学位も資金もないまま起業して、会社を上場まで持っていく――。そんな話は、どこか遠い世界の出来事に聞こえがちだ。
ドミニクも最初は、売り方も手応えもつかめないまま走り出した。思うように稼げず、月1,000ドル(約15万円)に届くまでに18か月かかる。止まっているような時間と、不安の中で試行錯誤が続いた。
それでも失敗を材料にして、次は同じ落とし穴を避けた。やがて年100万ドル規模(約1.5億円規模)に伸び、さらに上場という選択が現実になる。何が転機になったのか。その道筋をたどっていく。
学歴より、現場で覚えたことが武器になる
会社を大きくして株式を公開するには、すごい学位か、最初から大金が必要。そんなふうに思われがちだ。
でもドミニクは、どちらも持たずにスタートして、自分の会社を上場まで連れていった。
最初のころは、計画もあいまいで、どう売ればいいかもよく分かっていなかった。1年目から月に大きく稼げると信じていたのに、現実は厳しい。月1,000ドル(約15万円)に届くまで、18か月もかかった。
それでも、そこで終わらなかった。失敗を材料にして、次は同じ落とし穴を避けた。その結果、2つ目の事業は3年で大きく伸びていく。
遠い台湾で、未来の入口が開いた
ドミニクは大学でメディアを学んだ。けれど映画やテレビの世界には進まなかった。仕事が少なかったこともあり、兄の言葉も背中を押して、台湾へ行き英語教師になった。
2008年、世界の景気が冷え込む中で台湾に到着し、英語を教え始める。両親は「イギリスの景気が戻るまで台湾にいた方がいい」と言った。数年働くうちに台湾人の妻と出会い、アジアで生きていく覚悟も固まっていった。
ただ、英語教師だけで一生終わる気はしなかった。2012年ごろ、ネットで商品を紹介してお金が入る仕組みに興味を持つ。サイトを作り、文章を書き、検索で上に出す方法を学び、レビューで収益を得る方法も覚えた。
やっているうちに、これがただの趣味ではなく、事業になると感じ始めた。
最初の会社でつまずいた本当の理由
2013年11月、ドミニクは最初の会社を作った。特定ジャンルの紹介サイトを作り、それを売る。最初はそんなモデルを考えていた。
ところが、売買の場には「すぐ儲かる」とうたう安い出品が並び、空気が怪しい。まじめに作ったサイトほど、見えにくくなる場所だった。
それでも方針を変え、「ちゃんとしたサイトを作って売る」路線に切り替える。だが買い手はつかない。「1年育てれば少しずつ稼げる」と説明しても、反応が薄い。
18か月、ほとんど利益が出ない日々が続いた。
その時間の中で、ようやく原因が見えてくる。サイトを作って並べるだけでは足りない。価値を分かってくれる人を増やさないといけない。ブログで発信し、やり方を見せ、学びたい人に教える。そうやって土台を作る必要があった。
2014年から2018年にかけて、ドミニクはその積み上げに時間を使った。
「売るのが怖い」を乗り越える
当時のドミニクは営業が得意ではなかった。電話で売り込むのが怖い。突然の連絡にも身構えてしまう。大量に買いたいという相手が現れても、電話に出たくない気持ちが勝って、チャンスを逃したことすらある。
でも、検索で上位を取る工夫だけでは、新しい客は急に増えない。しかも時間がかかる。
売るには、人と話して信頼を作るしかない。そう理解してから、電話やメールを続けた。怖さを消すのではなく、怖いまま前に進んだ。少しずつ人脈が広がり、メールの読者も増えていった。
人を雇うと、別の不安がやってくる
会社が伸び始めると、1人では回らない。サイト制作を手伝う人を雇う必要が出てきた。
すると悩みの種類が変わる。どう仕事を任せるか。給料をどう決めるか。売上が落ちたらどうするか。新しい不安が次々に出てくる。
ドミニクは、試しながら覚えた。音声番組や勉強会からも知識を集めた。完璧な計画はなかった。走りながら考える形だった。
その経験が会社の背骨になった。
2017年ごろ、最初の会社の売上は年100万ドル規模(約1.5億円規模)まで伸びた。すると客から「作るだけじゃなく、運営もしてほしい」という声が増える。
ドミニクは考えた。サイトを作って渡して終わりではなく、運営を引き受けて管理費をもらう形なら、もっと価値が出る。そこで最初の会社を売り、新しい事業に集中する決断をした。
2つ目の会社は、最初からスピードが違った
2018年末、ドミニクは2つ目の会社を立ち上げた。最初の会社で得た利益があったので、早い段階で責任者クラスの人材を雇えた。
7〜8か月で売上が安定し、生活費としての給料も出せるようになる。1年目の終わりには資金繰りが良くなり、チームの給料を上げられる状態になった。
伸びが早かった理由はシンプルだ。
- 最初から人に払う資金があった
- 人脈作りの大切さを理解していた
- 過去の実績が信用になっていた
昔は避けていた電話での打ち合わせも、短時間で契約を決められるようになった。
ただし、楽になったわけではない。今度は「自社の運営」だけでなく「複数の事業をまとめて動かす」必要が出てきた。投資や契約の仕組みなど、新しい知識も要る。
家庭も変わった。子育てと仕事の両立が課題になる。夜遅くまで働く、週末も働く。そういうやり方は続けにくい。
悩みの中心も変わった。会社が成り立つかではなく、どう拡大するか。人を増やすには売上が要る。売上を増やすには人が要る。そんな堂々巡りにもぶつかった。
上場という選択が現実になる
自己資金でやってきた起業家は、上場を現実的に考えにくい。ドミニクもそうだった。
そんなとき、上場を支援する会社から連絡が来た。まだ規模は大きくなくても、上場すれば評価が大きく伸びる可能性がある。そう言われたことで、考え方が動き始める。
もう1つ、ドミニクには強い問題意識があった。投資家の資金を、もっと安全に運用したい。
1つの事業に全額を入れたら、その事業が失敗したとき全部が消える。だから、複数の事業をまとめて持ち、全員がその全体に少しずつ関わる形を目指した。1つが失敗しても、別の事業が伸びれば全体で支えられる。
上場すれば資金を集めやすくなる。投資家にとっても売買しやすい。長く続けられる事業の形が見えたことで、上場準備が始まった。
2020年ごろから約2年、監査、資料作り、契約書の整理を進め、投資家にも説明を重ねた。市場の事情で予定はずれ込み、2022年8月に上場が実現した。
上場後は、投資家が株を売買しやすくなる。会社としても借り入れなどの選択肢が増える。人材集めでも、上場企業という肩書きが信用になる。報酬として株式を渡す形も取りやすい。買収の交渉でも、監査済みの数字を示せるので相手が安心しやすい。
上場を目指すなら、まず理由を言葉にする
上場は万能ではない。準備は大変で、費用もかかる。会社の状態や個人の資産状況が、知られやすくなる面もある。
だから「なぜ上場したいのか」を先に固める必要がある。会社を大きくして売却したいのか。資金を集めて成長を速めたいのか。
資金が必要なら、上場が最適なのかも考えるべきだ。自己資金で伸ばす道もある。非公開のまま投資を受ける道もある。
ただ、どの道を選んでも変わらないことがある。学び続ける姿勢が必要だということ。
うまくいくために必要なことは、最初に想像したものと違うことが多い。続ける粘り強さと、うまくいかないやり方を変える柔軟さ。その両方が、最後にものを言う。
