学生向けのサービスは、売れにくい。お金に余裕がなく、必要なときだけ使ってすぐ解約される。そう言われ続けてきた市場だ。
それでも「役に立つ道具」を「学生が納得できる値段」で出せたなら、勝ち筋は残る。小さなチームのままでも、月の売上が積み上がる形にできる。
留学生として学びながら開発を続けていたブーラマ・カンディネは、その難しい条件を満たすAI文章作成ツールを作った。広告に頼りすぎず、解約されやすさにも向き合いながら、学生市場から広げていく。
学生に売るのは難しい。それでも勝ち筋はある
学生は、自由に使えるお金が少ない。必要なときだけ使って、すぐ解約することも多い。だから「学生向けに売るのは難しい」とよく言われる。
それでも条件がそろえば売れる。役に立つ道具を、学生が納得できる値段で出すこと。
留学生として航空宇宙工学を学んでいたブーラマ・カンディネは、その条件を満たすAI文章作成ツールを作り、小さなチームのまま大きな売上を生むサービスに育てた。
ブーラマは、AIが文章を書く手助けをすることを「不正」とは見ていない。書き出せないときに頭を動かすきっかけになり、結果としてレポートの質を上げられる、と考えていた。
始まりは、企業の「困った」だった
大学に通いながら、ブーラマはニジェールで開発チームを動かしていた。ある日、顧客から相談が来る。
「メールを自動で要約したい。内容ごとに担当へ振り分けたい」
探しても、ちょうどいいアプリが見当たらない。なら作るしかない。ブーラマは公開されている言語モデルなどを使い、メールを分類し、言い換えや要約もできる仕組みを組み上げた。
2021年11月ごろ、顧客に提供すると反応は良かった。ここでブーラマの頭に次の考えが浮かぶ。
「この技術、もっと広い人たちにも使えるはずだ」
ヒントは、キャンパスの中にあった
ブーラマは学内で、同級生たちがレポートのためにいろいろなサービスを使っているのを見た。引用の確認、盗用チェック。学生は学生なりに、文章で困っていた。
そこで気づく。メール向けに作った言い換え機能は、レポート作成にも効く。
当時のAI文章ツールは社会人向けが多く、値段も学生には重いものが目立っていた。学生市場にはまだ強い競合が少ない。ここは狙える。
学生向けに作り替え、まずは小さく試した
学生が本当に欲しいものは何か。ブーラマは機能を足す。盗用チェック機能だ。
宣伝も大げさにやらない。ネットの掲示板で紹介し、同級生に使ってもらい、直す。そうやって少人数でも回る形に整えていった。
2021年の終わりごろには、解約が少ない状態で、月の売上が積み上がるサービスになっていた。運営は2人の小さなチーム。それでも回った。
やがて利用者は学生だけでなく、小さな会社にも広がる。さらに、別のサービスの中身として組み込まれる形でも使われ始めた。
そもそもプログラミングは、マインクラフトから始まった
ブーラマがプログラミングを覚えたのは15歳。きっかけは、人気ゲームのマインクラフトを改造したかったからだ。
その後、友人に言われる。
「コードはゲームだけじゃない。ウェブサイトも作れる」
夏休みになると、父親の職場のネット回線を使い、地元の人のウェブサイトを無料で作った。メールで依頼が来たものを、ひたすら形にする。
1年ほど実績を積んだあと、有料に切り替えた。高校時代の安定した副収入になった。
ニジェールからアメリカへ。戻って起業し、また学び直す
2015年、高校を卒業。航空宇宙工学を学ぶため、英語力を上げたいと考え、ニジェールからアメリカへ移った。
2016年には学業をいったん止め、ニジェールへ戻って最初の起業に挑む。フリーランスとして仕事をする中で、国内外の開発者とつながり、助け合って大きな案件を進めるようになった。
その人脈を土台に、2016年、開発チームを立ち上げる。興味のある開発者を雇ったり、外注したりして、開発会社として形にした。実務経験を作りにくい開発者の助けにもなる、とブーラマは考えていた。
2017年に再びアメリカへ戻り、カリフォルニアで工学を学ぶ。2021年にはフロリダ工科大学へ進学。学業と事業を同時に続ける生活になった。
チームは少しずつ専門性を高め、2020年ごろには中小企業向けの業務管理ソフトを作る会社として知られるようになる。海外のレンタカー会社向けに、車をリアルタイムで追跡する仕組みを作ったこともあった。
企業が本当に困っていたのは「受信箱の地獄」
2020年ごろから、顧客の相談が増えた。
「メール返信の文章作りを自動化したい」
既存の自動化サービスは、会社ごとの事情に合わせて調整しにくい。多くの会社では、1つの受信箱に大量のメールが届き、人が手作業で振り分けていた。
技術の相談は技術担当へ。運用の相談は運用担当へ。これを自動でやりたい。
ブーラマが作った分類・要約・言い換えの仕組みは、そこに刺さった。そして次の市場として、学生に目を向けた。
広告より、紹介が強かった
ブーラマは検索広告を少額で試した。だが、思うような成果は出ない。それ以来、有料広告にはほとんどお金を使わなくなった。
代わりに効いたのが紹介制度だった。紹介した人に一定割合の報酬が入る仕組みを用意すると、ある分野で影響力を持つ紹介者が短期間で利用者を連れてきた。
登録した人にはメールで無料期間を案内するなど、関係を切らさない工夫も続けた。
学生向けは「値段の置き方」が難しい
学生に広げるには、宣伝のやり方も独特だった。数字だけでは読めない。空気を読みながら広げる必要がある。
ネット掲示板、短い動画投稿、同級生への共有。いろいろ試した末に、結局いちばん強いのは口コミだ、という結論に落ち着いた。
ただ問題も出る。学生は社会人より解約しやすい。理由を追うと多かったのはこれだった。
「一度だけ使いたかった」
そこでブーラマは、月額の定期購入だけでなく、必要な分だけ買えるクレジット方式を用意した。クレジットは月額の1日分より少し高い程度。でも有効期限を1年にした。
この形が学生に合った。2022年半ばには、利用者の中に学生や研究者が目立つようになっていった。
学生市場で勝つための、2つの考え方
学生はお金がない。だから企業は学生市場を見落としがちだ。だが売り方は大きく2つに整理できる。
- 値段を考えなくていいほど、圧倒的に役に立つ価値を出す
- 学生割引などで使い始めてもらい、卒業後も標準の道具として使い続けてもらう
他社のサービスの「中身」になると、広がり方が変わる
ブーラマは言い換え機能を、他社が自分のサービスに組み込める形でも提供した。
すると面白いことが起きる。検索で上位に出てくる別のサイトが、実はブーラマの仕組みで動いている。そんな状況が生まれた。
使う人が増えれば、より上位のプランに切り替える可能性も上がる。表に出ないところから、成長の道ができた。
成長の中心は、顧客との会話だった
運営は今も小さな体制のままだ。時差を利用してサポートを分担し、無理に人数を増やさない。
ブーラマが一番重視したのは、顧客と直接話すことだった。メール、電話、対面。そこで何が必要かをつかんでいく。
技術者は、目に入った問題を何でも解決したくなる。だが技術的に解ける問題が、必ずしもお金になるとは限らない。
だから批判も含めて意見を聞き、売れる形に合わせる。ブーラマはそこを外さなかった。
競争が激しくても、やることを絞りすぎない
文章作成の分野には大企業も多く、競争は激しい。
それでもブーラマは、複数の課題をまとめて解決できる点が強みだと考えている。文章作成、盗用チェック、文章生成、外部連携。機能を組み合わせているから、1つだけの機能に特化したサービスとは正面衝突しにくい。
アメリカで見た起業文化を、ニジェールにも持ち帰りたい
ブーラマには、もう一つの目標がある。アメリカで見た技術と起業の環境を、いつかニジェールにも持ち帰ることだ。
母国でも技術の世界は成長している。ただ、政府に頼りすぎている面があると感じている。
アメリカでは、政府が解決できない問題があれば、起業家がビジネスとして解決する、という考え方が広くある。一方ニジェールでは、政府の資金が取れないと続かない起業が多く、投資も集まりにくい。そこが課題だ。
目線の先は、宇宙とAIの交差点
ブーラマの関心は、文章作成ツールだけでは終わらない。AIの知識を宇宙分野の課題解決に生かしたい。
ロケットをより効率よく運用する制御。宇宙ごみが宇宙船に与える影響を減らす仕組み。解くべき問題は多い。
小さな市場でも、価値があれば利益は出る
この話が示しているのはこういうことだ。学生のように単価が低く、不安定に見える市場でも、価値のあるサービスを低コストで運営できれば利益は出る。
大きな資金を集めた企業は、人数や広告費が膨らみやすい。だから安さや単発購入の不確実さを受け入れにくいことがある。
無理な成長目標に縛られない小さなチームのほうが、本当に必要としている人に届く価格を保ちやすい。ブーラマの事業は、その現実的な強さを証明した。
