社員16人、年間の継続売上は約1億9,000万円(130万ドル)。そんな会社が、たったひとりの創業から始まった。
もちろん、最初から順風満帆だったわけではない。営業も提案も納品も、すべてひとりでこなす日々。「個人ブランド」という言葉すら今ほど浸透していなかった時代に、なぜ事業として成立させられたのか。
21歳で起業したジョーが、最初の顧客をどう獲得し、どう信頼を積み上げ、「ひとりでは限界」という段階へどう進んでいったのか。その過程には、再現性のある工夫が詰まっている。
21歳、ひとりで会社を始めた
会社を立ち上げるとき、多くの起業家は仲間を探す。営業が得意な人、ものを作るのが得意な人、数字に強い人。互いの弱点を補い合うためだ。
でも、最初から最後まで「ひとり」でやり切る人もいる。
ジョー・バインダーは21歳でWOAWを立ち上げた。WOAWはイギリスを拠点に、CEOや創業者がSNSで信頼を築き、「この人から買いたい」「この会社で働きたい」と思われる状態を作る支援をする会社だ。
創業時はジョーひとり。そこから社員は16人に増え、年間の継続売上は約1億9,000万円(130万ドル)を超える規模になった。
商売好きの少年、でも成績は最悪だった
ジョーは子どものころから商売に興味があった。14歳のときには中国からヘッドホンやスマホケースを仕入れ、学校で売っていた。
ただ、勉強は得意ではなかった。周囲から「たいしたことはできない」と見られていた時期もある。
転機は、数学の成績がこのままでは最低評価になると気づいた瞬間だった。そこで火がついた。必死に勉強して成績を上げ、最終的にケンブリッジ大学に合格する。
ここでジョーが学んだのは、才能の差より、やり方と粘りの差のほうが大きいことがある、ということだ。
YouTubeで「人に覚えてもらう力」を手に入れた
大学では友人とYouTubeチャンネルを運営した。テーマは学生生活。フォロワーは2万人を超え、再生回数は200万回以上に達した。
そこで身についたのは、動画編集の技術だけではない。
- どう見せれば人に覚えてもらえるか
- どうすれば信用されるか
- どうすればSNSで注目が続くか
つまり「個人ブランド」を作る感覚そのものだった。
卒業後、ジョーはYouTuber一本の道は選ばず、SNSマーケのスタートアップに入社した。しかしその会社は営業力はあるものの納品の仕組みが弱く、半年ほどで資金が尽きた。ジョーは職を失う。
それでも、この失敗から見えてきたものがあった。
SNSに取り組みたい経営者は多い。でも忙しくて時間がない。だから「SNS運用をサービスとして提供する」仕事は成立する。そう確信した。
2018年1月、ジョーはWOAWをひとりで立ち上げた。
WOAWの仕事は「社長の発信」を会社の武器に変えること
WOAWがやるのは、創業者やCEOの個人ブランドを「会社の資産」として育てることだ。SNSでファンや読者のコミュニティを作り、信頼を積み上げていく。
支援の内容は幅広い。
- 投稿の方針づくり
- データ分析
- 写真撮影
- デザイン
- 文章づくり
目指すのは「いいねを増やす」だけではない。誰に向けて、なぜ発信するのかが重要だ。
資金調達が目的なら投資家に届く見せ方を設計し、採用を強化したいなら会社の文化が伝わる発信にする。オンラインの反応だけでなく、リアルの評判まで含めて戦略を組み立てる。
いちばんきついのは、やる気を切らさないこと
起業直後は、あらゆることが一気に押し寄せる。
- 顧客を探す
- 提案資料を作る
- サイトを用意する
- 価格を決める
- 納品の仕組みを作る
- お金の計算をする
ジョーは当時を苦しかったと振り返る。自信のなさと、自分を信じたい気持ちがぶつかり続けた。
ケンブリッジの友人たちは安定した仕事で給料をもらっている。一方のジョーは、ロンドン中心部のコワーキングスペースを回り、人に会い、つながりを作り、顧客を探す日々を送っていた。
前に進んでいるのか、同じ場所をぐるぐる回っているのか分からない。そんな感覚もあった。
加えて当時は「個人ブランド」という言葉自体が今ほど一般的ではなかった。契約を取るには、まず「なぜ必要なのか」から説明しなければならなかった。
最初の顧客は、無料で作った
ジョーは最初、YouTubeの実績があれば仕事はすぐ取れると思っていた。現実は違った。
そこで発想を切り替えた。最初の顧客には、1か月無料で運用する。
条件はひとつ。満足したら推薦コメントを出してもらい、それを実績として公開させてもらう。
手元の貯金から約19万円(1,000ポンド)を会社に入れ、フリーランスのライターやデザイナーに支払い、最初の案件を形にした。
結果、顧客は大満足。推薦コメントが手に入った。その言葉を次の見込み客に見せ、少しずつ信頼を積み重ねていった。
無料の実績がいくつか集まったあと、初めて有料の顧客を月約8万円(425ポンド)で獲得する。契約は3か月。毎月入ってくる継続収入が生まれた瞬間だった。
ジョーはここで、ようやく「次が見える」状態になった。
運が良かったことも、ちゃんと認めた
ジョーは、自分が恵まれていた点も隠さない。
- ケンブリッジ卒という学歴が信用につながった
- ロンドンで家族と暮らし、家賃の負担がなかった
こうした条件があったからこそ、リスクを取りやすかった。誰もが同じ条件で起業できるわけではない。その点はっきり言う。
2018年は顧客獲得が本当に難しかった。しかし今は、顧客のほうから相談が来るようになった。推薦コメントが積み上がり、個人ブランドの重要性も広く認知されるようになったからだ。
すると課題も変わる。顧客獲得より、成長に追いつくための採用のほうが大きな問題になった。
リーダーは、生まれつきじゃない
最初の1年半、ジョーはほぼひとりで事業を回し、必要な部分だけ外部に頼った。
その後、採用を進めた時期は決して楽ではなかった。入社と退社が続き、試用期間で合わないと判断して別れることもあり、精神的にきつかった。
若い創業者は目立つ。でも、未熟な経営者のもとで働く側はもっと大変だ。ジョーは初期メンバーへの敬意を口にしている。
ジョー自身も、最初はマネジメントを分かっていなかった。ドラマに出てくる強いリーダー像に影響され、「厳しく言えば人は動く」と思っていた。しかし現実では通用しない。
やり方を変えた。問題が起きてから対応する「反応型」から、先回りして整える「予防型」へ。伝え方、対話の仕方、フィードバックの出し方を意識して改善していった。
好かれることより、必要なことをやる
大きな学びはこれだ。
全員に好かれなくても、会社は回せる。
嫌われたくない気持ちが強いと、言うべき改善点を言えなくなる。するとチームも会社も弱くなる。だから、好かれることを優先しすぎず、会社とチームに必要な判断を下す。
フィードバックを「特別なイベント」にしない
WOAWではフィードバックを日常にしている。大きな失敗のあとにまとめて伝えるのではなく、うまくいった点も改善点もこまめに共有する。
普段から率直に話せる空気があると、本当に大事な場面でもきちんと言葉にできる。
ひとりで始めた会社は、ひとりでは続かない
ジョーはCEOとして成長し続けてきた。しかし会社が大きくなるほど、学ぶべきことも増える。
ひとり創業者は、問題も疑問も最終的にはすべて自分に返ってくる。毎日さまざまなことが起き、チームを支えるには心の余裕と体力が欠かせない。
限られたエネルギーを何に使うか。その選択が、会社の未来を決める。
