現場仕事のビジネスは、腕がよくても「集客」「見積もり」「顧客管理」でつまずきやすい。ツールや人手を増やす前に、仕組みが追いつかないことが多いからだ。
そんな中、ある朝の何気ない一言から、高圧洗浄の仕事を約380万円($26,000)で買う決断をした人物がいる。現場経験ゼロ。それでも、短期間で事業を伸ばしていった。
やがて彼は、YouTubeに寄せられる「同じ質問」をヒントに、見積もりと顧客情報をまとめて管理できるアプリを作る。広告費の多い競合と真っ向勝負せずに勝つため、選んだ武器は別のところにあった。
マイク・ビダンが、小さな現場仕事から顧客管理アプリを作るまで
2005年の朝6時。マイク・ビダンはジムで仲間と体を動かしていた。
そこで、数字を扱う仕事をしていた知り合いがぽつりと言った。
「高圧洗浄の仕事を売ろうと思う」
最初、マイクは軽く聞き流した。営業で稼いでいたし、高圧洗浄の機械なんて触ったこともない。
でも、その場にいた信頼できる友人が、こう言った。
「それを買うのはお前だ」
その一言が引っかかった。
マイクの頭には、子どものころから見てきた父親の姿があった。会社の中で出世していく父親。安定はある。でも、マイクはずっと思っていた。
「一生、会社の中だけで終わりたくない」
数週間悩んだあと、マイクは決めた。高圧洗浄の仕事を約380万円($26,000)で買った。
現場の経験はなかった。それでも、営業で鍛えた「売る力」はあった。最初は副業のような小さな規模だった仕事を、短期間で大きくしていった。
稼いだ金で、次は庭づくりの会社も始めた。やることは増えたが、マイクは止まらなかった。
近所の芝生をきっかけに、YouTubeの道が開けた
高圧洗浄と庭づくりの仕事が伸びてきたころ、庭づくりのスタッフが、近所で芝を刈りながら動画を撮っている人を指さした。
「あの人、今では有名なYouTuberだよ」
マイクはそこで気づく。YouTubeは遊びじゃない。ちゃんと収入になる。そして、宣伝にも使える。
実はマイクも昔、YouTubeチャンネルを作っていた。登録者は5人くらい。ほとんど家族だった。
でも今なら、話せることがある。サービス業をどう宣伝するか。どう大きくするか。どう運営するか。
マイクは、回りくどい説明をやめ、現場で使える話だけを動画にした。すると、予想以上に伸びた。
「きれいごとではなく、実際に役立つ話が聞きたい」
そんな人たちが集まり、登録者は何十万人にも増えていった。マイクは、高圧洗浄や個人の現場仕事の世界で、頼りにされる存在になっていく。
ジャスティンと組んで、質問の答えをアプリにまとめた
その流れで、別のYouTuberであるジャスティン・ロジャースとつながった。
ジャスティンは動画制作が得意で、Facebookでの宣伝にも強い。マイクは現場と営業の経験がある。2人は相性がよかった。
一緒に発信を続けるうちに、2人のチャンネルは合計登録者100万人を超え、再生回数も合計10億回を超えた。オンライン講座や仕事に役立つ資料も売れるようになった。
ところが、視聴者が増えるほど、同じ質問が何度も飛んできた。
「仕事を効率よく進めるには、どんなソフトを使えばいい?」
マイクとジャスティンは考えた。おすすめを紹介するだけでは足りない。だったら、自分たちで作ろう。
こうして生まれたのが、QuoteIQ。見積もりや顧客情報などをまとめて管理できる、現場仕事向けの顧客管理アプリだった。
開発費は、講座や資料の売上から出した。そして2023年10月、QuoteIQは正式公開された。
公開直後から何千件もダウンロードされ、手応えは十分だった。広告費はほとんど使わず、YouTubeやSNSの発信だけで広がっていった。
お金では買えない価値が、最も強力だった
QuoteIQが伸びると、大きな競合も動き出した。資金が豊富な会社は、広告だけで月約3,700万円($250,000)も使っていた。
でもマイクとジャスティンは、金の勝負をしなかった。
大事にしたのは、見ている人が「この人たちは本音で話している」と感じることだった。
競合は、機材も人もそろえたきれいな動画を作る。一方、マイクたちはスマホで撮ったような飾りのない動画を出し、言いたいことをはっきり言う。
それが刺さった。
このやり方は、競合をいら立たせた。動画の言い方やサイトの見た目にまで文句をつけた、細かい言いがかりのような「やめろ」という手紙が届くこともあった。
皮肉なことに、その競合はマイクのYouTubeチャンネルに広告を出していた。奪われた顧客を取り戻したかったからだろう。
QuoteIQのチームは12人ほど。人数は少ない。でも、その分決断が速い。
利用者から「この機能がほしい」と言われたら、数日で追加できることもあった。朝に出たアイデアが、午後には形になり始める。大きな会社には真似しにくい速さだった。
その速さと小回りの良さで、QuoteIQは広告に頼らずに成長した。利用者は1万人に近づき、ダウンロードは約9万件まで伸びた。
失敗して学び、直して前に進む
もちろん、最初からうまくいったわけじゃない。
マイクとジャスティンが大きく失敗したのは、「ずっと無料で使えるプラン」を用意したことだった。
無料なら人が集まる。そう思った。でも現実は違った。サポートの問い合わせが増えすぎて、時間だけが消えていく。金は入らない。チームが疲弊していった。
そこで、無料プランをやめた。反発が起きると思っていたが、意外と荒れなかった。
利用者に聞くと、こんな声もあった。
「そろそろ料金を取ると思って待ってた」
この変更で、有料で使う人が一気に増えた。マイクはそこで気づく。
「自分は視野が狭かった」
本当に困りごとを解決しているなら、正しく料金を取っても受け入れられる。
マイクが大事にしているのは、自信と謙虚さの両方だ。何でも知っているふりはしない。詳しい人の助言は素直に取り入れる。ただし、いったん決めたら速く動く。そのスピードには自信がある。
やり方はシンプル。
まず出す。反応を見る。すぐ直す。それを繰り返す。
もう一つ、マイクには課題もあった。きびしい意見をもらうと、感情的に反応してしまうことがあった。初期はそれが評判を落としかねなかった。
でも時間をかけて変えた。いったん距離を置いて受け止め、直すべき点に力を使うようになった。
最後にマイクが強く言うのは、これだ。
仕事で差がつくのは「思いつき」じゃない。「やり遂げること」だ。
アイデアは誰でも出せる。動いて形にする人だけが、次の景色にたどり着く。
