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参加者数人に消耗してた無名の起業家が「録画なのに双方向ウェビナー」で年7,500万円。会議疲れを金に変えた非同期ウェビナーの正体

8 min read2026年3月18日
参加者数人に消耗してた無名の起業家が「録画なのに双方向ウェビナー」で年7,500万円。会議疲れを金に変えた非同期ウェビナーの正体

ビジネス概要

事業タイプ

SaaS

フェーズ

成長期

規模感

年間の継続売上は約7,500万円規模(50万ドル)

概要

録画をベースにしつつ投票・質問・非同期チャットで双方向性を残した「非同期型ウェビナー」を提供するサービス。

ターゲット

少人数で運営するテック企業のカスタマーサクセス/営業/マーケティング部門の責任者

主な打ち手

動きが遅い大企業ではなく、ウェビナー運用を少人数で回していて切実に効率化したい中小企業を最初の顧客として狙った。

30秒で分かる

13度目の起業で年7,500万円。

ウェビナーの無駄を消す道具を作った

録画ベースの「非同期型」を選んだ

2狙いは「来ない参加者」だった。

申し込みはあるのに当日来ない

参加率が1割まで落ちたこともある

同じ説明を何度も繰り返した

3答えは「ライブ不要」だった。

映画は生放送じゃない。

ならウェビナーも同じだ。

4録画に双方向を足した。

動画に投票や質問を差し込める

非同期チャットで後から返信できる

繰り返すほど反応データが貯まる

5最初の客は中小企業だった。

大企業は担当が10〜20人いて動きにくい

少人数の会社ほど効率化が切実だった

結果、テック企業のCSや営業が使った

6この話の核心は「同じ説明の自動化」だ。

ライブ前提を外すと、時間と改善が残る。


ストーリーの流れ

Problem

申し込みは入るのに当日参加者が数人しか来ないウェビナーを何度も繰り返し、消耗していた。

  • オンライン会議やウェビナーが増え、画面の前にいるだけで疲弊する状況が広がっていた。
  • 準備に時間をかけても参加者が集まらず、虚しさが積み重なっていた。
Insight

ウェビナーは毎回ライブでやる必要がないと捉え直し、録画を軸にした非同期という発想に至った。

  • 映画が生放送でなくても成立するならウェビナーも同じだと考えた。
  • 消費者向け動画は好きなときに見られるのにビジネス情報だけが集合前提なのは不自然だと捉えた。
Problem

初回の起業では顧客要望に応じて機能追加を続けた結果、受託開発に近づき疲弊した。

  • 不動産会社向けに建物ごとにカスタムしたマーケティング用アプリを提供していた。
  • 終わりのない追加作業で作っても作っても追いつかない状態になった。
Action

事業を担保に資金を調達して2社目のSaaSを立ち上げ、約5年運営した。

  • 不動産業界向けのサービスSpacioとして事業を進めた。
  • Spacio自体はうまく回っていたがウェビナー運用は課題として残った。
Growth

Spacioでは忙しい顧客相手にウェビナー参加率が1割まで落ちることがあり、運用が限界になった。

参加率が1割ウェビナー参加率低下
  • 導入説明や研修のためにウェビナーを繰り返し開く必要があった。
  • 参加者が少ないため回数を増やすしかなく、内容もほとんど同じ説明の繰り返しになった。
  • 小さなチームでコード以外の仕事も抱える中で、時間の使い方としておかしいと確信した。
Action

買収後に試作品を作って紹介して回ったが、結局1人ずつデモを行い8週間を費やした。

  • 買収から2か月後に過去の連絡先リストへ試作品を売りに行った。
  • 同じ説明を繰り返す無駄を自分で再現してしまった。
  • 多くの人がウェビナーを何度もやるのは無駄だと認めた。
Insight

大企業よりも少人数で回す中小企業の切実さが強く、そこが最初の顧客層になった。

  • 大企業はウェビナー担当がすでに10〜20人いることもあり仕組みを変える動機が薄かった。
  • 効率を上げて時間を取り戻したい会社が導入に前向きだった。
  • 主な利用者はテック企業のカスタマーサクセス、営業、マーケティング部門になった。
Action

録画をベースに投票や質問や資料リンクを差し込める非同期型ウェビナーeWebinarを形にした。

  • 画面録画ツールなどで撮った動画をアップロードして配信する設計にした。
  • 視聴者が受け身になりにくいように途中で双方向要素を入れられるようにした。
Scale

非同期チャットと自動返信で運用を途切れさせず、視聴者対応を非同期にした。

  • 視聴者の質問にその場でも後からでも返信できるようにした。
  • 返信はメールでも届くようにした。
  • 誰も見ていない時間帯でも自動返信で最低限の反応を返せるようにした。
Insight

同じウェビナーを繰り返し配信してデータを蓄積し、改善に回せる点を価値の核に据えた。

  • どこで離脱したかやどこでコメントが増えたかといった情報を積み上げられるようにした。
  • ライブ配信は参加者が少なく投票の母数が小さいため結果が偏りやすいと捉えた。
  • 非同期で回し続ければ反応が集まりやすいと見立てた。
Team

技術の共同創業者はいらないと判断して開発会社に任せたが、見積もり誤りで問題が噴出した。

  • 過去の起業で共同創業者問題の難しさを経験していた。
  • 開発会社は製品を作る大変さを甘く見ており、友人関係にも影響が出た。
Team

デイビッドが失敗点を整理して引き継ぎを支え、共同創業者として迎える形に整えた。

  • デイビッドは必要な分だけ関わるCTOとして働いていた人物で私生活のパートナーでもあった。
  • 別の開発チームへの引き継ぎを手伝い、無償で修正を進める中で実力が明らかになった。
  • 持ち分や条件も納得できる形に整えた。
Team

正社員を増やさず外部メンバー中心の体制を選び、採用やマネジメント負荷を避けた。

  • 開発はベトナムやベラルーシの外部メンバーが支えた。
  • ブログ記事は必要なときにライターへ依頼し、COOや提携担当も外部メンバーとして迎えた。
  • 高い給料で縛るのではなく文化や自由さで選ばれる組織を志向した。
Monetize

3年間は自分の給料を取らずに継続し、年間の継続売上が約7,500万円規模に達した。

年間の継続売上は約7,500万円規模(50万ドル)年間継続売上規模
3年間無給での継続期間
  • 売上はできた一方で成長の方法は試行錯誤の途中だと捉えている。
  • 昔の営業のやり方が今の時代に合いにくくなっていることを理由に挙げた。
Growth

信頼とコミュニティが効く市場に合わせ、ビジネス向けSNSなどでの発信を強めた。

  • 顧客は売り込まれるより自分で情報を調べて判断したい傾向が強いと捉えた。
  • 同業者や知人の評判が重視されると見ている。
  • 投資家資金で急成長する物語だけが正解のように語られる空気に別の物語を提示したいと考えた。
Insight

起業家に必要なのは節約と伝える力であり、特に分かりやすい物語として語る技術が核だと位置づけた。

  • 節約は大事だが壊れるまで削るのは違うと振り返った。
  • 営業やプレゼンの基本は学べると捉えた。
  • 起業は何度もなぜ必要かを語る仕事になると考えている。

オンライン会議やウェビナーが当たり前になって、画面の前にいるだけで疲弊していく。準備に時間をかけたのに、当日ふたを開けたら参加者は数人——そんな虚しさに心当たりがある人も多いはずだ。

メリッサ・クワンも、まさにその状況にいた。申し込みは入るのに人が来ない。説明は毎回ほとんど同じ。それでも「ライブでやるしかない」と思い込み、消耗し続けた。

その違和感から生まれたのが、録画を軸にしながら双方向性も残す「非同期型ウェビナー」という発想だ。やがて年間の継続売上は約7,500万円規模(50万ドル)にまで積み上がった。その道のりには、過去の失敗と遠回りがそのまま材料になった瞬間がある。

人が集まらないウェビナーに、もう付き合いたくなかった

リモートワークが広がり、通勤や移動が減った。空いた時間が増えた一方で、オンライン会議やウェビナーが一気に増えた。画面を見続けるだけで疲れる、いわゆる「会議疲れ」だ。

メリッサもその疲れと無駄にうんざりしていた。特にウェビナーはひどかった。申し込みは入るのに、当日になると人が来ない。準備して、話して、終わってみたら参加者は数人——そんなことが何度も続いた。

そこでメリッサはこう考えた。「映画は生放送じゃないのに成り立つ。なら、ウェビナーも毎回ライブでやる必要はないんじゃないか」

こうして生まれたのがeWebinar。録画をベースにしながら、参加者とやり取りもできる「非同期型ウェビナー」のサービスだ。

3度目の起業は、過去の失敗と疲れの上に立っていた

eWebinarは、メリッサにとって3つ目のスタートアップになる。

営業として8年働いたあと、2011年に最初の会社Flat World Applicationsを立ち上げた。不動産会社向けに、建物ごとにカスタムしたマーケティング用アプリを作る会社で、紙のパンフレットの代わりにiPadで物件情報を見せたり、営業ツールを提供したりした。

ただ、顧客の要望を聞いて機能を足し続けるうちに、だんだん「受託開発」に近くなっていった。終わりのない追加作業。作っても作っても追いつかない。メリッサは疲れ切った。

そこで事業を担保に資金を調達し、2社目のSaaSを始める。会社名はSpacio。不動産業界向けのサービスとして約5年運営し、2019年にHomeSpotterに買収された。

Spacio自体はうまく回っていた。だが、ウェビナーだけはずっと足を引っ張っていた。

参加率1割。それでも同じ説明を何度もやる地獄

Spacioでは、導入説明や研修のためにウェビナーを繰り返し開く必要があった。しかも相手は忙しい不動産エージェント。申し込んでも参加しない人が多く、参加率が1割まで落ちることもあった。

人が来ないなら回数を増やすしかない。でも話す内容はほとんど同じ。会社ごとに少し違うだけで、基本は毎回同じ説明の繰り返しだった。

小さなチームで回していたため、メリッサはコードを書く以外の仕事も山ほど抱えていた。その中にウェビナーがある。これを続けるのは時間の使い方としておかしい——メリッサはそう確信した。

買収後、メリッサは旅をしながら次の挑戦を考えた。HomeSpotterで役員として働く時期もあった。しかし考えれば考えるほど、答えは一つに絞られていった。

「自動化された、非同期のウェビナーが必要だ」

世の中はライブ配信ばかり注目する。けれど、消費者向けの動画は好きなときに再生できるのに、ビジネスの情報だけが「決まった時間に集合」を前提にしているのはおかしい。

もしドラマが「来週の夜11時にしか見られない」と言われたら不便なはずだ。同じことが、ウェビナーでも起きている。メリッサはそう捉えた。

試作品を売りに行ったら、結局8週間デモをやり続けた

2019年。買収から2か月後、メリッサは試作品を作り、過去の仕事で築いた連絡先リストに向けて紹介して回った。

ところが皮肉なことに、1人ずつデモをすることになり、8週間もかかった。まさに「同じ説明を繰り返す無駄」を、自分で再現してしまった形だ。

反応ははっきりしていた。多くの人が「ウェビナーを何度もやるのは無駄」と認めた。

ただし、大企業は動きが遅かった。ウェビナー担当がすでに10〜20人いることもあり、仕組みを変える動機が薄い。逆に、少人数で回す中小企業は切実だった。効率を上げたい、時間を取り戻したい——そういう会社が最初の顧客になった。

現在の主な利用者は、テック企業のカスタマーサクセス、営業、マーケティング部門だ。

「録画」なのに、ただの動画で終わらせない

eWebinarの基本は録画だ。画面録画ツールなどで動画を撮り、eWebinarにアップロードする。

ただの動画では終わらない。途中に投票や質問、追加資料のリンクなどを差し込めるため、視聴者は受け身になりにくい。

さらに非同期チャット機能がある。視聴者が質問を書けば、運営側はその場で返してもいいし、後から返してもいい。返信はメールでも届く。誰も見ていない時間帯でも、自動返信で最低限の反応を返せる。

メリッサが強みと考えるのは、同じウェビナーを繰り返し配信することでデータが蓄積される点だ。どこで離脱したか、どこでコメントが増えたか——そういった情報が積み上がり、改善につなげられる。

ライブ配信では参加者が少ない。参加率2割の場で投票しても母数が少なく、結果が偏りやすい。非同期で回し続ければ反応が集まりやすい。メリッサはそこに価値を見出した。

優秀なエンジニアが、共同創業者として優秀とは限らない

メリッサは過去2回の起業で、共同創業者問題の難しさを身をもって経験してきた。

以前の会社で一緒だった共同創業者は優秀なエンジニアだったが、CTOとして理想通りだったわけではない。そこでeWebinarでは「技術の共同創業者はいらない」と判断し、開発会社に任せて自分は事業づくりに集中する方針を取った。

しかし、その開発会社は見積もりを誤った。製品を作る大変さを甘く見ており、しかもオーナーは友人だったため、仕事上の問題が友情にも影響した。

その後、別の形で解決が訪れる。今の共同創業者デイビッドの登場だ。デイビッドは複数社を支える「必要な分だけ関わるCTO」として働いていた人物で、私生活のパートナーでもあった。

デイビッドは前の開発会社がどこで失敗したかを整理し、別の開発チームへの引き継ぎを手伝った。無償で修正を進めるうちに、その実力は明らかになった。メリッサはデイビッドを共同創業者として迎え、持ち分や条件も納得できる形に整えた。

正社員を増やさない。外部メンバー中心で進める

共同創業者は迎えたものの、メリッサは正社員を増やすことには慎重だった。長年の経験から、採用・解雇・日々のマネジメントに追われる状態を避けたいという気持ちが固まっていたからだ。

eWebinarの開発は、ベトナムやベラルーシの外部メンバーが支える。ブログ記事は必要なときにライターへ依頼し、COOや提携担当も外部メンバーとして迎えている。

人が自由に出入りできる形は、自立した働き方につながる。高い給料で縛るのではなく、文化や自由さで選ばれる組織にしたい——リモート中心の運営は、メリッサにとって自然な選択だった。

売上はできた。でも成長のやり方は、まだ探している

メリッサは3年間、自分の給料を取らずに事業を続けた。今では年間の継続売上が約7,500万円規模(50万ドル)に達している。それでも、成長の方法はまだ試行錯誤の途中だ。

理由はシンプルで、昔の営業のやり方が今の時代に合いにくくなっているからだ。

今は「信頼」と「コミュニティ」が力を持つ。人は売り込まれるより、まず自分で情報を調べたい。同業者や知人の評判も重視する。特にSaaSでは「手厚い商談」より「自分で判断できる材料」を求める顧客が増えている。

だからメリッサは、ビジネス向けSNSなどでの発信を強めている。宣伝のためだけではない。投資家の資金で急成長する話ばかりが正解のように語られる空気に、別の物語を提示したいと考えている。

短期間で派手に伸びる話は目立つ。でも多くの会社は地道に積み上げている。1年半で売上が何千万ドルにもなるのが当たり前ではない。その現実を伝えたい。

起業家への助言は2つ。節約と、伝える力

メリッサが起業家に伝えたいことは多いが、その核になるのは2つだ。

1つ目は節約——ただし、追い込みすぎないこと。メリッサは過去に7年間、自分に安定した給料を払わず、月末に残った分から家賃と最低限の生活費だけを取る生活を続けた。事業にお金を入れすぎて信用情報が悪化したこともある。ある時期には1日1食で過ごしたこともあった。

今振り返ると、そこまでやるのは不合理だったと言う。節約は大事だが、壊れるまで削るのは違う。

2つ目は、営業やプレゼンの基本を学ぶこと。生まれつき営業が得意な人は少ない。しかし基本は学べる。

特に大事なのは、相手に伝わる形で話を組み立てる力だ。ただの売り込みではなく、分かりやすい物語として伝える力。起業は結局、何度も何度も「なぜこれが必要か」を語る仕事になる。メリッサはそこを、起業家に欠かせない技術だと考えている。