悪意ある低評価が一気に増えたら、飲食店やサービス業は簡単に追い込まれる。感染症の流行や人手不足で現場が苦しいときほど、口コミの一つひとつが重くのしかかる。
そんな現実を何度も目の当たりにしてきたランドン・テイラーは、口コミサイトの仕組みそのものに疑問を感じた。お金を払った企業が目立ち、利用者がそれと気づかないまま判断してしまう——その構造を変えたいと思った。
創業直後、「約1億5,000万円($1,000,000)で上位表示してほしい」という誘いが舞い込む。それでも彼は断った。短期の資金か、長期の信頼か。迷いやすい局面で後者を選んだその判断は、やがて年間売上2,000万ドル超(約30億円規模)という結果となって返ってくる。
信頼を守るために、100万ドルを断った男
飲食店やサービス業にとって、口コミはただの感想ではない。客が増えるか減るかを左右する、もう一つの看板のようなものだ。
しかしその看板は、ときに簡単に汚される。気に入らないことがあった客が、友人に頼んで低評価を一気に書かせる。そんな話は珍しくない。感染症の流行や人手不足で現場が苦しいなか、悪意のある低評価まで重なれば、店や会社は一気に追い込まれる。
ランドン・テイラーは、その現実を何度も見てきた。だからこそ思った。今の口コミサイトの仕組み自体に、どこかおかしいところがあるのではないかと。
こうしてランドンは、口コミサイト「Best Company」を立ち上げることになる。ただし、最初から口コミサイトの創業者を目指していたわけではない。
始まりは、マーケティングの現場だった
ランドンはもともと、クリエイティブ系のマーケティング代理店を経営していた。企業の宣伝や集客を支援する仕事だ。
ただ、心のどこかに別の夢もあった。SaaSのように、仕組みとして価値を届け続けるビジネスを作りたい。どの業界にも役立つプラットフォームを通じて、使う人の役に立ちたい。
そんなとき、仕事で「評判」に悩む企業を次々と担当することになった。そこで見えてきたのが、口コミサイトがうまく機能していない現実だった。
口コミは、いつの間にか「お金を払った者勝ち」になる
ランドンが複数の企業の評判管理を手がけていたころ、ネット上の評価が荒れて困っている会社が多かった。
調べていくうちに、ある事実に気づく。いくつかの口コミサイトでは、広告費を払った企業ほど目立つ場所に表示されやすい。検索で見つかりやすくなり、「おすすめ」欄にも顔を出す。
たとえば「近くのおすすめバーガー」と検索すると、最初に広告枠が並び、その後に本来の人気店が出てくる。見る側は、それが広告だと気づかないこともある。
こうなると、本当に良い仕事をしている小さな店や会社が埋もれてしまう。利用者も、正しい判断がしにくくなる。
ランドンはここで決意した。透明で、信頼できる口コミの場を作ろうと。
創業直後に来た、100万ドルの誘惑
Best Companyは、投稿の確認を行い、見返り目的のレビューを認めない方針を掲げた。金をもらって書かれたレビューが混ざれば、評価はすぐ歪むからだ。
ところが創業して間もなく、ある企業が近づいてきた。
「お金を払う。上位に表示してほしい」
提示された金額は、約1億5,000万円($1,000,000)。普通なら飛びつきたくなる額だ。会社を育てるには資金がいる。人も雇える。広告も打てる。未来が一気に開ける。
それでもランドンは断った。
理由はシンプルだった。ここで受け取れば、Best Companyが最も大切にしたいものが壊れる。信頼は一度崩れたら、取り戻すのが難しい。
星4と星5の差は大きい。わずかな評価の違いで、店が満席になるか、客が来ないかが変わってしまう。そんな場所で、順位を売るわけにはいかなかった。
大手だらけの市場で、どうやって生き残ったのか
口コミサイトの世界には、すでに強力な競合が存在していた。大量の広告費を投じられる会社も多い。新参サイトが一気に知名度を上げるのは容易ではない。
「お金で真実を曲げない」と決めたランドンは、派手な宣伝に頼れない。だからこそ、地道に信頼を積み上げるしかなかった。
最初に頼ったのは、代理店時代の既存顧客だった。顧客企業は運営の協力者にもなり、「本物の口コミを集めたい企業」にとっての新たな選択肢にもなった。
資金面も楽ではなかった。公的な融資を受け、代理店の利益を新事業に回した。本来なら生活の安定に使えるお金も、ランドンは事業に投じ続けた。
SEOで勝てないなら、戦う場所を変える
検索上位に表示されることは重要だが、「冷蔵庫修理 おすすめ」のような一般的なキーワードでは大手が強い。長年SEOに取り組んできた会社には太刀打ちしにくい。
そこでBest Companyは、狙いを変えた。
「会社名で検索する人」を助けることに特化したのだ。
たとえば訪問販売で業者が突然やってきたとき、相手が親切そうでも不安は残る。そんなとき、会社名で検索して評判や情報がすぐ出てくれば、判断の材料になる。
派手なキーワードで戦わず、困っている人が本当に必要とする場面に入り込む。Best Companyはそこから少しずつ存在感を高めていった。
稼ぎ方も「順位が買えない」設計にした
Best Companyの収益は主に2つある。
- サイトの利用者が企業に電話したり問い合わせたりしたときの紹介手数料
- 企業向けSaaSとして、プロフィール改善やマーケティング支援ツールを提供する月額料金
ここで最も重要なのは、手数料を払うかどうかがランキングや点数に一切影響しないことだ。
金を払った会社が上位に来る——そんな仕組みを取り入れた瞬間、Best Companyは他と同じになってしまう。だからランドンは、収益モデルそのものを「順位を買えない形」に設計した。
評価の高い修理業者などが、営業資料やマーケティング支援を受けるために年間契約を結ぶケースもある。また、レビュー投稿と「知人への紹介」をつなげる仕組み作りも支援した。満足度が最も高いタイミングを、自然な口コミの広がりへとつなげるためだ。
資金が尽きかけても、止まらなかった
事業が軌道に乗るまでには時間がかかった。初期は代理店の利益への依存が大きく、資金が不足することもあった。代理店側の業績が落ち込む時期もあり、運営は不安定になった。
それでもランドンはサービスを止めないために動き続けた。家を担保に借り入れまで行った。背筋が凍るような決断だったはずだが、立ち止まるわけにはいかなかった。
もう一つの壁もあった。満足した客ほど口コミを書かないことが多い。忙しくて、わざわざ投稿しない。
そこでBest Companyは、購入や利用の直後にSMSやメールで連絡し、タイミングを逃さずレビューを集める工夫をした。満足感が新鮮なうちに、手軽に書けるようにしたのだ。
断った100万ドルと同じ額を、別の形で積み上げた
やがてBest Companyは成長し、年間売上は約30億円規模($20,000,000)を超えた。家を担保にした借り入れも完済できた。
現在はSaaS機能の強化に力を入れており、そのSaaS部分の売上は約1億5,000万円($1,000,000)に達している。
創業当初、「順位を買いたい」と申し出てきた企業の約1億5,000万円($1,000,000)を断った。あのとき手にしなかった金額を、今度は信頼を土台として積み上げた。
短期の大金より、長期の信用を選ぶ。ランドンのその判断はきれいごとではなく、事業そのものの強さになった。
