソフィー・クラスは子ども服と小物のオンラインショップを始めた。店の名前は「De Gele Flamingo(黄色いフラミンゴ)」。ヨーロッパ中から商品を集め、トレンドを押さえながら、健康・安全基準もしっかり守る。小さな店は、少しずつ信頼を積み上げていった。
スタート資金は約17万円($1,200)。それが9年後、チームは14人、在庫は約1万3000種類、1日の注文は約1000件。売上は約10億円規模($6.8 million)まで伸びた。
「ここにはない」から始まった
きっかけは、娘が生後10か月のころだった。ソフィーは少し個性的なベビー用品を求めて店を回ったが、気に入ったものほどベルギーでは見つからない。あっても、イギリスやアメリカのネットショップでしか買えないことが多かった。
そのたびに思った。「同じように困っている親は、きっと他にもいる」。海外のサイトを探し回る時間は、誰にでもあるわけじゃない。なら、自分がその手間を引き受ける店を作ればいい。
小売の経験はなかった。それでも2013年、ネットショップを立ち上げた。まずベルギーの仕入れ先に連絡したが、反応は冷たかった。当時はネット通販を信用しない会社が多く、「実店舗がないなら売れない」と言われた。
そこでソフィーは、ネット通販が進んでいる場所へ足を運ぶ。ロンドンのイベントに参加し、新しいブランドと出会った。ベルギーに販売拠点を作る意義を理解してくれる相手が見つかり、ようやく前に進めた。
開店時の商品は35点ほど。よだれかけやおしゃぶりなど、小さなベビー用品が中心だった。ベルギーでは手に入りにくい、少し個性的なブランドにしぼって、小さく始めた。
交渉の経験が、仕入れの武器になった
当時ソフィーには本業があった。国際取引の仕事をフルタイムで続けており、海外の相手と交渉することに慣れていた。店の仕入れでも、その経験がそのまま活きた。ブランドと条件を詰める作業は、むしろ楽しかった。
本業を持っていたことには、もう一つ強みがあった。生活費は給料でまかなえるため、店の利益から自分の給料を取らずに済み、稼いだ分をそのまま事業に再投資できた。結果として、最初の年から黒字になりやすかった。
ただ、2年ほどで状況が変わる。店が副業の枠を超えてしまったのだ。さらに伸ばすには片手間では無理だと判断し、ソフィーは本業を辞めて店に全力を注ぐことを決めた。
競合がいないのに、売るのが難しい
開店当初、競争相手はほとんどいなかった。普通なら有利に見えるが、それは市場自体がまだ育っていないことも意味していた。そもそも客がネットで買うことに慣れておらず、安心できない。
実際、仕組みが分からない人から「お金を郵便で送ればいいのか」といったメールも届いた。多くの人にとって、買い物は店に行って手に取るものだった。
そこでソフィーが頼ったのがSNSだった。正式オープン前からページを作り、扱う予定の商品写真を投稿し続けた。当時、大手の小売ブランドはSNSに本腰を入れていなかった。だからこそ、目立てた。
反応を見れば、どの商品に興味があるかも分かる。どれならお金を払ってもらえるかも見えてくる。SNSは宣伝だけでなく、市場調査の場にもなった。
サイト公開初日から注文が入り、最初の1か月で40件。数は多くない。それでも「ネット通販はまだ早い」と言われていた時代に、すぐ買う人がいた。その事実が、店の未来を支えた。
その後も個性的な商品を選び続け、SNSには1日に何度も投稿した。客がネット通販に慣れるにつれ取り扱い商品も増え、ブランド側から声がかかるようにもなった。競争相手が少ない時期だったことも、成長を加速させた。
家が倉庫になり、ついに限界が来た
最初の3年間、在庫は自宅に置いていた。注文品を家で受け取れる仕組みまで作ったが、最初は1部屋だけだったのに、気づけば2階全体とガレージまで商品で埋まっていった。
家賃を節約できたのは助かった。しかしある日、荷物の箱で入口がふさがり、配達を受け取れないほどになった。そこで本格的な倉庫を探し始める。
最初の倉庫は2年で手狭になった。隣の倉庫まで壁を壊して広げる必要が出てきたからだ。扱う商品も広がっていく。ベビー用品だけでなく、少し大きい子向けの商品、インテリア、スキンケアも加えた。
狙いは明快だった。子どもの買い物のついでに、親自身や友人へのギフトも選べるようにする。店は「赤ちゃん用品の店」から「家族全体のコンセプトストア」へと変わっていった。さらに大きな倉庫へ移り、約1万3000種類の在庫を持てるようになった。
コロナで注文が5倍、倉庫を自動化へ
新型コロナの流行は、店にとって大きな試練だった。世界中でネット通販が急拡大し、注文が一気に増えた。ある日を境に注文数が5倍になったのに、当時の従業員は9人しかいなかった。
人手はすぐに増やせない。夜も週末も必死に回した。ソフィー自身も倉庫で作業し、荷札を印刷して梱包しながら、取引先とのオンライン会議にも出続けた。
しかも2020年には、ベビーリスト用の新しいアプリ開発と倉庫管理システムの導入という大きなプロジェクトも同時に動いていた。
ソフィーは決断する。倉庫作業を自動化する仕組みへの投資だ。以前は新人が1万3000種類の商品の場所を覚える必要があり、教育に3か月かかっていた。
新しい仕組みでは、バーコードなどを読み取って商品を探しやすくし、注文に合わせた荷札も自動で出力できるようにした。結果、1日に処理できる注文数は3倍になった。新人の教育も10分ほどで済むようになり、急増する注文に追いつけるようになった。
客の行動を見て、オンラインと実店舗を使い分けた
出産を控えた人が必要なものをリストにして家族や友人に贈ってもらう仕組み、いわゆるベビーリストがある。店にとっては、リストに入った商品が売れやすい。
当時のベルギーでは店員が手作業でリストを作るのが一般的で、時間がかかっていた。そこで2016年、De Gele Flamingoはベビーリストをオンライン化する。月額費用を抑えた仕組みを使い、リスクを小さくしながら試行錯誤を重ねた。
ベルギーで初めてのオンラインベビーリストだった。使われるか分からなかったが、実際には手軽さが口コミを生んだ。リストに入った商品は在庫として確保され、出産後に受け取れるよう管理も工夫した。
今では毎月200件ほどの新しいリストが作られ、売上の約30%を支える柱になっている。
ただ、データを見て気づいたことがある。オンラインでリストを作るのは、2人目・3人目・4人目の出産を控えた人が多く、初めての妊娠の人は少なかった。
理由ははっきりしていた。初めてだと何が必要か分からない。店員に相談しながら実物を見たい。そして初めてのリストはベビーカーやベッドなど基本用品が入りやすく、金額も大きくなりがちだ。
足りないのは「体験」だ。そこでソフィーは実店舗を開く決断をした。
実店舗は、生後1年までの赤ちゃん向けにしぼったコンセプトストアにした。来店者は実物を見て触れて確かめ、店内でコードを読み取るだけでリストに追加できる。商品は後で自宅に配送してもらえる。体験は店で、受け取りは家で——両方の良さをつなげた形だ。
開店後しばらくして分かった。店でリストを作る客の多くが、初めての妊娠だった。狙っていた層をしっかりつかめた。
オンラインと実店舗の両方を持つこと自体が目的ではない。客が何を求めているかを見て、最適な手段を選ぶ。その考え方が、店の形を決めてきた。
言語の壁を下げ、世界に開いた
もう一つの転機が、サイトの英語対応だ。以前はオランダ語のみだったが、海外から翻訳を求める声が増えていた。
英語版を用意すると、客の範囲が一気に広がった。今はベルギーとオランダが中心だが、まだ伸びる余地は大きい。
ネット通販が当たり前ではなかった国で、約17万円($1,200)から始めた店が、信頼を積み上げて大きくなった。ソフィーの強さは、派手な一発逆転にあるのではない。客の不安を見つめ、仕組みを変え、体験を作り、地道に前へ進み続けたことにある。
