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無名の大学中退者が「ドラッグ&ドロップで作れるチャットボット」で年330万円。サブスクリプションの全戦略

6 min read2026年3月9日
無名の大学中退者が「ドラッグ&ドロップで作れるチャットボット」で年330万円。サブスクリプションの全戦略

ビジネス概要

事業タイプ

SaaS

フェーズ

拡大期

規模感

3か月でARR2万2000ドル(約330万円)

概要

DTCブランドのカスタマーサポートを、WhatsApp中心の対応から少人数でも回るヘルプデスク運用に切り替えるためのサポート基盤を提供する。

ターゲット

小規模〜中規模のDTC/ECブランドのカスタマーサポート責任者

主な打ち手

WhatsAppのDM対応が破綻する現場課題に絞り、社内ツールとして作った仕組みを複雑な設定なしで使えるサブスクリプションとして有料公開した。

30秒で分かる

1元受託開発者2人が、宣伝ほぼゼロで3か月ARR2万2000ドル。

WhatsApp対応の限界を見てDeskuを作った

2背景は「小さなECのサポート崩壊」。

客が増えると返信漏れが出る

担当が変わり会話がずれる

対応履歴が追えなくなる

大企業向けツールは設定が重い

3社内ツールからDeskuが生まれた。

問い合わせを一か所に集約した。

検索してすぐ返せる形にした。

4勝ち筋は「少人数でも回る一画面」。

ナレッジベース

ライブチャット

チャットボット

ヘルプデスク

複雑な設定を減らした。

5転機は口コミで外に広がったこと。

紹介ユーザーがオフィスに来た。

2022年3月に有料版を公開した。

買収打診2件は断った。

6本質は「現場の破綻点を製品化」。

WhatsAppのDMが限界になる。

その瞬間を見逃さなかった。


ストーリーの流れ

Problem

手元の金が100ドルにも満たない不安定な状況で挑戦を始めた。

  • 大学をやめて家族に本当の目的を告げずに街を出た。
  • 期限付きで渡された500ドルを使い切ったら終わりという条件で都市に残った。
Action

今すぐ役に立つスキルとしてプログラミングを選び、働きながら学び始めた。

  • 近くの都市ラージコートへ移り、女性向け伝統衣料の新興EC会社で床掃除でも何でもこなした。
  • 同じ年に地元の学校でウェブ開発コースを受け、ダルシャン・タンクと出会った。
Insight

DTCブランドの現場でWhatsAppのDMだけのサポートが規模拡大で破綻することを何度も目にした。

  • 顧客が数千人、数万人に増えると返信漏れや引き継ぎ不全で誰が何を対応したか分からなくなる。
  • ZendeskやZohoは小さなECチームには設定や運用が重すぎると分かった。
Action

2015年に受託のモバイル開発事業thirstyDevsを立ち上げ、外部資金に頼らず積み上げた。

  • オフィスは月60ドルほどの小さな部屋から始めた。
  • コロナ禍以降のDTC増加を追い風にDTC向け開発へシフトしていった。
Growth

thirstyDevsは約5年で年間20万ドル規模に成長した。

年間20万ドル(約3,000万円)規模受託事業の年商規模
  • 目の前の仕事を確実に取り、着実に積み上げる方針を貫いた。
Action

WhatsApp運用の限界を解くために社内ツールとしてDeskuを開発した。

  • 問い合わせを一か所に集めて検索できるようにし、開発チームがすぐ回答できるようにした。
  • 同じ説明の繰り返しが減って時間が生まれ、ミスも減った。
  • 口コミで広まり、紹介を受けたユーザーがオフィスまで足を運ぶこともあった。
Monetize

2021年12月にドラッグ&ドロップで作れるチャットボットとナレッジベースを整えサブスクリプション提供を準備した。

  • ナレッジベース、ライブチャット、チャットボット、ヘルプデスクを一つの画面で扱える設計にした。
  • 複雑な設定が少なく専門家がいなくても自動化を進めやすいようにした。
Monetize

2022年3月にDeskuの有料版を初めて公開した。

2022年3月有料版公開時期
  • 社内ツールで終わらせずプロダクトとして外部提供する判断を固めて進めた。
Growth

宣伝ほぼゼロのまま3か月でARR2万2000ドルに到達した。

ARR2万2000ドル(約330万円)初期ARR
わずか3か月ARR到達までの期間
  • ほとんど宣伝をしないまま結果が出たことでプロダクト価値が明確になった。
Action

買収の打診2件を断り、売るより先に伸ばすことを選んだ。

  • 外から買いたいと言われたことで地方都市発のプロダクトが外の世界に届いた事実を次の一歩の根拠にした。
Scale

次の展開としてCRM領域への拡張を視野に入れつつ急拡大はしない方針を取った。

  • チームがまだ小さくメンバーの多くは受託開発の仕事も続けているため慎重に見極める。
  • 開発会社の運営は管理者に任せながら2人はDeskuの方向性を判断していく。
Insight

完璧を待つより早い段階で始めて早い段階で直すことを重視した。

  • 現場で修正するほうが速いという考えを大切にしている。
  • 初期に適切なメンターを見つける重要性も痛感している。

手元の金は100ドルにも満たない。大学をやめ、家族にも本当の目的を告げずに街を出る――そんな不安定な状況から、ガウラブ・ナガニの挑戦は始まった。

月50ドルの給料で、床掃除でも何でもこなす。期限付きで渡された500ドルを使い切ったら終わり。迷いながらも「今すぐ役に立つスキル」を選び、目の前の仕事を一つひとつ積み上げていった。

やがて、WhatsAppだけでは回らなくなる現場の限界を何度も目の当たりにする。そこから生まれたプロダクトは、ほぼ宣伝なしでわずか3か月でARR2万2000ドル(約330万円)に到達した。何が転機になったのか。その軌跡をたどる。

WhatsAppだけのサポートは、いつか破綻する

インターネットがあれば、どこに住んでいても勝負できる時代になった。だが、チャンスは自然と形にはならない。形にするには、腹をくくって動くしかない。

インドのグジャラート州で育ったガウラブ・ナガニは、2014年に大学をやめた。手元にあった金は100ドルにも満たない。将来が保証された道より、今すぐ役に立つスキルがほしかった。だから、プログラミングを学ぶために地元を出ることにした。

向かったのは近くの都市ラージコート。家族には「休暇に行く」とだけ言って家を出た。本当は、そのまま戻らずに働くつもりだった。

就いた仕事は、女性向けの伝統衣料を扱う新興EC会社。給料は月50ドル(約7,500円)で、床掃除でも何でもやった。条件はきつい。それでもガウラブにとって、コンピューターに触れられる環境さえあれば十分だった。

同じ年、地元の学校でウェブ開発コースも受けた。そこでダルシャン・タンクと出会う。この出会いが、後の人生を大きく変えることになる。

研修が終わるころ、父から連絡が来た。「そろそろ家に戻って働け」。ガウラブは迷ったが、都市に残ることを選んだ。父は無理に引き戻さなかった。その代わりに500ドル(約7万5,000円)を送り、「使い切ったら帰ってこい」と言った。期限付きの挑戦が始まった。

月60ドルで暮らす「中流」の重さ

ガウラブは中流家庭で育った。母は家を守り、父はダイヤモンドの加工業で働いた。

ただ、ここでいう「中流」は、多くの人が想像するものとは違う。家族4人が狭い部屋で暮らし、月60ドル(約9,000円)ほどで生活することもある。余裕があるわけではない。だからガウラブは子どものころから、家族を支える責任を強く感じていた。

100ドル以下から、年20万ドルの開発会社へ

2015年、ガウラブとダルシャンは受託のモバイル開発事業を立ち上げた。社名はthirstyDevs。オフィスは月60ドル(約9,000円)ほどの小さな部屋で、机と椅子があるだけの場所だった。

外部資金には頼らず、目の前の仕事を確実に取り、着実に積み上げていった。その結果、約5年で事業は年間20万ドル(約3,000万円)規模に成長する。

追い風もあった。コロナ禍以降、インドではDTCブランドが増えた。メーカーが仲介業者を挟まず、ネットで直接販売するブランドだ。2人の会社も自然とDTC向けの開発にシフトしていった。

だが、DTCの現場には大きな穴があった。カスタマーサポートだ。

多くのブランドは、サイトにWhatsAppのボタンを設置し、DMで問い合わせ対応をしていた。インドではWhatsAppが生活に欠かせないツールになっている。相手が数十人なら何とか回る。

しかし、客が数千人、数万人と増えた瞬間に崩れる。少人数のチームがDMだけで対応すると、返信漏れが起きる。担当が変わって話がずれる。誰が何を対応したか分からなくなる。成長スピードが上がるほど、この問題が致命的になる場面をガウラブは何度も目にした。

ZendeskやZohoといった有名ツールを勧めたこともある。だが、そうしたツールは大企業向けの設計になっていることが多く、設定が複雑で運用にも専門知識が必要だ。小さなECチームには荷が重すぎた。

なら、自分たちで作るしかない。素早く動けて、少人数でも拡張できる仕組みを。

ドラッグ&ドロップで作れるチャットボット

こうして生まれたのがDeskuだった。最初はthirstyDevsの社内ツールとして開発した。クライアントからの問い合わせを一か所に集め、検索できるようにし、開発チームがすぐ回答できるようにするための道具だ。

効果はすぐに表れた。WhatsAppで同じ説明を何度も繰り返す手間が減り、時間が生まれ、ミスも減った。

使い勝手は口コミで広まり、紹介を受けたユーザーがオフィスまで足を運ぶこともあった。ガウラブとダルシャンは確信した。これは社内ツールで終わらせるべきじゃない。

2021年12月、2人はドラッグ&ドロップで作れるチャットボットと、よくある質問をまとめるナレッジベースの仕組みを整え、サブスクリプションとして提供する準備を進めた。

Deskuの強みは、ナレッジベース、ライブチャット、チャットボット、ヘルプデスクを一つの画面で扱えることだ。複雑な設定が少なく、専門家がいなくても自動化を進めやすい。うまく活用すれば、1人で1日150人分の対応をこなせることもある。

宣伝ほぼゼロで、3か月でARR2.2万ドル

2022年3月、Deskuは有料版を初めて公開した。

結果は早かった。ほとんど宣伝をしないまま、わずか3か月で年間継続売上(ARR)2万2000ドル(約330万円)に到達した。

買収の打診も2件来たが、2人は断った。売るより先に、伸ばしたかったからだ。それに、外から「買いたい」と言われたことで、プロダクトとしての価値が改めて明確になった。スタートアップ自体が少ない地方都市から作ったプロダクトが、外の世界に届いた。その事実が、次の一歩を踏み出す根拠になった。

次はCRMへ。ただし急がない

2人はDeskuをCRM領域へ広げることも視野に入れている。CRMは顧客情報を管理し、売上やサポートに活かす仕組みだ。難しいと思われがちだが、市場は長期的に成長を続けている。

ただし、無理な急拡大はしない。チームはまだ小さく、メンバーの多くは受託開発の仕事も続けている。開発会社の運営は管理者に任せながら、2人はDeskuの方向性を慎重に見極めていく。

ガウラブが大切にしている考えはシンプルだ。早い段階で始め、早い段階で直すこと。完璧を待つより、現場で修正するほうが速い。

もう一つ、ガウラブはこうも思っている。初期の段階で適切なメンターを見つけることが重要だ、と。もし早い時期に的確なアドバイスを得られていたら、Deskuは今の何倍にも成長できたかもしれない。そういう悔しさも残っている。

家族は息子の挑戦を喜んでいる。ただ、具体的に何をしているかは完全には理解していないらしく、周囲には「コンピューターで何かやっている」と説明されることが多いという。

それでも、月50ドル(約7,500円)で床を掃除していた若者が、地方都市からSaaSを立ち上げ、世界に届く入口を作った。WhatsAppのDMが限界を迎える瞬間を、見逃さなかったからだ。