週30時間勤務。全員リモート。それでも売上は伸びた。
「時間を減らしたら成長が止まるのではないか?」と感じる人は多いはずだ。けれどBillbeeは、働き方を大胆に変えた2020年以降も、売上を約1.2億円規模(約100万ユーロ)から約2.4億円超(200万ユーロ超)へ伸ばし、翌年には約6億円規模(約500万ユーロ)に届く見込みまで積み上げた。
ただし、成功の理由は制度を無理に導入したことではない。小さく始めて、安定した形で育てる。特定のものに依存せず、仕組みで運営する。その積み重ねが、短い労働時間と成長を両立させていた。
週30時間でも、全員リモートでも、会社は伸びた
「週40時間、毎日オフィスで働くこと」が長い間、仕事の当たり前だと思われてきた。
しかし、Billbeeはその常識を疑った。Billbeeはドイツでネット通販向けのサービスを提供する小さな会社だ。
2020年、Billbeeは大きく舵を切る。全員リモート、週30時間。それでも給料はフルタイムと同じ。
普通なら「成長が止まりそう」と思うかもしれないが、実際は逆だった。仕事の進みは良くなり、満足度も上がった。家族と過ごす時間が増え、仕事以外の小さなビジネスを続ける余裕もできた。
数字もついてきた。売上は2019年に約1億2,000万円規模(約100万ユーロ)、2020年に約2億4,000万円超(200万ユーロ超)。翌年は約6億円規模(約500万ユーロ)に届く見込みまで伸びた。
働き方を変えただけが理由ではない。無理に急拡大せず、安定した形で育てたことが成長を支えていた。
始まりは「自分たちが困っていた」ことから
Billbeeは、ネットで物を売る店のための「まとめ役」だ。
Shopify、Amazon、eBay、自社サイト。売り場が増えるほど、注文・在庫・発送の管理はぐちゃぐちゃになりやすい。Billbeeは、それを一か所で整理して回せるようにするサービスだ。
社長のデビッド・ポールマンは、もともと大企業の会社員だった。ただ仕事の外では、仲間と小さなネット通販の店も運営していた。
そのとき、何度も同じ壁にぶつかった。
「売り場が増えるほど、管理が地獄になる。まとめて扱えるツールが必要だ」
2016年の初め、デビッドはBillbeeに出会う。作ったのはヤン・クラウゼ。当時のBillbeeは、ほとんど知られていない存在で、ヤンが一人で作り、一人で運営していた。
ヤンにとってBillbeeは、大きな会社にするための手段というより、仲間のためのプロジェクトに近かった。
でもデビッドは違った。
「これは大きくなる」
デビッドはまず外部の協力者として関わり、数か月後に大企業を辞めた。そしてBillbeeの最初の社員として、フルタイムで賭けることにした。
借金も巨大な出資もなし。売上で育てた
Billbeeは、派手な資金調達で一気に大きくなった会社ではない。
稼いだお金をサービスの改善に回し、少しずつ強くしていく。最初のころは国の小さな支援もあり、最低限の給料を守ることができた。
採用もゆっくりだった。
- 2016年:デビッドが参加
- 2017年:2人採用
- 2018年:3人追加
- 2019年:まだ10人未満
小さなチームで回せるうちは、それでよかった。
ただ10人規模になると、選択を迫られる。
「このまま少人数で何でもやる」か、「仕組みを整えて次へ進む」か。
Billbeeは後者を選んだ。成長に耐える土台作りを始めた。
一つに頼らない。「何でも屋」で生き残る
Billbeeの最初の姿は、DIY関連の小さな店向けに請求書を印刷する機能だった。
2018年ごろには、その分野で安定して使われていた。ただし問題があった。DeWandaという特定の売り場への依存が大きかったのだ。
DeWandaは、ドイツ版のEtsyのような場所だった。
そしてDeWandaは閉鎖する。
普通なら致命傷になりかねない。だがBillbeeは、それまでにAmazonやeBayにも広げていたため、大事故にはならなかった。
この経験で、チームの考え方は固まった。
「特定の客、特定の売り場、特定の取引先だけに頼るのは危険だ」
それ以来Billbeeは、業種を絞りすぎない。多くの店に必要な機能を、まとめて「ちゃんと使える形」でそろえる方針をとっている。
一部の超大手だけを狙わない。むしろ、月200件〜2万件ほどの注文を扱う店を中心に据える。月額料金は約5,000円前後(30ユーロ前後)が中心で、店側は少人数で、代表者も現場に立っていることが多い。
大口を数社より、小さな客をたくさん。そうすれば、何社か離れても倒れにくい。
この戦い方が当たった。2019年に約3,000社だった利用者は、1年半ほどで約14,000社まで増えた。
知られない会社が、口コミで広がった
外から大金を集めない会社は、特にドイツでは目立ちにくいと言われる。
話題になりやすいのは、巨大な資金調達や派手な成長ストーリーだ。黒字になる前の会社が注目されることも多い。
Billbeeも最初は、なかなか知られなかった。
それでも利用者が増えた理由はシンプルだった。最初の広がりは、DIYのネット通販の仲間内から始まった。
ドイツにはDIYの小さな店が多い。でも月に数個しか売れないこともあり、その規模に合うツールが少なかった。困っている人は多いのに、解決策がなかった。
だから口コミが速かった。
さらに面白いことが起きた。初期の利用者の中に、小さなDIYの店からしっかりしたブランドへ成長した人たちがいた。その人たちが、Billbeeを別のネット通販の世界へ引き込んでくれた。
やがて「Billbee」という名前で検索して来る人が増えた。イベントでの露出も増え、「あ、Billbeeだ」と一目でわかる存在になっていった。
Billbeeはデータの発信方法も工夫した。利用者の注文から見える傾向を、個人情報を出さない形でまとめて届ける。
たとえば、売り場ごとの平均購入額の違い、どの地域でネット通販が強いか、どこから買われやすいか。利用者に役立つ情報として発信した。
感染症の流行が、追い風にもなった
2020年、感染症の流行が始まった。
Billbeeのチームも最悪を想定した。事業が止まるかもしれない。人を減らすかもしれない。国の支援を頼るかもしれない。
だが現実は逆に動いた。ネット通販が一気に伸びたのだ。
Billbeeが伸びた理由は大きく2つある。
- 既存の利用者の売上が伸びた(Billbeeの料金は販売量に連動する)
- 実店舗の店が急いでネット販売を始め、新規利用が増えた
ここで効いたのが、Billbeeのサービスの作りだった。
特別な導入作業がいらない。メールアドレスとパスワードで登録し、Shopifyなどをつなげば動き出す。多くの場合、数時間で使い始められる。30日間の無料お試しもあった。
だから、利用者が自然と増えていった。急いで営業や開発の人員を大量に増やさなくても、仕組みが崩れにくかった。
ただし一つだけ、自然には回らない仕事がある。問い合わせ対応だ。
利用者が増えれば、質問も増える。ここは人が必要になる。
Billbeeが取った方法は少し変わっていた。未経験者を大量に採るのではなく、Billbeeの利用者を社員として採用したのだ。
すでに使い方を知っている。話が早い。ときには社内の人より詳しい利用者もいた。教えるのは、問い合わせ管理の仕組みと対応の方針だけでよかった。
しかもBillbeeの利用者には、本業のほかに小さな商いを持つ人が多い。会社はそれを止めなかった。むしろ続けやすい環境を用意した。社員の約半分が副業を持っているという。
こうして社員数は、2020年末までに10人から20人へ倍増。翌年には35人規模になった。
全員リモートと週30時間を「気合」ではなく「ルール」で回す
2019年のBillbeeには、ドイツ国内に2つのオフィスがあった。デビッドとヤンは約80キロ離れて住み、チームは拠点が分かれていた。週に一度だけ集まる形だった。
感染症の流行より前から、Billbeeは完全リモートを試していた。2019年末には、最初のフルリモート社員も採用した。
そこで気づいたことがある。
オフィス組とリモート組が混在すると、情報量に差が出る。オフィスにいる人だけが知っている話が増え、「二つの階級」のようになってしまう。
ならば、全員を同じ条件にそろえるしかない。
次に挑戦したのが、週30時間だ。週40時間より短いほうが集中しやすく、疲れにくいという研究も増えていた。Billbeeは、労働時間を減らしても給料は据え置いた。
ただし、うまく回すためのルールを決めた。
- 週に最低4日は働く(2日だけで15時間ずつ、のような形は避ける)
- 6時間続けて働かない(6時間を超える前に休憩を入れる)
- 10時間を超える長時間労働は勧めない
- 会議はできるだけ月曜日に集め、他の日は各自が組み立てやすくする
社内で影響も調べた。結果は良好だった。週10時間減っても成果は落ちなかった。
試験運用がうまくいき、2020年10月にこの働き方を正式な方針とした。
「無理をしない成長」が、強さになった
デビッドはこの1年で、チームを増やし、社内の土台を整え、狙う相手や進め方も固めたと言う。
これからは、サービスの改善も、知らせ方の強化も、いよいよ本腰を入れられる段階に来ている。
Billbeeの物語が面白いのは、派手な賭けで勝った話ではないところだ。
必要な人を、必要なときに増やす。特定の売り場に依存しない。使う人が自力で始められる形にする。そして働き方も、気合ではなく仕組みで回す。
週30時間でも、全員リモートでも、会社は成長できる。その証拠を、Billbeeは静かに積み上げてきた。
