会社員を3度辞め、スタートアップも2度失敗。トム・ハントは、そんな停滞の中にいた。
「このままでいいのか」という迷いを抱えながらも、答えはすぐには出ない。売上が落ちたり成長が止まったりするたびに、逃げずに原因を掘り下げ、やり方を変え続けた。
その積み重ねの末に立ち上げたのが、B2B企業向けポッドキャスト制作会社のFameだ。50社以上を支援し、月次継続売上は約1,500万円($100,000)を超え、年間では約1.5億円($1,000,000)以上の規模へと成長した。
幸せにも収益にもつながらないなら、手放す勇気を持つ
トム・ハントは会社員を3度辞め、スタートアップも2度失敗した。
それでも、合わない働き方に「これでいい」と妥協するつもりはなかった。売上が落ちたり成長が止まったりすると、逃げずに原因を掘り下げ、同じ失敗を繰り返さないようやり方を変えてきた。
その積み重ねが、2020年のFame創業につながる。FameはB2B企業向けにポッドキャストを制作する会社で、50社以上の成長企業を支援。月次継続売上は約1,500万円($100,000)を超え、年間では約1.5億円($1,000,000)以上の規模になっている。
ここまでの道のりは決して楽ではなかった。だが、苦しい時期に諦めなかったことが、最終的に大きな差を生んだ。
「給料を事業で置き換える」と決めた日
トムは科学者一家に育ち、ロンドンの大学で化学を学んだ。しかし卒業後は理系の道に進まず、プロジェクト管理の仕事を選んだ。
2011年にアナリストとして働き始め、2013年にはコンサル会社へ転職。だが、どちらもしっくりこなかった。研究の世界も会社の世界も、自分の居場所ではない気がした。
興味があったのはインターネットだった。プログラミングはできない。それでも「ネットで物を売るなら自分にもできるかもしれない」と感じた。
2014年初め、トムは自分にひとつの課題を課した。「給料を事業で置き換える」
そこから約1年、広告運用やキーワード調査など、思いつくマーケティング手法を片っ端から試した。しかし、生活できる水準には届かなかった。
そこでトムが思い出したのは、以前の仕事で培った強みだった。業務を外部の人材に任せて回す仕組みを作る経験だ。
Virtual Valleyで初めて「食える」状態を作る
2015年、トムはVirtual Valleyを立ち上げた。世界中のバーチャルアシスタントと忙しい経営者をつなぐサービスだ。
やり方はシンプルだった。企業にメールを送り、合いそうな人材を紹介する。採用が決まれば、給与の一部を手数料として受け取る。
顧客が5〜6社に増えたころ、ついに「給料を置き換える」という目標を達成した。
ただ、喜びは長続きしなかった。このままでは大きく伸びないと、すぐに気づいたからだ。
伸ばすために、仕組みそのものを作り変える
一件ずつ紹介する仲介モデルは時間がかかる。営業メールを送り、調整し、紹介し、また次へ。どれだけ頑張っても成長速度に限界があった。
さらに「利益の半分を手数料でもらう」形は、紹介するアシスタントの価値まで安く見せてしまうという問題もあった。
トムは決断した。仲介をやめ、マーケットプレイス型に切り替える。企業がサイト上でアシスタントを探し、直接採用できる仕組みだ。個別対応が減り、集客に力を注げる。
エジプトの開発チームが半年かけて新しい仕組みを構築し、その間トムは質の高いアシスタントを集めて登録していった。
集客方法もさまざま試した。その中で始めたのがポッドキャストだった。まだFameではない。しかしこのとき、ポッドキャストが人との関係づくりに強力な武器になると身をもって理解した。
番組は平日毎日、5〜10分の短い内容で配信した。作るほど学びが増え、反応が返ってくるのも面白かった。番組が軌道に乗ると、Virtual Valleyは月に約100万円(約5,000ポンド)規模の取引を生むようになった。
しかし、代償もあった。18か月ほぼ全力で走り続け、2017年の夏に燃え尽きた。結果として、事業は約300万円($20,000)で売却した。
後から振り返ると、続けていればもっと良い形になった可能性もある。トムはこの経験から、成果が出るまでに時間がかかるのは当たり前だと知ること、焦りすぎないこと、そして自分の心身を守ることの大切さを学んだ。
回復の時間が、次の挑戦の準備になった
Virtual Valley時代に海外で暮らしたのち、トムはロンドンへ戻った。そこで友人のジェームズと再会し、「一緒に何か作ろう」と動き始めた。
2017年から2018年にかけて、さまざまなアイデアを試した。うまくいかないものも多かったが、この試行錯誤は燃え尽きから立ち直るリハビリにもなった。
売れない営業が、ポッドキャストでひっくり返る
その後トムは、営業予測のSaaS企業で需要創出の責任者として働く。広告やメールで見込み客を増やす役割だ。
しかし、壁にぶつかった。ターゲットである営業オペレーション担当者が何を考えて購買決定するのかが分からない。電話しても、メールしても断られ、話す前に終わってしまう。
そこでトムは、あのポッドキャストの手応えを思い出した。
B2B向けの番組を立ち上げ、断り続けていた担当者たちにこう声をかけた。「番組のゲストとして話してほしい」
すると反応が一変した。無視していた相手がOKを出し、会社に来て収録に参加するようになった。
番組の作りはシンプルだったが、少しずつ広がっていった。ゲストが自分の回をSNSで紹介し、検索からも人が流入してくる。
決定的な出来事が起きたのは、13人目のゲストのときだった。大手SaaS企業の営業オペレーション責任者が出演後、社内のCEOに連絡し、183人分のソフト購入につながった。ポッドキャストにかけた費用に対して、9〜10倍の効果が出た計算になる。
トムは確信した。B2Bマーケティングにおいて、ポッドキャストは強い。売上に直結するだけでなく、長く効く信頼とブランドも築ける。
仕事を辞め、ポッドキャスト制作を本業にする
2019年12月、トムは会社を辞めた。ポッドキャスト制作を本業にするためだ。
最初の顧客は前の勤務先だった。そこから200本のエピソードを制作し、その会社は今も顧客として残っているが、トム自身はホスト役からは離れている。
顧客が増える中で、事業の名前が固まっていった。Fameだ。
商品より先に「聞いてくれる人」を集める
Fameが早い段階で売上を作れた理由がある。立ち上げ前から届ける相手がいたことだ。
トムは会社員時代、仕事が終わった後にニュースレターを書いていた。SaaSのマーケター向けに、毎日コツや戦略を発信し、SNSのコミュニティでも交流していた。
そこにいた人たちが、Fame創業時の見込み客になった。
トムの考えははっきりしている。先に人の集まりを作り、そこに必要なものを売る方が早い。商品を作ってから買い手を探すのは遠回りになりやすい。
コミュニティとメールリストで「ポッドキャストを始めたいか」と問いかけると、最初の顧客に続いて2人目・3人目もスムーズに決まった。
いまのFameと、トムが大事にするゴール
Fameはその後、広告・検索・ビジネスSNSでの営業などを通じて安定的に顧客を増やしてきた。さらにトム自身が他の番組にゲスト出演し、ポッドキャストの価値を語ることで新たな層にも届けている。
いまの目標はシンプルだ。事業を育て、チームを作り、顧客に満足してもらうこと。
チームが満足し、顧客も満足し、事業が成長する。その状態を維持し続けることが大切だとトムは考えている。
回り道と失敗を重ねながらも、好きで得意なことを見つけ、それを顧客の成果につながる形に変えていく。トムの歩みは、その可能性を示す一例となった。
