見込み客を探すなら、会社名簿や展示会リストを見る。多くの人がそう考えるはずだ。
でもジョーダンは、別の場所に手がかりがあると気づいた。求人票だ。そこには表向きの言葉だけでなく、その会社が次に何をしようとしているのかが、文章ににじみ出る。
普通は見過ごされる情報から、どうやって「話すべき相手」を絞り込んでいったのか。順風満帆ではなかった道のりとあわせて、その発想がどこから来たのかを追う。
求人票を読むと、その会社の次の一手が見える
広告の会社をやっているとする。予算が大きくて、SNS広告に本気の会社を見つけたい。でも、話してみたら条件が合わない相手に時間を使うのは避けたい。
ジョーダンは、そこを求人票で見抜こうとした。
会社が出す求人票には、表向きの言葉だけでなく、本音や事情が混じる。どんな広告を使っているか。どんなツールを重視しているか。広告担当を何人増やしたいのか。場合によっては広告費の目安まで書かれていることもある。
普通の人が見過ごす場所から手がかりを拾う。ジョーダンはそのやり方で、サンフランシスコ周辺で少しずつ知られるようになっていった。
ただ、最初から順風満帆だったわけではない。
小5のグミが、商売の原点になった
ジョーダンが「商売の始まり」を思い出すと、小学5年生に戻る。
大袋のグミを小分けにして、校庭で売った。仕入れより高く売れば利益が出る。まとめ買いする相手には少し安くする。単純だけど、商売の基本がそこにあった。
ゲームの中の人生に負けている気がした
自分から動く人間になろうと強く思ったのは、大学1年のときだった。
人気の生活ゲームにハマり、夜中から昼まで遊び続けた日がある。ゲームの中の人物は、恋人がいて、仕事があって、家があって、周りから認められている。
現実の自分はどうか。そう考えた瞬間、その差が刺さった。
ジョーダンはゲームをやめ、求人サイトを開いた。条件が一つでも当てはまる仕事に片っ端から応募した。数えきれないほど応募して、ようやくパームという会社に入った。
面接につながった理由は、応募文に入れた「たった一つの単語」だったという。担当者がそこに引っかかりを覚えて、会ってみようと思ったらしい。
政治の道に進むつもりが、会社の仕事が広がっていった
ジョーダンはパームで働きながら政治を学び、大学と大学院を出た。生活費のために働いているだけで、将来は大学で教える側になるつもりだった。
ところが、会社で任されることが増えていく。最初は人事の手伝いに近い仕事だったのに、数年後にはアプリを販売するプラットフォームの運営に関わり、特許の申請にも携わるようになった。
大学院を終えるころ、大学で教える仕事が理想と違うと気づく。授業より研究の比重が大きく、給料も高くない。努力のわりに報われにくい。
ジョーダンは進路を変えた。
転職の連続で「向いている仕事」だけが残った
その後のジョーダンは転職を重ねた。会社がつぶれたり、解雇されたりして、短い期間で職場が変わることも多かった。
ただ本人は、これが結果的に役に立ったと思っている。さまざまな環境を短い間隔で経験すると、向き不向きがはっきりする。合わないものが削れていく。
電気自動車の電池交換の仕組みを作る会社で働いたこともある。優秀な人が集まっていたが、大企業との提携話が進むにつれて動きが遅くなり、事業は失速した。
次に入ったのは、入社が難しいことで知られる会社だった。優れた人材が集まり、後に有名サービスを作る人もいた。人のつながりという意味では、ここが大きな転機になった。
それでも長くは続かない。収益が見込めない取り組みをやめようと提案して反感を買い、休みの取り方でもぶつかり、解雇された。
飲食店向けのサービスは、正しいのに売れなかった
そのころ、知人と飲食店向けのサイト作成サービスを始めた。店名を入れるだけで、それらしい見た目のサイトが自動でできる。月額料金で運用も任せられる。
発想は良かった。でも売るのが難しかった。
飲食店の経営者は忙しくて連絡が取りづらい。お金に余裕がない相手ほど要望が細かくなりやすい。サービスの狙いとはズレた調整が続き、事業は伸びなかった。
ただ、この挑戦には別の収穫があった。客を増やすために郵送の案内を送る中で、郵送を自動化する仕組みを作った。これを別の商品として出すと、短期間で大きな売上につながった。
ネットの店に手書きの手紙を送り、相手の心を動かした
ジョーダンは郵送の経験を武器に、別の会社の成長も手伝った。
その会社は「同じ商品が別のネットショップでより安く売られていないか」を調べる仕組みを作っていた。ジョーダンは価格差のある販売者に、手書きの手紙を送った。もっと良い売り方を一緒に作らないか、と。
住所を調べるために実際に商品を買い、届いた箱の情報を使うこともあった。
泥くさい。でも効く。成果が出て、会社員として働くより大きな収入を得る経験にもなった。
相談で稼ぐのをやめて、求人データの事業に賭けた
2020年ごろ、ジョーダンは別の事業を続けながら、友人から提案を受けた。営業や宣伝を支える情報を、もっと仕組みとして提供できないか、という話だった。
ジョーダンの中には、ずっと残っていた発見がある。見込み客を探すなら、求人情報が使える。普通は営業資料にしない場所に、会社の方針が文章として出るからだ。
たとえば、技術者をまとめて減らしたのに、責任者クラスを採用し、さらに別の技術者の求人も出している会社がある。こういう動きが見えたら「外部に仕事を任せる方向に変わるかもしれない」と読めることがある。
有名な会社名簿は、誰でも買える。競合も同じ情報を持つ。差がつきにくい。
でも求人票には、会社のこれからがにじみ出る。そこに価値がある。
ジョーダンは求人情報を集めて整理し、必要な会社を見つけやすくする事業を作ることにした。
最初は、片方が商品を作り、ジョーダンが相談の仕事で資金を作る形だった。だが二つを同時に進めるのは重く、途中で別々の道を選ぶことになった。
ジョーダンは古い事業を終え、新しい事業に名前をつけ直した。最初に聞く質問を自動で投げて、必要な情報を集める仕組みも作った。
料金も段階を分けた。基本プランは、求人情報をもとに営業先候補をまとめる。上位プランでは、その会社が使っていそうなツールや仕組みの手がかりも加える。さらに大企業向けには年単位の高額契約で、ジョーダン自身が情報の見方を設計し、提案まで行う形にした。
しばらくして、初めての大きな契約が決まった。
頭の中の「理想の客」を、名簿として取り出す仕事
この事業の中心は、ふわっとした理想像を実際に使える形にすることだ。
ネット上に散らばる情報を集め、条件に合う会社を選びやすくする。連絡するタイミングや話す内容まで考えやすくする。営業を「勘」から「設計」に変える。
今も広がり方は紹介が多い。ジョーダンが長い間さまざまな会社で働き、いくつもの事業に関わったことで、信頼してくれる人が増えた。それが効いている。
一人で背負うより、誰かと進めたほうが遠くへ行ける
ジョーダンは、起業の力は昔からあったが、人との出会いで育ったと思っている。
得意なことが、世の中から強く求められていることと重なったとき、事業は伸びやすい。だが、その過程で一番効くのは人間関係だという。
一人で進めると、気持ちが苦しくなることがある。一緒に進める相手がいると、やることは増える。でも喜びも増える。
そして事業が伸びるのは、周りが「この人なら任せてもいい」と思うほど信頼が積み上がったときだ。
知っていることは小さな島みたいなものだ。わからないことは、その周りにいくらでも広がっている。その海を渡るには、一緒に進める相手、客、友人、過去に出会った人たちの力が必要になる。
事業を始めるなら、まず人の役に立つことから始まる。面白い発想だけでは足りない。信頼してくれる人がいて、挑戦に乗ってくれる。その積み重ねが次の仕事を連れてくる。
