便利なのに、どこか冷たい。AmazonやeBayで買い物をするたびに、そんな距離感を覚えたことがある人は多いはずだ。
オーストラリアでも、同じような違和感を抱えながら動き出した2人がいた。最初の挑戦は伸びても苦しく、手作業の失敗も重なった。それでも彼らは、ネットの上に「近所の店みたいな温度」を作ろうとした。
小さな小屋から始まった試行錯誤は、やがて毎年10%以上の成長につながっていく。派手な広告ではなく、積み重ねで信用を作った2人が、どんな壁にぶつかり、どう乗り越えたのか。
AmazonやeBayは冷たい?オーストラリアの2人が「近所の店みたいな通販」を作るまで
AmazonやeBayは便利だ。けれど、どこか遠い。売っている人の顔も、店の匂いも見えない。
オーストラリアに、そんな空気を変えようとした2人がいた。アンドリュー・ハンナとマル・バダウィ。2人が作ったのが、オンライン小売店Ozdingoだ。
ただのネットショップではない。地元ブランドがいろいろな場所で商品を売れるように手伝い、面倒な問い合わせ対応まで引き受ける。ネットの上に、近所の店みたいな温度を作ろうとした。
移住してきた男と、地元で動き回る男が出会った
マルはレバノン出身。投資銀行で働いたあと、オーストラリアへ移住した。新しい土地で何かを始めたかった。
ブリスベンで飲食の仕事を考えていたとき、紹介でアンドリューと出会う。アンドリューは地元で飲食店をいくつも回していた。
2人はタイプが違った。アンドリューは決断が速く、まず動く。マルは数字と計画に強く、先を読む。その違いが、うまくかみ合った。
最初の挑戦は、うまくいっても続かなかった
2人が最初に取り組んだのは、小さな会社向けのアプリ提供だった。利用者は100社以上に増えた。
ただ、営業は電話が中心で、負担が大きかった。伸びているのに、続けるほど苦しくなる。2人はその仕事をやめた。
ファラフェル店の裏で、eBayが回り始めた
次に2人はファラフェル店を開いた。同時に、eBayでジューサーの替え刃のような交換部品を売り始めた。
これが当たった。売れ行きが良く、やることも分かりやすい。扱う商品を少しずつ増やしていった。
作業場所はアンドリューの家の裏庭にある小さな小屋。梱包材を店へ買いに行き、自分たちで荷物を郵便局へ持っていく。まさに手作業のスタートだった。
在庫を間違えたり、手順が崩れたり、失敗も多かった。でも、その失敗があとで武器になる。
数か月後、2人はファラフェル店を閉め、ネット通販に集中する決断をした。
「いい物を作ってるのに、売り方が分からない」人たちがいた
最初は海外からも仕入れていた。日本、中国、フィリピンなどだ。ところが続けるうちに、オーストラリア国内の仕入れが増えていく。
そこで気づいた。
地元には、魅力的な商品を作っているのに、ネットでの売り方が分からず、客に届いていないブランドがたくさんある。
2人は方向を決めた。自分たちが「売る」だけじゃない。ブランドの代わりに、売れる形を整える。
販売ページを作る。発送の段取りを組む。問い合わせに答える。技術的な支援もする。まとめて引き受ける存在になる。
店名もOzdingoに変えた。Ozはオーストラリア人の呼び名。Dingoはオーストラリアにいる野生犬。地元の空気を名前に入れた。
小屋から倉庫へ。成長の次に来たのは「仕組みの壁」
地元ブランドを支える形に切り替えてから、Ozdingoは毎年10%以上成長した。
小さな荷物が中心だった注文は、箱単位、木箱単位へと大きくなる。2017年、2人は小屋を出て街中の大きな倉庫へ移った。
だが2018年、別の問題が起きた。商品が増えすぎて、配送や返品の流れをきれいに回せなくなった。
倉庫に置けるのは全商品の一部だけ。管理が複雑になり、ミスが起きやすくなる。
2人はモデルを変えた。Ozdingoは販売窓口と問い合わせ対応の中心になる。保管や発送の一部は取引先側に任せる。
どの商品は自分たちで強く扱うべきか。どこから先は取引先に任せた方がいいか。長年の販売データで判断するようになった。
最初の社員は75歳の父。そこから「働き方」が会社の強さになった
最初の社員はアンドリューの75歳の父だった。梱包を手伝った。
倉庫が大きくなるにつれて家族も加わり、やがて会社の空気を変える人が入る。ローズという運営のプロだ。
ローズは倉庫の近所に住み、ファッション小売の現場で25年以上の経験があった。前の会社が買収され、転職を考えるタイミングが来た。
ただ、子どもが生まれたばかりで、柔軟な勤務時間が必要だった。
2人はローズの経験が必要だと判断し、働き方を合わせた。これが会社全体に広がる。
- 学校へ送ったあと8時30分から働き、迎えの2時30分に上がるスタッフが複数いる
- 短い時間でも集中して成果を出せる体制を作り、離職が少なくなった
社員を中心に考える文化が、結果として現場を強くした。
派手な広告より、8年の積み重ねが信用になった
Ozdingoが伸びた理由は、大きな広告ではない。長い運営と、丁寧な顧客対応だった。
評価を高い水準で保ち、少しでも下がればすぐ直す。その繰り返しが信用を作った。
地域の掲示板のような場所に載せる。名前を早めに商標登録する。小さな手を打ち続けた。
ブリスベンで少しずつ知られるようになり、口コミだけで取引先が見つかることも増えた。本格的なマーケティングに力を入れ始めたのは、もっと後の話だ。
現場の不満から、自分たちのソフトを作った
2022年、2人は次の段階へ進む。3年かけて集めたデータをもとに、自社ソフトを開発した。
Ozdingo Connect。倉庫管理システムだ。
既製品のソフトは、現場に合わせた細かな調整がしにくい。外部サービスとの連携も足りない。中には、現場を知らない人が作ったようなものもあった。
商品番号が変わるたびに設定し直す。別の商品で同じバーコードが使われて混乱する。そんな問題が積み重なる。
Ozdingo Connectは、倉庫管理だけで終わらない。商品を売るための掲載作業にも役立つ。Ozdingoの店だけでなく、他の大きな販売先にも、最適化した説明文で出せるようにする構想だった。
大量の商品を求める大企業だけでなく、少数の商品を丁寧に作る小さな作り手にも光を当てたい。そこに狙いがあった。
オーストラリアらしさと品質で、新しい通販を目指す
Ozdingoが目指すのは、オーストラリアを代表するような新しい通販プラットフォーム兼小売店だ。
参加するブランドには、短い配送時間や一定期間の返品対応など、品質とサービスの基準を求める。
オーストラリアは電気製品の安全基準や規制が厳しい国とも言われる。2人は国内のものづくりがもっと動くように助けたい。
他では見つからない、細かく尖った商品が手に入る場所を作る。それが2人の次の勝負になる。
資金調達に頼らない苦しさが、あとで強さになった
この道は楽ではなかった。事業が不安定に見えた時期も長い。マルがしばらく給料を取らない時期もあった。
人を増やす金が足りないと思い、休まず働き続けた年もある。
同じ時期に始まった競合が、投資家から大きな資金を集めて急成長するのを見て、悔しさを感じたこともあった。
それでも2人は、利益を積み重ねて自分たちの力で回すやり方を選び続けた。
その結果、2022年にネット通販企業全体が引き締めを迫られたときも、無理のない収益の土台がOzdingoを支えた。
派手さはない。けれど、崩れない強さが残った。
