いいプロダクトを作っているのに、なぜか売れない。営業・開発・マーケがそれぞれ別の方向を向いてしまう。そんな停滞は、現場では珍しくありません。
CrawlQを立ち上げたハリシュ・クマールも、大企業で「部署の壁」に何度も直面してきました。誰に向けて作り、誰に向けて売り、誰に向けて発信するのか。その前提がそろわないまま動いても、努力は噛み合わない。
そこで彼が軸に据えたのが「ペルソナ」でした。宣伝のためだけでなく、チームを同じ方向へ揃えるための共通言語として。AIで「狙うべき相手像」を掘り起こし、言葉に落とし込む仕組みは、やがて4,700社以上に使われるサービスへと育っていきます。
ペルソナが、バラバラのチームを一つにした
新規顧客を獲得したいとき、マーケターはよく「ペルソナ」を作る。ペルソナとは、理想の顧客を一人の人物として描いた架空のモデルだ。何に困り、何を大切にし、どんな言葉に反応するか。そこまで想像できると、売り方や伝え方が決めやすくなる。
ただ、ペルソナの力は宣伝だけにとどまらない。
CrawlQを作ったハリシュ・クマールは、ペルソナこそが「営業」「マーケティング」「開発」を同じ方向へ向ける道具になると考えた。
CrawlQは、AIで狙うべき顧客像を見つけ、その相手に刺さるコンテンツや企画づくりまで支援するサービスとして生まれた。利用企業は4,700社以上。リモート中心の小規模チームながら、着実に収益を伸ばしてきた。
大企業で見た「部署の壁」
ハリシュは18年以上、プロダクトデザインエンジニアとして働いてきた。大企業での経験を通じて、繰り返し目にしてきた光景がある。開発チームと営業・マーケティングの間に、ほとんど会話がない状態だ。
開発は製品の内側だけを見て機能づくりに集中しやすい。売り方や伝え方の意思決定には関われないのに、売上や評価の責任だけは背負わされることもある。
一方、営業やマーケティングは市場の声を聞いているのに、それが製品づくりに反映されない。こうして部署ごとに考え方が分かれ、連携が難しくなっていく。
スタートアップが失敗するとき、「製品が悪かった」と言われがちだ。だがハリシュは、別の原因を何度も見てきた。伝え方、売り方、そしてチームの足並み。ここがそろわなければ、いい製品でも届かない。
特に危ういのは、「誰に向けているのか」が部署ごとにズレていることだ。開発は別の相手を想定し、営業は別の相手に売り、マーケは別の相手に発信する。これでは顧客のニーズを満たせない。
だからこそ必要なのは、全員が同じ人物像を共有することだ。ペルソナが共通言語になれば、開発も営業もマーケも「この人にとって正しいか」を基準に判断できるようになる。
ペルソナは「架空の一人」だが、根拠がある
ペルソナは想像だけで作るものではない。狙う市場にいる人々の傾向を集め、一人の人物としてまとめる。行動パターン、よくある悩み、目標、響く言葉、避けたいこと。こうした情報が盛り込まれる。
すると会議で、「この機能は必要か」「この広告は伝わるか」を、感覚ではなく基準で議論できるようになる。誰かの好みではなく、「この人ならどう感じるか」で判断できる。
ハリシュが目指したのは、立場が違っても同じ相手を見て動けるチームだった。見ている相手が同じなら、判断のズレは自然と減っていく。
AIで調べ、AIで伝える
CrawlQの中核には、AthenaというAIエンジンがある。人にアンケートを取る代わりに、ネット上の検索結果・掲示板・質問サイト・特定のページ・社内資料など、さまざまな情報源からデータを収集して学習する。
それらを統合し、「こういう特徴を持つ相手がいる」という形に整理して、ペルソナへと落とし込んでいく。
調査のやり方は3つ
- AI主導で進める調査:入口の調査なら短時間で完了する
- 用意された調査結果を使う:多くの分野でテンプレートが揃っている
- 手作業の特別調査を依頼する:専門家が調査し、短期間で結果を届ける
調査が完了すると、収集した情報からペルソナが生成される。さらに追加データを重ねることで、顧客像をより鮮明にしていく。
ここで難しいのは、対象を絞りすぎないことだ。狭くしすぎると市場が小さくなって収益が出にくくなり、広すぎると誰にも刺さらない。CrawlQはそのバランスを見つけるところまで支援しようとした。
この分析は、現在の事業が正しい方向にあるかの確認にも、新製品のアイデア出しにも、新市場への参入判断にも活用できる。つまり「今いる顧客」と「これから狙う顧客」への理解を同時に深められる。
調査だけ渡しても、次に進めない会社が多かった
初期のCrawlQは調査が中心だった。だがハリシュはあることに気づく。調査結果を渡しても、「で、次は何をすればいい?」となる会社が多いのだ。
そこでCrawlQは、調査結果をAIに入力して意味のつながりを読み取らせ、コンテンツや企画を生成する仕組みを加えた。
調査のあと、ペルソナに合った発信戦略まで立てられるようにする。SNS投稿、短い紹介文、事例記事、提案資料、営業メール。場面ごとの「伝え方」を作るところまで、AIがサポートする。
いきなりソフトを作らず、まず手でやった
ハリシュは最初からソフトウェアを作り始めたわけではない。2019年ごろ、部署の壁をなくすための手順を整理し、表やチェックリスト、作業フローとしてまとめてサービスとして提供していた。これが最初の試作品になった。
まず少人数の顧客で試して本当に役立つかを確かめ、そこで得たフィードバックをもとに少しずつソフト化・自動化を進めた。時間をかけて形を整え、別の顧客でも試しながら改善を続けた。
そして「調査結果を見たあと、どう動けばいいか分からない」という課題が浮かび上がったことで、相手の心理や興味に合わせたコンテンツ生成の自動化にも力を広げていった。
売り場で鍛えられ、作り直した
2021年3月、CrawlQはAIによる調査・コンテンツ生成プラットフォームとして公開された。最初は、多くのユーザーが集まりやすい販売の場で試した。短期間で一気に利用者が増える一方、目的がバラバラな人も集まるため、狙う市場にまっすぐ届けるのが難しい面もあった。
その場では複数のツールを同時に使うユーザーも多く、継続利用を促すのは簡単ではない。ただ、新しい技術に慣れたユーザーが多く、細かい不具合にも理解があり、改善のフィードバックも集まりやすかった。
厳しい環境ではあったが、製品を強化する材料が豊富に手に入った。
公開後の短期間で顧客を増やし、機能追加と再公開でさらに拡大。収益も、単発の支払いだけでなく月額課金でも伸ばす形へと整えていった。
副業OKのパートタイムでチームを作った
CrawlQは少人数でスタートし、収益に合わせて人を増やしてきた。ここでもハリシュは独自の方針を取った。メンバーには他社の仕事や個人の活動を持つことを推奨し、CrawlQの業務はパートタイム中心にしたのだ。
こうすることで生活の不安が減り、会社側も限られた予算で経験豊富な人材を確保しやすくなる。メンバーも、自分の仕事が成長に直結する実感を持ちやすい。
ある時期には人数を増やして改善スピードを上げたが、コストが膨らみすぎたため、のちに少人数体制へ戻した。
ただし、急に切り捨てるやり方はしなかった。最初から期間や条件を共有し、契約終了後は次の仕事探しも支援する。会社が次のフェーズへ進んだ際に戻れるよう、再参加の道も残した。
状況に応じてチームを拡縮できることは、長く続けるための強みになる。大人数でなくても、少人数で大きな成果は出せる。
CrawlQは、部署の壁を壊し、理想の顧客を見つけ、伝わる言葉を生み出す。その支援をAIで広げながら、次の成長を狙い続けている。