時間のかかるバーベキューを、もっと手軽に食べられないか。そんな素朴な疑問から、アンドリューの挑戦は始まった。
ただ、肉を焼いて届けるのは簡単ではない。保管も配送も難しく、宣伝も必要だ。最初の数か月は利益が出ないかもしれない不安もある。それでも彼は、会社員の仕事を辞めて「肉のネット販売」に踏み出した。
ポップアップ中心で売上が不安定だった状態から、広告を回し、仕組みを整え、毎日注文が入る形へ。小さな失敗や想定外をどう次の成長に変えていったのか、その過程を追っていく。
焼き肉はネットで売れるのか
焼いた肉やスモークした肉を、箱に入れて家まで届ける。そんな店がアーバン・スモークハウスだ。創業者はアンドリュー・ビューラー。
始まりはシンプルな疑問だった。「時間のかかるバーベキューを、もっと手軽に食べられないか」。ブリスケットやリブはうまい。でも作るには何時間もかかる。煙の管理も必要だ。多くの人は途中であきらめる。ならば、こちらで焼き上げて、すぐ食べられる形で届ければいい。
2022年9月ごろ、アンドリューは本格的に動き出した。会社員として投資の仕事を約10年続けたあと、自分の手で「肉のネット販売」に挑戦することに決めた。
エントリー1:2022年9月 仕事を辞めて肉のネット販売を始めた理由
家の中に、料理と商売があった
アンドリューの父はプロの料理人で、食品ビジネスにも関わっていた。家には「料理の空気」と「商売の考え方」が同時にあった。肉を焼くのは特別なイベントではなく、生活の一部だった。
アンドリュー自身も学生のころから、小さな商売を試してきた。安く仕入れて売る。Tシャツを作って売る。やってみると面白い。ただ、続けて大きくするには何が必要かまでは分からなかった。
投資の仕事で身につけた「伸びる商売」の見方
社会人になってからアンドリューが選んだのは投資の世界だった。富裕層のために投資先を調べる仕事を続け、成功しているビジネスをたくさん見た。
見ているうちに、共通点が分かってきた。利益が出やすい形になっているか。繰り返し買ってもらえるか。運営が強いか。仕組みが回るか。そうした視点が、少しずつ自分の中にたまっていった。
そしてある日、その視点を「自分の事業」に使いたくなった。
コロナ禍で、買い方が変わった
コロナ禍で食料品の宅配が広がった。肉や野菜のような傷みやすいものまで、ネットで買う人が増えた。
アンドリューはそこにチャンスを見た。食品のネット販売は伸びる。しかも、バーベキューの中でも「時間がかかる料理」は、面倒で避けられやすい。ならば、調理済みで届ける価値は大きい。
いきなり本番に行かず、予約で確かめた
ただ、肉は簡単な商品ではない。保管も配送も難しい。安全に届ける仕組みが必要だ。アンドリューは製造、保管、配送の相談を進め、ソースのレシピも作り込んだ。
もう一つの壁はネットの店づくりだった。サイトと宣伝が勝負になるのに、アンドリューはデザインや広告の経験が多くなかった。そこで知人の力を借りてサイトを作り、宣伝のやり方も学んだ。
そして正式スタートの前に、予約販売をやった。先に注文を集めて、需要を確かめるためだ。食品は長く置けない。最初からある程度の注文がないと、作った分が無駄になる。予約でまとまった売上が立ち、手応えが出た。
知ってもらうには、まず食べてもらう
秋の週末、アンドリューはスポーツバーの近くで出店した。屋台のような形でリブを焼き、試食してもらう。うまさは言葉より早い。食べてもらえれば、話が進む。
ただし現実は甘くない。最大の課題は配送費だった。肉は重い。保冷材も容器もいる。しかも早い配送が求められる。送料無料にすれば注文のハードルは下がるが、その分のコストがのしかかる。将来は配送方法を工夫して、ここを下げたい。
さらに、最初の数か月は利益が出ない可能性も高い。だからアンドリューは、どれだけ耐えられるかを計算し、できる限り自分で作業して人件費を増やさない方針を取った。
エントリー2:2022年10月 わざと売り切れを作り、次の売上につなげる
売り切れは、失敗ではなく話題になる
10月、ブルックリンの海兵隊基地で大きなイベントが開かれた。来場者は2000人以上。食べ物の店は少ない。アンドリューは多めに用意して出店した。
結果は、昼の時間帯に一気に売れて早々に完売。最初は「もっと用意すべきだった」と思った。
だがあとで気づく。売り切れは、宣伝になる。買えた人は周りに話す。買えなかった人は次を待つ。数をしぼると注目が集まりやすい。完売は、次の売上のタネにもなる。
同じ立場の小さな会社と組む
宣伝では、小さくて勢いのあるマーケティング会社と組んだ。大きな会社に高い固定費を払うより、同じスタートアップ同士で前に進む関係を選んだ。
動画や写真をまとめて撮影し、広告を複数パターン用意する。反応が良い層に合わせて内容を変え、効率よく注文を増やす。やることは地味だが、ここがネット販売の強さになる。
最初の計画にしばられない
当初の想定はこうだった。まず個人向けに売る。将来は大手の取引先へ広げる。
ところが毎週スポーツバー近くで売っているうちに、別の道が見えてきた。近所の店にまとめて売る方法だ。バーが20〜30セットまとめ買いしてくれれば、その利益を広告費に回せる。広告でネット注文が増える。ネットが伸びればまた店向けも強くなる。個人向けと店向けが回り始める循環が作れる。
計画は変えていい。むしろ変えられるほうが強い。アンドリューはそう考えるようになった。
年末に向けて、仕掛けを作る
11月半ばから広告を強め、メールでも購入を後押しする仕組みを整える計画を立てた。年末はギフト需要もある。特典を付ける案も検討した。
エントリー3:2022年11月 小さな負けから次の勝ちを作る
広告で人が来る。売上も動く
11月18日から広告を出すと、サイトへの訪問が増え、売上も伸びた。12月に入ると、注文が跳ねる日も出てきた。
アンドリューがやったのは、当たり前のことを徹底することだった。どの動画が刺さるかを見る。弱い広告は止める。強い広告に集中する。それだけで数字が変わる。
季節の撮影は「早すぎる」くらいでいい
一方で反省もあった。動画は撮ってすぐ使えるわけではない。編集に時間がかかる。クリスマス向けの撮影が遅れ、使えるころには本番が近すぎた。
そこでアンドリューは決めた。「1か月前に撮る」カレンダーを作る。年末年始や大きなスポーツイベントに合わせて、前倒しで準備する。
メールを仕組みにして、手間を減らす
注文確認だけだったメールも、テンプレートを作って自動化する方向に変えた。
新規登録者への案内。カートに入れたままの人への通知。確認メールの改善。感想の依頼。場面ごとに用意する。登録者数も短期間で増え、次の新商品を知らせる土台ができた。
次の商品は、何を選ぶ
リブだけでは足りない。次の商品も出したい。候補はブリスケットかプルドチキン。
チキンは価格を抑えやすい。サラダやサンドにも使える。買う回数が増える可能性がある。ブリスケットは作るのが特に大変だから、「自分で作る面倒」を強く解決できる。ただし価格は上がりやすい。
どちらが求められているか。アンドリューはメールやSNSで意見を集めて決めることにした。
コンテストに負けても、何も失わないとは限らない
小規模事業者向けの賞金付きコンテストにも挑戦し、最終候補まで残った。だが優勝は逃した。広告費や新商品準備に使える資金を期待していた分、落胆は大きかった。
それでも意味はあった。発表の場で紹介され、宣伝効果が出た。売上が伸びた週もあった。負けは負けで終わらない。次につながる材料が残った。
店向け販売が、予想外の広がり方をした
バーへの提案を進める中で、複数の店を運営する人物につながった。試食の結果、別の新店舗で厨房の運営まで任せたいという提案も出た。
魅力的な話に見える。だがアンドリューは断った。今はレストラン運営ではなく、「肉を売る」事業に集中したい。やることを増やしすぎれば、どれも中途半端になる。目的に戻り、店への卸売りの可能性を探る方向に切り替えた。
これからの焦点
ポップアップ中心で売上が不安定だった状態から、広告で毎日注文が入る形へ変わり始めた。
次の勝負ははっきりしている。広告とメールの仕組みを整えること。新商品の投入を当てること。店向け販売を広げること。
小さな失敗や想定外の出来事を、次の成長の材料に変えられるか。アーバン・スモークハウスの物語は、そこからが本番になる。
