資金調達して人を増やし、売上を伸ばす。外から見れば「成功」に見えるはずなのに、当事者はどこか消耗していく——そんなVC型の急拡大に、起業家のアモス・バル=ジョセフも限界を感じていた。
次は同じやり方を繰り返さない。そう決めて始めたのが、「採用しない」という制約を置き、AIと仕組みで回る会社づくりだった。
試行錯誤の末、共同創業者3人だけで顧客200社まで到達し、年商換算で約1.5億円($1,000,000)規模に近づきつつある。何を捨て、何を作り直したのか。そのプロセスにヒントがある。
AIで「ほぼ自走する会社」を作り、年商100万ドル規模に近づいた方法
起業家のアモス・バル=ジョセフは、これまでにスタートアップを2回売却した経験を持つ。ただし本人は、ベンチャーキャピタル(VC)資金で急成長を目指すやり方には大きな無理があったと振り返る。
そこで新たにSwan AIを立ち上げ、少人数でも大きく伸びる「自走型ビジネス」を実験している。約1年で共同創業者3人だけの体制で、顧客200社まで増やし、年商換算で約1.5億円($1,000,000)に近い規模に到達しつつある。
VCの「成功」に潜む問題
外から見れば、資金調達して成長し、会社を売却できれば成功に見える。しかし当事者の内部では、次の資金調達までに数字を作ることが最優先になり、事業の土台が弱いまま膨らむことが起きやすい。
- 商品が本当に求められているか確かめる前に、大きな資金を集める
- 売上がまだ小さいのに、先に人を増やして組織を大きくする
- 赤字を前提に走り続け、次の調達まで「伸びているように見せる」圧力が強くなる
このやり方は短期の成長を作りやすい一方で、長く続く仕組みを作る時間を奪い、疲弊を生みやすい。アモスは3社目で別のモデルを選んだ。
社員1人あたり年商1000万ドルを狙う理由
Swan AIが置いた目標は「社員1人あたり年商約15億円($10,000,000)」という極端に高い数字だった。見栄のための目標ではなく、意思決定を変えるための制約として使う。
人を増やして解決する発想を封じると、次の問いが常に出てくる。
- AIや仕組みで解けない問題なら、本当に今やるべきか
- 人手が必要な作業を、手順化・自動化・再利用できないか
- 増員ではなく、判断と学習のループで改善できないか
狙いは「小さくまとまる」ことではなく、少人数のまま大きな売上を作ることにある。
最初に作ったものが間違っていた
当初は、多くの企業が作るAI SDR(見込み客探しとメール送信の自動化)を作った。見込み客を探し、絞り込み、内容を調整して送る流れは分かりやすく、作りやすかった。
しかし顧客から「ウェビナー参加者への対応にも使えるか」と聞かれて、限界が見えた。決まった手順に沿うだけの仕組みでは、条件が変わるたびに作り直しになる。
共同創業者3人は営業やマーケティングも自分たちで回しており、状況が頻繁に変わる。そこで固定の手順を捨て、「どんな販売の動きでも考えて組み立てられるAI」を目指して作り直した。少人数のため長期開発の余裕はなく、短い周期で出して使い、痛みの大きい部分から直した。
「採用しない」制約が、仕組みを賢くした
一番大きなルールは、採用をしないことだった。たとえばサポート対応では、問い合わせが週200件に達した時点で普通は担当者を増やす。Swan AIは逆に、学習するAIエージェントを作って対応した。
サポートAIの成長の流れ
- 1週目:よくある回答を20個だけ与えて運用開始。処理できたのは約15%
- 2週目:分からない時に人へ回す「エスカレーションの輪」を作成。AIは顧客との会話に残りつつ、社内に助けを求め、人の回答を顧客へ届ける
- 4週目:人が答えた内容を、AIが自動で記録し次回に使えるようにする仕組みを追加
このループにより、短期間で自動解決率が約70%まで上がった。回答集も20件から180件へ増えたが、人が最初から文章を大量に書いたのではなく、日々のやり取りから増えた。
ここでの学びは、AIを最初から完璧にしようとしないことだった。使えるレベルで早く出し、人の修正がAIに蓄積される仕組みを作ると、週単位で賢くなっていく。
モデルが壊れかけた瞬間と、販売方法の転換
自走型のモデルは、顧客が約50社に達した頃に危機を迎えた。AIがサポートやオンボーディング、見込み客づくりを支えても、商談は人間が行う必要があり、そこが限界になった。
週あたりのデモが267件に達し、共同創業者2人が商談対応で埋まった。成約率が約20%だと、商談を減らすと売上も落ちる。しかし人間の時間は増やせない。
選択肢は2つだけだった。
- 営業担当を採用し、少人数モデルを崩す
- デモ中心の販売をやめ、製品主導で購入・利用開始できる形に変える
Swan AIは後者を選び、1週間で販売の仕組みを作り替えた。条件に合う人は自分で試し始められるようにし、原則としてデモなしで始められる形へ寄せた。結果として、人の時間が売上の上限を決める状態から抜けやすくなった。
この経験から、最初から自分で始められる導線を用意した方が学びも速い、という反省も得た。人が横に付いて説明するより、利用の様子を見る方が改善点がはっきりする場面が多かったためだ。
AI前提で組んだ道具立て
Swan AIの考え方は、古い道具にAIを後付けするのではなく、最初からAIで動かす前提の道具を組み合わせることにある。人が見張り続けないと回らない仕組みは避ける。
開発、販売、データ、社内自動化など、あらゆる領域でAIや自動化を前提にしたツールを使い、少人数でも回る運用を作った。
広告なしで伸ばした、創業者発信のコンテンツ
成長の多くは、広告ではなく創業者の発信から生まれた。特にSNSでの継続投稿が、見込み客の入口になった。
- 1年で表示回数が600万回を超える規模に到達
- 顧客200社超の多くが、投稿を見てからサービスに触れた
発信は知名度を上げるだけでなく、最初の接点より前に信頼を作る。信頼が先にできると、成約率が上がり、合わない顧客が減りやすい。
AIを使った「考えるための」コンテンツ作り
コンテンツ作りにもAIを使うが、目的は文章を大量生産することではない。論点の探し方、構成の作り方、伝わり方の検証を一緒に行う相棒として使う。
テーマの軸、書き方のルール、過去の成功例をAIに入れ、アイデアから切り口、冒頭のつかみ、全体の流れまで段階的に詰めていく。AIが単独で書いた文章をそのまま出すのではなく、共同作業で整える方針を守った。
この積み上げにより、発信が信頼を生み、問い合わせが増え、利用開始が進み、成功事例が増え、さらに発信が強くなる循環ができた。
AIは「商品カテゴリ」ではなく「身につける技術」
アモスが強調するのは、AIを特定のサービス群として眺めるより、技術として鍛える方が重要だという点だ。
- 作業を手順に分解し、流れとして考える
- ツール同士をつなげ、繰り返しを減らす
- まずは60%の出来で動かし、壊れる場所を見つけて直す
鍵になるのは、完璧な指示ではなく、修正が学習として残るフィードバックループの設計だ。待っている人より、試して直す人の方が、時間とともに差が開く。
次に目指すもの
目標はSwan AIを成功させることだけではない。少人数とAIの組み合わせで、従来は大人数が必要だった成果を出せることを、ゼロから拡大までの手順として残すことにある。
大きな資金調達や大人数の採用に頼らず、仕組みと学習で伸ばす。その過程の成功も失敗も公開し、後から続く起業家が同じ遠回りをしないようにする。自走型ビジネスの「新しい型」を実例で示す挑戦が続いている。
