旅先で、前の宿泊客のゴミが詰まったゴミ箱を道路わきに出す羽目になる。休暇のはずなのに、気分が一気に冷める。そんな「理不尽な面倒」が、ある起業のきっかけになった。
とはいえ、思いつきで始めても最初の数週間は客が集まらない。「需要がないのかもしれない」と迷い、撤退を考えた時期もあった。それでも、2本の電話が状況を一変させる。
やがてフィラデルフィアでビジネスモデルが固まり、オーナーたちから約1,500万円規模($100,000)の投資も集まった。ゴミの悩みを「仕事」に変えたサービスは、どこで噛み合ったのか。
だれかの「面倒」が、別のだれかの「仕事」になる
ゴミ回収の仕事は、たいてい目立たない。だが、それを武器に1年ほどで急成長した会社がある。アメリカ発の「Ragin' Raccoon」。バケーションレンタルのゴミ問題を解決するサービスだ。
きっかけは、フロリダ州タンパへの旅行だった。滞在先のオーナーからこう頼まれた。
「休暇の途中で、ゴミ箱を道路わきに出しておいて」
しかもそのゴミ箱は、前の宿泊客のゴミでパンパンだった。休みに来たのに、見知らぬ人のゴミを押して運ぶ。気分が一気に冷めた。
その違和感が、頭から離れなくなった。調べてみると、バケーションレンタル向けにゴミをまとめて解決するサービスはほとんど存在しない。市や大企業がすべて対応していると思い込んでいたが、そこには大きな穴があった。
その穴を埋めるために生まれたのがRagin' Raccoonだ。オーナーの代わりにゴミ箱を出し、必要なら回収して持っていく。作業員はアプリで「今日どこへ行き、何をするか」を確認できる仕組みになっている。
ただ、最初から順調だったわけではない。始めて数週間、客は増えない。やめようかと考えた時期もあった。だが、2本の電話が流れを変えた。
ネット通販で失敗し、サービス業へ舵を切る
創業者のジャスティンは、人生の最初の11年をアルバニアで過ごした。親戚が多く、裕福ではないが助け合う文化があった。起業家の叔父の影響も強く、商売への考え方が幼いころから心に刻まれた。
家族が抽選で移住権を得て、アメリカへ渡る。ジャスティンは「チャンスの国」に来たと感じた。多くの会社が利益を上げている。やり方を工夫してより良くできれば勝てる。そう確信した。
大学では会計を学び、修士号も取得。大手企業で監査などの実務も経験した。会計はビジネスの共通言語であり、お金の流れを読む力は、将来の起業や他者支援に必ず役立つと考えていた。
しかし知識だけでは勝てない。2017年から2020年にかけてネット通販の店を3つ試したが、すべて失敗に終わった。競争が激しすぎたり、逆にニッチすぎて客が見つからなかったりした。
そこから得た教訓は2つ。客の注意を引くには、工夫と発信を継続する必要があること。そして、物販は在庫と返品の負担が重いということだ。
次は在庫も返品もない形にしよう。品質をコントロールしやすい「サービス業」に絞ろう。そう決めた。
タンパでつまずき、遠方オーナーの悩みに気づく
タンパでの体験を思い出し、2021年8月に事業をスタートした。最初の仕事はシンプルで、週1回バケーションレンタルの物件を回り、ゴミ箱を道路わきに出すだけ。作業員は地図アプリで効率のいいルートを組む。
当時はちゃんとしたアプリもなく、サイトも最低限。まずは動かしてみる段階だった。
集客のため、地域のオーナーが集まるSNSグループで声をかけた。月約7,000〜8,000円ほど($50)の料金で提案したが、2か月たっても反応はほとんどない。需要がないのかもしれない。そう思い始めた。
答えは意外とシンプルだった。タンパに住むオーナーは自分でゴミ箱を出せる。わざわざお金を払う理由が薄いのだ。
そんなある朝、1本の電話が入った。別の州に住みながらタンパの物件をリモートで管理している女性からだった。
「現地でゴミ箱を出してくれる人がいない」
ここで気づく。困っているのは近所に住むオーナーではなく、遠隔で運営するオーナーだ。
そこから投稿や営業を続け、タンパでの契約は1件から18件まで増えた。だがそれでも安定しない。街が広く移動時間が長い上、市の定期回収があるため「間に入るサービス」の必要性が伝わりにくかった。
そして2本目の電話が来る。2021年10月、ペンシルベニア州フィラデルフィアの大口オーナーからの連絡だった。
求められたのは「ゴミ箱を出す」だけではない。「ゴミを回収して持っていく」こと、そして物件管理と連動するアプリ運用だった。
実はジャスティンは、将来を見据えてサイト上では「アプリがある」ように見せていた。だが、その時点ではまだ本物は存在しない。大口の顧客が現れたら自己資金で開発するつもりで、先に市場の反応を探っていたのだ。
「ゴミの悩みが深い街」で、モデルが完成する
フィラデルフィアは街がコンパクトで、ゴミ問題が起きやすい。外に放置するとネズミが寄り、周辺が汚れる。チェックアウトのたびに素早く回収する仕組みが不可欠だった。
最初はピックアップトラックで回収を試みたが、積載量が少なく、荷台から漏れる問題も発生した。そこでジャスティンは専用のゴミ収集車を使う計画を立て、同時にアプリの設計も具体化した。
アプリの仕組みはこうだ。宿泊客のチェックアウト情報をもとに、回収先の住所とタイミングが自動で表示される。作業員はそれを見てルートを組み、回収後に完了を報告する。運営側は状況をリアルタイムで把握できる。
この提案が刺さった。フィラデルフィアのオーナーたちは約1,500万円規模($100,000)を投資。資金はアプリ開発、ドライバーの雇用、車両購入に充てられた。宣伝費はほとんどかけなかった。
集客はビジネス向けSNSでの発信が中心で、そこから問い合わせが入り、他の地域への展開話も進んでいく。
ただし、やみくもに都市を増やすことはしない。収益化の見通しがあるか、現地の大口管理者が「やる」と確約しているか。それを確認してから進出する。準備期間は4〜6週間を目安にした。
こうしてコロラド州テルライド、メリーランド州アナポリスなどでも契約が決まり、複数の都市へと広がっていった。
ゴミはなくならない。だから伸ばし方もいろいろある
市場に合う形が見つかり、Ragin' Raccoonは「ゴミ回収」と「バケーションレンタル」という成長分野の交点で事業を拡大できると見えてきた。将来はイベント会場など、別の現場への展開も視野に入る。
料金プランも拡充した。月額定額、チェックアウト1回ごとの従量課金、必要なときだけ頼める単発型と、用途に合わせて選べるようにした。
こうした改善には、宿泊運営の技術に詳しい専門家の力も借りた。相談のつもりで送った連絡がきっかけとなり、アプリのバックエンド構築まで一緒に進めることになり、そのままアドバイザーとして加わった。
結果としてオーナーの手間は減り、運営はスムーズになった。将来は宿泊料金にゴミ回収費が最初から組み込まれる形も十分あり得ると見ている。
ジャスティンが最も強く感じたのは、「市場が求める形に合わせて変える」ことの重要さだった。最初に思い描いた理想より、現場の困りごとのほうが「何をすべきか」を教えてくれる。フィラデルフィアのように、本当に痛みが深い場所に寄せたことで、歯車がかみ合った。
始める前は山に見えるが、やってみると小さくなる
起業は、始める前は大きな山に見える。失敗する理由はいくらでも思いつく。だが一度踏み込んでみると、想像より越えやすい壁も多い。
ジャスティンの場合もそうだった。やめようと決めかけた直前に、最初の本気の顧客が現れた。
今ではRagin' Raccoonの車が複数の都市を走っている。今後もさらなる拡大が見込まれており、将来の売却や買収も視野に入れつつ、これまで積み上げた技術・連携・取引先を土台に、より大きな展開を狙っている。
