「VA(バーチャルアシスタント)は便利そう。でも専門的な仕事は任せにくいし、英語や距離の不安もある」——そんな思い込みは、いまも根強い。
それでもCoconut VAは、立ち上げから8か月でVA50人・支援した起業家60人まで拡大した。何が違ったのか。鍵は「紹介して終わり」にしない設計と、経営者が最初の一歩を踏み出しやすくする仕組みにあった。
バーチャルアシスタントの常識をひっくり返したCoconut VA
バーチャルアシスタント(VA)と聞くと、便利そうなのに不安を感じる人は多い。「専門的な仕事は無理そう」「英語が心配」「海外だと話が進まない」——そんな思い込みが、ずっと残り続けていた。
エリックとタイラーは、そこに違和感を覚えた。
ノートパソコンでできる仕事なら、誰のノートパソコンでもできる。場所が違っても、やり方が違っても、本質は同じだ。VAの仕事はメール返信や予定調整だけではなく、もっと幅広い業務を任せられる。
そう考えた2人が作ったのが、Coconut VAというサービスだ。小さな会社の経営者や起業家が、日々の細かい作業から手を離して、本当に大切な仕事に集中できるようにすることを目指した。
しかもVAを紹介するだけで終わらない。契約手続き、給与の支払い、福利厚生まで一括して引き受け、経営者が「人を雇う手間」でつまずかないよう設計した。
立ち上げから最初の半年で売上は伸び、成長は止まらなかった。8か月の時点でVAは50人、支援した起業家は60人。利用者は小さな会社やマーケ会社にとどまらず、精神科医やライフコーチにまで広がっていった。
最初の会社が、次の会社の種になった
エリックは大学で起業を学び、いくつかの失敗も経験した。その後に立ち上げたのが、起業家向けコンサル会社のVenture Validatorだ。
アンケートなどを活用してアイデアの需要を素早く検証し、「誰に」「何を」作るべきかを明確にして、最小限の試作品を改善しやすくする——遠回りを減らすことが仕事だった。
タイラーは最初、その会社にインターンとして入った。力を発揮し続けて正社員になり、右腕となり、最終的には共同創業者になった。肩書きが上がったというより、仕事を通じて信頼を積み上げた結果だった。
Venture Validatorでは、社内の仕組み作りにVAを活用していた。そのやり方が周囲の起業家の目に留まり、「同じようにVAを探したい」「どうやって任せているの?」という相談が増えていった。
相談した起業家たちは細かな作業から解放され、事業拡大に集中できるようになった。2人は気づく——VAを紹介すること自体が、ひとつの事業になると。
そこでいつものやり方で検証した。500人以上の起業家に調査し、反応を確かめた。結果は上々だった。
手応えを得た2人はVenture Validatorを最小限の運用に切り替え、2021年8月にCoconut VAを始めた。
人手不足の時代、経営者は抱え込みやすい
物価も人件費も上がり、離職者も増える。そんな状況の中で、優秀な人材を確保したり外注したりするのは難しくなっていた。
結果として、経営者がすべてを抱え込み、週80時間働く——そんな状況が生まれやすくなっていた。
しかし、助けを得られるかどうかで、事業の未来は大きく変わる。
エリックはこう言う。適切なVAと組めれば、生活が変わる。抱えていた作業を手放し、重要な判断や成長のための仕事に時間を使えるようになるからだ。
ただ、VAを雇う決断は怖い。合わなければ、時間もお金も無駄になる。忙しい人ほど、その失敗は痛手だ。しかも世の中には、紹介会社が高い採用手数料を取り、長期契約を求めるケースも多い。VAが本当に必要かどうか確信が持てない段階で、大金を払うのは難しい。
そこでCoconut VAは、最初の不安を減らす設計にした。採用手数料は取らず、まずは20時間だけ試せる。短く試せるから、最初の一歩のハードルが下がる。
必要なVA像の整理、候補者の選別、面接などの採用プロセスもCoconut VAが代行する。契約手続き、給与の支払い、健康保険などの福利厚生まで一括して扱い、「面倒で止まる」状態をなくした。
利用者だけ得をしても、長続きしない
2人がもうひとつ大切にしたのは、VA側の幸せだった。
利用者だけが得をする仕組みは長く続かない。働く側が疲弊したり生活が不安定だったりすれば、結局サービス全体が弱くなる。
Coconut VAは主にフィリピンでVAを採用している。安定した収入によって早期に自立できる人もおり、大学を出た同年代より高い収入を得る人もいる、とエリックは見ていた。
報酬は現地の一般的な賃金より高く設定し、健康保険、有給休暇、産休、年1回のボーナスも用意した。短期の労働力として扱うのではなく、長く働ける環境を整えることを方針とした。
利用者側にも利点がある。入れ替わりの激しいインターンと違い、同じ人と長く働けるため、育成に時間をかけられる。慣れてくれば、長期的な利益につながる仕事まで任せられるようになる。
外注は最初にトラブルが起きやすい。Coconut VAは初期のリスクを引き受け、長い関係を育てることに力を注いだ。収益モデルは月契約でVAの時給の一部を受け取る形で、時間をかけて信頼を積み上げながら利益が生まれる仕組みだ。
VAができる仕事は、思っているより広い
VAを必要としている経営者は多い。しかし、使いこなしている人はまだ少ない。
Coconut VAには毎週多くの応募があり、優秀な人材が集まっていた。それでも課題があった。経営者側が「VAに任せられる範囲」を知らないことだ。
VAが担えるのは事務や受付だけではない。デザイン、営業の連絡対応、電話での新規開拓、法人向け営業なども任せられる。会社によって必要な業務は異なり、1人が複数の役割を担うこともある。
だからCoconut VAは、人を紹介するだけで終わらせない。「どんな仕事を外に出せるか」を具体的に示し、利用者が自社に当てはめられるようにサポートする。2人は情報発信を続け、起業家の知識を広げることにも力を入れた。
完璧より、まず動かす
起業家は迷う。完璧にしたい。でも早く進めたい。
エリックはかつて、完璧主義に引きずられて動きが遅くなることがあった。そこから抜け出すために選んだのが、「運用を最小限にする」という考え方だ。
商品が本当に求められていると確かめるまでは、会社の仕組みを必要最低限にとどめる。最初から完璧な仕組みを作るより、学ぶために必要な最小限の仕組みを作る。実際にお金を払う利用者が現れてから、自動化や整備を進めればいい。
Coconut VAも最初は、顧客獲得と紹介による拡大に集中した。最初の契約が決まるまでは、体裁を整えるより売上を得ることを優先した。
結果、4か月で利用者は30社、毎月の継続売上は約450万円($30,000)まで伸びた。外部資金に頼らず、自分たちの売上だけで成長した。
前の会社での反省も活きていた。サイトのデザインや色、細かな体験設計にこだわりすぎると、いつまでも公開できない。Coconut VAでは、遅すぎるより早く出すことを選んだ。
初期のサイトは最低限で、ロゴもシンプル。それでも信用は必要なので、人脈からの紹介は大切にした。ただ、すぐ売上につながりにくい作業に時間を取られすぎないよう意識した。
立ち上げから8か月ほど経って、ようやくブランド作りにも本格的に取り組み始めた。広告を出す前に方向性を固め、サイトを作り直し、ロゴも整える。急に利用者が増えても対応できる体制が整ったからこそ、次の投資に踏み出せる状態になった。
創業者がいなくても回る会社へ
「運用を最小限にする」考え方の中でも特に重要なのが、創業者がいなくても回る仕組みを作ることだった。
Coconut VAでは、創業者が交互に業務から離れ、仕組みが壊れないかを試した。
この会社自身もVAを積極的に活用している。営業、顧客対応、給与の支払い、採用など幅広い業務をVAが担い、日々の運営はVAによって回る形になっていた。
エリックは創業1か月後に休暇を取り、2週間仕事を完全に遮断した。どこが止まるかを確かめるためだ。しかし事業は止まらなかった。それどころか、不在の間に伸びた。
任せた仕事はしっかり引き継がれ、エリックはより重要な仕事に集中できるようになった。タイラーが休暇を取ったときも同様で、さらに大きな責任まで引き継ぐことができた。
こうして創業者がボトルネックにならない状態を作り、戦略に力を注げる体制を整えた。
Coconut VAにとってVAは、サービスの中心であるだけでなく、会社運営にも欠かせない存在となった。
エリックは、東南アジアを旅しながら、フィリピンのVAと同じ給料・労働時間で1か月生活する計画も立てた。現場の気持ちを理解し、より良い会社にするためだ。
Coconut VAは利益だけを追わない。人を大切にし、どこに力を注げば最も良い影響が生まれるかを考えながら、成長を続けている。
