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不動産の書類にうんざりした高校時代のゲーム仲間2人が、失敗を重ねて年商約1,000万円のVAUNTを作るまで

9 min read2026年6月1日
不動産の書類にうんざりした高校時代のゲーム仲間2人が、失敗を重ねて年商約1,000万円のVAUNTを作るまで

ビジネス概要

事業タイプ

SaaS

フェーズ

成長期

規模感

年間約1,000万円規模の売上

概要

不動産会社の相談対応から契約までの進行を一つの流れにまとめ、やり取りと書類処理をオンラインで進めやすくするツール。

ターゲット

ルーマニアやヨーロッパの不動産会社の営業責任者

主な打ち手

サイト制作の受託を入口に顧客の会話から本当の課題(問い合わせ後〜契約までの進行の分断)を特定し、毎月課金のVAUNTとして作り直した。

部屋を借りるだけなのに、書類は山ほど。やり取りは機械的で、相談したいことほど前に進まない——そんな不動産の「面倒くささ」に、うんざりした経験はないだろうか。

ルーマニアの起業家イリーナは、その「人間らしさが消えたやり取り」を減らしたいと考えた。高校時代のゲーム仲間と何度も失敗を重ねながら、相談から契約までの流れを整えるサービス「VAUNT」を形にしていく。

年間約1,000万円規模(約6万ユーロ)の売上が見えるところまで、外部資金に大きく頼らず少人数で積み上げてきた。遠回りだらけの挑戦が、どこで転機になったのか。

高校のゲーム仲間と共に、不動産の売り方を変える会社を作るまで

大きな街で部屋を借りようとすると、手続きがやたら多い。身元の確認、紹介者の連絡先、給料の明細、過去の賃貸の記録、前の職場の情報、税金の書類。言われるままに出していくと、申し込みの手数料や、あとで返ってくるかもしれないお金まで必要になる。

相手が大きな会社だと、話はさらに進みにくい。決まり文句だけが返ってきて、細かい相談が止まる。最後には「もう別の物件でいいや」とあきらめたくなる。

ルーマニアの起業家イリーナ・アリーネ・コンスタンティンは、こうした「人間らしさが消えたやり取り」を減らしたいと思った。そして、不動産会社が相談から契約までをスムーズに進められるツールを作った。名前はVAUNT。

ただ、そこにたどり着くまでに、いくつもの失敗があった。高校のゲーム仲間だったラズヴァン・ミトレと一緒に、遠回りしながら形にしていく物語だ。

18歳、ゲームの中で作った物を現金に変えた

イリーナが18歳のころ、世界的な不景気がルーマニアにも強く影響した。周りでも「お金が足りない」が現実の問題になっていた。イリーナも手元のお金を少しでも増やしたくて、ゲームの世界で稼ぐ方法を試した。

当時ハマっていたのは、Second Lifeというオンラインゲーム。プレイヤーが服や家具のようなアイテムを自分で作り、売り、現金に換えられる仕組みがあった。

イリーナは気づく。「思ったより作れる。しかも売れる」。最初はおこづかい目的だったのに、だんだん立体的なデザインそのものが楽しくなった。作る量が増え、評価も上がっていった。

そのゲーム仲間の小さなグループに、ラズヴァンがいた。ラズヴァンは株に興味があり、空いた時間に売り買いをしていた。2人は遊びながら、こんな話をするようになる。「どうやって商売が生まれるのか」「お金はなぜ回るのか」。

高校で積み上げた作品がきっかけになり、イリーナは大学生のころ、ゲーム会社Ubisoftで研修として働くチャンスをつかむ。そこで最年少の研修生だった。

会社員になっても、心のどこかで独立を考えていた

21歳のとき、イリーナはソフトウェア会社Bigstepで働き始める。ラズヴァンも同じ会社に入り、プログラムを作る仕事をした。

けれどイリーナの中には、ずっと引っかかるものがあった。「自分の進む道を、もっと自分で決めたい」。会社の方針に乗って成果を出すのも大事だが、誰かが決めたゲームをプレイするだけでは物足りなかった。

イリーナはラズヴァンを説得し、2人で会社を辞めて新しい事業づくりに踏み出した。

最初の挑戦は、使う人が増えずに終わった

2人は「いつか独立」ではなく、早い段階で勝負したかった。世の中に影響を出すなら、若いうちから飛び込むべきだと考えた。

最初に作ったのは、店をチェックして報酬をもらう小さなアプリ。客が店に行き、商品の並び方などを確認し、条件を満たすと報酬が受け取れる仕組みを考えた。

だが、使う人が増えない。仕組みは作れても、続けて使われるところまで届かなかった。事業は終わった。

次は飲食店の予約アプリ、でも「誰のためか」がぼやけた

次に作ったのは、飲食店の予約をしやすくするアプリ。客は予約ができ、店側は客の情報を集めて宣伝に生かせる。アイデアとしては悪くない。

ただ、ここで壁にぶつかる。「誰がいちばん困っていて、誰が強く求めているのか」がはっきりしない。必要性が弱いと広がらない。1年ほどで解散した。

デザイン会社を3年続けて、不動産の"違和感"に出会う

2015年、2人はAesthetic Worksというデザイン会社を始める。Webサイトの制作や、ネット上での見せ方を整える仕事だ。ここは続いた。3年間、地道に仕事を積み上げた。

そのうち不動産関係の依頼が増えていく。2人はもともとお金の動きにも興味があり、不動産が大きなお金の動く分野だと知っていた。

そして、仕事をするほど"違和感"が強くなる。

不動産の世界は、建物そのものにはお金をかける。でも、売り方や見せ方、契約までの進め方は意外なほど手探りだ。宣伝も、やり取りも、仕組みが整っていない。そこに大きな穴がある。

2018年、2人は不動産にしぼって力を入れることに決め、VAUNTにつながる準備を進めた。

検索では見つけてもらえない。だから電話をかけた

最初の客を増やすために、2人は不動産会社へ片っ端から電話をかけた。

不動産を開発する会社は、サイト制作会社を検索して探すことがあまりない。だから電話で、短く強い言葉を投げた。「1日でサイトを公開できる」。

不動産会社は資金がある一方で、決断が遅いことも多い。だからこそ「すぐ形になる」は魅力になる。

イリーナはもう一つ、はっきり伝えた。「売り方を変えたほうがいい」。建物に大きな看板を出すだけでは足りない。ネットでの見せ方まで含めて、他社よりわかりやすく魅力的に見せる必要がある。

客は「サイトを持っていない会社」だけではなかった。すでにサイトがあっても、不満を抱えている会社が多かった。自分たちで作ろうとして時間がかかったり、制作会社に頼んでも公開まで待たされたりして、肝心の営業に集中できない。

一般向けのサイト作成サービスでは、不動産の仕事に必要な細かな機能が足りないこともあった。

サイト制作は入口にすぎないと気づいた

サイト制作は利益が出ても、大きく増やしにくい。作る相手の数には限りがあり、作ったら終わりになりやすい。

2人は客との会話をよく聞いた。すると、本当の困りごとは別にあるとわかってくる。

物件の宣伝の仕方。問い合わせが来てからの対応。相談の積み重ね。契約までの流れ。その全体がバラバラで、進行が遅く、もったいない。

2020年、ある客のために「住まいの販売をネット中心で進められる仕組み」を考え、提案した。すると返ってきたのは、シンプルな言葉だった。「これならお金を払う価値がある」。

2人は他の小さな仕事を整理し、VAUNTとして本格的に作り始めた。

VAUNTは、相談から契約までの流れを整える

VAUNTは、不動産会社が物件を紹介し、相談から契約までを進める流れをわかりやすく整えるサービスとして作られた。

イリーナが大事にしたのは、「売って終わりにしないこと」。相手の立場に立ち、気持ちよく進むように設計する。その考え方を中心に置いた。

VAUNTが助けるのは、仕事の小さな手間の積み重ねだ。たとえばこんな部分。

  • 客ごとの状況を記録して整理する
  • 忙しい月とそうでもない月を見えるようにする
  • 見積もりや提案を送りやすくする
  • 契約の書類をネットで扱えるようにする

やり取りがきちんと残っていれば、次に連絡するときに話が早い。前回は別の担当者が話していても、どんな希望があったかがわかる。

物件だけを見るのではなく、相談している人の状況に目を向けやすくなる。ここに、人間らしさが戻ってくる。

数字が見えると、責めるより改善に向かえる

VAUNTは営業チームの動きも見えやすくする。誰がうまく進めていて、誰がつまずいているかがわかれば、助け方も考えやすい。

数字が見えると、判断も変わる。「今月が遅いのは担当者のせいではなく、季節や景気など別の理由かもしれない」と考えられる。責めるより、改善に向かえる。

イリーナは、不動産の仕事は意外と「新しい事業づくり」に似ていると感じた。最初に大きなお金をかけて建物を建てたり買ったりする一方で、どう宣伝して契約につなげるかは手探りになりやすい。そのギャップが混乱を生む。

だから、流れを整えるツールには価値がある。

大きな資金に頼らず、少人数で積み上げた

VAUNTは立ち上げ段階で、チームはイリーナとラズヴァン、そして数人の仲間という小さな規模で動いている。毎月の利用料をもらう形で、ルーマニアやヨーロッパの会社が少しずつ増えている。

年間で約1,000万円規模(約6万ユーロ)の売上が見えるところまで来た。外部から大きなお金を集めず、自分たちの力で積み上げた事業だ。

将来はアメリカにも広げたい考えがある。

いちばん大事なのは、困りごとの解決に夢中になること

イリーナは振り返る。遠回りも多かった。大きな会社で長く働けば、仕事の進め方の型や人脈を学べたかもしれない。だが、それがなかった分、失敗しながら自分たちで覚える必要があった。

その結果、進みは遅くなった。でも、失敗への耐性や立ち直る力は強くなった。

途中で投げ出したくなった時期もあった。それでも「お金を払ってくれる人がいる」という事実が、自分たちのやっていることは間違いではないと教えてくれた。

事業づくりは気持ちの面でも大変だ。最初から断られることも多い。だからこそ、断られても受け止め、相手の意見をよく聞き、必要以上に気にしすぎない姿勢が必要になる。

結論はシンプルだ。お金の集め方よりも、目の前の不便を減らすことを優先する。困りごとの解決に本気で向き合う。そこから事業は強くなる。

忙しくなった今でも、イリーナとラズヴァンは時間を見つけて一緒にゲームをする。高校時代のように同じ遊びを続けながら、次の挑戦に向かっている。

止まらずに学び続ける限り、うまくいかなかった経験も次の一手になる。失敗した経験は終わらせても、そこから得た学びまで捨てなければ、前に進める。


3層インサイト

イリーナは不動産の賃貸手続きで書類や手数料が多く、機械的なやり取りで相談が進みにくいという課題を問題視した。
イリーナは高校時代のゲーム仲間ラズヴァンと共に、不動産会社が相談から契約までをスムーズに進められるツール「VAUNT」を作った。
イリーナは18歳頃にオンラインゲームSecond Lifeでアイテムを制作・販売し、現金に換える経験をした。
大学時代、イリーナはUbisoftで研修として働く機会を得て、最年少の研修生だった。
21歳のとき、イリーナとラズヴァンはソフトウェア会社Bigstepに入社したが、イリーナがラズヴァンを説得して2人で退職し事業づくりに踏み出した。

プロダクトの方向性は、提供側の仮説よりも、顧客との会話で特定した「本当の困りごと」に基づいて再定義すると前進しやすい。

根拠

-サイト制作の顧客との会話をよく聞いた結果、宣伝から問い合わせ対応、相談、契約までの流れ全体がバラバラで遅いことが本当の困りごとだとわかった。

-2020年に顧客向けの仕組み提案が「お金を払う価値がある」と評価され、VAUNTを本格開発した。

-飲食店予約アプリは「誰が最も困っているか」が明確にならず、約1年で解散した。

顧客が自分から探しにこない市場では、検索に頼らず電話や訪問など直接働きかける方法を用意すると、最初の顧客に届きやすい。

根拠

-不動産開発会社はサイト制作会社を検索して探すことがあまりないため、2人は不動産会社へ片っ端から電話をかけた。

一度作って終わりの仕事は売上が積み上がりにくいため、繰り返し使われる業務の流れ全体を改善する形に価値を移すと、毎月課金の仕組みにつながりやすい。

根拠

-サイト制作は作る相手の数に限りがあり、作ったら終わりになりやすく、大きく増やしにくいと認識した。

-VAUNTは相談から契約までの流れを整えるサービスとして作られ、毎月の利用料をもらう形で運用されている。

業務を見える化すると、誰かを責めるよりも原因を探して改善する方向に話が向きやすくなる。

根拠

-VAUNTは営業チームの動きを見えやすくし、誰がつまずいているかがわかれば助け方を考えやすいと述べられている。

-数字が見えることで、遅れの原因を担当者以外(季節や景気など)も含めて考えられ、責めるより改善に向かえると説明されている。

初期フェーズでは外部資金に大きく依存せず、少人数で顧客課金を積み上げる運営でも一定の売上規模に到達できる。

根拠

-VAUNTは少人数のチームで立ち上げ、毎月の利用料でルーマニアやヨーロッパの会社が少しずつ増えている。

-外部から大きなお金を集めずに積み上げ、年間約1,000万円規模(約6万ユーロ)の売上が見えるところまで来た。

作ったプロダクトが伸びず、顧客価値やターゲットが曖昧で次の打ち手が定まらない。

1既存顧客・見込み顧客へのヒアリングで、業務のどの工程が遅い/面倒/属人化しているかを工程別に書き出す。
2「最も困っている人は誰か」「その人が今お金を払ってでも解決したいことは何か」を1文で書き出し、答えられない場合は対象を絞る。
3ヒアリングで出た課題のうち、前後工程まで含めた一連の流れとして再設計できるテーマを選び、提案書として提示して反応(支払い意思)を確認する。

見込み客が検索や問い合わせで出てこず、初期顧客獲得が進まない。

1顧客が普段どこから情報を得るかを仮説として考え、検索で見つかりにくい場合は電話・紹介・訪問など直接働きかける手段を用意する。
2初回接触では「短時間で提供できる具体的成果(例:公開までの期間短縮)」を1つに絞って伝える。
3既に代替手段を持つ企業の不満(時間がかかる、待たされる、必要機能が足りない等)を質問項目化し、刺さる訴求に言い換える。

単発売り切りの受託・制作が中心で、売上が積み上がらず成長が頭打ちになる。

1納品物そのものではなく、納品後に発生する運用・対応・引き継ぎなどの反復作業を洗い出し、継続価値のある領域を特定する。
2顧客の業務を「問い合わせ→相談→提案→契約」の流れで整理し、詰まりや止まりが起きている箇所をまとめて対応できる仕組みに置き換える。
3継続利用を前提に、月次で価値が出る指標(進捗、繁忙、対応履歴など)を可視化する機能要件を優先する。

現場のパフォーマンスが属人的で、遅れの原因が人なのか構造なのか判断できない。

1担当者別・案件別の進捗と滞留を見える化し、支援が必要なポイントを特定できる状態にする。
2遅れが出たときに、季節性・景気・案件特性など外部要因も含めて原因候補を分類し、改善策を打てる形で記録する。
3引き継ぎや再連絡に必要な情報(希望条件、過去のやり取り、次アクション)を標準フォーマットで残す運用を作る。