朝6時のジムで、いつものように汗を流していたマイク・ヴィダン。生活は営業の仕事で回っていた。けれど心のどこかに、「会社の中だけで人生が終わるのは嫌だ」という小さな引っかかりが残っていた。
そんなとき、仲間の何気ない一言から状況が動く。高圧洗浄の事業を買う話が、なぜか自分の番として回ってきたのだ。知識も道具もない。副業のつもりで踏み出すには、あまりに未知が多い。
それでも彼は、約400万円($26,000)の小さな事業をきっかけに、現場で学びながら道をつないでいく。やがてその延長線上には、ダウンロード9万回・利用者1万人近くまで広がるCRM「QuoteIQ」が待っていた。
マイク・ヴィダンが副業から「QuoteIQ」を生んだ話
2005年の朝6時。マイク・ヴィダンはいつも通りジムで汗を流していた。そこにいた仲間の1人が、ぽつりと言った。
「高圧洗浄(パワーウォッシュ)の事業、売ろうと思う」
マイクは最初、軽く聞き流した。自分には関係ない話だと思ったからだ。
ところが、信頼している別の友人が横から言った。
「買うのはお前だ」
マイクは固まった。営業の仕事で生活はできていた。でも高圧洗浄なんて触ったこともない。知識も道具もない。なのに、なぜ自分が買うのか。
ただ、マイクの中にはずっと消えない気持ちがあった。子どもの頃、父親が会社の中で昇進していく姿を見てきた。その姿は立派だったが、同時にこうも思った。
「会社の中だけで人生が終わるのは嫌だ」
数週間後。マイクはその高圧洗浄の小さな事業を約400万円($26,000)で買った。無謀に見えたが、マイクには武器があった。10年以上かけて鍛えた営業力だ。
最初は副業のつもりだった。だが、仕事を取り、信頼を積み上げ、少しずつ広げていくうちに、ただの小さな稼ぎだったものが、しっかり回る会社になっていった。
その利益を元手に造園会社も立ち上げた。さらに、自分の経験を発信するためにYouTubeにも力を入れ始める。やがてその道の先に、見積もりと顧客管理をまとめてできるCRM「QuoteIQ」が待っていた。
「あの人、YouTubeで有名なんだ」から道が開けた
高圧洗浄と造園の仕事が増えてきた頃、造園のスタッフが近所の家を指さした。芝を刈りながら、動画を撮っている男がいた。
「あの人、今は大きなYouTuberだよ」
マイクは気になって話しかけた。そこで知ったのは、YouTubeが趣味ではなく、ちゃんと収入につながる世界だということだった。
マイク自身も昔作ったチャンネルがあった。登録者は5人ほど。本人いわく、そのうち3人は子どもだったかもしれない。
それでもマイクは決めた。サービス業のビジネスをどう宣伝し、どう大きくし、どう回すか。自分が現場で学んだことを、動画でそのまま話す。
飾った演出はしない。回りくどい説明もしない。必要なことを、必要な順番で話す。
そのやり方が当たった。実用的な情報を求める人が集まり、登録者は一気に増えた。マイクは高圧洗浄や副業の世界で「頼れる存在」になっていった。
その後、マイクは別のYouTuber、ジャスティン・ロジャースとつながる。ジャスティンは動画作りがうまく、サービス業向けのSNS広告にも強かった。
2人は協力して、小さなサービス業でもネットで効率よく集客できる方法を発信し続けた。気づけば、2人のチャンネルの合計登録者は100万人を超え、再生回数は10億回を超えた。
そして、視聴者から同じ質問が何度も飛んできた。
「仕事を回すには、どのソフトを使えばいいの?」
2人は思った。だったら、自分たちで作ろう。住宅向けサービス業のためのCRMを。
こうして「QuoteIQ」の開発が始まった。資金は投資家に頼らない。オンライン講座や教材の売上を積み上げ、そのお金だけで作った。
2023年10月に正式リリースすると、すぐに何千ものダウンロードが起きた。広告費はほとんどかけていない。YouTubeで積み上げた信頼が、そのまま広がりになった。
マイクとジャスティンは確信する。
「これは、本当に求められている」
お金をかけても「本物らしさ」は買えない
QuoteIQが伸び始めると、大きな競合が動き出した。相手は投資家の資金を持ち、広告だけで月約3,800万円($250,000)を使うような会社だった。
普通なら、広告で殴り合えば負ける。
でもマイクとジャスティンは、その勝負に乗らなかった。勝ち方を変えた。武器は「発信」と「本物らしさ」だった。
競合は高価な機材で、きれいに作り込んだ動画を出していた。とんでもなく高いカメラを使う会社もあったという。
一方でマイクたちは、スマホで撮ったストレートな動画を出し続けた。現場の言葉で、現場の困りごとに答える。
その方が、見ている人にまっすぐ届いた。「無駄がなくて分かりやすい」と感じた人が増え、信頼がさらに強くなった。
やがて競合は焦り始めた。マイクのもとに、細かいことで文句をつける警告文のような手紙が届くこともあった。動画の言い方や、サイトの見た目にまで口を出されたという。
皮肉なことに、その競合たちはマイクのYouTubeチャンネルに広告を出し、失った客を取り戻そうとしていた。
QuoteIQのチームは12人ほど。小さな会社だった。だが、その小ささが強みになった。
決断が早い。ユーザーの声にすぐ反応できる。新機能が必要だと言われたら、数日で追加することもあった。大きな会社では会議が増えて、こうはいかない。
その結果、広告に頼らず利用者は1万人近くまで増え、ダウンロード数は9万回に届いた。マイクはここで腹の底から分かったという。
「速く動けることが、最大の武器になる」
ビジネスは運じゃない。学びと実行で決まる
もちろん失敗もあった。QuoteIQが最初に大きくつまずいたのは、「ずっと無料で使えるプラン」を用意したことだった。
試してもらうための親切のつもりだった。だが無料の利用者が増えるほど、質問やサポート対応が増える。時間も人手も奪われるのに、売上につながりにくい。
マイクたちは無料プランをやめる決断をした。反発されると覚悟していた。
ところが、意外な反応が返ってきた。
「料金を取るのを待ってた」
利用者は、安さよりも「ちゃんと続くサービス」を求めていた。結果として有料契約はすぐに約60%増えた。マイクは自分が小さく考えすぎていたと気づく。
マイクが大事にしているのは、謙虚さと自信の両方だ。分からないことは専門家に聞く。学び続ける。けれど、決めたらすぐ動く。そのスピードには自信を持つ。
やり方はシンプルだ。
- まず出してみる
- 利用者の声にすぐ反応する
- 改善を止めない
マイクは「ビジネスに運はほとんど関係ない」と考えている。結果を分けるのは、よく働き、速く実行し、学び続けること。
ただ、本人にも弱点があった。否定的な意見をもらうと、短気に反応してしまうことがあった。初期には、その衝動が評判を落とす危険にもなった。
それでも少しずつ変えた。いったん距離を置く。意見を材料として受け取る。怒りをエネルギーにするのではなく、製品を良くする力に変える。
最後にマイクが強く言うのは、起業はアイデアより実行だということだ。
アイデアを思いつく人は多い。だが、実際に動いて形にできる人は少ない。マイクは、朝6時のジムで始まったあの一言から、ずっとそれを証明し続けてきた。
